"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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焦燥

 

12:15:トリニティ本校/スクエア南門

 

 

side:仲正イチカ

 

 

「ああ~落ち着いてくださいっす……校内は安全っすから……!!」

 

混乱するデモ隊を本校へ誘導しつつ、何故か繋がらないスマホに内心舌打ちする。

 

「……ったく……どうなってるんすか?これ……」

 

小さく愚痴を吐いていると、"ヒュウ"という風切り音と共に────

 

"──カアンッ!!"

"……バシュウ……"

 

「……ッ!?」

 

何かが降ってきたような音がして数秒後、辺りは噴き出した煙に包まれた。

 

"ダアンッ!!"

 

それに続き、着弾音にも似た大きな音が響く。

 

   「!?」  「なにっ!?」

「きゃああああっ!!」 「魔王がっ!魔王が来るっ!!」

 

立ち込める煙にパニックになったデモ隊の生徒たちは、煙の中を散り散りに逃げ去っていった。

 

(まずいっすね……!)

 

「……全員、私の声の方向に集まるっすよ!!」

 

そう叫び、皆を集めようとしたが────。

 

「……イチカさ、ぐうっ!」

 

"ガンッ!!"

 

打撃音が響き渡る。

(この煙の中に、何かが居る……!?)

 

「まお、があっ!!」

 

"ゴスッ!タタタァンッ!!"

 

「逃げ───う゛ッ!?」

 

"ガスッ!ズザアアッ!!"

 

四方から、何度も断末魔が響く。

 

「……大丈夫っすか……!?」

 

足元に吹き飛ばされてきた私の部隊員を観察する。

 

────意識が無い。……強い衝撃を受けて気絶したようだ。

 

"タタァン!!"

 

「……きゃあ……ッ!」

 

銃声は聞こえるが、一方的な物ばかり。

 

……為す術もなく、私の部隊は全滅したのだろう。

 

(魔王、魔王っすか────)

 

……苛立たしい……!!

 

"バサアッ!!"

 

翼を大きく振るい、辺りの煙を僅かに打ち払う。

 

「……見つけた……ッ!」

 

"カアンッ!!"

 

煙の根源を彼方へ蹴り飛ばす。

 

随分と薄まった煙の中に見えるのは、地を転がる部隊員たち。

その中に────彼女は立っていた。

 

「見つけたっすよ……!!」

 

────対峙する。

 

「ああ……久しぶり、と言うべきか?」

 

目の前で冷たくこちらを見下す女は トリニティ史上最悪の反逆者。

 

     "魔王" 天城ルイ。

 

この女一人がやらかした事件のせいで、今やトリニティは動乱の渦中。

 

おかげで私たちは日夜デモや暴動を鎮圧する日々、自由時間なんて殆どない。

挙句、ティーパーティの一部は正義実現委員会の内通まで疑ってくる始末。

 

「はぁ~……あんたのせいで随分、えらい目に合わされたっスよ……」

 

溜め息交じりに銃口を向ける。

 

「……覚えてるっすか?あんたが銃の撃ち方教えた子、うち正義実現委員会辞めちゃったんすよ」

 

「あんなに優しい先輩がそんな事するはずない~……とか何とか、言ってたっすかねぇー……」

 

「そんな事言ってたらクラスで色々されたとかで……泣いてたっすよ」

 

「……」

 

……彼女が"正義実現委員会を辞める"と言ってきたときの顔は、今でも忘れられない。

人は、あそこまで哀しい顔をできるのかと……胸を裂かれるような想いだった。

 

「……その先輩に撃たれたってのに……酷い話だと思わないっすか?」

 

「……裏切るんならせめて、もう少し冷たく接してあげて欲しかったっすね……!」

 

「……」

 

話を黙って聞いていた魔王は、つまらなさそうな目でこちらを見ている。

 

────ああ、腹が立つ。

怒りで我を忘れそうだ。

 

ぎり、と歯を食いしばり、怒りを噛み殺す。

 

「はぁ……あんた、何がしたいんスか?」

 

私がそう問うと、魔王は笑い始めた。

 

「ハハハ……何が、か……お前達にはわかるまいさ」

 

「……ましてや、正義を騙る貴様らにはな」

 

そう言って、魔王は呆れたように"はぁ"と溜め息を吐いた。

 

────ぷつん。

 

私の中で、何かが切れた。

 

 


 

 

12:18:トリニティ本校/スクエア南門

 

side:天城ルイ

 

 

────そうか、あの子は辞めてしまったか。

 

……悲しいが、仕方ない。

 

(せめて、彼女が私を恨めるよう……尽力するとしよう)

 

"はぁ"、と悲哀を溜め息に乗せ、吐き捨てる。

 

まずは、目の前のイチカを倒さなければ。

 

「……言い訳くらいなら聞いてやろうかと思ったっすけど……!!」

 

イチカはいつも細めていた目を開き、一瞬で銃を構えた。

 

「……ふむ」

 

「残念っす……ね!!!」

 

"ズダダダダダダダ!!!"

 

イチカは怒り任せに連射を始める。

 

"ガガガガガガガァンッ!!"

 

後退しつつ乱射するイチカに対し、私は盾で射撃を遮りながら接近していく。

 

(……1対1、状況はこちらが圧倒的有利……)

 

イチカは怒りで冷静さを失っている……好機は今。

……時間はかけたくない、下手な反撃を貰う前に一瞬で叩き潰す。

 

「……行くぞ」

 

"ダッ!!ガガガガガァンッ!!"

 

姿勢を前に、疾駆する。

 

   "ダダダダダ!!!"

 

"ガガガガガッ!!!"

 

盾を構え、イチカの放つ弾雨を遮る。

距離が縮まるにつれ、後退するイチカの顔に焦りがにじんでいく。

 

「逃げた所ですぐに逃げ場を失うぞ。降伏したらどうだ?」

 

「はッ!お断りっすね……!」

 

「そうか、ならば精々逃げるといい!」

 

"ダアンッ!!"

   "ズダダダダダダダダ!!"

 

"ガガガァン!!" "ダアンッ!!"

 

射撃を防ぎ、撃ち返し……追い詰める。

 

数分の銃撃戦の結果……イチカとの距離は十数メートルと言う所まで縮まった。

 

「ちっ……ならこれで……どうっす、か……ねっ!」

"キィン────ブォンッ!!"

 

イチカは手榴弾のピンを抜き、私へと投げつける。

 

「……ッ!」

 

(────撃ち落とす、回避する、止まって防ぐ────)

 

イチカが手榴弾の安全装置を外した瞬間、いくつもの選択肢がよぎる。

 

(トリニティ正式手榴弾、起爆時間は4秒、時間はある、ならば────)

 

"ガシャンッ!!"

 

突撃剣の盾形態を解除し、飛んでくる手榴弾を狙い────

 

(……貰った!!)

 

"ブオンッ!!────カァンッ!!"

 

「……な────っ!?」

 

手榴弾はイチカへと跳ね返され────"ドガアンッ!!"──炸裂した。

 

「くぅ……ッ!」

 

(……今だ)  "ダッ!!"

 

イチカは衝撃で銃を取り落とし、怯んでいる。

その側を突き……一気に距離を詰め、私は彼女の目の前で突撃剣を構える。

 

「はあっ……はあっ……!」

「その盾、ずるくないっすか……!?」

 

眼下で膝をつくイチカは、軽口を叩きながらこちらを睨み、立ち上がった。

 

「ハハ……誉め言葉と受け取ろう!」

 

"ダンッ!!"

 

取り落したアサルトライフルを拾わんと手を伸ばしたイチカの懐へと踏み込む。

 

「────しまっ……!」

 

  "ガアンッ!!"

 

打ち上げるように盾を叩きつけ……吹き飛ばす。

 

「ぐ、うっ……!」

  "ゴロゴロゴロ……ズザザアッ!!"

 

イチカは凄まじい衝撃に、ごろごろと地面を転がりながら体勢を立て直さんと手を付くが────。

 

「────終わりだ」

 

「ッ────!」

 

"タタタタタタタアンッ!!"

 

ハンドガンに残された残弾全てを使って、追撃を放つ。

"ドスドスドスッ!!"

「う゛ッ……!」

 

その全てが直撃し、ヘイローが消え……イチカは気絶した。

 

「……イチカは撃破した。次は────」

倒れた彼女に背を向け、先へ進もうとした瞬間────

 

    "ダァンッ!!"

  "ビッ!"

 

背後より放たれた弾丸が頬を掠め、確かな痛みを与えた。

 

「へ、へ……あの子に、あんたを連れ戻すって……約束、しちゃったんすよね……!!」

 

……向けた背を翻し、向き直る。

消えたはずのヘイローが再び顕れ、彼女は伏せながらも……私に銃を向けていた。

 

(……尚も立つか。その覚悟には敬意を表するが……)

 

「……やめておけ、諦めの悪さを誇るのは結構だが……その先にあるのは死だ、後輩にお前まで失わせる気か?」

 

「げほっ……知ったようなクチ、聞くんじゃねえっすよ……」

 

息を乱れさせ、イチカはふらつきながらもアサルトライフルを支えに立ち上がる。

 

(……どうしたものか)

 

"気絶"、それは我らを護りしヘイローの安全装置。

 

それを無視し、戦いを継続する……それは、命を危険に晒す行為。

 

「知ったような口、か……ふむ」

「よく聞け、私は経験者だ、その結果……多くの物を失うことになった」

 

「……大人しく伏していろ、それがお互いの為だ」

 

「はぁ……?ナメてんじゃ、ねえっすよ……!!」

 

怒りの揺れる腕を抑え、イチカは私に銃口を向ける。

 

"ダァン!! カァン!!"

 

放たれた銃弾を易々と弾き、彼女に向かって歩む。

 

「……届かない。無駄な抵抗だ」

 

"ブォンッ────カアンッ!!"

 

一閃。

イチカのアサルトライフルは、遠く離れた地面へと落下した。

 

「……ッ」

 

銃を奪われ、呆気にとられたイチカの首を掴み……持ち上げる。

 

「命を捨てるのがお前の"正義"か?笑えない話だ」

 

「う、あ……っ────」

 

イチカはじたばたと暴れ、絞める手を外そうと腕を掴むが……徐々に力が抜けていった。

 

……数秒後、がくりと力の抜けたイチカを地に寝かせ……私はスクエアに向き直る。

 

目標地点は目の前だ、さっさと終わらせよう。

 

「……うああああああああっ!!」

 

"ズダダダダダダダダダダダ!!"

 

「ッ!」

 

背後からの奇襲に、一瞬反応が遅れ────

 

"バスッ!バスッ!ドスッ!!"

 

「ッぐ……!!」

 

数発の被弾、即座に盾を構えなおす。

 

私に射撃を見舞ったのは、先ほど私に薙ぎ倒され……倒れていたはずの正義実現委員会の生徒だった。

 

────そして、その顔には見覚えがある。

 

「……君か」

 

コードネーム:"マシンガン"

 

私が離反する直前の演習で、私の指揮する部隊で共に戦った生徒だ。

 

(────結局、彼女の名前を聞いていなかったな)

 

そんな事を考えながら、地に伏せたままの彼女へ銃を向ける。

 

「隊長……!!信じてたんですよ……っ!?貴方は魔王なんかじゃないって!!何かの間違いだって!必死に、必死に信じてきたのに……!!」

 

泣き叫びながら震える手で銃を握る彼女は、酷く哀れに見えた。

 

「怪我が治ったら皆でご飯でも行こう、って……言ったじゃないですか!!」

 

「あの時の全員、貴方の事を信じてたのに……!!」

 

「ふざけ、ないで、くださいよ……!!」

 

「ううっ……!!」

 

(………………)

 

彼女は銃から手を放し、最後には声を上げて泣き始めた。

 

努めて無感情に、銃口を向ける。

 

"タァン!!"

「う゛っ……」

 

「……すまない、罪はいずれ……必ず償う」

 

伏した彼女に、謝罪の言葉を呟く。

聞こえていないのはわかっている。

 

────それでも、謝りたかった。

 

 

(…………いや、今は作戦に集中しろ)

 

未練を振り切り、射撃を受けた部位に触れ……傷を確認する。

……痛みはするが、防弾服とアーマーに防がれ……中度の打撲で済んでいるようだ。

 

問題ないだろう、作戦は継続可能だ。

 

「……南門前の部隊は制圧した、これより中央噴水広場へ侵攻する」

 

"了解、先ほどミカがそちらへ動き始めた、警戒を────"

 

言葉の途中で、セイアが息を呑む声が聞こえた。

 

"……待ってくれ、"先生"……!?"

 

「……なんだと?」

 

"ドローンのカメラに映った、あれは確かに先生だ。本校の昇降口に居る!"

"先生がトリニティに向かったという情報はなかった。つまり────"

 

"……最初から、トリニティに居たのか……!"

 

"────先生……!!まずい事になりましたね……先生の使う端末は私ですらハッキングできません……!"

 

ヒマリは初めて聞くような苦虫を嚙み潰したような声色で、そう言った。

 

"ツルギとハスミの動きは先生の連絡を受けたものでしょう……つまり、時間がありません"

"そして────"

 

「……"先生には手を出せない"、そんな事はわかっている……!!」

 

(……この時点でここに居るという事は、セイア失踪の報を受けて即座に動いた……それも、わざわざ誰にも気付かれないように……。つまり、先生はこの襲撃を予期していた?……そんなはずは……!)

 

思考の螺旋に堕ちる。

 

────まずい、まずいぞ……!

 

"……君が取れる選択肢は二つ、撤退か、先生が指揮するトリニティ部隊を相手取るか"

 

"……残念ながら、予定していたミサイルによる噴水の破壊は行えません"

"いくら成形炸薬弾頭とはいえ、破壊された噴水の破片が先生に当たる可能性がある状況では……!"

 

「……待ってくれ、今考える……!」

 

"撤退するべきだ、ルイ"

 

"撤退してください。貴方に勝ち目はありません"

 

二人は焦燥を滲ませ、撤退するように指示する。

 

────噴水広場は開けている、戦闘となれば私が不利。

 

ましてや、先生の指揮だ。

普通の生徒だけならともかく、ミカやサクラコも含めると勝ち目はない。

 

 

「────撤退する」

 

そう呟いた瞬間、背後に気配がした。

 

「……逃げ場などありませんよ、"魔王"」

 

「ッ……!」

 

背後の声に、振り返る。

どこからともなく現れたシスター服を着た生徒たちが私を囲み……銃口を向けていた。

 

(シスターフッドか……!)

 

「────ハハハ!囲んだくらいで逃げ場がないと?笑わせるな!」

 

(……シスターフッドに囲まれた、サクラコも居る)

 

大声を上げ、それで覆い隠すように通信を送る。

 

"そんなはずは……!サクラコの位置は会議場から移動していない!"

 

"……スマホを置いてきたのでしょう、この探知方式の弱点です……!"

"迫撃砲に発煙弾を装填します、支援砲撃の用意ができるまで耐えてください"

 

(……私が行うべきは、時間稼ぎか……!)

 

「……天城ルイ、なぜこのような事を?」

 

サクラコは私に銃口を向け、尋ねた。

 

「はっ……シスターフッド。重すぎる腰をようやく上げたと思ったら、最初に聞くことがそれか?」

 

「……そうだな……トリニティの事が憎くて仕方ない、というのはどうだ?」

 

「お前たちのくだらん派閥争いで時間を無駄にするのは懲り懲りだ」

 

「正面から殴り合うのが下品なら、見えないように背後で泥を投げあうのが上品だとでも思っているのか?」

 

「まったく気に食わんな。……私のように、正々堂々としたらどうだ?」

 

私が適当な事を言っている間に、サクラコはどんどん眉間の皴を深めていく。

 

「……時間稼ぎに付き合う気はありませんよ、"魔王"」

 

「尋ねたのは貴様だろう?……ハッ、ここまで付き合ってくれて感謝する、シスターフッド」

 

────"ダアンッ!!" "ガンッ!!"

 

 

気が逸ったのか、シスターフッドの一人が私に放った一発の銃弾を防ぐ。

 

「……おっと。"人に向けて銃を撃ってはいけません"……誰でも知っている事だと思うが?」

 

「……撃たないでください」

 

サクラコは私の挑発を無視して片手を上げ、射撃した生徒を制止する。

 

「……百合園セイアさんの行方不明、今回も貴方の仕業ですか?」

 

「ああ、私の仕業だ……予知夢での事前察知は大きなリスクとなる。排除するのは当然だろう?」

 

「……わかりました」

 

サクラコが上げた手を下すと、シスターフッドの生徒たちは再び私に銃を向ける。

 

「フフフフ……やはりお前達には、直接的な方法の方が似合っているぞ……シスターフッド」

 

……あと少し、時間を稼がなければ────。

 

 

 

「────さて、"魔王"……時間稼ぎをしていたのは、貴方だけではありません」

 

唐突に、サクラコが口を開く。

 

「……何だと?」

 

その言葉と共に、シスターフッドの包囲を割り……足音が三つ、近付いてくる。

現れた顔ぶれに、息を呑む。

 

「────お久しぶりですね、ルイ」

 

「やっほ、ルイちゃん……」

 

「初めまして、かな?こんにちは────"天城ルイ"」

 

現れたのは、桐藤ナギサ、聖園ミカ、そして────"先生"。

 

「……チッ」

 

(……クソッ、やられた……)

 

"……先生が目の前に来た。発煙弾と言えど砲撃を行うのは危険だ……!!"

 

"こうなれば、どうにかして先生を引き離すしか……!"

 

焦燥する二人の声を聴きながら、私の前に立った"大人"を睨む────。

 

 

────先生は、ニコニコと普段通りの笑顔で私を見ていた。

 

 

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