"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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相違

 

12:22:トリニティ・スクエア/噴水広場

 

side:ナギサ

 

 

シスターフッドの包囲の中を進み、その中心にいた彼女と対峙する。

 

……久しぶりに見る彼女は、私の知る"天城ルイ"とはあまりに変わってしまっていた。

額から悪魔のような角を生やし、巨大な装備を身に纏ったその体躯は威圧感を放つ。

 

その姿は、彼女が本当に"魔王"なのではないかと思わせる。

 

────"先生"の作戦とシスターフッドの協力によって、ついに彼女と対面する機会を得た。

 

この機を逃してはならない。

 

……緊張を飲み下し、彼女へと声をかける。

 

「……お久しぶりですね、ルイ」

 

「やっほ、ルイちゃん」

 

"初めまして、かな?こんにちは、"天城ルイ""

 

「……チッ」

 

現れた私たちを見るや否や、彼女は舌打ちで私たちに返事をする。

私とミカさんを一瞥し、"フン"と鼻で笑い飛ばした彼女は……真っ直ぐに先生を睨んだ。

 

「初めまして、"先生"……その不愉快な笑みを見るに、わざわざ説教でもしに来たか?」

 

彼女は高圧的な態度で、先生を挑発する。

 

"うん、お説教をしに来たよ"

 

先生は一切動じず、いつもの調子を崩さない。

 

「……そうか、言いたいことがあるのなら言うといい。周りの生徒が退屈しないような説教を期待している」

 

先生に対して、彼女はあくまで挑発を続ける。

 

"……その前に、ひとつ聞かせて欲しいな"

"君の目的を教えて欲しい。それがわからなければ、お説教のしようもないからね"

 

先生の言葉を聞いて、彼女は"フッ"と嗤った。

 

「驚いたな。目的を知らなければ説教すらできないのか?」

「貴様らはみな口を開けば目的だ理由だと……傲慢な考えはやめるべきだと忠言しよう」

 

「……とはいえ、ゲヘナではお前のおかげで離脱できた……その礼に、答えてやる」

 

「この間ゲヘナで言ったように"トリニティを叩き潰す"、これこそが私の目的だ」

「ゲヘナを焚き付け、けしかけてやろうとしたが……あの風紀委員長とお前が余計な手を回したせいで、失敗した」

 

彼女は"ふう"と息を吐いて、挑発的な笑みを浮かべる。

 

「とはいえ手段はいくらでも選べる。今回は宣戦布告がてら、直接赴いた……というわけだ」

 

ルイの言葉に先生は表情を崩さず、頷く。

 

"うん、わかったよ"

 

「ご理解いただけたようで何よりだ、これで借りは────」

「────嘘は辞めてください!」

 

思考より先に、言葉が出た。

 

「ルイさん……貴方が、こんな事を──!」

 

「"するわけがない"、か?」

 

「ッ──!」

 

紡ぐはずだった言葉を奪われ、沈黙する。

 

「ナギサ、君の甘い考えに水を差すのは気が引けるが……残念ながら、私は今こうしてここに居る。」

 

「それでも私の事を信じたいというのなら南門を見てくると良い。私にやられた者が山ほど倒れているだろう」

 

「まあなんだ、人を信じるのは程々にしておけ。……心からの助言だ、ナギサ」

 

────そんな。

天城ルイは、そんな事を、するような、言うような、人では……!

私の中で生きていたかつての彼女が、粉々に砕け散っていく。

 

(……目の前に居るのは、ルイさんではなく……"魔王")

 

「う……うぅ……!」

 

あまりに残酷な現実に膝が笑い、崩れ落ちる。

 

「さて、邪魔が入った……本題に戻ろうか、"先生"?」

 

彼女は私に目もくれず、先生へと向き直る。

 

……先生の顔から笑みは消え、確かな怒りが浮かんでいや。

 

"ルイ"

 

「何だ?」

 

"……ナギサに謝るんだ、今すぐに"

 

「断る。そもそも謝ってどうにかなる問題でもないだろう?」

 

「……あまり時間をかける気はない、話を戻そう」

 

「お前達が立場や権力のためにくだらん内乱を起こし、内側から腐り堕ちるのを黙って見ているのも面白そうだったが……」

 

「折角だ、火に油を注ぎに来てやった。哀れにも私に騙され続けた者たちを嗤いに来た、というのもあるがな」

 

一瞬だけ、彼女は私と目を合わせる。

その目は哀れみに満ちていた。

 

"……ルイ、私の話を聞いて欲しい"

 

「ああ、そういえば私に説教をするんだったな……好きなだけご高説を垂れるといい、聞いてや────」

 

"……私には君が何故退学になろうとするのか、その理由がわからない"

 

彼女はぴたりと動きを止め、先生の方へと向き直る。

 

「何だ、わかっているじゃないか。ゲヘナで散々私を追い詰めただけはあるな、先生?」

 

「……まあいい、教えてやろう」

「私が退学になる事で、万が一私が失敗した時に私を裁くのはトリニティではなく矯正局になる。それだけの話だ」

 

「トリニティに裁かれ……下らん派閥争いに利用された挙句、火炙りや串刺しにされるのはごめんだ。私だって命が惜しい」

 

そう言いながら、彼女は周囲のサクラコとシスターフッドを一瞥する。

 

「出まかせを言うのは止めてください、私たちはそんな事はしていません」

 

「そうか。私の知る記録には面白い話が残っているが?」

 

「…………」

 

彼女が反論すると、サクラコは言葉に詰まった。

瞑目し、苦悶の表情を浮かべるサクラコに、周囲はどよめき始める。

 

それを、軽薄に笑って"魔王"は制止した。

 

「フフ……流石に言い過ぎたよ、悪かった。確かに"お前たちは"そのような事をしていない」

 

「……とはいえ前身となった聖徒会がどうかと問われれば……答えられないはずだ」

 

「それは……」

 

ルイの問いかけに、サクラコは答えない。

 

「……過去は消せないものだ。悪行だからといって封じたとしても、一度起こした事をもう一度起こすのは……そう難しい決断ではない」

 

「……それでも、私たちシスターフッドはそんな事をしませんし、私がさせません」

 

「ああ、君がシスターフッドを御せる事を祈るよ。」

 

サクラコの反論に対し、彼女はそう返し……改めて先生に向き直った。

 

「私を含め、トリニティの生徒は無駄話が過ぎるな。話が逸れてばかりだ。」

 

「……とはいえこれで、今回私が来た理由は納得してくれただろう?」

 

"……うん、納得した"

"……ごめんね、あの時君を止められていれば────"

 

「……ハハハハハッ!」

 

先生の言葉に、彼女は高らかに笑った。

 

   "ジャキッ!!"

 

「……舐めるなよ」

 

そして、一瞬で拳銃を抜き……"先生"へ向けた。

 

「「────ッ!!」」

 

"ザッ!!!"

 

その場にいた全員が構え、彼女へ銃を向ける。

 

「……貴方に勝ち目はありません、降伏してください!」

 

怒り声を震わせ、告げた私の言葉に彼女は再び笑い始めた。

 

「勝ち目?ハハハ……勝ち目か、そうだな、この状況では私に勝ち目はない……いや、"無かった"と言うべきか?」

 

「お前達は考えが回らなかったかもしれないが……先程行ったように、私はトリニティ全域、任意の位置に爆撃を行える。例えば────"エリア15"、"発射"」

 

"────ヒュウ"

 

"ズドォォォン!!"

 

「────このようにな」

 

私たちの背後で爆音が響いた。

 

爆風で巻き上がった砂がばたばたと音を立て、降り注ぐ。

 

「ッ……!」

 

その場に居た全員が息を呑んだ。

 

「……音声認証、私が指示を出せば即座に指定した位置へ爆撃が行われる」

 

彼女は"ふう"と息を吐いて、続ける。

 

「さて、話は変わるが……立場上、私はトリニティ内に存在するあらゆる記録の閲覧権限を持っていてな。」

 

「例の事件現場に居た生徒のボディカム映像には、ミサイルの直撃を受けたはずなのに……どういう訳かほぼ無傷のお前の姿が映っていたよ、"先生"」

 

「これは推測だが……先生、お前の唯一の防御手段の"それ"には耐久限界がある、違うか?」

 

「でなければ、あのミサイルを受けてお前が生き残った事と、その直後、銃弾一発で重傷を負った事の説明が付かない。」

 

────彼女が唐突に始めた話の内容は、明らかに"まずい"話だと全員が理解した。

それに、先生は苦い表情で耳を傾けている。

 

「あれはもう壊れたのか?それとも……新しい物を用意したのか?あるいは、面的な攻撃に対してだけ防御性能を発揮するのか?ああ、別に答えなくてもいい……これからわかる事だ」

 

「とはいえ過信したな先生。手札は相手に知られてしまえば意味を為さない」

 

「さて……先生が爆撃の雨の中、生きていられるかどうか……試してみるか?」

 

そう言って、彼女は私たちを見回す。

目の前の"魔王"は、私の知らない顔で、笑った。

 

「ハハハ……!"先生"、愚かな選択をしたな」

 

「"何か理由があってこんな事をしている"……などと、誰が吹き込んだか知らないが……そんな妄言を信じたのか?」

「それとも、"話せばわかる"とでも思ったのか?」

 

「……生徒を信じるのも、"子供"だと侮るのも結構だが……この結果がこれだ」

 

彼女は動けない私たちを挑発するかのように腕を広げる。

 

「"先生"、私はお前が嫌いだ────しかし、感謝もしている」

 

「……よくもまあ、のこのこと出てきたものだ……お陰で、私はここから離脱できる」

 

"魔王"は、ゆっくりと歩み、先生の肩へ手を置いた。

 

「……さあ、共にここから去ろうじゃないか」

 

"…………"

 

その瞬間、"ぎり"と私の隣から歯を食いしばるような音が聞こえた。

目を向けると……今まで黙って話を聞いていたミカさんが、恐ろしい表情で"魔王"を睨みつけていた。

 

「……許さないッ!!」

 

「なッ────!?」

 

"ダラララララララッ!!" "ギュン!!" "ドォォォン!!"

 

唐突にばら撒かれた銃弾に、"魔王"は先生を突き飛ばし、飛びのき────そこに、隕石が降る。

 

"ブォン!!"

 

巻き上がった砂埃が大剣の一閃で払われ────"魔王"がミカさんを睨みつけていた。

 

「……ミカ……先生に当たったらどうするつもりだ?相変わらず────」

 

煽るような言葉を、先生が遮る。

 

"……当たらないよ、当たらないように撃ってたし、"当たらないようにしてくれた""

 

ゆっくりと起き上がった先生の言葉に、その場に居た全員が二人を見る。

 

「……確かに、ミカさんは先生の頭上に向けて撃ちました」

 

"……ルイは私を銃弾から護るように、突き飛ばした"

 

私と先生がそう言うと、"魔王"は一瞬だけ瞑目し、笑い始めた。

 

「フッ……ハハハ!!……愚かだな。どれだけ私の事を信じたいんだ?信じたい物だけを信じ、信じたくない事からは目を背けるのか?」

 

「……それとも、これもお前の"作戦"なのか?"先生"」

 

「クク……まあ、どちらでも好きにするといい。好都合だ……そうだな────"私を助けてくれ、私はトリニティを護るためにこんな事をやっている"……どうだ、これがお前の聞きたかった言葉だろう?」

 

「なあ?ナギサ……」

 

じっとりと挑発するような目つきで、彼女は私を見る。

 

「……ナギちゃんに話しかけないで」

 

ミカさんは我慢の限界、と言った様子で彼女を威嚇する。

 

「……いえ、私は冷静です……安心してください」

 

(……ついに対面して話せる機会を得たのです、この機を生かさねば……!)

 

「改めて言いましょう、降伏してください。"貴方は先生を攻撃できない"……そうでしょう?」

 

「ここから離脱するのなら、最初から爆撃を行えば良かったはず、それなのに……貴方は先生を使って私達を脅し、離脱する事を選んだ」

 

「……情報をいくつも開示してまでそうする事を選び、時間を稼ぐことを選択したのは"先生を攻撃できないから"以外に考えられません。……そうでしょう?」

 

彼女は私の言葉に眉を顰め、一瞬の沈黙の後……"はあ"と大げさにため息を吐いた。

 

「……良い推測だ、ナギサ。……しかし惜しい、"できない"のではなく"可能なら避けたい"というだけだ」

 

「先生を傷付ける事で、この大人が関わっているアリウスの残党やゲヘナのテロリスト共をはじめとする"面倒な連中"に因縁を付けられるのは困る。というだけの話だ……必要ならば、私は躊躇わない」

 

そう言って、彼女は私を見る。

 

「なあナギサ、先生をここに連れてくる選択をしたのは君か?大人が付き添わなければ話もできないと?……愚かだな、その選択こそが────」

 

"────違うよ、私は自分の意志でここに来た"

 

先生は彼女の言葉を遮り、はっきりと言った。

 

「はあ……?自分の意志で来ただと?こんな戦場のど真ん中にか?」

 

"うん、君を止めるためにね"

 

その言葉を聞いた瞬間、ルイの表情が歪んだ気がした。

 

────しかし、その直後、彼女は高笑いを上げる。

 

「フッ……ハハハッ!!!お気遣い痛み入るな!お前がヒナを止めたおかげで私はゲヘナからの撤退に成功し、今度はトリニティからも安全に帰れる訳か?私はいい"先生"を持って幸せだ」

 

そう言って、彼女はゆっくりと先生の前に立つ。

 

"……私は、君を信じるよ"

 

先生は真っ直ぐに彼女の目を見て、そう言った。

 

「チッ……苛立たしい奴だ、もういい。」

 

彼女は息を吸う。

 

「……ッ!!」

 

……瞬間、ミカさんは先生に向かって駆け出した。

 

周囲の生徒もそれに呼応するように、銃を構え────。

 

「────"発射"!」

 

"ズドォンッッ!!"

 

"ヒュウ────"

 

破裂音が鳴り、訪れる破壊の予兆が響く。

 

「────お前が自らの振る舞いを反省する機会がある事を祈るよ、"先生"」

 

"魔王"は何か呟いて、その瞬間────。

 

"ズドドドドドォン!!"

 

数多の砲弾が降り注ぎ、辺りに煙が立ち込めた。

 

 


 

 

12:27:トリニティ・スクエア/噴水広場

 

side:ルイ

 

 

あまりに濃い煙の中、私の盾下で伏せていた先生を拘束する。

 

「……巻き込まれたくなければ余計な真似はするな。現状お前に手を出すのは本意ではない」

 

彼にそれだけ伝え、突撃剣を背負う。

 

「……先生は無事だ、離脱する」

 

"バシュッ!"

 

背後にあった南門へと向かい、加速する。

 

"……お二人ともご無事で何よりです、放送はどうしましょう"

 

「……噴水広場であれだけ派手にやりあい、先生を巻き込んだ時点で十分だ。その必要はないだろう」

 

「セイア、状況はどうだ?」

 

"……南門へツルギが接近中……!到着まで2分もかからないだろう、南門は避けるべきだ!"

 

「……了解した!どこから離脱するのが最善だ?」

 

"……煙幕を受けて広場に居た者たちは散開したようだ、東にサクラコが、西にミカが移動している"

 

(東には正義実現委員会の部室がある、避けるべきだ……!)

 

「……西に行く!」

 

"バシュッ!ガキンッ!!ギュルルルル!!!!"

 

急制動をかけ、方向を転換する。

 

"わかりました、通信を復旧させ"貴方は南門に向けて移動した"、と虚偽の情報を流します"

"……長くは騙せないでしょう、迅速に離脱してください"

 

「……わかっている……!」

 

"バシュッ!!" "バシュッ!!"

 

ジップラインを連射し、とにかく加速する。

 

────瞬間。

 

"────ギュン!!"

 

「ッ!?」

 

   "ズドォォォン!!"   

降ってきた隕石を回避する。

 

(……ミカか!)

 

戦うか……!?いや、あの隕石は連発できないはずだ。

それを回避した今、逃げ────

 

     "ギュウウ!!"

   「……見つけ、た!!」

 

「なっ────」

 

   "ゴッ……ガアンッ!!!!"

 

「が、あ……ッ!?」

 

"ドンッ!!ギャリッ!!ズザアアアアッ!!"

 

煙を切り裂き現れたミカによって殴り飛ばされ、私は地面に叩きつけられる。

 

「……馬、鹿な……!」

 

機動中の私を殴り、打ち落とす?

 

(そんな芸当が、可能だとは……!)

 

揺れる視界を気合で抑え、突撃剣を支えに立ち上がり……構える。

 

「……"魔王"……貴方だけは絶対に許さないよ」

「……ナギちゃんを、セイアちゃんを、先生を、私を……裏切って、傷付けて……!!」

 

煙の中、怒りに燃えるミカは私へゆっくりと近付いて……構える。

 

「……これは最後の警告、降伏して」

「じゃないと……加減できないから」

 

(……ここでまともにやり合う訳にはいかない、それでは時間がかかりすぎる……!)

 

────ならば、仕方ない。

 

「……フフ、ハハハ……!」

 

"────ゴトン"

 

「……はぁ」

 

大きなため息を吐き、私は突撃剣から手を離した。

 

 

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