12:30:トリニティ・スクエア/噴水広場西ゲート
side:ミカ
「────これは最後の警告、降伏して」
「じゃないと……加減できないから」
怒りでどうにかなりそうな精神を御し、絞り出すように勧告する。
それを聞いた"魔王"は、一瞬の瞑目の後……。
「……フフ、ハハハ……!」
"ゴトン!"
笑って大剣から手を放し、地に落とした。
そして、"はあ"と息を吐いた。
「……わかった、降伏しよう」
彼女は両手の指を開いて前に差し出し、降伏を示す。
「……残念ながら、私の負けの様だ」
「悪かったなミカ、先ほどは言い過ぎた」
そう言ってこちらを見る彼女の全身を観察する。
真っ先に目に付くのは、腰と脚部に装着された大型の機械。
「……その腰の機械、外して」
あれがあるうちは、どこからでも逃げられてしまう。
本当に降参する気とは思えないし、もし本気ならあれは解除するはずだ。
「悪いが、これを外すには専用の機材が必要だ。簡単には外せない……代わりと言ってはなんだが……」
"ギュン──ババババババシュッ!!!!"
彼女は全ての砲口を真上に向け、発射した。
"ドドドドドドッ……"
推進力を失った鉄鉤が地に落ち、ワイヤーが広がる。
「……これで、もう使えない」
「……銃も捨てて」
「わかった」
彼女はゆっくりと肩にかけたスリングを外す。
"ガチャッ────ドサドサッ"
彼女が背負っていた銃が落ちる。
「……ショットガンとスナイパーライフルだ……これで、私には拳銃しか残されていない」
そう言って、彼女はゆっくりと拳銃を抜いて、投げ捨てた。
「これで全てだ……さあ、好きにしてくれ」
そうして彼女はゆっくりと腕を出したまま、首を下げる。
……まだだ、ゲヘナの風紀委員長はここから不意打ちを受けている。
(……上着の下、右腕に隠されたショットガン、それが無ければ……)
「……上着、脱いで」
「……ああ」
"バサッ"
私の言葉に、ルイちゃんは躊躇いもなく上着を脱ぎ捨てた。
────露わになった彼女の体を観察する。
その右腕にショットガンは着いていなかった。
アーマーのポケットにはマガジンしか入っておらず、その下は肌着のみで……何かが隠されている様子はない。
(……本当に、諦めたんだ)
"ザッ、ザッ"
────ゆっくりと、警戒を怠らずルイちゃんに近付く。
……ルイちゃんは力で私に勝てない。
あの変な装備が無ければ、脅威にすらならないだろう。
(……やっぱり、私はルイちゃんを赦してあげたい)
警戒を解き、そっと声をかける。
「……ルイちゃん、立って」
眼前で項垂れる彼女に右手を差し出し、立つように示す。
「……ミカ……」
彼女はその手を握り──────。
"グンッ!!"
「────はあっ!!」
引き込まれる。
「……ッ!?」
"ギュイイイイイ!!──ガアンッ!!!"
「う゛、あ……ッ!」
大きな駆動音と共に、殴り飛ばされた。
"ガッ!ズザアアアッ!!"
大きくのけ反り、地面に転がる。
ルイちゃんは即座にジップラインを巻き取り、大剣とショットガンを拾いなおした。
(……だま、された?)
「……ル、イ……ちゃ」
震える視界を抑え、立ち上がろうとする私が最後に見たのは……肌が破れ、露出した黒に歪んだ腕を私に向けるルイちゃんだった。
(……嫌……っ!)
12:33:トリニティスクエア/噴水広場西門
side:ルイ
"ドォォォン!!"
こちらに手を伸ばしたミカに、止めとばかりに擲弾を撃ち込む。
……爆炎と共に、ミカのヘイローが消えた。
(……これで、流石のミカも動けないはずだ。)
破れてしまった義手のカバーを破り捨て、通信を点ける。
「ミカは撃破した、西門より離脱する。状況は?」
"……君のやり方には苦言を呈したいところだが……後にしよう"
"サクラコの動きを見るに、シスターフッド含む勢力は南門へ移動を始めたようだ"
"今のところ、南門ヘ向かったという情報は疑われていません……"
"しかしもうじき煙も晴れるでしょう。急ぎ離脱してください"
装備を背負いなおし、二人の報告を聞いて改めて判断する。
「……了解した、西側から離脱する」
"バシュッ!" "バシュッ!"
西門を抜け、図書館の屋上へ駆け上がる。
"ガッ!ダアンッ!!"
着地する。
そこには正義実現委員会の狙撃手が二人、噴水広場を狙っていた。
「……えっ!?」
困惑し、硬直する相手を前に一瞬思考する。
────無視か、それとも……。
「……撃破する!」
"ガンッ!! ダダダァンッ!!"
近くに居た方を蹴り飛ばし、もう一人を銃撃する。
…………誤情報を流している以上、今は気絶して貰う他にない。
"バシュッ!!" "バシュッ!!"
二人の気絶を確認し、図書館の屋上から西側の外壁へとジップラインを撃ち込む。
"ガチッ!!ギュルルルルルルルル!!!"
最大速度でジップラインを巻き取り────。
"ガアンッ!!バゴオオオオンッ!!!"
外壁を蹴り破る。
「……外壁は越えた!」
"ダッ!!バシュバシュッ!!"
疾駆し、ジップラインで飛行する。
「機動態勢に入った、これより────」
"後は全速力で離脱するだけ"そう判断し……瞬間、視界に黒い点が映る。
"ヒュウ"
(────グレネード)
"パァァァァン!!"
その正体を認識した瞬間には、視界が白黒に焼かれ、金切声のような耳鳴りで聴力を奪う。
(……閃光弾を食らった。機動継続不可……着地する!)
そう報告したはずなのに、自分の声が聞こえない。
私の言葉が二人に聞こえている事を祈り、急制動をかけ、着地する。
(ガンッ!!ガガギャリギャリ!!!)
凄まじい衝撃と共に、私は地面を滑り────叩きつけられる。
(着地に失敗したか……!?落ち着け。……まだ立てる!)
突撃剣を構え、立ち上がらんとするが────。
"バスッ!ドドドドスッ!!"
(ぐ、う……っ!!)
撃たれている、しかし発射音が聞こえない。
(クソ……ッ!)
"ガガガァンッ!!"
衝撃と痛みの中から方向を探り出し、盾を構える。
盾から伝わる衝撃が、相手の位置を知らせる。
盾で射線は切った。ここからどうするか。
相手は一人だ、聴力か視力、どちらかが回復するまで耐え────
(…………待て、本当に相手は一人か?)
ひとつの疑念が浮かぶ。
機動する私に閃光弾を直撃させた時点で、相手は待ち伏せに成功している。
一人で待ち伏せなどするか?
目と耳を失っている事は振る舞いで露呈しているだろう。
普通ならば展開し、無防備な側面から攻撃はずだ。
しかし、相手は方向を変えず、一点から私を撃ち続けている。
────これは陽動だ、本命は。
後ろ────!!
"ブオンッ!!!"
盾を解除し、背後に向かって突撃剣の一閃を放つ。
"ゴンッ!!!"
何かに直撃したような反動と共に、私の背後に居た何者かは吹き飛ばされた。
(やはり陽動だったか……!ならば……!)
"ドドドドシュッ!!!ギュルルルル!!"
私に銃を撃ち続けている者の方向へジップラインを撃ち込み、突撃する。
盾で正面からの射撃を遮りながら、背後からの被弾を意にも介さず。
"ガアンッ!ギャリッ!!!ブォンッ!!"
着地と同時に、勢いを利用して回転し360度、切り払う。
"ゴォンッ!!"
持ち手に鈍い衝撃が伝わり、射手は吹き飛ばされたようだ。
盾を構えなおし、防御を固める。
イヤーマフのおかげで軽減されていたのだろう。
聴覚は戻りつつある。
"……!…………か!"
「聴覚は戻りつつある、私はどこへ行けばいい?方向を」
問う。
"──みから見……7時……へ!!"
精一杯に叫んだであろうセイアの声を頼りに、疾駆する。
「7時、了解した……!」
"ダッ!!"
────何も見えない道を走り続ける。
"……前方に障害物!3時方向へ!"
「……ああ!」
"ダッ!!"
セイアの指示に従い、離脱する────。