"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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再戦

 

12:38: トリニティ自治区/郊外

 

 

────数分後、私の視界に焼き付いた光は消えつつあった。

 

現在私は、受けた傷の応急処置のため建造物の屋上に一旦隠れ、息を整えている。

 

「……はぁ、はぁ……視界は戻りつつある、状況はどうだ」

 

"……通信内容からして……先ほど交戦した自警団の生徒の報告により、西に逃げた事は発覚しています。"

"それを受けて、追跡部隊が複数出ています。処置が済み次第、追い付かれる前に移動を開始するべきかと"

 

「……わかった。セイア、ツルギ達は?」

 

"……追跡部隊と共に二手に分かれて、北西と南西へ進んでいる"

"西に直線で進んでいれば、少なくとも二人とぶつかる事は無いだろう。"

 

「そうか、好都合だ。」

 

応答しつつ被弾部位を止血し、消毒する。

ミカに殴打を受けた頬は大きな痣となり、直前の戦闘で受けた射撃は私の体を削り取っていた。

 

しかし被弾部位はアーマーと装甲に守られた胴体や背、脚部に集中しており……運よくも行動に大きな支障の出る程の傷にはなっていない。

 

処置をして、放っておけばすぐに治るだろう。

そう判断して、状況確認を進める。

 

「受けた負傷は軽微だ、行動に支障はないだろう」

「ところで……先生は無事か?」

 

"ああ……煙が晴れた後、運ばれていった時の外見上は無傷だった。セリナが付いて、意識もはっきりしていたようだし……今ごろ、本校内の救護室で診察を受けているだろう"

 

「……それはよかった」

ひとまず安堵する。

 

「……悪かった、難しい判断をさせてしまった」

 

私の要請に応じて、砲火を撃ち込んだヒマリに謝罪する。

ダミーを混ぜた発煙弾とはいえ……先生を砲火に晒すという選択は、軽い物ではない。

 

"貴方が護ると信じていましたから、それでも……二度同じ判断はさせないで欲しいものですね"

 

「……わかっている。」

 

話していると、"ぽたり"、と右手に水滴が落ちた。

 

────雨か。

 

傷が雨で濡れないよう、急いで処置を行う。

 

「……処置を終えた、そろそろ移動したいが────」

 

移動を開始するため、周囲を確認する。

 

────南西より黒赤に塗られた装甲車が一両、こちらに猛スピードで接近してくる。

 

「……こちらに装甲車が一両接近している、あれはなんだ?」

 

"あれは……"

セイアが確認するよりも先に、横に描かれた校章が目に入る。

"ゲヘナ"、その交渉が大きく描かれていた。

 

「……ゲヘナの車両だ、何故ここに────ッ!?」

 

────思い出す。

 

私が視界を失っていた時、あの時背後に居た生徒はなぜ……突撃剣の間合いに居ながら私を撃たなかった?

……予想できるのは────。

 

「……発信機を付けられたようだ。恐らく私の位置は特定されている……!」

「クソッ!!やられた……!!」

 

冷静に考えていればあの時点で気付けたはずだ……自分の浅慮を恨む。

 

……とはいえ、後悔しても仕方がない……対処を考えなければならない。

 

「先生の差し金だろう、風紀委員が私を潰しに来たようだ。」

 

"ッ……まずいな……誰が来たかによっては……!"

 

対処を考えている1分にも満たない間に、装甲車は私の居る建造物の真下へと到着していた。

 

"バン!"、と装甲車のバックドアが勢いよく開かれ、二人の生徒が降りてくる。

目に入ったのは、特徴的な銀髪と、黒紫に光る大きなヘイロー。

 

「まずいぞ……空崎ヒナと銀鏡イオリが降りてきた。この建物の真下にいる」

「クソッ……ヒマリ、ここは砲の射程内か?」

 

"…………残念ながら、射程外です"

 

"待ってくれ、ツルギとハスミの部隊が動き始めた……明確にそちらへ向かっている!"

"……二手に分かれたのではなく、挟み込む気だったか……"

 

セイアは通信に割り込んで、ツルギ達の接近を知らせる。

 

"こちらが位置情報を把握して動いている事は気付かれていたようですね……"

"逆手に取られました……流石は先生と言うべきでしょうか"

 

ヒマリは声を落とした。

 

「……そうだな。流石と言うべきだ……腹立たしいが」

 

"……どうするつもりだい?"

 

セイアの疑問に答えるように、思考を巡らせる。

 

────まともにやれば勝てない。

 

しかし逃げようにも、イオリかハスミに撃墜される可能性が高すぎる。

時間をかければハスミとツルギが参戦し、状況はさらに悪化する。

 

「……もう時間がない。」

 

「……すまない、この状況を切り抜けるには多少強引な手を使う必要がある」

 

選択肢は一つ。リスクは承知だ。

 

「────ヒマリ、ミサイルを私の端末座標へ撃ち込めるか?」

 

噴水を破壊するために用意したミサイルならば、問題なくこの場所まで届く。

使えるのはもうそれしかない。

 

"はあ……?約束を忘れたのですか……!?なぜ私が協力しているかを考え──"

「約束は守る。無事で帰ると誓おう……その為に────私を信じて、撃ってくれ」

 

……ヒマリは黙り、思考した様子の後……口を開く。

 

"……目標は貴方の端末、でいいんですね?"

「ああ、そうだ……今から戦闘に入る。ツルギとハスミが合流したら、迷いなく撃ってくれ」

 

"……わかりました"

 

ヒマリは沈痛な感情を声に滲ませながら、了承した。

 

「ありがとう……。セイア、ツルギ達がこちらに到着するまでの予想時間は?」

 

"……3分はかからないだろう"

「了解した」

 

"ガシャッ!!ジャキン!!"

 

ポーチから義手用のショットガンと装甲を取り出し、装着する。

義手のシリンダーに擲弾を込め、拳式散弾にシェルを装填する。

 

────これで、現状できる準備は整った。

 

"……無事で帰ってくるんだよ"

 

"無理は決してしないように……お願いします"

 

「ああ」

 

"タンッ"

 

二人の言葉を背に、私は屋上から飛び降りた。

 


 

12:42:トリニティ自治区/郊外

 

 

"ヒュウ────ダアンッ!!"

 

「ッ……来たわ」

「……借りを返しに来たぞ、犯罪者め……!」

 

雨と共に降ってきたルイに、二人は銃口を向ける。

それを意に介さず、ルイは話し始めた。

 

「ごきげんよう……まあなんだ、少しくらい話そうじゃないか」

 

「この後ツルギ達も来るんだろう?全く忌々しい。なぜ手を組んだ?」

「……散々いがみ合っていたから手を貸してやろうというのに……余計な真似をしてくれたな」

 

ルイの言葉に、二人は返答しない。

 

「ああそうだ……例の件は議長殿には伝えてくれたか?あれから連絡が無くて寂しい思いを────」

 

"ダアンッ!" "ガンッ!!"

 

「……おっと」

 

ルイはイオリが撃った弾を防ぎ、構えなおす。

 

「……委員長、こいつの話は聞かない方がいいんだったよな?」

 

「ええ、その通りよ」

 

イオリは頷き、ヒナはルイの腕を一瞥する。

 

「……その腕、残念だったわね」

 

ヒナは一瞬だけ目を伏せてそう言ったが、すぐにこちらへ視線を戻した。

 

「……以前の事があるから、悪いけど降伏は受け入れられないわ。諦めて倒れなさい」

「これ以上何かを失いたくないのなら、抵抗はしない事ね……心からの忠告よ、天城ルイ」

 

ヒナはそう言いながら、ルイに銃口を向ける。

 

「……ハハ、粗野なゲヘナと言えど、学習能力はあるようだな?」

 

「腕の件は恨んでいないが……それはそれだ、リベンジと行こう」

 

挑発し、ショットガンを構える。

 

「……なんだと……!?」

 

「話が通じないのならやる事は決まっている。……さあ、来るがいい!」

 

挑発に乗ったイオリを煽るように叫ぶと、その言葉に呼応するように二人の射撃が始まった。

 

"ダアンッ!!" "ダアンッ!!" "ダアンッ!!"

"ドルルルルルルルルル!!!!!"

    "ズガガガガガガガガガガガッッッッ!!!!"

 

「く、ッ……!!」

強すぎる衝撃に体勢を持っていかれそうになるが、こらえて様子を伺う。

 

(展開して挟撃し、盾の横から削る気か……!)

 

阿吽の呼吸で左右に展開して私の隙を生み、それを突かんとする二人は迅速かつ確実に距離を詰めてくる。

 

(防戦一方では盾が持たない。一度切り返すか)

"ガシャッ……ガシュッ!"

     「……ッ!?」

"ドガアンッ!!"

 

弾雨の切れ目を縫い、ヒナの足元に向けてグレネードを撃ち込む。

初見かつ完全な不意打ちのはずのグレネードを、ヒナは即座に横に飛び回避した。

 

    「……随分と、便利な腕ね!」

 

「ハッ!そうだろう!?」

"ガシュッ!!" "ドガアンッ!!"

 

ヒナは撃ち込まれたグレネードをサイドステップを踏み、回避────した先に再度グレネードを撃ち込む。

    「……そこだッ!!」

    "ズダアンッ!!"

「……見え見えだ!!」 "ダダァンッ!!"

    「ッ!!」

 

横に回ったイオリによる射撃を回避し、ショットガンで牽制する。

"バシュッ!!"

射撃を避けるように飛んだイオリの足元へジップラインを撃ち込む。

   「くそっ……!その装備、ズルいだろっ!」

イオリは飛びのき、足元を攫うジップラインを回避した。

 

「それを言うなら当たってから言ったらどうだ!?」

    「よそ見なんて、余裕ね……!」

    "ドルルルルルルッッ!!"

「ハッ!これが余裕に見えるのか!?」

   "ズガガガガガガガッッ!!"

 

飛び交う弾丸が風を切り刻み、銃声が鳴り響く。

 

永遠にも思える数十秒の攻防のなか、距離を調整し───ついにイオリを真横に、ヒナを正面に誘導した。

 

"ガシュッ!!" "ドガアンッ!!"

 

(……今だ!)

三発目のグレネードを撃ち込むと同時に、回避のため動いたヒナに向かって駆ける。

 

(イオリの装弾数はそう多くないはずだ……そろそろ弾切れを起こすだろう)

    「……させるかっ!」

    "ズダアンッ!!"

(……来た!!)「……ふッ!」 "ガキンッ!"

イオリが放った弾丸を義手で弾き飛ばす。

 

    「────なっ!?」

イオリは驚愕の声を上げ……腰のポーチから弾帯を取り出し、リロードを始めた。

    「……くそっ……!!」

(────弾切れ!)

 

それを横目で確認し、ヒナへ掴みかかる。

マシンガンの銃身より内側、正真正面の零距離。

 

  "ドサッ──ゴトン!!"

 

お互いに武器から手を放し、双方……構える。

 

「……学習能力、だったかしら?……貴方にはないみたいね?」

 

不敵に笑うヒナに、私も笑い返す。

 

「それはどうかな?空崎ヒナ……!」

 

──────視線が交差する──。

 

(この状況なら時間稼ぎとカウンターに徹するはず、隙を生み出さねば……!)

   "ブォン!!"

拳を振るう。

  "ガッ!" "ガンッ!!" "ガスッ!!" "ドスッ!!"

  フック、ストレート、肘打ち、掌底。

 

   (……本命の一撃、それを凌げば……!!)

 

高速で打ち込まれる純粋な殴打の連撃を防ぎながら、ヒナはイオリのリロードが終わる瞬間を待つ。

 

────ヒナは経験している。

ルイとの格闘戦を、右腕に仕込まれたショットガンを。

 

イオリのリロードが終わるまでおよそ4秒。

それまでの間に、ルイは確実に決着の一撃を放ってくる。

 

"ザッ!!" "ブンッ!!" "ガッ!!"

ヒナはローキックを飛ぶように回避し、振るわれた拳を打ち返す。

 

ルイの一撃を回避するため、精神を研ぎ澄ませる。

 

"ヒュン!!" "ガッ!! "ダンッ!!"

 

ルイは乱打を繰り返しながら、思考する。

 

(ヒナは私の仕込み散弾を一度喰らっている。警戒はされているだろう。)

 

しかし、それこそが隙を生むはずだ。

ヒナは確実に、私の"右腕"から放たれる攻撃を警戒している。

 

"ダンッ!!!"

 

「……はあッ!!」

 

───ルイは深く踏み込み、大きく弧を描いた右拳がヒナの顎を狙い撃つ。

 

  (────来た!!)

 

あまりにも大振りなその拳を、ヒナは回避し、反撃せんと体を後ろに逸らした。

 

「……そう来ると思っていた!」

"──ギュイイイイ!!"

ヒナが見たのは、大きな駆動音を上げ、深く構えられた鋼腕。

 

弧を描く右腕の回転を利用し、一歩引いた左足に全出力、全体重を乗せ───全力の左正拳突きを放つ。

 

「倒れろッッ!!!」 "────キュゥン!!"

    「────ッ」

 

""ゴガァンッ!!!ドドドォン!!!""

 

────直撃。

 

「う、あっ……!!」

"ダンッ!!ガリガリ……ズザアアッ!!"

 

胸部に全力の一撃を受けたヒナは大きくのけ反り、滑るように地面を転がるが……受け身を取り、なおも立ちあがる。

 

(……耐えられた!?────ならば……!!)

「……止めだ!」

"ガシャッ……ガシュッ!!"

 

カタパルトへ擲弾を装填する。

     「……ッ!!」

ヒナに向けて直接撃ち込んだ擲弾は────閃光弾。

 

ヒナは回避せんと飛ぶ……しかし視線はこちらに向けたまま。

    "────パァァァンッ!!"

……その眼前で爆燃し、炸裂する閃光がヒナの目を焼く。

 

    「うぁ……ッ!」

ヒナは唸り声をあげて目を覆う。

床に落ちた盾の底部を踏み跳ね上げて拾い、構え直した瞬間────。

 

「……委員長っ!」

"ダアンッ!!" "ダアンッ!!" "ダアンッ!!"

そして、リロードを終えたイオリが射撃を再開する。

 

"ガンッ!!" "ガアンッ!!" "ガキンッ!!"

 

盾の隙間から足や腕を狙って撃ち込まれる弾丸を防ぎながら、イオリの元へ駆ける。

 

「……次はお前だ、銀鏡イオリ!」

   「ハッ!やってみろ……!」"ダッ!"

 

イオリは煽るように言って、逆にこちらに駆けてきた。

 

(……何が目的だ!?)

先日のゲヘナ戦では、イオリは突撃剣を躱し──蹴り返した反動で飛び、カウンターをしてきた。

 

それを顧みるのなら、私の取るべき選択は────。

 

「……はあっ!」

     "ブォンッッ!!"

自分から間合いに入ってきたイオリに対し、突撃剣を振りぬく。

     「ふっ!」

それをイオリは飛び込むように跳躍し回避。

 

(────読み通り)

即座にショットガンを構える。

「……倒れろ!」

"ダダダダァンッ!!"

 

ルイは飛び込んできたイオリに対しショットガンを連射するが────

    「見え見えだッ!」

 

再度イオリは跳躍し、錐もみに回転して───放たれた弾薬を全て回避した。

 

「なっ────クソッ!」

   "ブォンッ!!"

 

破れかぶれで振った拳は見事に回避される。

 

    「……貰った!!」

「しまっ……!?」

 

密着したイオリはルイの腹へと銃口を押し当て────

      "──ズダアンッ!!"

「が……はッ!」

     「はあっ!!」

   "ガンッ!!"

腹部への射撃を受け、怯んだルイの顎をハイキックで蹴り飛ばす。

 

「う゛っ……!?」

 

ルイはバランスを崩し、崩れ落ちる。

 

イオリは蹴りの反動で後退し、排莢、再装填────"ダアンッ!!"……発射。

 

"ドスッ!!"

「ぐ……ッ!」

 

放たれた弾丸はアーマーで護られていない腹部の側面に直撃し、肉が深く抉れ……鮮血が飛び散る。

 

「……う゛ッ……!!」

 

(まだだ……もう少し、もう少しだけ耐える事ができれば……!)

 

 

    「……これで終わりだ!」

 

(……狙いは透けた、距離もある……ならば!!)

 

"ダアンッ!!" "ガキインッ!!"

イオリは追撃とばかりに頭に向けて銃弾を放ったが────ルイは咄嗟に義手を眼前に出し、防いだ。

 

「……クソッ!」

イオリは再び弾切れを起こしたようで、後退しつつ素早くリロードを始める。

 

(……今だ……ッ!!)

 

「……逃がさんッ!」

"ババババババシュッ!!"

イオリの足元を囲い込むように全てのジップラインを放ち────イオリの脚を絡めとる。

 

"ギュルルルルッ!!"

    「ッ!?うわあああああっ!?」

 

「────こっちへ来い!!」

     "ズザザザザザザッッッ!!!"

 

巻き取り、絡んだイオリの脚を引きずり込んで……組み伏せた。

 

     「離せ……っ!」

「……油断したな、イオリ!」

 

左手を振りかぶり、組み伏せたイオリを叩きのめさんと────。

 

"────避けろ!!" 「ッ!?」

"ズドォォォォンッ!!!"

 

セイアの叫び声の直後、大きな銃声が響いた。

 

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