12:45:トリニティ自治区/郊外
side:ハスミ
"ズドォォォォンッ!!"
銀鏡イオリに馬乗りになっていたルイへ放った狙撃は、彼女が直前に飛びのいた事により……彼女の眼前を通り過ぎるのみに終わった。
「……外しました。先に接触します」
"ァァ……了解した"
狙撃に失敗した事を報告し、彼女の元へ駆ける。
飛びのき、盾を拾い構えた彼女は私を視認したようで……ゆっくりと盾を下ろした。
「ハスミか……久しぶりだな」
「……随分、変わりましたね」
その姿は、私の知る姿から大きく変わっている。
特に、黒銀に輝く腕は目を引いた。
……彼女に何があったのかを想像するのは容易い。
ゲヘナで彼女を撃墜したのは私なのだから。
「その腕……いえ、話は後にしましょう」
思考を振り切る。
「……間もなくツルギを含めた正義実現委員会の大部隊も来ます」
「わかっているでしょう、その傷では勝ち目はありません。貴方の負けです、大人しくしなさい」
彼女は一目見ればわかるほどの深手を負っており、腹部の銃創からは未だ血が流れ出ていた。
普通なら気絶するはずの大怪我。しかし彼女は平気な顔で立ち続けている。
「ああ、そうするよ……」
そう言って、彼女は一つ溜め息を吐き、武器を下ろした。
それを横目に、目の前で膝をついている銀鏡イオリと空崎ヒナへ声をかける。
「……お二人とも、大丈夫ですか?」
「……閃光弾を食らっただけよ……耳は辛うじて聞こえるけれど……目はまだあまり見えないわ」
「……あんたが撃ってくれたおかげで、足と背中を少し擦りむいただけだ……問題ない」
「間もなく応援が来ます……風紀委員を代表して、足止めに感謝します」
「……お二人を待機させている救護騎士団の元へ連れて行ってください」
「了解しました!」
私と共に来ていた正義実現委員会の生徒へ指示を出すと、手際よく車両がこちらへ移動してきた。
イオリに肩を貸し、立ち上がらせる。
「治療の用意はできています。部隊員に送っていかせますので……乗っていってください」
「……わかったわ、ありがとう」
正義実現委員会の車両に乗って、ヒナとイオリは去っていった。
ルイは大人しく……それを黙って見ている。
"────ダアアンッ!!"
「ルイィィィ……!!久シぶり、だ、ナァァ……!?」
反対側から挟み込むように展開していたツルギが着弾するように到着し、ルイを睨みつける。
「……到着しました!!」
後ろから私たちを追いかけていた本部隊も合流した。
「………………」
ルイは周囲を一瞥し、笑った。
「……ああ……なるほど、理解した。見事に嵌められた、という訳か」
負け惜しみにしてはやけに挑発的な態度で、彼女は尋ねる。
「ええ、"先生"によると……貴方は私たちの位置を知っているような動きをしていた、との事ですので」
「チッ……やはり気絶させておくべきだったか……失敗した」
彼女はわざとらしく片手で目を覆うが、弧を描いた口はそのままだ。
「まさか、気付かれていたとはな」
"はあ"、と息を吐いて、私たちに向き直る。
「……この状況です、降伏するべきだと思いますよ」
「……降伏?ああ、それもいいかもしれないな……」
「ところで、このメンバーに、この雨だ……あの時を思い出すんじゃないか?」
目の前で大袈裟に手を広げ、彼女は再び、御託を並べ始めた。
「……あいつの話を聞くな、何か企んでいる」
「奴は恐ろしく狡猾だ。"勝った"と相手を油断させ……自分の土俵に引きずり込む」
「……奴への一番の対策は、油断せず、耳を傾けない事だ」
ツルギは私にだけ聞こえるような小さな声で呟き、構える。
「……負け惜しみと言い訳は牢屋の中で聞いて差し上げますよ、天城ルイ。」
ツルギに続いて、彼女に銃口を向けるが……ルイはそれを意に介さずに喋り続ける。
「ハハハ、やはり思い出すだろう、この雨……!」
彼女はゆっくりと右手を上げ、天空へと指を向ける。
「"天を仰げ、罪人よ"」
彼女は確かに、そう言った。
「……はあ?」
「"あの日来たりし白馬が、再びお前達に神罰を下す"」
訳の分からない事を言い始めたルイに困惑する。
「……何を……」
「……時間稼ぎだ、気絶させる」
ツルギがショットガンを構え、放つ────
────寸前。空より橙色に輝くもう一つの光が齎された。
「……!?」
その場に居た全員が、呆気にとられ……天を仰ぐ。
"ゴゴゴゴゴゴ……!!"
地鳴りのような轟音と共に曇天を切り裂き、現れたのは……巨大なミサイル。
「ッ……回避ッ!!!!」
誰が上げたか、轟くような叫びがこの場を駆けると───一瞬でこの場は混沌に支配された。
「伏せなさいッ!!!!」
そう叫んで地に伏せ、衝撃を待つ私達を……彼女は立ったまま、笑って見下ろしている。
「……貴方も伏せなさい!その傷では……!」
彼女は度重なる戦闘でボロボロだ。
雨と共に流れ落ち、地と混ざる血が彼女の足元に溜まっている。
そんな状態で、ミサイルの直撃を受けてしまえば。
"死にますよ"
……その言葉は恐ろしく、口にできなかった。
「────また会おう」
私に聞こえるよう小さくそう笑って、彼女は背負った大剣を構えた。
"ゴゴゴゴゴゴゴ────"
地鳴りのような轟音はどんどんと高まっていき、それ以外の音は耳に入らない。
着弾までもう時間がない。
顔を地に着け、目を瞑る。
────辺りを閃光が包み────私の意識は途絶えた。
12:48/トリニティ自治区/郊外
side:ルイ
"ゴゴゴゴゴゴゴ────"
ミサイルの轟音を背に受け、私は突撃剣を構える。
着弾の十数秒前、皆が伏せ、目を瞑る中──ツルギは私に向かって駆け出した。
「……死ぬ気か、お前」
ツルギは小さくもはっきりとした恐ろしい声色でそう言って、私に飛びかかる。
"ブォン!!"
飛びかかってきたツルギを打ち落とさんと切り払うが────ツルギは逆に突撃剣を掴み、こちらへと身を振って突っ込んできた。
「────いいや、委員長」
「貴方は優しい。こうなれば私を護りにくると……信じていた!」
"ガシッ!!──……ブオンッ!!"
「ナにッ……!?」
突っ込んできたツルギの腕を空中で掴み返す。
その勢いを乗せて一回転し────遥か後方へ投げ飛ばした。
────私の身体ではミサイルの直撃は耐えられない。
直撃でなくとも、爆風で気絶は免れないだろう。
そして、ツルギはこのミサイルの爆風に耐え……私が目覚める前に動ける可能性がある、そうなれば全てが水泡に帰す。
全てのリスクを解決する方法は一つ。
故に────私は賭けた……ツルギが、私を護る事に。
"ズゴゴゴゴゴ────"
────着弾数秒前。
背後にミサイルが迫る。
「……私の勝ちだ」
ツルギと共に投げ飛ばした私の端末を狙い────ミサイルはツルギを正確に狙い撃つだろう。
「……また会おう、ツルギ委員長」
突撃剣を前方に構え、衝撃に備える。
目を閉じて、一瞬────。
光が、全てを呑み込んだ。