13:03:トリニティ郊外/西郊外
"────バチイッ!!" "バチイッ!!"
「!?ッがっ……!?ッは……!はっ……はぁ……ッ!!」
脚部装甲に内蔵された電気ショックによって意識を引き戻され、私は目覚めた。
「……はぁ……ふぅ……!」
(……とりあえず、状況を確認しなければ)
息を整え、痛む全身に鞭を打って上体を起こし……周囲を確認する。
────私以外は誰も目覚めておらず、ミサイルによる攻撃に気付いた部隊はまだ到着していないようだった。
"ズルッ!ドシャアッ!!"
「ぐッ……!」
立ち上がろうと腕を着いた瞬間、ずるりと滑って濡れた地面に背を打つ。
ズキズキと広がる痛みによって、私は今さら右腕の骨折に気が付いた。
それに加え、腹部の銃創からは私が気絶している間にも多量の血が流れたようで、大きな血だまりになっていた。
(一旦、輸血しておかないと重力による貧血で墜落しかねないか……)
首元の医薬品の入ったポーチからキットを取り出し、内蔵の小さなタブレットと同梱の水を混合させ……代用血液製剤を作り出した。
折れた腕をスプリングで固定し、消毒した穿刺針を静脈に刺してテープで固定した後、胸部のフックに血液製剤を掛ける。
……これで、装備を集めている間に輸血は完了するだろう。
鎮痛剤は数十分前に服用済みだ、効果は持続している。
今度は義手を支えにしっかりと立ち上がり、散らばった装備を拾う。
その途中で吹き飛ばされたイヤーマフを見つけ、とりあえずの無事を二人に知らせる為手に取るが……吹き飛ばされたせいで内部の配線と通信用のアンテナが破断されてしまっていた。
「"……………………"」
念のため耳に当ててみるが、当然何も聞こえない。
ミサイルのロックオン先であった携帯端末は当然塵一つ残らず消し飛んだだろう。
つまり現状、二人に連絡を取る手段が無い。
(……ヒマリの事だ、義手の信号をモニターしているだろうから大丈夫だとは思うが……)
とはいえ心配しているだろう、急ぎ帰還しなければ。
ランチャーの砲口に入った砂を落とし、動作を確認する。
"ウィン" "ギュイン" "バシュッ!!"
……問題なく動作するようだ。そして……輸血中の血液製剤の残りも少ない。
(あと10分もしない内に、事態を察知したトリニティの部隊がこちらへ到着するだろう。急ぎ移動を開始しなければ)
僅かに残った血液製剤を投げ捨て、装備を担ぐ。
"バシュッ!!" "バシュッ!!"
飛び立ち、私は帰路を進み始めた。
14:23:トリニティ自治区/ルイのセーフハウス
やっとのことで帰ってきた私は、地下への入り口を開く。
「……ただいま、セイア」
ふらつく体に鞭を打ち、追跡を振り切るために大きく迂回をして……なんとか、帰ってきた。
「……!!」
扉を押し開いた私に、セイアは駆けてくる。
「ルイ……!無事でよかった……!」
彼女は私に向かって抱き着こうとするが、制止する。
「……待ってくれ、今は血と砂だらけだ……抱擁は嬉しいが……治療が終わってからにしよう」
そう言うと、セイアは、はっとした様子で足を止めた。
「……そうだね。なんにせよ無事でよかった」
少しだけ頬を朱に染めた彼女は、そっと私を室内へと招き入れた。
「ヒマリも心配していたよ……一応、君の義手から発せられる位置情報が動いていたから無事だろうとは言っていたが……」
「それでも心配を隠せていなかった、今は治療を優先するが……後で連絡してあげてくれ」
「ああ……わかった」
(……ヒマリも、裏切りともいえる私の要請に応じ、私を信じてミサイルを撃ち込んでくれた……謝罪と、感謝を伝えなければならないな)
トリニティ・スクエア中央噴水はとても巨大な構造物で、それを吹き飛ばすために作ったミサイル。それも被害範囲を減らすために威力を一点に集中させる成形炸薬弾頭とくれば……文字通りの直撃を受けていれば、手負いの私なら即死もありえた。
────危険な賭けだった事は間違いない。
万が一ツルギが動かなかったり、危険だと判断した場合は……大人しく端末を遠方へ投げ捨て、降伏するつもりだったが。
万が一、それにも失敗して気絶していたらどうなっていたか、考えるのは辞めた。
……どんな状況だったとしても、優しいツルギは私を護ってくれただろうから。
(それにしても……少し、眠いな……)
「はあ……」
簡単な処置を終え、あくびを吐く。
鎮痛剤の副作用だ。強い眠気が押し寄せてくる。
「大丈夫かい?……すぐに治療するから、限界なら遠慮せず言ってくれ」
私を心配したセイアはそう言いながら、清潔なタオルを用意してくれた。
「……ありがとう、しかしまずは傷口の消毒を優先したい……医薬品の入った箱を、そう、その赤い十字の」
セイアに指示を出しつつ、脚部装甲と突撃剣等の装備を外し、その辺りに置く。
「これか……ほら。それと処置は奥の部屋で準備してあるよ……あれから、私も救護騎士団の講習を受け、勉強したんだ……君の助手くらいはできる」
「……ふふ、そうか……頼りになるな」
笑い、そう伝えると……セイアはぴくりと耳を震わせ、照れくさそうにこくりと頷いた。
「さあ、服を脱いでくれ……自分で見えないところの傷は、私がやろう」
「ああ、お願いしよう」
セイアの助けを借りて服を脱ぎ、体を清潔なタオルで拭き……消毒する。
問題なく消毒が終わり、私は奥の部屋へと移動した。
「さあ、横になってくれ」
「ああ……」
言われるがまま、処置台に寝る。
「……見てわかるだろうが、腹部の銃創が酷い……出血は止めたが、長く放っておくのはハイリスクだ……それから処置してくれ」
私の言葉にセイアは頷く。
「……わかった、他にも自覚のある負傷、症状は全て言ってくれ」
「被弾部位は腹部を除けば主に胸と右肩、打撲は全身、特に首が痛む」
「そして。ミサイルの爆風を防御したせいで右腕、恐らく前腕の橈骨が折れているだろう、目覚めた時に現地で簡単な応急処置はしたが……十分ではない。」
「……それと左右大腿部上部、腰回りから鼠径部にかけての火傷……」
他にもたくさん負傷の内容つらつらとを並べていくと、セイアはため息を吐いた。
「……それだけ多いと長い処置になる。君の顔を見ればわかるよ……眠いんだろう?」
「鎮痛剤の副作用だ、確かに少し眠いが……大丈夫」
それを聞いて、セイアは優しく私の額を撫でる。
「……眠るといい。こう見えても……君のために、とても勉強したんだ……体力だって、以前に比べれば随分ついたものさ……」
「安心して私を信じて、ゆっくり眠ってくれていいんだ」
「……君は無理ばかりするんだから、もう少し自分を労わってくれ」
セイアは私の額に手を置いて、そっと瞼を下す。
「……ん……ありがとう……せい、あ────」
「……おやすみ、ルイ」
彼女の手のひらから伝わる温かな熱は、すぐに私を眠りへと誘った。