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「────……」
温かな熱に包まれ、目を覚ます。
背に伝わる感触から、私が寝ているのは処置用ではなく……普通のベッドである事に気が付いた。
(……セイアが、私を運んだのか……?)
いや……セイアには私を運べるほどの力は無いはず。重い義手も着いたままだ。
状況確認のためゆっくりと身を起こし、周りを確認する。
(……ここは……)
……保安灯の薄明りに照らされた内装には、見覚えがあった。
────ここは、特異現象捜査部で私が過ごしていた部屋だ。
(まさか、ヒマリが……?)
そう考えつつ、ベッドボードに置いてあったリモコンを操作して電気を点ける。
"ぱぁ"、と部屋がシーリングライトに照らされると同時に、隣から小さなうめき声が聞こえた。
「……?」
何事か、と目をやると……私の隣で、セイアが眠っていた。
「────んぅ……」
なぜか私の隣で寝ていたセイアは光で目が覚めたのか、ゆっくりと身を起こして眠そうに目を擦る。
「……おはよう、セイア」
「ん……ああ、おはよう……ふあぁ……」
伸びをして、大きく息を吐きだした後……セイアは目をぱちり、と開いた。
「ふぅ……傷はどうだい?確認したいから見せてくれ……」
何事もなさげに、セイアは耳をぴくりと震わせながらそう言った。
とりあえず、セイアの様子を見るにこの状況は警戒しなくていいだろう。
「わかった」
上着を脱ぎ、上半身を晒す。
「……少し触れるから、痛かったら言ってくれ」
セイアは腹部の銃創から軽度の火傷まで、全ての傷を観察していく。
「────うん、経過は悪くなさそうだ。」
全ての傷口を観察、触診し……経過の確認は終わった。
セイアに処置された傷口は、想像以上に綺麗で……私を驚かせる。
「……随分綺麗な処置だ、すごいな」
「……君が怪我ばかりするから、その為の勉強をしたんだ……救護騎士団に頼み込んでね」
セイアはじっとりとした目を私に向け、少しの微笑みを以ってそう言った。
「……ありがとう、セイア」
「いいんだ……すまない、嫌味な言い方をしてしまった」
「事実だ。怪我は仕方ないとはいえ……反省している」
微妙な空気がお互いの間に流れる。
その空気を払うため、私は疑問を投げかけた。
「……そういえば、私が眠った後にヒマリが迎えをよこしたのか?」
「ここはヒマリの……特異現象捜査部だろう?」
私が尋ねると、セイアはこくりと頷いた。
「処置を終えて、とりあえず君の無事と怪我の内容をヒマリに報告したら……"是非ここで治療してください"、と言われてね」
「……そうしてここに戻ってきた、と」
「ああ。あの拠点は曲がりなりにもトリニティ自治区内だ。だから、万が一の事を警戒するなら……ヒマリの提案を受け入れるべきと判断した。まずかったかい?」
耳をぺたりと伏せ、少し不安げなセイアに首を振る。
「いや……私も同じ判断をしただろう。ありがとう、セイア」
「そうか、良かった……」
────そんな事を話している間に塗薬を塗り直し、包帯を巻きなおして……セイアによる処置は完了した。
「ふう……これで終わりだ」
額の汗を拭い、一息ついたセイアは伸びをして私の隣に座る。
「……ヒマリが心配していたよ。今は夜遅いから……朝になったら顔を見せてあげてくれ」
「ああ、わかった」
セイアにそう言われ時計を見ると、時刻は深夜2時。随分長く眠っていたようだ。
「さて……お腹が空いただろう、二度寝する前に軽食でも食べようか」
「……そうしよう、キッチンに行けば何かあるはずだ」
深夜:特異現象捜査部/キッチン
キッチンに着いたセイアは、有無を言わせずに私を椅子に座らせて食事の準備を始めた。
てきぱきと集め出した食材を見るに、サンドイッチを作ろうとしているのだろう。
「トースターはそこ、レタスは野菜室に……セイア、手伝おうか?」
「心配には及ばない。……怪我人は座っていてくれ」
「……わかった」
にべもなく断られた私は、椅子に座ってぼうっとセイアの後姿を眺める。
かつて私が庇護に駆られたその小さな背は、とても頼もしく見える。
「……セイア」
「なんだい?」
「……心から感謝している、ありがとう」
「どうしたんだい、改まって……まあ、感謝は受け取っておくよ」
セイアは振り向かずに飄々と流したが……ふりふりと揺れる尻尾が、彼女の感情を表していた。
「────出来たよ、ほら、ゆっくり食べるんだ」
「ついでに紅茶も沸かした、ティーパックだが……この銘柄ならサンドイッチに合うはずだ」
"こと"、と二人分の皿とティーカップを置いて、セイアは対面に座る。
「ありがとう……いただきます」
「いただきます」
二人で小さく手を合わせ、サンドイッチを手に取る。
かつて彼女の作ってくれた不格好な物とは違い、とても綺麗に作られていて、美味しそうだ。
口に運び、一口かじると、トマトの旨味とレタスのフレッシュな食感、薄く切られたベーコンの塩気が美しく調和して、とても美味しい。
作ってくれた紅茶も、サンドイッチによく合っている。
「……美味い」
「そうか、ふふ……自分の料理を褒められる、というのは存外嬉しい物だね」
私の素直な感想を聞いて、セイアはにこりと笑った。
自分の感覚以上に空腹だったようで、数分もすれば私の皿からサンドイッチは消えてしまった。
「……ご馳走様、とても美味しかった」
「ふふ、お粗末様……」
そう言いつつも私の様子を見てセイアは何か察したようで、自分の皿に乗ったサンドイッチを私の方に差し出した。
「足りないのなら、私の分も食べるといい」
「……いいのか?」
「もちろんだ、私は夕食を頂いたし……君はもっと食べるべきだ」
「ああ、それでも朝食はしっかり食べるようにね」
ふふ、と優しく笑ったセイアは、そっと私にサンドイッチを手渡した。
「……ありがとう、頂くよ」
普段なら遠慮するところだが、確かに少し食べ足りない。
私は彼女の好意を、素直に受け取る事にした。
「ふふ……ゆっくり食べるんだよ」
黙してサンドイッチを食べる私を、セイアは嬉しそうに見つめていた。
────そうして深夜のお茶会は幕を閉じ、再び寝室へと戻る。
寝室に戻り、電気を消して私がベッドに入ると、セイアも私の隣へ潜り込んできた。
……確かにこの部屋にベッドは一つだ、何かあった時の為にセイアが傍に居るのは合理的だろう。
そう納得し、セイアのためにスペースを開ける。
「……セイア、狭くないか」
「大丈夫だ。強いて言うなら……もう少し、寄って欲しい」
そう言って、セイアは私へ身を寄せる。
「……わかった」
右腕に障らないよう、少しだけ身を寄せると……セイアも枕と共に私の隣へと転がった。
「……近くないか?」
再び訪れた眠気を邪魔しないよう小さくそう囁くと、セイアは"ふふ……"とだけ小さく笑って、数秒後には寝息を立て始めた。
……思えば、深夜に起こしてしまったのだ、眠いのも当然だろう。
「……ふっ」
小さく息を吐いて、目を閉じると……再び、私は眠りに落ちた。