"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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今後

 

正午前:特異現象捜査部/居住スペース

 

 

────私たち3人は、大部屋にあるモニターの前で正午より始まるトリニティ総合学園の公式声明の中継を待っていた。

 

現在映っている画面にはトリニティ校章が大きく映し出され、下部のテロップには"トリニティ本校襲撃事件についての声明"という文字がゆっくりと流れている。

 

時刻は11:58。

カチカチとわざとらしい音を立てるデジタル時計が沈黙を引き立てる。

 

正午に迫るにつれ、部屋の空気は張り詰めていく。

 

「……始まるようです」

 

ヒマリとデジタル時計が正午を知らせたと同時に、画面が切り替わり……桐藤ナギサが映し出された。

 

 


 

 

正午:トリニティ本校/演説ホール

 

 

画面の中心に堂々と立つナギサは、堂々と演説台へと登壇する。

ホール内に集まった生徒達を一瞥し、大きく息を吸って……ナギサは演説を始めた。

 

「──ティーパーティ、フィリウス分派代表であり、ホスト代理。桐藤ナギサです。」

 

「本来ならば、こういった場にはサンクトゥス分派代表の百合園セイアさんやパテル分派の代表も伴わなければなりませんが……」

「緊急事態ゆえ。フィリウス代表の私のみで務めさせていただきます」

 

そう言って、ナギサは小さくお辞儀をした。

 

「……本題に入りましょう」

 

「お耳にした方も少なくないと思います」

「先日、トリニティ本校に向けて非常に大規模なテロ行為が行われました」

 

「早朝、サンクトゥス分派の代表である百合園セイアさんが行方不明になり、捜索のためにいくつもの正義実現委員会の部隊が校内外へと出張っていました」

 

「……そして、その昼の事です」

 

「正義実現委員会の不在を突き、突如無数の砲弾が撃ち込まれ……無辜の生徒が何人も負傷しました。」

 

「それと共に現れた"魔王"により、対処に当たった正義実現委員会も大きな被害を受けています。」

 

「……それのみならず、当時トリニティに来訪していた"先生"に対しても、彼女は容赦なく砲火を撃ち込みました、"先生が居る"と眼前で認識していたのにも関わらず、です。」

 

「……これは、我々トリニティ総合学園だけでなく……このキヴォトス全体に対しての攻撃と言えるでしょう。」

 

カメラを射貫くような真剣な眼差しで、ナギサは続ける。

 

「……今回行われた百合園セイアさん誘拐及びテロの主犯はただ一人」

 

「────"魔王"、"天城ルイ"。」

 

背後のスクリーンに、今回の件で撮られたであろう"魔王"の写真が映し出される。

 

……不気味な笑みと、曇天の中で巨大な装備を纏ったその姿は、"魔王"を脅威であると認識させるに十分な印象を与える。

 

「……私は、今回の作戦中に彼女と対峙しました」

 

「あれは、私たちが知るかつてトリニティ生であった"天城ルイ"ではありません」

 

「先生を人質に取り……巧みな脅迫と砲火によって混沌を齎す、悪辣極まりない存在でした」

 

ナギサは怒りを滲ませ、堪えるように語る。

 

「トリニティへの攻撃の後……彼女は正義実現委員会とシスターフッドにより一度撃退され、逃走しました」

 

「その先に偶然居合わせたゲヘナ校の風紀委員長、空崎ヒナさん、同じく風紀委員の銀鏡イオリさんと交戦になり……更に追撃へ出ていた正義実現委員会、委員長のツルギ、同副委員長のハスミさんも合流し、共に確保に当たりました」

 

「……しかし、彼女を捕らえる事は失敗しました。」

 

「突如撃ち込まれたミサイルによって、その場の全員が倒れたのです。」

 

「……幸い、人命を失うような事態にはなりませんでしたが……関係者の証言により、十分にその可能性はあったと認識しております。」

 

「ミサイルが撃ち込まれた数十分後、目覚めたツルギさんによると……目覚めた時には既に"魔王"は逃走しており、今もどこかに潜伏しています。」

 

ナギサは拳を握り、"ダン!"と大きな音を立てて演説台を叩く。

 

「……彼女の行った全ては許されざる行為です、一刻も早く……かの"魔王"を討たねばなりません!」

 

「"魔王"がどれだけの戦力を保有しているのか……誰にも推察できないのです!」

 

「彼女に時間を与えれば、事態はより深刻になるでしょう。……事態は一刻を争います」

 

「そのために……ひとつ、重大な発表を致します」

 

ナギサはそう前置きをして、"すう"と大きな呼吸を挟んで……続けた。

 

「私たちはこの事件を重く受け止め、不在の百合園セイアさんと蒼森ミネさんを除いたトリニティ議会による満場一致で、"天城ルイの退学"を承認致しました。」

 

「……今この時、この発表を以って……彼女はトリニティを退学となり、学籍無しとなります。」

 

「更に、"連邦捜査部S.C.H.A.L.E"の超法規的権限を使い、"先生"による全校に天城ルイに対する指名手配を発布します」

 

背後のスクリーンには、先生とティーパーティによる承認書の写真が大きく映る。

 

「……どうか、"魔王"の非道を止め……拉致され、未だ帰ってこない百合園セイアさんを救う為……協力をお願い致します。」

 

ナギサは深々と頭を下げる。

 

「……我々にはあらゆる情報が、支援が必要です。どうか、ご協力ください。」

 

その言葉を最後に、中継は終了した。

 

 


 

 

 

鬼気迫る表情で、深い苦悩を滲ませたナギサの演説は……私とセイアに罪悪感を与えるに十分な内容だった。

 

「……確かに目的は達成できたが……ルイ、君は本当にこれでよかったのかい?」

 

セイアは大きな耳をぺたりと下げ、哀しげな声色で私に問う。

 

「……覚悟の上だ。」

 

重苦しい空気を払うように"はあ"、とひとつ息を吐いて周囲を一瞥する。

 

「……気を取り直して、今後の事を話そう……少し、まずい事になったからな」

 

「ええ……完全に、してやられましたね」

 

ヒマリの言葉に首肯する。

 

「あの声明の内容に嘘はなかった……確かに、護ったとはいえ先生を認識しながら撃ち込んだし、ミサイルでは死人が出る可能性があった……死にかけたのは私だが。」

 

「……先生を護った、という事実は当人から聞いているはずですが……ナギサさんが意図的に伏せたのでしょう」

 

「言葉通りに受け取るなら君は"明確に先生を殺そうとし、ミサイルによって生徒を手に掛けようとした大犯罪者"だ……全く、上手くやったものだ。」

 

セイアはそう言って、椅子にもたれかかった。

 

「ナギサからの、"もはや手段を選ぶ気はない"というメッセージだろう……先生も、ナギサの絵図に乗ったと見える」

 

「こうならないよう、わざわざ砲火から護ってやったというのに……」

 

大きくため息を吐き、頭を抱える。

 

「とにかく……本気のシャーレが敵に回ったとなると、立ち回りは考えなければなりません」

 

「ああ、先生が本気なら……今後の作戦は余程上手くやらないと厳しいだろうね」

 

ナギサを通じて"連邦捜査部:シャーレ"が超法規的措置を採ると宣言した。

……それは、キヴォトス全体が私の敵に回る事に等しい。

 

シャーレ旗下、しかも"先生防衛"の名目で支援を要請すれば、あらゆる学校が参戦してくるだろう。

当然、要請に応じない学校もあるだろうが……先生と関係のある学校は殆どが応じるはずだ。

 

「……とにかく、ここまでやってきたという事は私の身柄を確保するためならあらゆる手段を取る気だろう」

 

「悪名と共に全校に顔も知れた、もはや表立って動く事は叶わない。」

 

その場に居た全員が黙し、思考する。

 

「……本来、次の目標はゲヘナ内政、主戦派の立場を失墜させるための作戦、あるいは優和論を煽り立てる事を想定していたが……」

 

「こうなった以上、ゲヘナへ何かしらの行動を起こしたとして……トリニティ以外の戦力が介入し、ただ場を荒らすだけに終わるだろう、協調を狙う事は不可能だ」

 

「……トリニティへも同じだ、仇敵であるゲヘナなんかよりも先生を介して他校勢力に支援を要請する方がよほど容易い」

 

私がそう言うと、セイアは大きくため息を吐いて頭を抱えた。

 

「……見事に、ご破算という訳か」

 

「……そうなるな」

 

どこで何を仕掛けても、他校勢力が支援してくるのなら……外圧による講和は極めて困難。

 

計画は大きな修正を余儀なくされるだろう。

 

「……あの時、先生を巻き込む形で発煙弾を撃ち込んだのは失敗でしたね……」

「こうなる事は想定できたはずです、私が止めるべきでした」

 

そう言ってヒマリは私に向かって小さく頭を下げた。

 

「……謝らないでくれ。あの状況を突破するにはあれしかなかった。それに、シャーレに必要以上に敵対されないための対策は取っていた」

 

「それで駄目だったんだ……仕方ないさ。」

 

場の雰囲気は重苦しく、影が差した状況に表情が曇っていく。

 

(……これ以上は精神的な負担になる、一度切り上げるべきか)

 

"トン"、と義手でテーブルを叩き、注目を集め場の雰囲気を変える。

 

「……起こったことを振り返るのはやめだ、これからの事を考えよう。」

 

「とにかく相手の動きを見ない事には何もできない。しばらくは先生およびゲヘナ、トリニティ両校の動向を注視し……何かいい作戦を思い付くまで、兵器や物資の調達を行う。それでいいか?」

 

概ねの方向性を示し、二人を見遣る。

 

「……そうですね」

 

「ああ、わかったよ」

 

そう返事をした二人に頷きを返し、努めて笑みを向ける。

 

「よし……いくつか想定外の事態を挟んだとはいえ……とにかく"退学になる"、という目的自体は無事に達成したんだ。不謹慎ではあるが、少しぐらい祝ってもいいだろう?」

 

私の言葉に、ヒマリはいつもの微笑みを取戻した。

 

「ええ……いい案です、祝勝会と決起会を兼ねて……ささやかながら、パーティでもしましょうか」

 

「……そうだね、確かに……今悩んでいても仕方ないか」

 

「決まりだな……では、準備と行こうか」

 

こうして、今後についての会議は一旦の終わり、祝勝会を行う運びとなった。

 

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