"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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戦車

 

昼:ミレニアム禁足地/地下通路

 

 

エイミと共に、地下兵器工場へと続く地下通路を進む。

 

先ほどドローンで確認した時と変わらない様子の通路は……どうにも不気味だ。

 

……そのままエイミと背中合わせに近い形で通路を暫く進んでいくと……例の倉庫と思われるエリアに出る。

 

「……ここか」

 

「さっきと比べて、何か変わった様子はないね……」

 

警戒しつつ周囲を見渡しても……特に異常はない。

 

「……よし。とりあえず、ここに中継器とビーコンを設置しよう。……ここから先は、更に通信が悪くなるだろうからな。」

 

「そうだね……よいしょっと」

 

エイミはバックパックを下ろし、中継器を組み立て始めた。

 

私も荷物を下ろし、ビーコンと監視カメラを取り出す。

 

「3台もあれば死角無く確認できるだろう、中継器はどこに置く?」

 

「うーん、一目じゃ見えないようなとこが良いかな……あ、そこなんてどう?」

 

エイミはきょろきょろと周囲を見回した後……大きな瓦礫の中に紛れた木箱のを指さした。

 

「……確かに、そこならば一目では見つけられないだろう。」

 

エイミは頷き、木箱の内部に中継器を隠した。

 

「よし、少し待っててくれ……」

 

監視カメラを中継器に接続し、自分に向ける。

 

中継器含む各種機材の動作を確認し……その全てが、問題なく動いている事が確認できた。

 

「……ヒマリ、こちらの設置裸形は完了した。カメラからの映像は確認できるか?」

 

"……ええ、確認できました……手を振ってみて頂いても?"

 

「わかった、今から振るぞ……3.2.1」

 

カウントダウンして、手を振る。

 

"……遅延もほぼありません、問題ないでしょう"

 

「了解した。これよりカメラを設置するが……何か問題があれば報告してくれ」

 

"わかりました。それと……通信が安定しましたので、新しいドローンをそちらに送ります"

 

"十数分ほどで到着するでしょう、それまで待機してください"

 

「了解、その間に設置作業を進めておく」

 

 

 

……そうして、倉庫へのカメラ設置は特に問題なく完了した。

 

 

「────よし、映像はどうだ?」

 

"ええ、問題ありません……ビーコンと中継器もこちらでモニターできる範囲では、異常は確認できません"

 

「……おっけー、これで一旦設営は終わり?」

 

「ああ、これで終わりだ……後は、ドローンが来るのを待つだけだな」

 

私の返事を聞いて、エイミは大きく伸びをした。

 

「ん……うぅ……はぁ、やっと荷物が減ったよ……じゃ、ここからが本番って事?」

 

「……そうだ、ここから更に奥にある兵器工場を調査しにいく」

 

そう尋ねたエイミへ頷きを返す。

 

「……しかし、先ほどの事もある。多少の危険はあるだろうが、異常機械群や例の多脚戦車……その正体が掴めるかもしれないのなら、確認せざるを得ないだろう」

 

「当然ながら、日を改めるというのも選択肢の一つだ。しかし……ドローンを撃墜した"それ"は確かにここに居た、つい先ほどまでな」

 

「……それを踏まえたうえで、私は今日調査を行うべきだと判断した」

「これは私の考えだ、反対があるなら聞き入れよう」

 

私の問いに、エイミは唸りながら首をひねった。

 

「うーん……私はどっちでもいいかな、部長は?」

 

"……あまりリスクは取りたくないのですが……今回ばかりは賛成せざるを得ませんね"

 

ヒマリの答えをを聞いて、私とエイミは目を見合わせ……頷いた。

 

「……決まりだな」

 

「おっけー、じゃ、準備できたら行こっか。」

 

私とエイミは武器を構え、戦闘の準備を始める。

 

バックパックからいくつかの装備を取り出し、背負いなおす。

 

「……私は基本的に突撃剣を使う事になるだろう。それに、私のショットガンはマガジン式だ……このケースは、君が持っていた方がいいだろう。」

 

バックパックから取り出した弾薬ケースをエイミに渡す。

 

「中に入っているのはフレシェット*1だ。これならば多少の装甲程度なら貫通できるだろう」

 

「……うわ。校則どころか条約違反のやつでしょ?凄いの持ってるね……」

 

そう言ってエイミはケースを受け取り、マガジンチューブに詰まった弾と入れ替えた。

 

「……以前用意したが結局使わなかった品だ。遠慮なく使い切ってくれて構わない」

 

「……正直、人に向けたくはない代物だからな。」

 

「……ん、じゃあありがたく使っちゃおうかな」

 

エイミはケースから弾薬を取り出して、腰のベルトと上着のポケットに仕舞った。

 

「よし、作戦行動の際の陣形だが……私が前衛を務める。エイミは後方から援護を」

 

「基本的に私は大型の敵から順に潰していく。そして、エイミは周囲の雑兵の相手を頼む」

 

「りょーかい、他には?」

 

「そうだな……これは私が気を付けるが、突撃剣の間合いに入らない事くらいだ。」

 

「まあ、私の半径およそ2.5メートル以内に入らなければ問題ない。万が一私に接近する際は、声で知らせてくれ」

 

「おっけー、こっちは準備終わったよ。ルイさんは?」

 

「私も準備完了だ……ヒマリ、ドローンはどうだ?」

 

"ええ、現在は通路を進行中で……間もなく到着します"

 

「わかった。」

 

それから一分ほどが経ち……私たちが入ってきた通路から、複数のドローンが到着した。

 

"全機到着しました……私の方は、問題ありません"

 

ヒマリの報告を聞いて、私達は立ち上がる。

 

「よし……ではこれより突入しようと思うが、問題ないか?」

 

"ええ。入ってきたエリア付近にも特に異常は見られませんし……今のうちに行くべきでしょう"

 

「了解、では……行こうか」

 

「うん」

 

エイミと共に倉庫の最奥、巨大な搬入口へと歩いていく。

 

ひしゃげたシャッターの隙間から奥を覗くと、コンベアやハンガーのようなものが見えた。

 

「……やはりこの先が工場のようだ、警戒を怠らないように」

 

「うん、わかってるよ」

 

エイミはこくりと頷きを返す。

 

「では……作戦開始だ」

 

シャッターを飛び越え、内部に侵入する。

 

ドローン随伴の元、内部をカメラで撮影しつつ、細部を確認しながら……ゆっくりと進む。

 

「……やはり、つい最近稼働したようだ……」

 

巨大な通路のように長く開けたその内部は、先ほど通ってきた倉庫と違って綺麗なものだった。

 

目に付く幾つかの機材も、所々錆びてはいるものの可動部には痕があり、つい最近使用された事が伺える。

 

「……うーん、カメラとかセンサーは無いように見えるけど……」

 

"私の方でも確認していますが……そのような者は見当たりませんね"

 

「……了解した」

 

私とエイミは周辺を警戒しつつ、ゆっくりと進んでいく。

 

しかし……数分ほど進んでも、長い長いコンベアが続くばかりで、目ぼしい物は見当たらない。

 

「……何かがある、と踏んで来たが……ここまで何も起きないと逆に不気味だな」

 

「そうだね……」

 

────そんな事を話しつつ、進んでいく先……この兵器工場を分断するように上下に渡る大きな溝を発見した。

 

「……これは……隔壁か?」

 

恐る恐る近付き、確認する。

その隔壁は解放されており、侵入者を拒む様子はない。

 

「……やはり隔壁だ。退路を断たれる可能性がある事を考えると……この先へは進むべきではないか。」

 

"ふぅ"、と息を吐いて、思考する。

 

「いったん引き返す?」

 

エイミはそう尋ねて、私と目を合わせる。

 

「この先の脅威がどの程度の物か、確かな事が言えない以上……奥へは進むべきではない、と言いたいが……」

 

「できれば、いま正体は確認しときたいよね……」

 

私達が話していると、ヒマリが口を開いた。

 

"……ドローンを使って偵察します、何かあった時の為、そこで待機しておいてください"

 

「了解。一応私の端末でも、映像をモニターする」

 

"わかりました、では……"

 

私の端末にドローンの映像が映し出されたのを確認して、ドローンは隔壁の向こうへと飛んで行った。

 

エイミに周辺の警戒を任せ、私はドローンから送られた映像を注視する。

 

長いコンベアの先に、隔壁が一つ、二つと続いている。

 

"……隔壁がいくつも続いていますね"

 

「余程守りたい物があるらしい、この先には────」

 

"ブツッ"

 

唐突に端末に映ったカメラの映像が消えた。

 

"ピ……ピッ!!キュルルルル────!!ガシャァンッ!!"

 

私たちの背後で待機していたドローンが異音を発し、不規則な軌道を描いて墜落する。

 

「なっ……ヒマリ?」

 

声をかけてもヒマリからの応答は無い。

……原因は不明だが、この状況が危険なのは確かだ。

 

「ヒマリとの通信が途絶えた。エイミ、今すぐに撤退するぞ。」

 

「……了解」

 

ただならぬ雰囲気を察したのか、エイミは即座に銃を構え、戦闘態勢に入る。

 

「行くぞ!」

 

"ダッ!!"

 

来た道を戻らんと駆け出すが────。

 

"ゴオォォォォォォォ……!"

 

天井のハンガーが動き出し、どこからともなく鉄塊を頭上へ運んで……落とした。

 

"ガシャンッ!!" "ガシャンッ!!"

    "ダァンッ!!"

 

「────退避ッ!!」

 

降ってきたオートマタの軍団が、退路を阻む。

 

私とエイミは反射的に遮蔽物へと飛び込んだが……状況は楽観視できなさそうだ。

 

目の前に現れた大盾を持った巨大なオートマタに、それを護衛するように構えるアサルトライフルを持ったオートマタ。

それに加え、無数のタレットドローンがその後方を固める。

 

(……随分、規則だった動きだ……これらにはやはり主が居ると見るべきか)

 

「……エイミ、先に言った通りに動くぞ。」

 

「おっけー……こうなったら、やるしかないよね……!」

 

(……なんにせよ、まずはこの状況を突破してからだ)

 

「スリーカウントで私が飛び出す、援護は任せた」

 

その言葉に、エイミはこくりと頷いた。

 

「3.2.1────!!」

 

"ダッ!!!"

 

突撃剣を構え、飛び出す。

 

"────ギュイッ!ダダダッ!!ダダダッ!!"

"タタタタタタッッ!!"

 

"ガン!キュゥン!!!"

 

(狙い通り!)

 

飛び出してきた私に対してARオートマタ達は頭部のカメラを向け、射撃を始めた。

 

大盾を持ったオートマタは私に向かって盾を向け、AR持ちをカバーする。

 

"タタァン!! タァン!! タタタァン!!"

 

エイミから視界を逸らすように走りつつ、後方でこちらを狙っていたタレットドローンを撃ち落とす。

 

"──ギュルル……バァァンッ!!"

 

墜落していくドローンが一つ、オートマタの足元に落ち、爆発する。

その衝撃で一瞬、オートマタの陣形が崩れた。

 

「……今だ!!」

「……おっけー!!」

 

"────ダァン!ダァン!ダァン!!"

 

私が叫ぶと同時にエイミが飛び出し、横からオートマタを撃ち倒す。

 

"ギュルッ──!"

 

唐突に現れたイレギュラーに、オートマタ達は頭部を向ける。

 

「──ふッ!」

"ガギャァンッ!!"

 

その隙を逃さず、足元を払うように振るった突撃剣の一閃が……大盾を持ったオートマタの脚部をへし折った。

 

"ズダァァンッ!!"

 

崩れ落ちたオートマタの頭を踏み潰し、群れの中へ飛び込む。

 

「はあっ!!」

 

"ブォンッ!!ガシャァン!!!"

 

"カチッ、カチッ、カチッ……"

 

(銃が撃てていない?)

 

オートマタ達はシステム上で同士討ちができないようにプログラムされているのか、中心で剣を振るう私に対して、カチカチとセーフティのかかったトリガーを引くばかり。

 

(つまり、射線上に敵がいる限り……私は攻撃を受けない。ならば────)

 

「────エイミ、作戦変更だ!オートマタは私が倒す!ドローンを頼む!」

 

「了解!任せて……!」

 

"ダァンッ!!ダァンッ!!ダァンッ!!"

"ブォンッ!!ガアンッ!!ガシャンッ!ダダダダダダダダッ!!!ガギャァンッ!!"

 

頭部を切り飛ばし、腕をへし折り、銃を奪い取り、胴体を蹴り飛ばして踏みつける。

 

オートマタは銃撃戦以外を想定してプログラムされていなかったのか、されるがままに倒れていく。

 

"バァァァンッ!!" "ギュンッ!!ダァンッ!!"

 

私に対する脅威レベルは最大に達したようで、ドローンの撃墜に徹しているエイミに目もくれず、オートマタとドローン達は私を狙い始める。

 

しかし────タレットも、オートマタの中心に立つ私に砲火を浴びせる事は出来なかった。

 

「ハッ……欠陥品だな!」

 

 


 

 

「────!!」 "ガシャン!!"

 

しばらくして……数十体ほど居たオートマタ達は一人また一人と倒れ……ついに、最後のオートマタが崩れ落ちた。

 

「……これで終わりか?」

 

動体は私とエイミの二人だけとなり、床に散乱したオートマタの残骸を踏みつけながら、周囲を確認する。

 

「一旦は、これで片付いたみたいだけど……」

 

"ゴロッ……"

 

先ほど撥ね飛ばしたオートマタの頭部が足元に転がる。

 

"キュルッ……"

 

僅かに光る頭部のカメラがこちらを向く。

心なしか、その表情は随分と不満げに見える。

 

「……次はもっとマシな主に作られる事を祈るんだな」

 

"ガシャアッ!!"

 

力強く踏み潰すと、オートマタの頭部は砕け散って……内部が露出した。

 

手を伸ばし、その内容物を探り……記録装置と思われる部分を取り出す。

 

「……これをヒマリに渡せば、何か情報が手に入るかもしれん」

 

「……早く撤退しよう。できれば他のも回収したいけど……流石にその時間はなさそうだよ」

 

エイミはそう告げて、来た方向へ親指をくい、と向けた。

 

「わかっている。急ごう」

 

突撃剣を背負い直し、小走りで来た道を引き返しながら弾を弾倉へ込め直す。

 

「……エイミ、どう思う?」

 

「……どうって?」

 

走りながら、エイミと会話する。

 

「敵の数が随分少なかった、この規模の工場なら数百体ほど襲ってきてもおかしくなかったはずだ」

 

「……まあ確かに……でも今から追加で来られても困るけどね」

 

「全くだ。しかし、ここの主が何を考えているのかがわからない」

「本気で私たちを排除する気なら、他にやりようがあったはずだ……」

 

思考している場合ではない事を思い出し、思考を撃ちきる。

 

「────まあいい、この話はヒマリも交えて後でじっくり話そう」

 

「うん、そうする方がいいと思う」

 

エイミはそう返しながら走るが……その腹部には、先ほどの戦闘で負ったであろう青い痣が見えた。

 

「そういえば……怪我はないか?」

 

「大丈夫、何発か被弾したけど……支障ないよ」

 

「ならいいが……念のため、落ち着ける場所に着いたら被弾部位を診せてくれ、簡易な処置ならできる」

 

「じゃあ、お願いしよっかな……」

 

そんな事を話しつつ、十数分ほど走り続けるうち────元居た倉庫へと戻ってきた。

 

 

「────ふぅ、ここまで来れば……と言うには少し頼りないが、ここなら少しは落ち着けるだろう」

 

汗を拭い、瓦礫に腰を下ろす。

 

「はぁ~~~~……疲れた……」

 

エイミも私の傍に座る。

 

「……とりあえず傷の具合を見よう、横になってくれ」

 

「ん……」

 

私がそう促すと、エイミは私の膝、脚部装甲を枕にして横になった。

 

「……装甲を枕にしても首を痛めるだけだぞ」

 

「いいでしょ、こういうのは気分だよ」

 

そう言って、エイミは上着を脱いだ。

 

「君がいいなら構わないが……」

 

そう言って、エイミが示した被弾部位を診ていく。

 

元々薄着なのもあり、わかりやすく青くなっている部位がいくつか目に付いた。

 

「触れるぞ、何か異常があれば言ってくれ」

 

軽く触れて、内出血の具合を確かめるが……流石はエイミという所だろう、軽度も軽度、1日もあれば完治してしまいそうだ。

 

「骨折の様子もない……全て軽度だ。包帯なりで軽く圧迫して冷やしておけば、すぐ痛みも引くだろう……他に痛む所は?」

 

私の言葉に、エイミは少し笑った。

 

「うーん、首かな」

 

「……今すぐ頭を退ければ数分で完治するぞ」

 

「……はーい……」

 

エイミは頭を退けて、座り直した。

 

「よいしょ……じゃ、そろそろ……」

 

「……そうだな、中継器の状態を確認しなければ。」

 

共に中継器のログを確認するが────その結果、恐ろしい事が判明した。

 

「……何だ、これは」

 

中継器のログは、僅か0.0002秒以内に送信されたあまりにも膨大なデータによる飽和攻撃による極度の熱暴走によって、実質的な破壊を受けたようだ。

 

(こんな事が可能なのか?文字通り、ほんの一瞬でこの膨大なデータを動かすことが?)

 

「…………」

 

エイミと共に絶句する。

 

「…………ここに残り続けるのは危険すぎる、速やかに撤収しよう」

 

「……そうだね」

 

ログの記録されたメモリーのみを抜き出し、私たちは出口へと走り出した。

 

 

 


 

 

 

午後:ミレニアム禁足地/兵器工場入り口

 

 

「……よし」

 

装備と共にエイミを引き上げ、私たちは帰路を進み始めた。

 

……行きとは荷物の量が違う、少しばかり険しい道も進めるだろう。

 

「太陽の方角からして、私たちの来た方角はあそこだ……直線的に進もう」

 

「りょーかい、急ごうか」

 

「ああ」

 

そう返し、南東へ向けて移動を開始した。

 

 

────数分後。

 

 

「……エイミ、何か聞こえないか?」

 

「……うん、聞こえるね……嫌な音が」

 

進行方向より、"ズウン、ゴオン"と地響きに似た音が遠くから聞こえはじめた。

 

「まずいな……2時の方向に多脚戦車だ。回避するぞ……!」

 

「……タイミングが悪いね!」

 

接敵を回避するため、一旦付近の廃墟へと飛び込むが────。

 

「いや……こちらに来る……!位置を捕捉されているのか……!?」

 

"ギュオオオオオオ……ズンッ!!ズンッ!!"

多脚戦車は大きな駆動音を立て、こちらに歩いてくる。

 

確認のため、廃墟から僅かに顔を出すと……多脚戦車の正面に配置された、探照灯のようなオレンジ色の光と……確かに、目が合った気がした。

 

その瞬間。

 

"────ドドドドドドドドシュッッッ!!!!"

 

多脚戦車の脚部より無数のジップラインが発射された。

 

「……マズいッ!!!」

 

"ズドドドドドドドドッッッ!!!"

 

ジップラインの着弾音が周囲に響き渡る中、エイミの手を引いて廃墟から飛び出す。

 

"ギュオオオオオオオオ────ズドオンッッッ!!!"

 

ほんの数秒までまで私たちが居た廃墟は、遠方より一瞬で突っ込んできた多脚戦車に轢き潰され……瓦礫の山と化した。

 

"ギャリギャリギャリギャリギャリッッッ!!!"

 

多脚戦車は地面を削りながら制動を掛け、私たちの方向へ向き直る。

 

照準にも似た巨大なヘイローがオレンジに輝き、私たちを威圧する。

 

「…………エイミ、お前だけでも逃げろ!」

 

「……無理、こんなの相手じゃ逃げられない!」

 

「……私が気を引く、とにかく今は逃げて、ヒマリに助けを求めろ…!」

 

「ルイさんが逃げて、私の方が頑丈だし、時間を稼げる!」

 

そう話している間にも、多脚戦車に備えられた二対の機関砲が回転を始める。

 

「クソッ……今は足元に走るぞ!!」

 

そう叫んで、私とエイミは足元に滑り込んだ。

 

目を見合わせ、頷く。

 

「……こうなったら倒すしかない。よく聞け」

 

「以前得た映像でシミュレーションした限り、こいつのとやり合うのなら……足元だ」

 

「あの機関砲で蜂の巣にされるより、踏み潰されるリスクの方が圧倒的に少ない……それに、過去の映像にはなかった装備が後方に備えられている。」

 

「見た限り、あれはミサイルポッドだ……!逃走するのは容易ではない、不可能と言ってもいいだろう。」

 

"ギュン────ズドオオンッッ!!"

 

私を踏み潰さんと降り下ろされた足を回避する。

 

「……つまり、足元のポジションを維持しながらこいつの弱点を突く!?」

 

「そうだ!回避に専念しつつ……足の一本でも破壊しなければ私たちに勝ち目はない!」

 

「わかった、頑張るね……!」

 

"ズドオオンッ!!"

 

再度振り下ろされた足を回避し、エイミに向かって叫ぶ。

 

「……こいつが見た目通りの構造なら、一番負荷の高い部位は3個目の関節、前後の装甲に挟まれた部位だ!」

「……とにかく撃ち込め!」

 

「おっけー!!」

 

"ダアンッ!!ダアンッ!!"

 

エイミは振り下ろされ、払われる戦車の脚部を回避しつつ、射撃を継続する。

 

「……傷やへこみの一つでも、付いてくれ……!」

 

"ブオンッ────ガギインッッ!!"

 

突撃剣を振り下ろすも、前後に着けられた装甲に阻まれ、関節部には届かない。

 

「クソッ!!」

 

"ギャリギャリギャリッッッッ!!"

 

滑らせるように払われた脚部を飛び越え、回転しながら着地する。

 

"ダアンッッ!!"

 

"ダダダダダダダァンッ!!"

 

振り下ろされる足を回避し、装甲の隙間へと弾倉内の弾を全て撃ち込む。

 

「……全然効いてない!」

 

「……信じて撃ち続けろ!私達にはこうするしかない!!」

 

エイミの叫びにそう返して、リロードしつつ突撃剣を振るう。

 

"ガアンッッ!!"

 

振るった剣が関節部へと直撃するが、少しのへこみが着いた程度で大きな損傷にはならない。

 

「……クソッ!!」

 

リロードを終えたショットガンを構え、次の攻撃を待つ。

 

"ギュウウウウウンッッッ!!"

 

次の攻撃は訪れず……代わりに何かが装填されるような音が鳴る。

 

「伏せ────"バガァァン!!!!────"

 

"ズドオオオオンッ!!ギャリギャリギャリッッッ!!"

地面を弾き飛ばすように飛び上がった多脚戦車は、数十メートルは先の瓦礫の上に着地した。

 

"ドシャァッ!"

 

何かが滑るような音と共に、数メートル先でエイミが転がった。

 

唐突に飛び上がった多脚戦車の脚に頭をぶつけたのか、頭部から出血しており……ヘイローが消えている。

 

「……エイミ!?」

 

咄嗟に走り寄るが……視界の端に光が映る。

先ほど飛んで行ったそれを見る。

 

「……ッ!!」

 

回転式機関砲が激しく回転してオレンジ色の光を放ち、後方のミサイルポッドが開かれる。

 

正面のライトが、激しく輝いた。

 

「……エイミッッ!!」

 

────瞬間、エイミへ覆い被さって私の下へ組み敷き、突撃剣を展開する。

 

"ギュルルルル!!!────ギュウウドルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!!!!!!!!!!!"

 

けたたましい駆動音と発砲音が、あまりに早すぎる速度で繰り返され……無音と聞き間違うような轟音の中、私たちは伏せる。

 

突撃剣を盾に、姿勢は低く……祈るような姿勢で、滝のように降り注ぐ弾雨を防ぐ。

 

"バババババババシュッッッ!!!!!!!!"

 

轟音に交じり、ミサイルの発射音も聞こえてくる。

 

「クソッ……!!」

 

────ここまでか。

 

そう思った瞬間。

 

"ドドドドドドドドオオオンッッッッ!!!!"

 

ミサイルは着弾前に全て撃ち落とされたかのように、私の頭上で爆発音だけを鳴らして……消え去った。

 

死の間際、永遠に思える十数秒の弾雨の中……ついに訪れた静寂に、顔を上げる。

 

そこには3mはあろうかと思われるパワードスーツが、私たちと多脚戦車の間に立っていた。

 

"……C&C、コールサインゼロフォー……飛鳥馬トキ……救援に参じました"

 

くるりとこちらを向いた彼女の顔には、見覚えがある。

ヒマリの元に身を寄せた時に一度だけ、特異現象捜査部で顔を合わせた彼女だ。

 

「……はっ」

 

安堵の息が漏れる。

……しかし、危機的状況なのは変わりない。

 

「────救援に感謝する!しかしエイミが負傷して意識不明だ!現状、撤退は厳しい!共にそれを撃破しなければ……逃げ切れない!」

 

「……少しだけ時間を稼いでくれ!!体勢を立て直す!」

 

私がそう叫ぶと、トキは機関砲を冷却している多脚戦車へと向き直った。

 

"了解しました。現地では貴方の指揮下に入れと命じられておりますので……仰せのままに"

 

"バシュウン!!"

 

トキは多脚戦車の居る方向へと飛んで行き……対峙した。

 

それを確認し、眼下で伏せるエイミに向き直る。

 

「……すまない、私の責任だ……!」

 

コートを脱ぎ、気絶したままのエイミに被せる。

このコートは防弾だ。お守りくらいにはなるだろう。

 

楽な姿勢を取らせ、出血部位に布を巻く。

 

「……必ず戻って処置をする……だから、耐えてくれ……!」

 

願うようにそう告げて、私は多脚戦車が構える方向へと走り出した。

 

 


 

 

「……すまない、待たせた……!」

 

トキは機関砲とミサイルを回避しながら、私の方へ視線を向け、叫ぶ。

 

"……指示を!"

 

「前脚3つ目の関節、そこを狙え!装甲は厚いが、撃破するにはそこしかない!」

 

"了解しました!"

 

"ダララララララララララッッッッ!!!!"

 

パワードスーツのガトリングガンからばら撒かれる弾丸が、的確に脚部へ命中している。

 

「……はあッ!!!」

 

トキに気を取られている戦車の脚部へ、突撃剣を振り下ろす。

 

"ガギィンッッ!!"

 

甲高い音と共に剣は弾かれるが……先ほどより確かな傷と、大きなへこみが確認できる。

 

「……効いている、続けるぞ!!」

 

"了解!!"

 

トキと共に、相手の猛攻をかいくぐり……何度も、何度も攻撃を重ねる。

 

「……まだまだァッ!!」

 

"ブォンッ!!──ガァァンッッ!!"

 

"再装填完了、発射!"

 

"ダダダダダダダダッ!!!"

 

「喰らえッ!!」

 

"ズドドドドォンッッ!!!"

 

"……掃射開始、退避を!"

 

「了解ッ!!」

 

私が飛び下がった瞬間、トキが射撃を開始する。

 

"ダララララララララララッッッッ!!!!"

 

"ギィン!!ギンッ!!ギュン!!キュゥン!!1!"

 

トキの放つ大口径の弾幕に晒され、多脚戦車の脚部には大きな傷が刻まれていく。

 

"ギュウウウウウウウウン────"

 

"バガァァンッッ!!!"

 

状況が不利だと判断したのか……多脚戦車は再び飛び上がった。

 

"ズドオオオオンッ!!ギャリギャリギャリッッッ!!"

"……ギュルルルルルル────!!"

 

数十メートル先へと着地した先で、多脚戦車の機関砲が回転を始める。

 

多脚戦車はトキを重要な脅威と見做したのか……私には目もくれず、砲口をトキの方向へ向ける。

 

「……機関砲とミサイルの掃射だ!廃墟の裏に回って回避しろ!!」

 

"了解!!"

 

"バシュウッッッ!!!"

 

トキは高速で飛んでいく────と同時に。

 

"ギュルル────ドルルルルルルルルルルルルルルルッッッ!!!!!!!!!!!"

 

曳光弾と見紛うような、光り輝く弾丸の嵐がトキを追う。

 

"バシュウウウウウウッッッ!!!!"

 

トキはさらにブースターを吹かし、ビルの裏へと回った。

 

"ズドドドドドドドドド!!!!!!"

"ドガガガガァァァン!!!"

 

"ゴゴゴゴゴ……!!!ズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!"

 

廃墟とはいえ……十数メートルはあろうかという巨大なビルが、ミサイルと機関砲によって一瞬で穴だらけとなって……崩れ落ちる。

 

地響きの中、砂煙に灯るブースターの青白い光だけが……トキの無事を示す。

 

「……この攻撃の後、奴は動けない!!今が最大のチャンスだ……!最大火力を叩き込め!!」

 

叫ぶように、指示を出す。

 

"了解!!"

 

"バシュウウウッ!!!!"

 

トキは機関砲を冷却するため、動かない多脚戦車の目の前へと飛んで行き……肩に巨大な砲を展開した。

 

"アビ・エシェフ、殲滅モード……最大出力……ロックオン!"

 

青白い光が二門の砲口へと集い、収縮する。

 

"────発射!!"

 

"ギュウウウウウゥゥゥ────!!!"

 

巨大なレーザーが多脚戦車へ降りそそぐ。

 

輝ける青光が太陽に克ち、辺りを照らす────。

 

"ドオオオォォォォオオオンッッッッ!!!"

 

爆発音の後、顔を上げると……多脚戦車は未だ立っていたが……その前脚には大きなヒビが入り、バランスを崩したかのように前傾している。

 

「……よし、よし!!あと少しだ……!」

 

"ババババババシュッッッ!!!"

 

そう思った瞬間、多脚戦車の後脚から大量のジップラインが放たれ……はるか彼方へと飛んで行った。

 

"ッ!?"

 

「……はっ!……撤退したようだ、追わなくていい……私たちの勝ちだ……!」

 

警戒するトキにそう告げて、武器を下ろす。

 

飛んで行った多脚戦車は、その際の衝撃に耐えられなかったようで……折れた前脚が一本、その場に残されていた。

 

「……はあ、ははっ……」

 

"バシュウウウ……ッッ"

 

膝をついて、脱力しながら笑う私の隣にトキが着陸する。

 

「ああ……飛鳥馬トキ……だったかな」

 

「……はじめまして、ではありませんね」

 

「……はは、そうだな……改めて、天城ルイだ……此度の救援、心より感謝する……」

 

膝をついたまま頭を下げる私へ、トキは手を差し出した。

 

「……お礼は受け取りますが……今は帰還しましょう。ヒマリ部長がとても心配していましたので」

 

「……ああ、そうだな……」

 

トキの手を取って、立ち上がる。

 

「……とはいえ……今はエイミの状態を診なければ」

 

「……同意します」

 

トキと共にエイミの元へと戻り、エイミに被せてあったコートをめくる。

 

から血を流している彼女は、眠りながらも苦悶の表情を浮かべている。

 

「……傷の具合は……!」

 

急いでエイミの髪をかき分け、傷の状態を確認する。

 

確認できる範囲では大きな傷ではあるが……脈や呼吸に異常はなく、命に別状はなさそうだ。

 

安らか、とは言えないまでも……表情もいつの間にかいつも通りに戻っており、特に深刻な問題は感じさせない。

 

「傷は大きいが命に別状はない……コートのせいで暑かっただけのようだ」

 

「……良かったです」

 

私の言葉に、トキは無表情ながら安堵を滲ませてそう言った。

 

「……とはいえ頭の問題だ……挫傷の可能性もある。可及的速やかに精密な検査を行うべきだろう。」

 

「……トキ、エイミを背負って飛べるか?」

 

「ええ、可能です」

 

「……ここからなら乗ってきた車両まで15分もかからないだろう、私はそこで待機しているから、君は先にエイミを病院に連れて行ってくれ。迎えはその後でいい」

 

「……わかりました」

 

トキはエイミを抱き上げ、揺らさないように紐で固定した。

 

「……では、また後程」

 

"バシュウ……ドシュンッ!!!"

 

そう答えて、トキはエイミを抱えたまま飛んで行った。

 

「……はあ」

 

安堵の息を吐いて、エイミの分も装備を背負う。

 

……これで、ひとまずは安心できる。

 

(合流ポイントに急いで……少し休もう)

 

 

────こうして、今回のミレニアム禁足地調査は終了した。

 

 

*1
貫徹能力の高いダーツ状のペレットを複数発射する散弾。

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