"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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頓挫

 

夜:特異現象捜査部/会議室

 

調査作戦後、エイミを送り届けて戻ってきたトキと共に特異現象捜査部へ帰還した私は、怪我の診察と処置を終えて……会議室で今回の調査で得た情報を共有していた。

 

「────通信が途絶えた後の経過は、概ねこんなところだ」

 

ヒマリとの通信が失われた後の経過を、ボディカムの映像と共に説明し終えた。

 

「概ねは把握しました、本当に……お疲れ様でした」

 

そう言ってヒマリはぺこりと小さく頭を下げ、真剣な表情でこちらを見た。

 

「そして……私からも、お見せしたい物があります」

 

「今からお見せするのは、貴方たちとの通信が妨害された直後……制御を失ったドローンとの通信が途切れる直前、一瞬だけ映っていた映像を切り抜いたものです」

 

その言葉と共に、一枚の画像がスクリーンに投影された。

 

画像は大きくブレているが、そこには白い球体のようなオブジェクトが映っており、その上には……ヘイローが浮かんでいる。

 

「……ヘイローを持つ機械、しかもこれは……新型か」

 

「ええ、多脚戦車や、アビドス砂漠で目撃されている"ビナー"とはまた別の存在でしょう」

 

「はぁ……まずいことになったな」

 

悪化した状況に、大きくため息を吐く。

 

「無人機の開発が実質的に頓挫するどころか、新たな厄介事まで見つかるとはな」

「……無人機以外の対抗策を考えると同時に……この機械群の対処も考えねばならないか……」

 

"黙示録"に"異常機械群"。

 

虎の尾を踏んだ可能性が脳裏によぎる。

 

……頭を抱えるような状況に、思わず天井を見上げた。

そんな私を慰めるように、ヒマリは口を開いた。

 

「……しかし、今回の調査では重要な情報を得られました……無人機開発が頓挫した事は残念ですが、今回得た情報はこのキヴォトスにとっても重要な物でしょう」

 

「……そう言ってもらえるといくらか気が紛れるよ」

 

何度目かもわからない溜め息を吐き、椅子にもたれる。

そんな私にヒマリはちらりと目をやって、話を続けた。

 

「……とりあえずは、今回の調査で得た情報を纏めましょう」

 

「"多脚戦車と映像に映っていた球体の機械は情報を共有、あるいは指揮系統を同じくしている可能性が高く……禁足地を徘徊するオートマタはその下位に当たると思われます"」

 

「……そして"オートマタの出所は地下兵器工場の可能性が高く……放っておけば、大増殖するでしょう"」

 

言い終えて、ヒマリに首肯する。

 

「……こうして最悪の想定ばかり的中すると、気が滅入るな……」

 

「全くです……あの戦車やビナーのような存在が他にも居て、指揮系統を同じくしているとなると……"異常機械群"は、現状最も警戒するべき勢力と言えるでしょう」

 

……多脚戦車は高機動かつ圧倒的な制圧火力を有し……ビナーは地中を潜行し、異常な出力のレーザーで奇襲を掛けられる。

それを考えるに……この球体も、何かしらの特殊な役割、あるいは力を有している可能性が高い。

 

ヒマリの言う通り、"異常機械群"は最警戒に値するだろう。

 

「アビドス砂漠のビナーを念頭に置くなら、ミレニアムのみならず各校に散らばって潜伏している事も考えられる……この事実を公開し、各校に警戒を呼び掛ける事も考えるべきだ」

 

私の提案に、ヒマリは頷く。

 

「……その件については、もう少し調査を進めてからにする予定です」

 

ヒマリは"おほん"と、ひとつ咳ばらいをして、段落を付けた。

 

「とりあえずは、貴方たちが入手してくれたオートマタの記録装置とボディカムの映像を解析し……多脚戦車の遺した脚部を回収して、それを調査する必要があるでしょう」

 

「そうだな、有用な情報が出てくればいいんだが……」

 

「ええ……解析はこちらで進めておきますし、残された脚部の回収の手はずは整えましたので……今日はもう休んでください、もういい時間ですしね」

 

ヒマリはそう言って、車椅子のサイドポケットからタブレットを取り出した。

 

「……ああ、流石に今日は疲れたから休ませてもらう……しかしヒマリ、今日は一人だろう?」

 

エイミは無事、との報告を病院に連れ添ったトキより受けているが……頭に強い衝撃を受けたため、検査入院という形で明日の昼まで帰ってこない予定になっている。

 

一日程度ならエイミ不在でもヒマリなら大丈夫だろうが……私だけでなく、彼女も今日一日忙しかった、病弱な彼女を一人にして、無理をさせるのは心配だ。

 

「君を一人にするのは心配だ……介助が必要なら私が手伝うから、ヒマリも休んでくれ」

 

そう言って、立ち上がる。

 

「ですが……」

 

「……いいから、休むんだ……諸々を片付けながらでも、話せる事はあるだろう」

 

そう言いながら、ヒマリの車椅子を押して会議室を出る。

 

「はぁ……わかりました、それではお言葉に甘えましょうか」

 

ヒマリは"呆れた"、というにはいささか喜色の滲んだ溜め息を吐く。

 

「ああ……では、君の部屋へ行こう」

 

ヒマリの車椅子を押して、エレベーターに乗り込む。

 


 

数十秒ほどして、開いたエレベーターから少し進むと……彼女の私室へ到着した。

 

「……さて、何かしてほしい事は?」

 

カードキーで扉を開錠し、入室して……問いかける。

 

「……そうですね……"介助"をしてくれるのでしょう?」

 

どこか妖しげに微笑むヒマリに、少しだけ嫌な予感がして────。

 

「入浴の介助をお願いします、普段はエイミにお願いしていますが……今は不在ですし、仕方ありませんね?」

 

そう言って、彼女は私の手を引いた。

 

「……私は構わないが、君は良いのか?」

 

苦し紛れにそう問うと、彼女は"ふふ"と笑う。

 

「同性ですし、私にとってはいつもの事ですから気にしません……それに、吐いた言葉は飲めませんよ?……今日は冷や汗をかくような事が連続した事ですし、お願いしますね?」

 

ぐい、とヒマリは引く手を強める。

 

「はあ……わかった、やると言ったのは私だしな……ほら、持ち上げるぞ」

 

観念してヒマリを抱え上げ、脱衣所へと連れていく。

 

ちらりと彼女に向けた視線が重なり、逃げるように視線を逸らす。

 

「……勝手がわからないから、至らない所があれば言ってくれ」

 

気まずい空気を誤魔化すようにそう言うと、ヒマリはいつもより口数少なく"ええ"とだけ返した。

 

(……彼女に想われている事を考えると……どうしても意識してしまうな)

 

余計な思考を抑え、私は彼女の介助を始めるのだった。

 

 


 

 

"ゴオ────"

 

ドライヤーでヒマリの髪を乾かしながら、彼女の髪を指先で梳く。

彼女の髪はきめ細やかで柔らかく、しっとりと濡れている事も相まって……触れるととても手触りがいい。

 

「いつも思っていたが……綺麗な髪だな」

 

口を衝いて出た言葉に、ヒマリはふふんと笑った。

 

「自慢の髪です、儚げな美少女であるこの私に良く似合っているでしょう?」

 

彼女は嬉しそうにそう言って、髪をかき上げて見せた。

 

「ああ、とても似合っている」

 

そう返すと、彼女の尖った耳が少しだけ赤く染まった気がした。

 

……上から下へ、水気が切れるまで優しくドライヤーを往復させているうち……ヒマリの髪の水気は殆ど抜けていた。

 

「……もう少しで終わりだ、眠いだろうが辛抱してくれ」

 

乾かしている内に眠くなったのだろう、うとうとと肩を揺らす彼女にそう声を掛ける。

 

「ん……普段はもう眠っている時間ですから……少し眠くなってしまいました……」

 

「服を着るまでは起きていてくれ」

 

乾かし終わった髪をコームで整え、毛先の水分をタオルで軽くふき取って……一連の作業は終わった。

 

最後にもう一度体を拭いて、パジャマに着替えさせる。

 

よほど眠いのか、殆ど私が着せるような形になってしまった。

 

「あとは眠るだけか?」

 

椅子に座っているヒマリにそう尋ねると、彼女はこくりと頷いた。

 

「……ええ、運んでください」

 

そう言って私に両手を伸ばした彼女を抱き上げて、ベッドへと運ぶ。

 

眠そうに瞬きをする彼女をそっとベッドに下ろし、部屋を後にしようとすると……"くい"、と袖を引かれた。

 

「……ルイさん、すこしだけお話があるので、耳をかしていただいても?」

 

「……ああ」

 

ふわふわとした声でそう告げたヒマリの口元に、ゆっくりと耳を寄せる。

 

すると、ヒマリは少しだけはっきりとした声で────

 

「────ルイ、無線を切ったくらいでは……私には筒抜けですよ」

 

「…………何の話だ?」

 

そう誤魔化した私の耳元で、彼女はくすりと笑う。

 

「ふふ……"何の話"、だなんて……気付いているでしょう?」

「まあ……私はいつまでも待ちますよ、例え……貴方が赦されなかったとしても」

 

耳元で小さく囁いて、ヒマリは袖を引く手を離した。

 

「…………ヒマリ、私は……」

 

たった数秒の思考の後、そう返すが……ヒマリは既にすぅすぅと寝息を立てていた。

 

(………………)

 

もう少しだけ、思考を巡らせるが……辞めた。

 

「……おやすみ、ヒマリ」

 

余計な事は考えず……今日は眠ってしまおう、意識を蝕むこの疲労感に身を任せて。

 

返答の責務から逃れるように、私は自分の部屋へと戻った。

 

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