"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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動向

 

午前:特異現象捜査部/ルイの部屋

 

「……ん」

 

眠りより覚め、ゆっくりと目を開くと、セイアが机に向かって何かをしているのが見える。

 

「……おはよう」

 

その背に向けて声を掛けると、彼女はくるりとスツールを回転させてこちらを向いた。

 

「やあ……おはよう、珍しく寝坊かい?」

 

セイアはそう笑って、私の傍へとスツールを滑らせる。

 

「……昨日の件で報告が長引いてな」

 

小さくあくびをして、時計へと目を遣ると時刻は11時。

 

「随分遅くまで眠っていたようだ……顔を洗ってくるよ」

 

「ああ、戻ってきたら少し話があるんだが……いいかい?」

 

「わかった……」

 

そう返事をしてベッドから立ち上がり、洗面所へと向かう。

 

「…………」

 

ばしゃばしゃと顔を洗いながら、昨日の事を想起する。

 

"私はいつまでも待ちますよ、例え……貴方が赦されなかったとしても"

 

昨日、ヒマリに囁かれた言葉が頭の中を反響していた。

 

(……エイミとの会話は聞かれていたのだろう、あの時……随分いいタイミングで割り込んできたと思ったが、そういう事だったか)

 

油断していた、というと語弊があるが……ヒマリに聞かれていないのなら、と……不義理かつ、礼節を欠いた事を言ってしまった。

 

彼女の想いに気付いていながら、"計画の不和となる可能性を考慮して"……という身勝手な理由で……セイアの想いも含め、私は無碍に扱った。

 

そんな私に、ヒマリはただ"待っている"と。

 

……いずれは、応えなければならない。

 

私の末路がどうなろうと、ヒマリやセイアには────。

 

「────ルイ?随分長いが……大丈夫かい?」

 

背後から聞こえた声に、はっと顔を上げる。

 

「……すまない、考え事をしていた……顔を拭いたらすぐに行く」

 

「いや……何でもないならいいんだ、急がなくていい」

 

そう言って、戻っていったセイアの背を見送る。

 

(……今はただ、目的を果たさなければ)

 

ごしごしと顔を拭いて、セイアの待つ部屋と戻った。

 

 


 

 

「ただいま、セイア」

 

「ああ、おかえり」

 

私が帰ってきた事に気付いたセイアは、ゆっくりとこちらへと椅子を向けた。

 

「昨日の事は聞いているよ……まずは、無事でよかった」

 

「……心配をかけたようだ、エイミも含め……皆無事だ」

 

「ああ、それも聞いたよ……しかし、今から話すことはそれとは違う話だ」

 

セイアは真剣な表情でそう告げる。

 

「……何か動きがあったのか?」

 

私の問いに、セイアは小さく頷いた。

 

「……ああ、結論から言うとゲヘナが……いや、万魔殿が裏で良からぬ事を考えているようだ」

 

"万魔殿"、その名で大体の事は察しがついてしまった。

 

「……シャーレとミレニアムを介したとはいえ、あの万魔殿がトリニティを含めた協定に易々と参加するとは思えなかったが……やはり裏があるか」

 

「ああ……ヒマリの情報網を使って盗聴した音声や、やり取りを確認する限り……表では協力しつつ、裏では君に与するように動いて、君を利用してトリニティを弱体化させる気のようだ」

 

セイアはそう言って、小さくため息を吐いた。

 

「……君がゲヘナで行った作戦を風紀委員が隠したおかげで、万魔殿からすれば君は"先生"が権力を持つ"エデン条約機構"の制限を無視してトリニティへの攻撃を行える便利な駒に見えるのだろう」

 

「……あるいは、気付いていないふりをして風紀委員の目を晦ましているのかもしれないけどね」

 

「なるほどな……」

 

瞑目し、思考する。

 

「万魔殿が私を利する、とは言うが……具体的にどうするかまでははっきりしないのだろう?」

 

「ああ、議長がそのような趣旨の事を発言していた、というだけだからね……兵器を供与する、という旨のことは言っていたが……それは現実的じゃない」

 

セイアはそう言って、"ぎし"と音を立てて背もたれへと寄り掛かった。

 

「そうだな……トリニティはともかく、ミレニアムに露見しないようにできる事なんて、たかが知れているだろう……それをどうにか推測できれば、対応も考えられる」

 

「……どう思う?」

 

そう問いかけると、セイアは"ううん"、とうなって大きな耳をぺたりと下げる。

 

「……君に対しての武器や兵器供与なんて、所詮は個人に過ぎない君には何の役にも立たないし……匿ったりした所で、余程の秘匿措置を取らなければすぐに露見するだろう」

 

セイアはつらつらと除外されるであろう案を述べていく。

 

「私もそう思う……更に、直接的な支援は不可能……そんな事をすればトリニティとミレニアムどころか、キヴォトス中から袋叩きにあう、そんな事は理解しているはずだ」

 

「……そもそも、君の現在地も特定できないような状況でどう支援する気なんだ……?他校に先駆けて君の位置を特定しようと躍起になっているようだが……ここを見つけ、更には連絡を取るのは難しいだろう。……いっそのこと、この件は羽沼マコトの妄言として無視してもいいかもしれない」

 

セイアは投げやりにそう言って、私の返事を待つ。

 

「確かにあの議長が思い付きで突拍子もない事をしでかす、というのは聞き及んでいる所だ……セイアの言う通り、妄言だとして処理してもいいが……」

 

そう言って、少しの思案を挟む。

 

「────逆に、私から支援してくれとアプローチを掛け、頃合いを見てそれを露見させることで……議長の、ひいては対トリニティ強硬派の立場を失墜させるというのはどうだ」

 

私の言葉に、セイアはぴくりと耳を震わせて思案の顔を上げた。

 

「ふむ……いや、確かに君の目的からすれば、議長の立場を失墜させるのは目的を達成するための大きな一歩となるだろう……しかし、それは劇薬に過ぎる。現状を鑑みるのなら、行うべきではないと忠言したい」

 

「……議長の足元を崩すには、悪くない案だと思ったが……」

 

「……我々にも居るだろう、隙あらば争おうとする者たちが……少なくない数ね」

 

私の言葉に、セイアは困ったように返事をする。

 

「ああ……そうだったな……」

 

全てを悟って、溜め息を漏らす。

 

「確かに、万魔殿の議長が私に与したとなれば……ゲヘナ側がどう出たとしても、トリニティ側の強硬派によって余計な諍いが引き起こされる事は目に見える」

 

「そうだ、あれに万魔殿議長という立場がある以上……君との繋がりを露見させる事は致命的な事態を招きかねない」

 

「……そうだな」

 

議論は振り出し。

共に頭を抱え……少しして、顔を上げる。

 

「決めた……万魔殿側からのアプローチがあったとしても無視する、あれと関わるとして……どう立ち回っても面倒な事になるだろうしな」

 

「……そうするべきだ。下手に通信記録の一つでも残して、万が一それがミレニアムやトリニティにでも露見すれば……考えたくもないね」

 

「全くだ。では今回の件は、これで結論としよう」

 

「ああ、了解したよ」

 

セイアは椅子から立ち上がり、軽く伸びをした。

 

「ん……さて、寝起きで付き合わせてしまってすまなかったね……ちょうどいい時間だ、昼食にしよう」

 

話し込んでいる内に、時刻は既に正午を過ぎていた。

 

「ああ……私もちょうど、お腹が空いたところだ」

 

セイアの誘いに乗って、私も椅子から立ち上がる。

 

……そうして、私たちはキッチンへと向かった。

 

 


 

 

ゲヘナ本校/万魔殿

 

 

三大校との協定を経た万魔殿は、いつになく慌ただしく動いていた。

 

 

「……何としてもトリニティより先に奴の潜伏先を特定しろ!手負いのトリニティにさらなる傷を負わせるには……あれを利用するのが最も確実だ!」

 

"キキキ!!"と高らかに笑いながら万魔殿の情報部へ指示を出したマコトは、議長の椅子にふんぞり返りながら……他校より共有された件の"魔王"に関する情報を確認していた。

 

「……しかし、トリニティのみならず……あの空崎ヒナの顔に泥を塗るとはな!」

 

「悔しそうなヒナと、憔悴しきったあのティーパーティの顔は実に愉快だった!」

 

「天城ルイ……何と気分のいい奴だろう、万魔殿はあのような人材こそを求めている!」

 

「"魔王"を名乗った挙句、"先生"へ砲火を撃ち込んだ件は全く気に食わないが……どうにかして奴に首輪をつけ、意のままに動く駒として手に入れてやる!」

 

「キキキ……!」

 

大きな声で独り言と笑い声を上げながら悪巧みを巡らせる議長を、"また始まった"と、見守る部下が一人。

 

「はあ……マコト先輩、今回ばかりはいくら何でも余計な事をするのは辞めた方がいいですよ」

 

「何ッ……!?イロハ、この私の作戦に……」

 

脚を組んで資料を読んでいるマコトから資料を取り上げ、イロハはマコトと目を合わせる。

 

明らかに普段とは違うイロハの様子にマコトは黙し、彼女の言葉を待った。

 

「エデン条約の件も疑われこそすれ、アリウス側が口を割らなかったから何とか誤魔化せましたが……」

 

「今回はトリニティに真正面から喧嘩を吹っ掛けた挙句、先生を殺しかけた大犯罪者ですよ……万が一、与したのがバレたらマコト先輩どころかゲヘナそのものが袋叩きにあいます」

 

「しかも、相手は三大校どころかキヴォトス中から追跡されているのにまだ見つかっていないような相手です……逆に利用されかねません」

 

……イロハは珍しく本気でマコトを制していた。

 

この件に余計な首を突っ込むのは本当にマズい。

ましてや与するとなると、明らかにリスクに見合っていない。

 

極めて真摯にそう伝えたイロハに、マコトは"キキッ"と笑う。

 

「……安心しろ、イロハ!」

 

マコトは机に向かってペンを執り……さらりと紙に何かを記入して、イロハに手渡した。

 

「この資料を見ろ……!このマコト様にかかれば……奴との繋がりは容易く秘匿できる、万が一にも露見する事はありえん!キキキ……!!!」

 

そう自信満々に語るマコトに、イロハは大きくため息を吐きつつ、渡された資料に目を通す。

 

そこには、"魔王"がトリニティに対して行った攻撃での行動や会話、それ以前の経歴の情報が記載されていた。

 

この情報で何が言いたいんだ、とそう思ってイロハは口を開こうとしたが、裏にも何か書かれている事に気が付いた。

 

ぴらりと書類の裏を見ると、そこには手書きで

 

"奴の行動記録を見る限り、常に相手の位置や作戦を把握して行動していると思われる。

つまり、通信や会話、電子上のやりとりを盗聴している可能性が高い。

我々の会話まで盗聴されているとは思えないが……これで奴からのアプローチがあれば、それを裏付ける証拠となる。"

 

"それを利用して、奴をおびき出す。

そのための布石だ、お前も乗れ!"

 

マコトの文字でそう書かれていた資料を伏せる。

 

(……なるほど)

 

相変わらず、変な所で頭の切れる人だ。

 

"ふぅ"、と息を吐いて、イロハは口を開く。

 

「……わあ、これならバレる心配はなさそうですねー」

 

イロハは精一杯の驚嘆の演技をして、マコトに目配せをした。

 

「キキキ!!そうだろう……!!!となればまずは、奴に供与する兵器の準備からだ!!イロハ、すぐにかかれ!!」

 

「……はーい」

 

マコトの高笑いと、イロハの返事が……彼女の狙い通り、百合園セイアの耳に届いたのだった。

 

 


 

 

トリニティ本校/ティーパーティのテラス

 

 

「────本当に、情報の一つすら出てこない、と?」

 

ナギサは冷たく、緊張した様子の連絡員に聞き返した。

 

「はい……ミレニアムのハッカー集団、"ヴェリタス"と連携して、襲撃時に使われたドローンから信号や通信を解析したのですが……何も得られなかった、と」

 

先ほど告げた内容を繰り返す連絡員に、ナギサはため息で返事をする。

 

「……はあ、わかりました、下がって結構です」

 

「っ……失礼します!」

 

怯えを隠せないまま去った連絡員に目もくれず、ナギサは思案に耽る。

 

("ヴェリタス"……キヴォトス最高クラスの技術を持つ彼女達ですら解読できないものを、ルイが使用したと?……腑に落ちませんね)

 

確かに、天城ルイは言葉通りに"何でも"できるような人だ。

 

それでも……かの"ヴェリタス"を欺けるような力を持っていたとは思えない。

 

技術的支援者が居るにしても、それは"ヴェリタス"を凌ぐような者なのか?

 

(考えられるのは……)

 

"ヴェリタス"が何かを隠している、あるいはミレニアムが彼女を匿っている。

 

……不都合な真実、あるいは疑いが起きた可能性を考慮すべきだ。

 

何よりの根拠として……ルイはミレニアムに出向していた。

 

協力者が居るのならミレニアムの生徒である可能性が最も高い。

 

かつて彼女にミレニアムへ外交官をしていた時の話を聞いた時、いくつかの事を彼女は"機密"と言って語らなかったが……逆に言うのなら、"ミレニアムの機密に触れるような事をしていた"、という事。

 

(ミレニアム……やはり信用なりませんね)

 

"バァン!!"

 

再び疑念の渦がナギサを呑み込もうとしたその時、テラスの扉が開け放たれる。

 

「……ナギちゃーん!やっほ☆」

 

勢いよく飛びついてきたミカに、ナギサは少しだけ表情を緩めた。

 

「ミカさん、お元気になられたようで何よりです」

 

疲労を感じさせる冷たいナギサの声色に、ミカは哀しげに返事をする。

 

「もともと大きな怪我はなかったし……それより、ナギちゃんは大丈夫?」

 

そう言って、ミカはナギサの頬に手を伸ばす。

 

「……すごい顔してるよ、隈もすごいし……正直、今のナギちゃんは怖いかな」

「ね、ちょっとでいいから休も?」

 

「…………私が休めば、誰が代わりに指揮を執るのですか……セイアさんも居ませんし、ミカさんも今は何もできません」

 

乞うような、寂しげな表情で提案したミカを、ナギサは優しく突き放した。

 

「……ごめんね、無理やりでも休ませた方がいいって、救護騎士団の子に言われたから」

 

そんなナギサに、ミカは小さく呟いた。

ミカはナギサを抱え上げ、そっとソファへ運び……組み敷いた。

 

「……ミカさん、離してください」

 

ミカは弱弱しく抵抗するナギサを抱きしめる。

 

「だめ、こうしないとナギちゃん、また無理しちゃうでしょ」

 

「ルイちゃんもセイアちゃんも居なくなって悲しいのはわかるけど……今のナギちゃんを見てる私は、もっと悲しいよ」

 

「…………」

 

ミカがそう告げると、ゆっくりと、抵抗を続けていたナギサの力が抜けていく。

 

「……すみません、ミカさん……わかりました、少し休みます」

 

「ですからその……離していただけると」

 

「やだ、今日はこのまま……そうじゃないと、安心できないよ」

 

にべもなく断られ、ナギサは苦笑の息を吐いた。

 

「はぁ……わかりました、しかしソファに二人というのはいくら何でも狭すぎますので、私の部屋で休みましょう」

 

ナギサの言葉に、ミカは"ぱあっ"と表情を明るくした。

 

「……うん!じゃあ行こっか────」

 

ふらふらと歩くナギサを支えながら、ミカはナギサの部屋へと向かった。

 

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