午後:ミレニアム本校/ヴェリタスの部室
PCのファンとスツールの背もたれが軋む音だけが響く部屋にで、四人の生徒が頭を抱えている。
「「「「…………」」」」
先日トリニティで発生した大規模なテロの捜査に協力する事になったヴェリタスの面々は、調査によって明らかになった事実に困惑を隠せていなかった。
頭を抱える面々を一瞥し、コタマは口を開く。
「……データは嘘を付きません、使用された通信方法やドローンのプロテクトには非常な高度な暗号化と、完璧なデータの自動消去プログラムが施されています」
神妙な面持ちで改めてそう告げたコタマに、ぽつりとハレが呟く。
「……私たちが突破できないような暗号通信方式に、完全なデータの隠蔽……」
何かを確かめるようにちらりと周囲を見たハレは、マキと目が合った。
「なら……こんな事ができるのってやっぱり……」
マキの言葉に同調するように、チヒロが口を開いた。
「うん。私たちの知らない誰か、って可能性もあるけど……それは考えにくい。となると……部長か、リオ会長」
チヒロから告げられた無慈悲な結論に、面々は再び沈黙した。
「……トリニティ側にはとりあえず、"何もわかりませんでした"と伝えたよ。これは嘘じゃないし、万が一、ミレニアムの……それもトップ級の生徒があの事件に関わってるかもしれない、なんて言ったらロクな事にならないだろうしね……」
チヒロは困惑と疲労を抑えきれない表情で目頭を抑えながら、続ける。
「まあとにかく……この後、部長に話を聞いてみる」
「あの部長がこんな事に加担するわけがないし……"先生"への攻撃なんて、許すとは思えないしね」
「……じゃあ、チヒロ先輩はリオ会長が協力したと思ってるの?」
マキの問いに対して、チヒロは困ったように小さく首を振る。
「いや……いくらリオ会長でも、流石にそんな判断はしないはず……万が一そうだとしても、アリスの件と同じく"相当の理由"があると考えるべきかな」
チヒロは、"はあ"と一つ溜め息を吐いた。
「とにかく、ヒマリ部長に連絡を取ってみるよ……今回の件は部長も聞き及んでいるはずだし、快く協力してくれると思う」
「……はい、確かに現状の私達では何もわからない以上……今できる最善はそれでしょう」
コタマがチヒロに首肯すると、チヒロは"ふう"、と息を吐いた。
「……とにかく、今回の件は部長に話を聞くまでは口外禁止、間違っても"リオ会長やヒマリ部長が関わっているかもしれない"なんて漏らさないようにね……そうなれば、事態は最悪、三大校の戦争にもなりかねない」
その言葉に3人はごくりと固唾を飲み……頷いた。
「よし、じゃあいったん解散かな……みんな徹夜だったし、しっかり休んで」
────こうして、ヴェリタスの面々と別れたチヒロは……明星ヒマリへと連絡を取った。
夕方:ミレニアム自治区/幹線道路
「────まあ、こうなる事は予想できていましたが……」
ミレニアム本校へ向かい揺れる車の中、助手席に座っているヒマリはため息を吐いた。
「ヴェリタスから呼び出されたって……もしかしてバレちゃった?」
その隣に座り、車両を運転しているエイミは正面から視線をそらさずにそう尋ねた。
「……確証までは得ていないでしょうが……通信に施したプロテクトを突破できなかったという事で、逆説的に私かリオの関与を疑っているのでしょう」
「あー……そうなっちゃうかあ……それで、どうするの?」
「理解を得られる方に賭ける……というのは分が悪いですし、リオに押し付けると外交的な問題に発展します」
「と、いうわけで……」
"ぱん"、と手を叩き、ヒマリは笑顔で宣言した。
「"異常機械群"の技術が使用された、という事にしましょう」
ヒマリの思い切った言葉に、エイミは一瞬思考する。
「あー……まあ、確かにそれが一番角が立たないし……実際に私達の知らない技術を使ってきたから、信憑性はあるね、確かめようもないし」
納得したように返事をしたエイミに、ヒマリは続ける。
「ええ……貴方が退院するまでの間も、ドローンを破壊するときに使われたあれがどういった攻撃だったのかというデータは解析済みです……その情報を渡して、異常機械群の事を伝えれば……信じざるを得ないでしょう」
ヒマリは自信満々、と言った様子で語る。
「……でもそれ言い訳にしちゃうと、ルイさんがあれと関係してるって事になっちゃうけど……大丈夫?」
「大丈夫です。もし彼女が捕まるか、この計画が完遂され、終わりを迎えたら……私が説明します」
「……ルイの終わりには私も付き添います、これまでの件を含め……共に裁きを受けるつもりですから」
エイミの言葉に、ヒマリはいたって真剣に回答した。
強い覚悟を感じさせるその言葉に、エイミは"はあ"、と息を一つ吐く。
「……まあ、私も成り行きとはいえ、ルイさんと一緒に動いてるし……仕方ないかぁ。部長がそこまで覚悟してるなら……私も付き合うよ」
エイミはそう返して、ヒマリの方ちらりと見る。
「……特異現象捜査部の活動の一環で、部長である私の命令によって無理やり協力させられていた……と言い訳する事も可能でしょう、貴方がそこまで背負う必要はありません」
「……じゃ、それは終わった時に考えるって事にしようかな。とりあえず……今は部長についてくよ」
エイミは、再び正面に続く道へと視線を戻した。
「……ええ」
少しだけ気まずくなった車内に、沈黙が流れる。
────そうして、ヒマリとエイミの乗る車両はミレニアム本校に向かったのだった。