始まり。
深夜:トリニティ/サンクトゥス分派寮前
side:ルイ
夜は深く、風すらも眠ってしまったかに思えるほどに静かな夜。
消灯時間を超え、灯る明りも少なくなったサンクトゥス寮の門前に、私は居た。
「……すぅ……ふぅ」
深呼吸をして、安全装置を解除する。
それと同時に、腕時計が"ピピ"と小さく電子音を鳴らし……予定時刻を知らせた。
────時は来た。
「……始めよう」
ここからは、後戻りは出来ない。
望む未来の為に……私はゆっくりと、ロケットランチャーを構えた。
同時刻:サンクトゥス分派寮/エントランスホール
"ドガァァァァァァンッッッ!!!"
────爆発によって吹き飛んだ扉を足蹴に、エントランスへと侵入する。
「なあっ!?」
「げほっげほっ……!!警戒、しろっ!!」
立ち込める煙に紛れ、混乱の火中へ飛び込むと……何人かの生徒が私に気付いたようで、こちらに銃を向けた。
「……そこだっ!」
「ゲート前に敵影!!撃てっ!!」
"ダダダッ!!" "ダダッ!!"
"ガガガッ!!" "ガァン!!"
「……ふむ」
号令と共に放たれた射撃は、全て盾に防がれた。
号令のわりに発砲音が少ない。煙による誤射を恐れているな。
────好都合だ。
「ッ……!?」
"ザッ──ダァン!!" 「ぅぐ……!!」
煙に紛れるように姿勢を低く飛び込み、至近距離でショットガンを撃ち込む。
散弾の直撃を受けた生徒は吹き飛ばされ、地面に転がった。
──混乱の中、こちらへ勢いよく接近する足音。
(────後ろか!)
「ふッ!!」
"ゴンッ!!" "ザッ!ズシャアアッ!!"
「……ッ!?」
狙い通り、銃声を聞いて突進してきた二人目を蹴り飛ばす。
回転を乗せたソバットが直撃し、勢いよく地面を転がったその生徒は、呆気なく気絶した。
瞬間、深紅の光線が煙の中をギラリと走る。
───レーザーサイト──テーブルの裏、二人!!
即座に光線の元へ銃を向けると、こちらを狙う生徒と視線が交差する。
「……ッ!」
"ダダダダダダダダ!!!"
同時に、アサルトライフルによる制圧射撃が始まった。
こちらが一人だと理解している。
数を生かす戦術。正しい判断だ────しかし。
"バシュッ!"
盾形態を解き、天井にジップラインを撃ち込む。
上昇後即座に砲口を反転、天井に着地。
(……この煙の中で乱射しては、敵の動きなど見えようはずがないだろう)
"ガシャッ!!ダンッ!!"
鉤のロックを解除。即座に天井を蹴り飛ばし────
「────上……ッ!?」 「遅い!!」
"────バギャァン!!"
落下の勢いのまま、突撃剣を叩き付ける。
二人は盾にしたテーブルごと押し潰され、再び動き出す事はなかった。
「……相手が悪かったな」
"ガシャン"
再度盾を展開し、周囲を警戒する。
……見た限り、全員気絶している。
一旦の安全を確保してマガジンを交換していると、壁に寄りかかるように倒れていた生徒の目がうっすらと開いている事に気付いた。
(……さきほど私が気絶させた生徒ではないな。爆破に巻き込まれたか?)
「っは……ひゅ……っ……ぁっ」
彼女が発するか細い音から推察するに、うまく呼吸出来ていないようだ。
(……ああ、なるほど)
外的要因による神経麻痺か。
症状は軽度。徐々に回復しているように見える、一時的な症状だ。
だがこの状態で気絶させるのはまずい。放っておくか────
そう思い、進もうとしたが……彼女がこちらを見て、息を荒くしたことに気付く。
「っ……!っひゅっ……!!」
……駄目だ。こちらに気付いたせいで焦って無理に呼吸しようとしている。
万が一、重度の酸欠に陥った場合を考えると──このまま彼女を放置しては危険だ。
……仕方ない。
焦らせないよう、五指を見せながらゆっくりと近付く。
聴覚に異常が出ている可能性を考慮し、耳元に顔を寄せる。
「……落ち着け。その呼吸困難は一時的なものだ──数分程度で楽になる。だが無理に呼吸しようとすると却って危険だ。目を閉じ、落ち着いて、ゆっくり息を整えろ。いいな?」
彼女が正しく理解し、落ち着けるよう。
できるだけ優しい声色でそう耐えると、彼女はぱちりと瞬いて……その眼を閉じ、ゆっくりと呼吸を始めた。
(………さて)
この場は片付いた。
応援が来る前に先に進むとしよう。
( エントランスの警備の数が規定より少なかった )
( 何人かは上階に上がって防御態勢を整えているはずだ )
この日の為に正義実現委員会の配置表は入手しているし、有事訓練の内容は全て把握している。
それに、私は教官だ。このような事態に対し、どのような対応を取るかを想定するのは容易い。
(訓練通りなら、この先何度か奇襲をしてくるだろうが……さて、どう来るか)
盾を前に、私は上階へと歩み始めた。
────音を立てないように、最上階へ続く階段を登る。
……仮にも、ここは寮だ。
ここを居とする生徒は何人も居るだろうに。気配はしても、攻撃の意思は感じない。
(薄情なことだ……)
数度の奇襲を退けて、私は呆気なく最上階への階段を登りきった。
(……問題は、この先だ)
眼前にある最上階へ進入するためのゲートを進むと、先には長い廊下が待ち受ける。
セイアの部屋はこの廊下の最奥。
警備の配置、見取り図から予想できる最終防衛ラインはここだ。
この廊下の道中。左右に設置されている三対のドアは、要人警護のために外開きになっている。
これは左右のドアを開放、展開、連結する事によって簡易的な防壁として機能するもの。
……これを利用してこないはずはない。
おそらくここを最終防衛ラインとして、応援が到着するまでの時間を稼ぎにくる。
(さて……)
ここであまり時間をかけるのはまずい。想定ではあと3.4分もしないうちに応援が来るはずだ。
"……ガシャッ!!"
突撃剣を盾へと変形させ、ショットガンを構える。
(……強引に突破するしかないか)
廊下への曲がり角から半身を出し、手榴弾の信管を作動させて最奥めがけて投擲。
(……1、2──)"ダッ!!"
そこまで数えて、駆け出す。
「撃てぇ!」"ガシャッ!!ガチャンッ!!"
私が動いたと察知したのだろう。
左右のドアが勢いよく開き、待ち伏せていた生徒が飛び出してくる───と同時に。
「────ッ!」
(……3!) "ドォォォン!!"
手榴弾が炸裂し、最奥で構えていた生徒が倒れた。
「ッ……撃て!撃てぇ!!」
"ダダダダダダッッ!!!!"
残った生徒たちはそれに構わず、扉を盾にしてこちらを射撃してくる。
逃げ場のない廊下に、銃弾の雨が降り注ぐ────
──1秒、2秒。
低姿勢のまま疾駆し、盾を斜に構える。
「……はあっ!!」 "バガアンッ!!"
突進の勢いを殺さぬまま、第一障壁にぶち当たり──扉が崩れる。
─3秒、4秒─
ドアの連結部が割れ、開いたドアに吹き飛ばされた生徒2人が立ち上がらんと床に手を付く。
「……遅い!!」
"ダダダダァン!!"
「う゛っ……!!」
立ち上がろうとした片方を銃撃し、気絶させる。
「逃げられると思うな!!」
"ガシッ!ザザザアッ!!!"
「ッきゃあああっ!!」
突撃剣を背のハンガーに掛け、残る生徒の襟を掴んで引きずるように持ち上げて前方に構える。
─5秒、6秒─
「……さあ、撃ってみろ!!」
持ち上げた生徒を盾に、2枚目のドアへと突進する。
「せんぱ……ッ!?」
「……撃てっ!!」
"ダダダッ!!" "ダンッ!!"
残りの生徒は仲間を盾にされたことで動揺したのか、射撃がおぼつかない。
─7秒、8秒─
「……はあっ!!」
"ダダダァン!!────ガァンッ!!!"
突進の最中、ショットガンで扉の結合部を破壊し、蹴り破る。
直前に扉ごと吹き飛ばされた仲間を見ていたからか、二人はドア裏から咄嗟に飛びのいて回避した。
─9秒、10秒─
「……ふっ!!」
抱えていた少女を、いち早く銃を構えた相手へ向けて投げつける。
彼女が悲鳴を上げるよりも早く──"ゴンッ!!"
直撃し、二人は倒れた。
(────次!!)
"ザッ────タタァン!!"
「ひゃあっ!……!?」
───即座に振り向き、抜き放ったハンドガンでもう一人の銃を撃ち落とす。
……決着。
「……ふぅ……」
落としたショットガンを拾って、息を整える。
投げ飛ばされた方は両名とも気絶していた。
銃を撃ち落とされた方は、仰向けに倒れ込んで涙を流しながらこちらを見つめている。
(────彼女は……)
先日、私が武器選びに付き合った……シュークリームをくれた子。
「……」
ゆっくりとハンドガンを向けると、彼女はがたがたと震えながら、唇を震わせた。
「ルっ……!ルイさん……っ!どうして……っ!!」
「…………」
彼女は縋るように、震える声で私の名前を呼ぶ。
……彼女を撃ちたくはない。
────しかし、今は倒れてもらうしかない。
「やっ……やめっ」
銃口の先、震える瞳が私を見る。
湛えられた涙に反射する私の姿は、ひどく残酷に見えた。
(……それでいい。)
"タァン!!"静寂の中、銃声が響き渡り……彼女は伏した。
「……シュークリーム、ありがとう。……美味しかったよ」
小さくそう呟いて、私は前へと進んだ。
……セイアの部屋の前で、振り返る。
いまだ静寂の支配する廊下にドアの残骸、倒れている生徒たち。
応援が到着する様子は、今のところない。
「……さて」
……あとは、セイアを確保するだけだ。
息を整えるついでに、一瞬の思考を挟む。
(襲撃が予知されていたと仮定するのであれば……当然、護衛が居るはずだ)
予知が発動していたとして、現状最も可能性が高いのは──聖園ミカ。彼女だろう。
本来なら、圧倒的に不利な相手だ。
だが、この状況は私が圧倒的に有利で、ミカ自体を撃破するのが目的ではない。やりようはある。
そう結論付け、私は扉と向き合った。
「……行くか!」
"ダダアンッ!!ガアンッ!!"
蝶番を破壊し、閉じられた扉を蹴り破る。
"────ガシャァン!!"
頑丈な扉が倒れ込むかのように破られ……突撃剣を構え、突入する。
……予想通りと言うべきか、暗い部屋の中には月明りに照らされたミカが立っていた。
表情は冷たく、サブマシンガンを突き付けてこちらを睨みつけている。
目標であるセイアは、部屋の隅で椅子に座っていた。
「っ……ルイ…………どうして、と聞いてもいいかい?」
セイアは私と目が合うと、驚いたように声を震わせた。
「えっ……ルイちゃん……?……な、なんで……?」
襲撃者が私だと気が付いたのか……ミカは銃口を下げ、問いかけてくる。
「……ねえ、何とか言ってよ!!なんで、そんな目で私を見るの……!?」
ミカは銃を下げたまま、震える声で叫ぶ。
(……即座に撃ってこない辺り、動揺が見られる──好都合だ)
「…………」
"ガシャンッ────ダッ!!"
「……っ!?」
盾を展開して踏み込み、距離を詰める。
(室内戦は不得意のはず。一瞬で制圧する!!)
……ミカは隕石を落とせる。
しかしそれを寮内、ましてや護衛対象のセイアも居る状況では使えない。
そして、ミカの使用する銃はサブマシンガン。
神秘による貫徹能力の上昇を加味しても、この盾を即座に貫通する事はできない。
ならば最適は────速戦即決。
"ゴッ……ガァン!!"
「う゛ぁ……っ!!」
一瞬の激突。
突進の速度を乗せたまま更に身体を屈め……全脚力を使って跳ね上げる。
"ゴンッ!!"
鈍い音と共に、圧倒的物理エネルギーの直撃を受けたミカは壁へと叩き付けられ……崩れ落ちた。
「……ぅ……っ!!」
「……ミカっ!!」
呻き声と共に倒れたミカに、セイアは叫ぶ。
それに意を介さず、私は追撃の構えを取る。
"ドシュッ!!" "ドシュッ!!"
(ミカが再起する前に、決着を付ける!)
"ギュルルルル!!"
ミカの横にある壁にジップラインを撃ち込み、最高出力で巻き取る。
私に出せる最大出力。そのエネルギーを突撃剣に乗せ────
「────貰った!!」
「ルイ、ちゃ────ゔっ!!」
"ガァンッッ!!"
"……ミシッ……!!バキィッ!!"
叩き付けたその衝撃は、ミカを介して壁へと伝わり────砕けた。
"バゴォォォン!!"
「────!!」
重力にその身を引かれ、ミカは夜へと堕ちていく。
私に向かって、救いを求めるように手を伸ばしながら。
月明りに照らされた彼女が見えなくなるまで、私はその場に佇んでいた。
(…………)
ゆっくりと、背後を振り返る。
ただ、ぽつりと──
セイアだけが座っていた。
「…………ミカ……」
セイアは虚ろに目を伏せ、声を震わせていた。
深い絶望が彼女の目を曇らせ、ぽたり、と雫を落とす。
────決着は付いた。
悪いが、感傷に付き合っている時間はない。
「さて……セイア、暴れるなよ。抵抗されると、安全が保障できん」
脱力し、俯いたままのセイアを抱え上げる。
彼女は大人しく担がれ、抵抗の様子もない。
(ミカはこの程度で倒れる奴ではないが……即座に離脱すれば、追い付かれる事はないだろう)
作戦は成功した。後は離脱するだけ。
「……喋るなよ。舌を噛むぞ」
そう伝えて、私はセイアを抱えたまま……夜闇へと飛び出した。