"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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詰問

 

夕方:ミレニアム本校/ヴェリタスの部室

 

 

「────失礼しますよ」

 

「いらっしゃい、部長」

 

ロックを解除して入室したヒマリに対し、チヒロは小さく頭を下げた。

 

「……わざわざ来てもらってごめん。それでも……直接確認したい事があって」

 

「構いませんよ……それで、要件を聞いても?」

 

ヒマリはそう返して……用件を尋ねた。

────努めて白々しさを滲ませないよう、慎重に。

 

「……部長、先日のトリニティの件、何か知らない?」

 

少し焦ったようなチヒロの問いに、ヒマリは優しく返答する。

 

「ああ……あの件ですか……ええ、私も独自に色々調べていました」

 

「なら話は早いね、そのテロに使われたドローンのプログラムや通信方式を解析したんだけど……私達ですら解析できなかった」

 

話していくにつれて、チヒロの口調が淀んでいく。

 

そんな様子をヒマリは見つめながら、一瞬の思考を挟み、口を開く。

 

「……なるほど……つまり、彼女……天城ルイに、リオ……あるいはこの私が協力したかもしれない、と?」

 

「……率直に言うなら、そうなるね」

 

沈痛に頷いたチヒロに対し、ヒマリは手を顎に当て思考するような仕草をとる。

 

「……ふむ……。でしたら、まずはその通信方式のデータを確認しても?」

 

「うん、わかった」

 

チヒロは机に畳んであった自分のラップトップを開き、ヒマリにデータを見せた。

 

「────……」

 

画面をのぞき込んだヒマリは数十秒ほど思案に耽り、ふと顔を上げる。

 

「仰る通り、非常に高度な暗号化が施されていますね……」

 

「……こんな事出来るのは、やっぱり……」

 

「……いえ」

 

そう呟いて、"すぅ"と息を吸ってから、ヒマリは真剣な顔つきで続けた。

 

「────ひとつ、私とリオ以外にこのような芸当の可能な存在に心当たりがあります」

 

「……そんな奴が……"存在"?」

 

ヒマリの妙な言い回しに疑問を持ち、チヒロは聞き返す。

 

それに対してこくりと頷きを返し、ヒマリは車椅子のポケットからフラッシュドライブを取り出した。

 

「……この件では近いうちに協力を要請するつもりでしたし、良い機会でしょう」

 

ゴテゴテとした明らかに普通の物とは違うそのフラッシュドライブは、最高レベルの機密を扱う際に使用される物で……唐突に現れた"それ"に、場の空気が変わる。

 

それがヒマリの端末に差し込まれた瞬間、膨大な処理が実行され……十数秒後、ひとつのデータが開かれた。

 

「……先日、特異現象捜査部としてミレニアム禁足区の調査を行った際、使用したドローン及び無線中継器が何者かによって一瞬で破壊される、という事象が発生しました」

 

ヒマリの話を聞きながら、チヒロはデータに目を通す。

簡潔だが、明らかに異常なその内容に……チヒロは戦慄した。

 

「……0.0002秒でテラどころか……数ペタバイトのデータを送り付けた……!?しかも、無線で……?」

 

「ええ……何物かが通信に割り込み、不明な回線に強制的に接続して膨大なデータによる飽和攻撃を仕掛けたのです……しかも、その方式は未だ完全には解明できていません」

 

詳細を確認しながら、チヒロは呟く。

 

「……このデータによると、破壊された直接的な原因は熱暴走だけど……相手の回線に接続されてる時点で、もっとめちゃくちゃな事は出来たってことだよね……」

 

「ええ……調査では相応に秘匿性の高い通信を行っていたのですが……これを行った者にすれば、赤子の手をひねるようなものだったでしょう」

 

ヒマリはそう結論付けて、フラッシュドライブを抜き取り、再び車椅子のポケットへ、収納した。

 

「……部長は、これをやった奴が例のテロ事件に関係してると思うの?」

 

チヒロの問いに、ヒマリは小さく首を傾ける。

 

「……確証はありません、しかし……私とリオ以外となると、思い当たるのはこれしかありません」

 

「いくらリオとはいえ、あのようなテロに協力するとは考えにくいですし……」

 

「……そうだね。いくら会長でもトリニティ相手に戦争を仕掛けるような真似はしないはず」

 

少しだけ安心したように"ふぅ"と息を吐いたチヒロに、ヒマリは続ける。

 

「一つ言えるのは……この異常な攻撃を仕掛けたのは特異現象捜査部が調査を続けている"異常機械群"、その主である可能性が非常に高い、という事です」

 

「……"異常機械群"。ミレニアムの禁足区に現れるって噂の、主の居ないまま徘徊するオートマタとか、不明な技術で作られた巨大な兵器……だよね」

 

「……ええ。先日の調査の結果、今お見せしたのも含めていくつかの重要なデータを手に入れましたので……近いうちに解析の協力をお願いするでしょう」

 

「それまで、この事は秘密でお願いします」

 

「……うん、わかった」

 

チヒロは頷き、それにヒマリも目礼で返した。

 

「……さて、帰ってやらなければならない事もありますので……そろそろ私は失礼します」

 

「おっけー、わざわざ来てもらってごめん、ありがとう」

 

「ええ、構いませんよ……私も、いずれこの話はしておくつもりでしたので」

 

そう微笑んで、ヒマリはヴェリタスの部室を後にした。

 


 

 

ヒマリの去った部屋に残ったチヒロは、一人思考していた。

 

(…………考えすぎかもしれないけど、何度聞いても部長は"私は関係ない"と一言も言わなかった……それに、返事も少し不自然だった気もする)

 

(異常機械群……あのデータは間違いなく本物で、嘘ではないんだろうけど……)

 

(部長はミレニアムに駐在していた時の天城ルイと関係もあったようだし……考えたくないけど、警戒は続けるべきかな)

 

……キヴォトス全体が彼女を追跡しているはずなのに、何故かどこを探しても痕跡すら残っていない。

誰かが匿っているとして、それを秘匿し続けられるような人物はそう多くない。

 

チヒロの願いは叶わず……今回の会合でヒマリへの疑念は晴れなかった。

 

「────嫌になるね……」

 

独り呟き、チヒロは端末を取り出した。

 


 

 

夜:特異現象捜査部/共用スペース

 

時刻は20時を回るころ、ミレニアム本校より戻ってきたヒマリを、ちょうどキッチンに居たルイとセイアが出迎えた。

 

「おや……おかえり、二人とも」

 

「おかえり、出ていたようだが……何かあったのか?」

 

そう尋ねる二人に、ヒマリはこくりと頷いた。

 

「……ヴェリタスに呼び出されましてね……どうやら、この私が用意した通信の秘匿方式が些か高度過ぎたようで……逆に疑われてしまいました」

 

「なるほど……まあ、内容が漏れるよりは余程マシだね」

 

「そうだな。それで、どう誤魔化したんだ?」

 

尋ねながら、ルイは温かい緑茶の入った湯飲みをヒマリに渡す。

 

「ありがとうございます……それで、先日の異常機械群が行った攻撃のデータがありましたので……それを見せて、"異常機械群"の技術かもしれない……と誤魔化しました」

 

ヒマリはルイから手渡されたお茶を一口飲んで、ふうと息を吐き出した。

 

「異常機械群は私達だけでは手に余りますからね……ヴェリタスに情報の解析を要請するついでに、私に対する疑念も押し付けておきました……リオのせいにする訳にも行きませんからね」

 

「なるほどな……あれへの警戒度も引き上げられるなら、両得の選択と言えるだろう」

 

ルイは満足げに頷いて、顔を上げた。

 

「……それで、こちらからも報告したいことが一つ」

 

ルイの言葉にセイアが続ける。

 

「各校の動向を探っていたんだが……万魔殿が良からぬことを企んでいるようだ」

 

「具体的には、私に肩入れしてトリニティの弱体化を狙う気の様だ……しかし、こちらの結論としては余計な軋轢が発生する事を警戒し……万魔殿からのアプローチは当面無視する事にした」

 

ヒマリは呆れたような息を吐く。

 

「……そうするべきでしょう、しかし……やはりあの議長は面倒ですね」

 

「全くだね、トリニティにも面倒なのは大勢いるが……あれは立場も含めて、最大の障害と言えるかもしれない」

 

セイアはそう返事をしつつ、夕食を盛ったトレーをヒマリに差し出した。

 

「今日は遅くなるようだったから、私とルイで夕食を用意したんだ、是非食べてくれ」

 

「おや……嬉しいですね」

 

「トリニティ式だから、口に合うと良いが……」

 

「ふふ……楽しみにしましょうか、では……頂きます」

 

ヒマリは手を合わせ、食事を始めた。

 

 


 

 

「……ご馳走様でした」

 

食べ終わった皿をルイに渡し、ヒマリはお茶を口に運ぶ。

 

「お粗末様……そういえば、エイミはどうしたんだい?」

 

「学校に用事があるとの事で、今日は寮に泊まるそうです……私を送って、またミレニアムに戻りましたよ」

 

「ふむ……では今日は君一人かい?」

 

「ええ、後は歯を磨いて寝るだけですので、特に心配は要りませんよ」

 

ヒマリはセイアの問いに微笑みを返し、皿を洗っているルイの背中を見遣る。

 

「……セイアさん、少しお話があります」

 

ルイに聞こえないよう、そっと車椅子を寄せてヒマリは小さな声でセイアに囁く。

 

「……なんだい?」

 

「……ルイさんの事、どう思っていますか?」

 

唐突な問いかけに、セイアはその大きな耳をぴん、と立てて、すぐにへなりと垂らした。

声色から察するに……"そういう"問いであると気付いたのだ。

 

「…………君の質問の意図が読めてしまったよ……少し答えづらいが……うん、きっと……君と一緒さ」

 

少しだけ頬を赤らめながら、セイアは小さく返事をした。

 

「ふふ……それではこの後、私の部屋で少しお聞かせしたい物があります」

 

いつもの優しい微笑みより少しだけ口角を上げ、ヒマリは愉快そうに笑った。

 

「わかった、お邪魔しよう」

 

セイアもそれを感じ取ったのか、"ふふ"と笑って返事をする。

 

「ルイ、私たちは少し話があるから……先に失礼するよ」

 

「そう長くはかかりませんので、ご心配なく」

 

「ああ、わかった……必要な事なら後で共有してくれ」

 

ルイはそう言って、後ろ手に手を振った。

 

「ええ……それでは」

 

二人はルイに手を振り返し、ヒマリの部屋へと向かった。

 

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