朝:特異現象捜査部/ルイの部屋
「────…………んぅ……」
温かな熱に包まれ、目が覚める。
(……ああ、そうか────)
秋の気配も薄く、冬が来たらんとし始めたこの季節でも……ベッドに三人もいると暑い。
隣で眠っているセイアとヒマリを起こさないようにそっと起き上がり、ベッドを降りる。
(────やってしまった……)
とりあえず軽く柔軟をしつつ、体をほぐしながら昨夜の事を想起するが……やめた。
……既に決めた事を考えても仕方ない。
二人が私と共に居たいと言ってくれた時、私の感じた幸福感は本物だった。
私の気持ちを伝え、二人を受け入れるという決断をした。
それをいまさら否定するのは……二人に、私に失礼だろう。
「……ふう」
柔軟を終えて、洗面台へと向かう。
いつも通り、流れ作業で顔を洗い、歯を磨いて……私は部屋に戻った。
「ん……ふあぁ……」
あくびをひとつ。
私は眠りより目覚め、微睡んでいた。
ぼうっとする思考を正す事もせず、もう少しだけこの温もりに身を任せようかと瞳を閉じると同時に……"がちゃ"、と背後で小さくドアの金具が音を立てた。
そっと顔を上げる。
私に気付いたのか、彼女は優しく微笑んだ。
「……おはよう、セイア」
優しく、温かい声。それに一瞬で頭がクリアになり……昨日起こった全てがフラッシュバックする。
私は昨日、ヒマリと共にルイを組み伏せ、愛を囁き────。
(────っ!!)
瞬間的に沸騰する思考を理性で押さえつけ、震える喉から声を出す。
「やっ、やあ……おはよう、昨日は、その……!」
声が上ずり、理性が動揺を覆い隠せない。
そんな私にルイはにこりと笑って、ゆっくりと歩み寄る。
「……大丈夫だ、セイア」
そっと私の前にかがんで、ルイは包み込むように私を抱き込む。
「……確かに、昨日は驚いたが……私の言葉に嘘はない。愛している、セイア」
彼女は私の頭頂部に顔を埋め、耳元でそう囁いた。
「~~~~ッ!!」
とんとんと背中を叩きながら、ルイは私を落ち着かせようとするが……当然、落ち着ける訳がない。
真っ赤になって小さく唸り声を上げる私を、ルイは小さく笑って優しく撫で続ける。
「……セイア、私と共に居ると言ってくれてありがとう、本当に────」
「…………お二人とも、朝からお盛んなのは結構ですが……誰か忘れていませんか?」
背後からの声に、ルイは驚いたように私を抱く腕を離した。
「…………んぅ」
ぱたぱたとベッドのシーツを叩く音で目が覚める。
ゆっくりと目を開けると、目の前でルイがセイアさんを抱きしめていた。
「ううぅ……!!」
抱き合う二人の間にちらりと見えたセイアさんの顔は真っ赤で、目を閉じてセイアさんを撫でるルイの顔はとても安らかだった。
(……セイアさんと二人で、と言ったのは私ですが……正直ちょっと妬けますね……)
とはいえ、このままだとセイアさんが興奮しすぎて倒れかねません。
彼女を助けるついでに、少し意地悪してしまいましょう。
「おほん…………お二人とも、朝からお盛んなのは結構ですが……誰か忘れていませんか?」
私がそう言うと、ルイはばっと顔を上げて、セイアさんを抱く腕を離した。
セイアさんは興奮したように荒い息を上げながら、ベッドにへたり込む。
「おはよう、ヒマリ……その、セイアが少し不安そうだったのでな」
ルイさんは少し照れくさそうに私を見て、にこりと笑った。
(……折角ですし、私もやってもらいましょうか)
「……おや?私も少し不安になってきましたね……?」
そう言って彼女へ見せつけるようにゆっくりと手を広げ、ふふん、と鼻を鳴らす。
「……ふふ、わかったよ」
ルイさんは呆れたように笑って、優しく私を抱きしめた。
「わかればいいんです……」
ぴったりとくっついて彼女の体温に包まれ、私の薄い胸からルイの鼓動が伝わる。
「……ヒマリ、君の少し強引で、不遜な所が好きだよ」
ルイはそう柔らかに笑いながら抱く力を強める。
より近付いた鼓動のが少しずつ同調し、一つに溶け合うかのようだ。
子をあやすように私の背を撫でる彼女の手が、とても心地いい。
(……願わくば、このままずっと────)
彼女に身を任せるうちに。安心し過ぎたのか全身の力が抜けていく。
「おっと……ヒマリ?」
するりと崩れた姿勢を、ルイが受け止め、支えた。
「っあ……すみません、安心して力が抜けてしまいました……」
素直にそう言うと、彼女は笑った。
「はは、嬉しい事を言うな……しかし、寝起きの低血圧、というのも原因の一つだろう」
「という訳だ、そろそろ朝食を摂ろう。今日はエイミが居ないから私が作る、二人は顔を洗ってからキッチンに来てくれ」
ルイはすっと普段通りの表情に戻って、私を抱き上げて車椅子に座らせた。
「セイア、悪いがヒマリを手伝ってあげてくれ……何かあったら、私を呼んでくれて構わない」
ルイがそう言うと、未だ惚けていたセイアさんははっと顔を上げて、頷いた。
「あっ、ああ……わかったよ、では行こうか、ヒマリ」
セイアさんは立ち上がって、私の元へ来る。
「お手間を掛けますね……では、またキッチンで」
「ああ、待っている」
そう言って微笑んだルイさんの表情は、とても優しい。
───私たちが恋人となって初めての朝は、とても幸せなものだった。
午前:特異現象捜査部/共用スペース
ルイ手製の野菜スープとサンドイッチを食べ終わった私たちは、彼女が淹れた紅茶と共にティータイムと洒落込んでいた。
「……ふう、紅茶はあまり嗜んでいませんでしたが……なかなか美味しいですね」
「はは、そうだろう?正直、私もあまり詳しくは無かったが……熱心な友人が居てな、教示を受けている内に私も造詣深くなった」
そんな事を話しながら時は過ぎ、時刻は9時。
「……さて、片付けが終わったら私は今後の作戦について考える。ヒマリ、今日の予定は?」
ルイさんは椅子から立ち上がり、ティーセットを片付けながらそう言った。
「ああ、その事ですが……先日の多脚戦車が遺した脚部含む部品の回収作業の統括を行います、手筈は整っていますので……夕方ごろには概ね終わる予定です」
「了解した。流石手が早いな、助かるよ。可能なら私も同行したいが……流石に、この身分では難しい」
そう言ってルイさんは肩をすくめ笑った。
「ふむ……その方面では私は疎い、それは二人に任せるとして……とりあえず、私は引き続き各校の動向を調査するよ、あれから4日が経つからね。……そろそろ、各校も痺れを切らす頃だろう」
セイアさんはカップをくい、と飲み干して、ルイに渡す。
「ああ、頼んだ……とりあえず、今日はそんなところか」
「ええ、もうすぐエイミが迎えに来ますから……帰るのは夜になりますね」
「了解した、夕食は用意しておくから楽しみにしておいてくれ……では、また夜に」
"ええ"と頷きを返して小さく手を振り、私はエイミが迎えに来る1階のゲートへと向かったのだった。