"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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議題

 

昼:特異現象捜査部/作業室

 

情報面を二人に任せ、私は再び作業室で頭を捻っていた。

 

(……状況は刻一刻と不利に傾いている、急ぐ必要がありそうだ)

 

焦燥を抱えながら、チョークを走らせる。

 

……要項は決まっているが、しかし具体的な完成形が思い浮かばない。

 

(……例の地下兵器工場、あれさえ手に入っていれば……)

 

虎の尾を踏む結果に終わった禁足地調査の件を想起する。

 

「……はあ」

 

溜め息を吐き、"カツ,カツ"とボートを叩く。

 

現実的に、今必要なのは……。

 

(……………………よし、決めた)

 

私はポケットから端末を取り出しヒマリ宛にメッセージを送る。

 


 

"今良いか?"

"おや、何か御用ですか?"

"チャット上なら問題ありませんよ"

"ありがとう、結論から言う"

"アビドスのブラックマーケットに行く事にした"

"早ければ今日、遅ければ明日の朝にだ"

"時間を作ります"

"安全を確保したら通話を掛けるので、待機を"

"了解した、忙しい中すまない"

 


 

そう返信してから十数分後、端末がぶるぶると震え着信を知らせた。

 

「……もしもし?」

 

応答すると、すぐに聞きなれた声が聞こえた。

 

"ええ、貴方の愛するヒマリですよ……"

"会議を抜けてきたので、あまり長くは話せませんが……理由を説明して頂けますか?"

 

少しの困惑を声に滲ませ、ヒマリは尋ねる。

無理もない、突然が過ぎる提案だ。

 

「ブラックマーケット内で顔が利く兵器商に伝手がある、そいつと話がしたい」

「……以前まで、私の兵器調達は奴に頼んでいた」

「ゲヘナで使った大量の迫撃砲や榴弾砲、補給物資のほぼ全ては奴から買い付けた物だ」

 

「……前置きが長くなった、結論を言おう」

 

「私が最後に奴の店に行った時、輸送用のヘリが売っていた」

「それを買い付けに行く。一から開発するより、在り物を弄る方が話が早い」

 

「わざわざブラックマーケットに流れている輸送ヘリなんて欲しがる奴はそう居ない、奴がスクラップにしていなければ、まだ有るはずだ」

 

そう締めると、ヒマリは数秒ほど黙考して、答える。

 

"……話は分かりました。……ですが、貴方一人では心配なのでエイミを伴ってください"

 

「……エイミは君の付き添いで忙しいんじゃないか?」

 

"トキが居ますので、付き添いはトキにお願いします"

"エイミは特殊車両の操縦が上手ですし……何より、私が安心ですから"

 

「……わかった、ありがとう」

 

私が礼を言うと、ヒマリは"いえいえ"と返し、続ける。

 

"すぐにエイミをそちらに向かわせます、急ぎなのでしょう?"

 

「……そうだ、早ければ早い方がいい」

 

"了解しました、では……私はそろそろ会議に戻らないと怪しまれかねませんので……一旦失礼します"

"エイミには安全が確保出来たら連絡するように伝えますので、詳しくはそちらで話してください"

 

「了解した、急な話ですまない」

 

"ふふ、今に始まった事ではありませんから……それでは"

 

「ああ、では」

 

ぷつり、とヒマリとの通話が切れた。

 

(……作戦外で表を歩くのは久しぶりだ……変装の準備をしなければ)

 

少し散らかっていた作業室の状態を整え、急ぎ私は自分の部屋へと向かった。

 

 


 

昼:特異現象捜査部/ルイの部屋

 

小走りで部屋に入った私は、ここに来る際の変装に使っていた道具を引っ張り出す。

黒の長髪に偽装するために使っていたウィッグを被り、赤のカラーコンタクトを着ける。

 

クローゼットからコートを引っ張り出し、羽織って姿見の前に立ってみる。

 

(……やはりこの角は目立ちすぎるな)

 

変装にはあまりに向かなさすぎるそのシンボリックな隕石は、今も私の額に突き刺さっている。

 

(……これをどうにかするのは現状不可能だ、フードを深く被って誤魔化すしかないか)

 

鏡を見る限り、幸い一目はなんとか誤魔化せなくはないだろう。

 

「急ごしらえではこんなものか……一応、意見を聞いておこう」

 

持ち出す装備を纏めつつ、私はセイアの居るサーバールームへと向かった。

 


 

昼:特異現象捜査部/サーバールーム

 

カードキーを滑らせ、部屋に入ると……セイアは私に背を向け、その大きな耳に専用のイヤホンを付けて情報の収集に励んでいるようだった。

 

「…………」

 

"ぱちん"、"ぱちん"とチャンネルを切り替えながら、ペンを走らせて情報を纏めている様子のセイアに、こっそりと近付く。

 

(邪魔するのは気が引けるが……、一目を躱せるか、というのは何よりも重要だ、悪いな)

 

そっとセイアの肩に触れる。

 

「っ!?!?!」

 

驚いた様子でがたりと椅子ごと体を震わせ、セイアはくるりと私の方を向いた。

 

「!?だれっ……あっ……ああ……」

 

彼女はきょろきょろと目を動かし、フードの中を覗いて……ぴくりと耳を振るわせ、大きなため息を吐いた。

 

「……はあ……ルイか、あまり驚かせないでくれ……」

「それで、珍しく悪戯をしてきたのは、その格好に何か関係あるのかい?」

 

「……悪かった。」

 

私は呆れた様子のセイアに軽く頭を下げて、続ける。

 

「今からエイミと共にアビドスのブラックマーケットへ行く必要があってな……」

「変装を試すついでに、一目で私と判るか試したかったんだ、驚かせたのはその為だ、すまない」

 

「……まあ、意図は分かったよ……」

 

セイアは小さく頷いて、再び私の顔や体を見回す。

 

「……まあ、その角さえ見られなければ問題ないんじゃないかな」

「私が君だと気付いたのはフードから覗いていた目元だが……角が目に入っていれば、まずそれを理由にしただろうね」

 

「目元に関しては……その、よく観察していたから気付いただけだ、普通の人は気付かないだろう」

 

セイアは少しだけ照れながらそう言って、顔をふいと逸らした。

 

「……そんなところだ……私は情報収集を続けるよ」

 

「ああ、邪魔して悪かった……まあそういう訳だ、暫く空ける」

 

私がそう返すと、セイアは再びこちらを見る。

 

「……気を付けて行ってくるんだよ、前のような事は無いようにね」

 

心配そうなその言葉には、少しの哀しみが見える。

……以前、私がヘルメット団に襲われた時の事を思い出したようだ。

 

「……エイミも着いてきてくれる事だし、今回は無事に帰ってくるよ……約束だ」

 

そっと差し出した右手を、セイアは優しく握り返す。

 

「……ああ、待っているよ」

 

お互いの信頼を確かめるような握手を解けないまま、十数秒が経過した時。

 

"ぶぶぶ"、とポケットで端末が震えた。

 

「……すまない」

 

ぱっとセイアの手を離し、通信に応答する。

 

"ああ、ルイさん?やっと傍受の心配がないとこまで来れた……"

 

「エイミか、急に呼び出してすまないな」

 

"まあいいよ、あと……20分くらいで着くから準備しといて"

 

「ああ、変装の用意や装備の準備も含め、殆ど完了している……」

「そういえばエイミ、念のため君も変装するべきだと思うが……」

 

私の言葉に、通話口からは"うーん"と困ったような声がした。

 

"ルイさんと違って、私は表を堂々と歩ける品行方正なミレニアム一年生だから、変装なんかしたことないし、当然道具も持ってないよ"

 

至極もっともな言葉に肯定を返す。

 

「……それはそうだな、だが念のためこちらで使えそうなものを用意しておく」

 

"おっけー、どんなのが出てくるか、楽しみにしとくよ"

 

「ああ、そうしてくれ……では、また後で」

 

"うん、また後で"

 

通話を終え、私はセイアと向き直る。

 

「……まだ準備が残っているようだ……一旦、ここで失礼する」

 

私がそう告げると、セイアは少しだけ寂しそうに返事をする。

 

「……行ってらっしゃい、ルイ」

 

その言葉に頷きを返し、私はサーバールームを後にした。

 


 

────20分後────

 

昼;特異現象捜査部/地下搬入口

 

「やっほ、ルイさん」

 

そう言いつつ、"がちゃり"と扉を開け、車を降りたエイミはバックドアを開く。

 

「予定通りだな、ありがとう……」

 

エイミに礼を言いつつ、持ち出す装備を担ぎあげる。

 

「以前、輸送中に襲撃を受けた事があってな……悪いが重装備だ」

 

突撃剣にジップラインランチャー、脚部装甲にショットガン。

携帯迫撃砲や狙撃銃を除き、殆ど全ての装備を私は持ち込むことにした。

 

「まあ荷重には余裕あるし全然大丈夫だけど……」

 

エイミは後部スペースの殆どを私の装備に使う事を心配しているようだった。

 

「安心しろ、帰りは気にしなくていい」

 

今回は商談をメインに、可能なら奴の輸送ルートでどこか人目の着かない所で輸送させる予定だ。

装甲車のスペースを多少消費したとして、問題はない。

 

「ま、ルイさんがそう言うんだったらいいけどさ」

 

話しながら装甲車の貨物スペースに装備を詰め込み、ショットガンを抱えて私は助手席に乗り込んだ。

 

「え、ルイさん助手席に座るの?」

 

おもむろに助手席へ座った私を二度見して、エイミは困惑している。

 

「……変装すると言っただろう」

「貨物スペースに乗っても良いが……アビドスブラックマーケットは面倒な連中が多い、道や地形、その他を理解している私が助手席に着かなければ……余計な面倒事に巻き込まれ、逆に露見するリスクが高まる」

 

話しながらコートを羽織り、ウィッグを被る。

カラーコンタクトを入れて、フードを深く被った。

 

「これなら、問題ないだろう?」

 

変装を見せつけるようにエイミの方を向く。

 

「……うわ、確かに別人に見えるけど……フード被ってると怪しくない?」

 

エイミは明らかな疑いの目で私を見た。

 

「……ヘルメットを被っている連中より余程マシだろう……それに、ブラックマーケットでは変な格好をした奴ばかりだ、これくらいが溶け込みやすい」

 

私の抗弁にじっとりとした目を向け、エイミは返事をする。

 

「ほんとかな……それは置いといても、今から走るのミレニアムの公道なんだけど」

 

「………………そうだった」

 

「……ぷふっ」

 

はっとした私を見て、エイミは噴き出した。

 

大人しく助手席から降りて、後部座席に乗り込む。

 

「……危なかった、ゲート出ればすぐにアビドス……という気分でいた」

 

運転席宛の有線に向けそう話しかけると、明瞭な音声で返事が返ってくる。

 

"……ふふ、引きこもり過ぎて感覚おかしくなっちゃった?"

 

「はは……確かに、アビドスの拠点からここに移動してすぐに閉じこもったからな」

 

"……冗談だよ、まあ変装自体は結構いい感じだし、アビドスに着いたら案内お願いするよ"

 

「了解した、では……運転を頼む」

 

「おっけー」

 

そうして、エイミと私はアビドスブラックマーケットに向けて移動を開始した。

 


 

昼:ミレニアム本校/会議室

 

────ルイがアビドスへと向かった頃。

 

"やあ、ヒマリ"

 

────ヒマリは"先生"と対峙していた。

 

「……こんにちは、"先生"……今日は、どのようなご用件で?」

 

今回の議題は、"異常機械群"。

 

"ヴェリタス" 各務チヒロ。

"エンジニア部" 白石ウタハ。

"特異現象捜査部" 明星ヒマリ。

そして……"セミナー" 早瀬ユウカ。

 

ミレニアムでもトップクラスの技術、頭脳を持つ者達が集まる会議。

ヒマリが緊急、かつ極秘で集めた四名しか知らない場。

そこに────"先生"が来た。

 

(……状況は、芳しくなさそうですね)

 

ヒマリは珍しく焦燥を感じながら、先生から返ってくる言葉を待っていた。

 

 

 

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