"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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疑念

 

昼:ミレニアム本校/会議室

 

 

「……こんにちは、先生……今日は、どのようなご用件で?」

 

ミレニアム最高機密レベルの会議に、"先生"が現れた。

 

後ろ暗い事情を抱えているヒマリは悪い予感を感じながらも動揺を覆い隠し、普段通りに先生に尋ねる。

 

「……ごめん部長、先生を呼んだのは私」

 

先生が返事をする前に、チヒロが小さく手を上げて答えた。

 

「この会議の内容は事前に聞いてたから……事情が事情だし、関連している事案もシャーレに関係するものだから、先生を頼るべきだと思って」

 

チヒロはそう言って、先生を見遣る。

 

「ごめんね、チヒロ……説明してくれてありがとう……そういうわけで、私が呼ばれたんだ」

 

先生は申し訳なさそうに頭を掻きながら、チヒロに小さく頭を下げる。

 

「……まあ、先生なら問題ないんじゃないかな?」

 

「……そうですね、ヒマリ先輩が緊急で私たちを呼び集めるような重大な事案ですし……念のため、先生に共有しておくメリットは大きいですね」

 

ウタハとユウカはそう答え、この会議に先生が参加する事に異存がない事を示した。

 

(…………どうしましょうか)

 

ヒマリは思考する。

 

(遅かれ早かれ……魔王事案に関連させた時点で、先生の介入は避けられないでしょう)

 

(この時点で先生の力を借り、異常機械群を追跡、調査する)

 

(……ルイがあれと関連しているというのは真っ赤な嘘、しかしそれは不確定だと告げています、何も出てこなかったとしても……大きな問題は無いでしょう)

 

(尚早ではありますが……選択としては、悪くないはずです)

 

「……かまいません、しかし……これはキヴォトスの未来に影響しかねない、重大な話です」

 

そう前置きすると、先生はこくりと頷いた。

 

"大丈夫、どんなことでも……私は生徒の力になるから"

 

先生がそう答えると、ヒマリは"ふぅ"と息を吐き出して、プロジェクターを操作する。

 

「……それでは、続きと行きたいですが……先生も来たことですし、一からおさらいしましょう」

 

「まず、この会議が開かれた理由は……異常機械群。」

 

「ミレニアムには放棄された区画、立ち入り禁止になっている禁足エリアが存在し……その中には古代の技術であったり、現在には存在しえない異常な技術が使用された機械が存在しているという噂がありますが……」

 

「ご存じの通り、それは噂ではなく事実です。」

 

「そして、その無数に存在する噂の中に、"主を持たず、存在しない技術が使われた巨大な兵器やオートマタ群が闊歩しており、遭遇したら攻撃してくる"、といった噂が存在します」

 

「異常機械群とはその俗称です……これについて、大きな進展がありました」

「今回の会議は、その報告と、調査協力の依頼を行うものです」

 

「……結論から言いましょう。」

 

「先日特異現象捜査部が行った調査にて、異常機械群その中の一つと思われる"多脚戦車"との交戦と、地下に存在する兵器工場、その最奥に鎮座する"球体状の機械"の存在を確認しました」

 

「そして、"主なき機械"には恐らく、主となる存在が居るという事も」

 

「……先日行われた調査の内容を、順を追って説明しましょう。」

 

「先日、実地にはエイミとトキが、ドローンによるサポートとして私が着き、ミレニアム領内から北西におよそ1200m先、その地下に存在する兵器工場へと調査へ赴きました」

 

「……道中は目立った異常や戦闘もなく、目的地へ到着」

 

「ビーコンと中継器、それに設置用の監視カメラを持って地下への入り口を進行……そして、二人は地下倉庫エリアに到着しました」

 

「そこでも特に異常はなく、ビーコンと監視カメラの設置を完了して……更に奥地へと進行……その先では巨大な兵器工場が続いており、直線状のスペースが広がっていました」

 

「……その中を進んでいる内に区画を分断する隔壁を発見、私たちは隔壁の機動により退路を奪われる事を警戒し、ドローンでの調査に切り替える事にしました」

 

「ドローンが進行しておよそ350mと言ったところでしょうか……突如ドローンごと私と二人の通信が失われ、通信不能に陥りました」

 

「……この原因ははっきりとしています」

 

ヒマリがモニターを操作すると、画面いっぱいに膨大な通信ログが表示された。

 

「……何度見ても、恐ろしいですね」

 

ユウカの小さなつぶやきに、チヒロとウタハも肯定を返す。

 

彼女達の目線は通信内容ではなく、その右端に表示された通信が行われた時間、伝送速度にある。

 

「先生にもわかるよう説明いたしますと……文字通り、言葉通りの一瞬……数字にすると0.0002秒で7.3ペタバイトものDDoS攻撃を行い、ドローンやビーコン、通信中継器を破壊した、という事になります」

 

「……このような事を行える通信回線や、それを可能にする機械や技術は、私たちの知る限り存在していません」

 

「そして、この攻撃を行う際に使用された相手側の通信手法も、非常に高度な暗号化が施されており……解析は叶いませんでした。」

「しかし……破壊されたドローンが最後に送ってきた写真に、このような物が存在しました」

 

ヒマリがそう言って端末を操作すると、大きくブレているが白い球体のような巨大な機械が鎮座している画像が表示される。

 

「これが前述の"球体"です、これが地下工場、その中心システムであり……その姿から、多脚戦車に連なる"異常機械群"の一部だと私たちは結論付けました」

 

「……ここまでが私視点で起こった事です、ここからは実地に居た二人の口頭から伝えられた内容、という事に留意してください、ボディカムは前述の攻撃によって破壊されてしまいましたので」

 

「……さて、私との通信が失われたのち、二人は異常を察知して撤退を始めたのですが……突如数十体ものオートマタが出現、包囲を受けます」

 

「その状況を突破し、二人は倉庫エリアまで撤退しビーコンと通信中継器を確認、致命的な破損を確認し……修理及び通信の復旧は不可能だと判断。ミレニアム領内への撤退を決定します」

 

「二人は地下エリアを脱出し、ミレニアムへ帰還する道中に多脚戦車と遭遇、戦闘になります」

 

「……さて、この多脚戦車は明確に二人を狙っていた、と伺っています」

「ここから、地下に存在する"球体"との関連性を読み取りました」

 

「……話を戻します、交戦になった二人は負傷を負いつつも"多脚戦車"を一部破損させ、撤退に追い込み……帰ってきた。と言う訳です」

 

「作戦の流れとしては以上ですが……ここからが皆さんを集めた理由になります」

 

「撤退に追い込んだ多脚戦車ですが、その際に脚部の一本を破断させています……そして、私たちはその破断した脚部を回収しました」

 

「その脚部に使われている技術と、あわよくば管制プログラムの解析を行いたく、その協力を願いたい、という事です」

 

「……そして、チーちゃ……おほん、チヒロが先生を呼んだ理由ですが……」

 

ひとつ息を吸って、揺るがぬように、しっかりと言葉にする。

 

「"魔王事案"、皆さんご存じの通り、先日トリニティで発生した事件です」

 

「結論から言いましょう……魔王、彼女の通信方式に、これら異常機械群が関連している可能性があります」

 

「……私とヴェリタスが解析できないような通信方式が扱えるのは私が知る限り、リオと……今回の異常機械群のみ」

 

「……彼女が百合園セイアさんを監禁していたとされるアビドス砂漠には"ビナー"と呼ばれる異常機械群との関連性が疑われる存在も居る事ですし……それらから何かしらの技術供与、あるいは技術の奪取を行った可能性があります。」

 

「……さて、これで私からは全てになります」

「何か質問があれば、どうぞ」

 

終始真面目な様子のヒマリに周囲は少し気圧されつつも、チヒロは小さく手をあげた。

 

「……やっぱり、魔王との関連性の根拠が聞きたいかな」

 

(…………やはり、チヒロは私を疑っているようですね)

 

チヒロが確認も入れずに先生を黙って呼ぶような事をするはずがない。

……先日の会話では彼女の疑念を払う事が出来なかったようだ。

 

(……とはいえ、こうなってしまえば仕方ありません、いくつかの情報を開示せざるを得ませんか)

 

「……正直に言うと、根拠はありません」

 

「……しかし、魔王、天城ルイはこの異常機械群の存在を知っています」

 

「────"多脚戦車"、その存在を始めて確認したのは彼女ですから」

 

ヒマリの発言に、ウタハを除いた三人はどよめく。

 

「……ヒマリ先輩、それって本当なんですか?」

 

「はい、彼女がかつて外交官としてミレニアムに駐在していた事は知っているでしょう?」

 

「ええ、まあ……」

 

「……という事は、私と彼女が共に特異現象捜査部として活動していた事もご存じのはずです」

 

「……そのきっかけが、多脚戦車の情報です」

 

「彼女と出会ったのは禁足地内、私の捜査するドローンと遭遇し、言葉を交わしたのち情報交換を行いました、その時に彼女に渡されたのが"多脚戦車"の映像です」

 

「……ちょっと待って部長、魔王は禁足地内を勝手に調査してたって事?」

 

話にチヒロが割って入る。

当然の疑問であり、それは事実。

 

「その通りです……本来ならば拘束し処罰するべきだったのでしょうが……当時の私には現地で動ける人員が必要でした」

 

「多方面に深い知識を持ち、かつ善性も問題なし、身体能力も高いと来れば……共に行動するのが合理的だと判断しました」

 

「……ヒマリ先輩、機密保持の観点から言わせて頂くと、それは……」

 

「"多脚戦車"を見られた時点で機密は知られてしまっていましたし、情報を握っている彼女を排斥し敵対するよりも余程いい結果が望めるという考えです……独断でその判断を行った事は、謝罪します」

 

ユウカの苦言にそう返して、ヒマリは締めくくった。

 

「……まあ、私達は知っていたけどね……知っての通り彼女の機動装置を開発したのは私達だ、その時に例の"多脚戦車"の映像を参考として見せてもらった事がある」

 

ウタハがそう呟くとユウカは驚きを隠さず、口を開いた。

 

「ウタハ先輩!?事情聴取の時はそんな事言ってなかったじゃないですか!」

 

「……多脚戦車絡みの話は本筋ではないし、何よりヴァルキューレや一般のミレニアム生が居る場で発言するべきではないと判断したんだ、黙っていた事は……すまなかった」

 

ウタハは動揺して詰問してきたユウカにそう弁明する。

 

「……正しい判断だと思うよ、機密は機密だからね」

 

チヒロはそう言ってウタハを庇い、再びヒマリを見る。

 

「根拠は分かったよ、話を逸らしてごめんね……それで、私たちはどうすればいいの?」

 

「そうですね、その話をしましょうか……」

 

「まず、ウタハとチーちゃんには回収した脚部の解析及び材質等の調査をお願いします、現物は明日の朝までにミレニアムの5番倉庫のC-12区画よりエンジニア部の作業スペース宛に輸送される手筈になっていますので……用意をお願いします」

 

「わかった、現物が来次第、解析にかからせてもらうよ」

 

「了解、うちも準備しとく」

 

二人はそう返事をして、頷いた。

 

「ありがとうございます……さて、ユウカさんはセミナーの監督として情報共有も兼ねてお呼びしましたので、今回の件を記録していてくださればそれで充分です……しかし、追加で予算が必要になった場合は、頼る事もあるかもしれません。その際は、よろしくお願いします」

 

「わかりました、予算は少し浮かせておきますから……遠慮なく言ってください」

 

ユウカの返事を確認して、ヒマリはこれまで黙って話を聞いていた"先生"を見遣る。

 

「さて……先生、ご足労を頂いて恐縮ですが、この件はしばらく秘密にしていただけると助かります」

 

「解析の結果が出て、何かしらの関連性が確認できたら……情報の一部開示も含め、然るべき対処を行うと約束しますので」

 

ヒマリはそう言って、先生と目を合わせる。

 

"……わかった、何か私に協力できる事があったら、教えて欲しいな"

 

先生はいつも通りの声色、表情でそう言って、ヒマリに微笑みかけた。

 

(……疑われているような様子はありませんね、何とか切り抜けられましたか)

 

内心ほっとしつつ、会議を締めに運ぶ事にした。

 

「……さて、これ以上時間をかける意味も薄いでしょう……ここでこの会議は終わりにしようと思いますが、何か質問はありますか?」

 

最後に質問を募り、全員を見渡す。

 

誰も手を上げず、質問は無いようだ。

 

「……では、これで解散といたしましょう……皆さん、ありがとうございました」

 

「ああ、お疲れ様」

 

「お疲れ」

 

「お疲れ様でした!」

 

その言葉を最後に集まった各位は皆立ち上がり、ヒマリに会釈をして……各々退席した。

 

部屋に残されたのは、先生とヒマリ、その二人のみ。

何故退室しないのか、とヒマリが疑問の目を向ける前に、先生が口を開いた。

 

"手伝うよ、私はあまり力になれなかったからね"

 

そう言って先生はプロジェクターやラップトップの片づけを手伝い始めた

 

「おや、助かります……私一人では重労働ですからね」

 

ヒマリと共に手際よくそれらを片付けた先生は、ヒマリの傍に立つ。

 

"……ヒマリ、一つ質問してもいい?"

 

先生はいつもより少しだけ小さな声で、ヒマリの返事を待たずに続ける。

 

"ルイの事を、本当に悪人だと思う?"

 

「っ……いいえ」

 

ヒマリは不意を打つような唐突な問いに対し、咄嗟にそう答えた。

 

"……そっか、ありがとう"

 

先生はそれだけ告げて、会議室を去って行った。

 

……会議室には一人、ヒマリが残される。

 

(…………)

 

"先生"は何かしらの確信をもって私にあの質問を投げかけた。

そうでなければ、あのように思考時間を奪うような質問の仕方はしない。

 

その結果……私は本心で"いいえ"と答えてしまった。

 

あの質問は、私が答えに迷うかを見たかった可能性が高い。

 

あるいは、私の答えがルイの意に沿う事を想定して、私の先に居ると思われるルイの意図を探りたかったのかもしれない。

 

私の答えを、先生がどう受け取ったのかはわからない。

 

……起こった事を考えすぎても仕方がないと割り切って、息を一つ吐く。

 

「……はあ、病弱美少女には堪える心労が続きますね」

 

ヒマリはそう呟いて、会議室を後にした。

 

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