アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第100話

 秘められた理由はなんであれ、多くの人々の助けもあって復興が進んでいるアビドスであるが、そう簡単には解決出来そうにない問題も当然だが存在する。

 

 

 例えばそう、自治区にぽっかりと空いている大穴なんかがそれに当たる。

 

 

 現在、立ち入り禁止になっている大穴付近から程ほどに離れた位置にある公園に立てられたテントの内。そこで奥空アヤネは緊張した様子で今まさに大穴内部を飛んでいるドローンから送られてくる映像に注視していた。

 

 ビナーなる巨大な機械蛇によって空けられたそこは余りに深く、薄暗い底には長大な横穴があり、更にはそこを半ばまで満たす川が流れていた。この横穴がビナーによって作られたものか自然発生したものなのか、そして何処に繋がっているのかはこれから調査していく事になるだろうが、まぁ今は関係の無い事。今回の調査の目的はこの大穴が崩落する可能性があるかどうかだ。

 

「…取り敢えず崩落の予兆らしきものは見当たりませんね」

 

 と、一人で思わず声を溢すアヤネは取り敢えずの安全が確認出来た事にドローンを大穴から引き上げつつ安堵の息を溢した。けれどここで油断してはいけないと気を引き締め直す。

 

 もしも、帰還途中で操作ミスをして壁に激突させそれが原因で周囲を巻き込んでの大崩落が発生なんてしたら笑えない…と言うのもそうだが、それ以上に現在操作しているこのドローンはミレニアムサイエンススクールから提供された特別製で、チラリと見たお値段がちょっと目を背けたくなるレベルだったと言う違う意味で爆弾の様な代物だからだ。

 

 こんな物を貸し出したのそれだけこの大穴を、それを作り出したビナーの事を警戒していると言うことだろう。説明書に対預言者用防衛プログラム搭載とかって書いてあったし。

 

 そんな理由もあって緊張しっぱなしだった彼女はドローンが無事に目の前まで戻ってきたのを確認してから、若干温くなってしまったアイスコーヒーを一口。心地よい苦味を感じながら、そこで漸く一息吐く…と、その時だった。

 

 

「アヤネちゃーん!」

 

 

 そう名を呼ぶ声。視線を向けると、自分の居るテントに向かって駆け寄ってくる一人の生徒を彼女は見た。

 

「あ、『ノノミ』さん! お久しぶりです」

「はい! お久しぶりですー♣ 元気そうで、本当に良かったですよ!」

 

 と、心底嬉しそうにはしゃいでいる彼女の名前は『十六夜ノノミ』。キヴォトスの物流の要の一つとされている学園である『ハイランダー鉄道学園』の生徒会に相当する組織に身を置く生徒である。

 

 所謂お偉い人である彼女がここに居るのは、別におかしな事ではない。なにせ、個人的には気にいっているからと以前から良くアビドスに訪れていたりするし…もっとも唯それだけの理由では無さそうではあるが、それこそ個人の事情だ。

 

 そして、そう言った個人のあれこれを抜きにしても彼女がここに居るのはおかしな事ではない。なにせハイランダーは列車が、そして駅こそが自治区であり校舎である特殊な学園だ。ディアブロスの襲撃によって列車の進む線路は幾つも破壊され、駅に至っては大穴の立ち入り禁止区域にすっぽり入ってしまっている。

 

 そんな訳でアビドスの現状はハイランダーにとって他人事ではなく、現に今も調査に出ている生徒達が居て…丁度帰ってきた所だった。

 

「たっだいまーっ!」

「きかーん」

 

 そう言いながらテントに向かってくる立ち入り許可証を首から下げている生徒達。そんな彼女達の先頭を歩く姉妹、『橘ヒカリ』と『橘ノゾミ』の二人はアヤネと一緒に居るノノミを見て軽く首を傾げた。

 

「あれ、ノノミ先輩じゃーん。どうしてここに居るの? 何時もなら仕事してるのに…あ! 分かったサボりだぁー! パヒャヒャ! 悪だねー!」

「おー、さぼたーじゅ」

「違いますからねー♣ ちゃーんとお仕事は終わらせてきましたよー。勿論、貴女達と違って書類仕事もです」

「あ、お菓子はっけーん!」

「とつげき開始ー」

「ちゃんと話聞いてくれます? 後、勝手に人のを取ったら駄目ですよー!」

「あ、いえ大丈夫ですよ」

 

 と、話半分にテントの隅に置かれていた菓子箱を目敏く見つけ出し駆け寄っていく二人を止めようと手を伸ばすノノミにアヤネは言う。それは元々ハイランダーの皆さんに振る舞うために用意したものだからと。

 

 瞬間、歓声が響く。全身で喜びを表現するハイランダー生徒達。だって皆甘いもの大好きなので。

 

 そうして、甘味を求めるモンスターと化したハイランダー生徒達がアビドス産のドライフルーツをたっぷり練り込んだ焼き菓子を堪能している様子を横目に、真っ先に菓子を食べ始めていた橘姉妹と情報の共有を行っていた。

 

「と、言う訳で当分は崩落の危険性は低いかと」

「良かったじゃん! これで一安心って感じ?」

「そうですね。とは言え気を抜ける状態でもありませんが…それでそちらは?」

「んもんも…ごくん。んー、駅の移動の必要性高しー」

「…やはり、そうなりますか」

「パヒャヒャ! まぁ、ねぇー。あの…ディアブロスだっけ? に、壊された線路なんかは直せば済む話だけど駅の方は地盤がねぇー」

「大穴だけならば兎も角、地下に大規模空洞が生まれてしまいましたからね。分かりました、では新駅建設可能な候補地を幾つかピックアップします」

「パヒャヒャ! さっすがアヤネちゃん! 話が早くて助かるー!」

「感謝感激ー」

「ま、とは言ってもなんとかなるなら新しいのを造らないで今までの使えた方が楽で助かるんだけどね」

 

 先程、勝手に菓子を食べていたとは思えない程手際よく話を進めていく三人。それを見ていたノノミはボソリと呟いた。

 

「本当に、何時も仕事は真面目にこなしますよねー」

「先輩ってば変な事言うねー。仕事なんだから真面目にするのは当然じゃん」

「至極当たり前の事ー」

 

 なんて言われてしまえばその通りだと頷く他無いノノミだった。

 

 

 

 

「なら書類仕事もちゃんとしてくださいねー♣」

「それは断固拒否するー」

「パヒャヒャ! 私たちにさせる位なら猫の手を本当に借りた方が効率的だと思うよ先輩」

「…確かに」

「そこ納得しちゃうんですか?」




【実はこんな事起こっていました! ハイランダー鉄道学園編っ!】

『セイント・ネフティスによる自治権乗っ取り未遂事件』

 車両の凡そ二割が破損走行不可能になる程の大騒動に発展した事件。当時、キヴォトスに着任して間もない先生の協力もあって無事に解決した。

 尚、ネフティスは十六夜ノノミの実家であり、それがやらかしたとあって強い罪悪感を感じた彼女は自主退学を選んだ…のだが、ハイランダーで彼女程真面目に書類等の事務仕事を行う生徒は存在しなかったため幾人かの生徒に泣きながら土下座された為、自主退学は取り消したとか。
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