アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第101話

「んー…」

 

 そう、真剣な表情で声を溢すのは『小鳥遊ホシノ』。現在、彼女が居るのは狩猟装備開発部の部室兼工房から程近い位置に設けられた試験室で、その手には真新しい狩猟用武装が握られていた。

 

 銃弾を装填し、構えて引き金を引く。行われた一連の動作は淀み無く、放たれた弾丸がしっかりと目標に命中したのを見てホシノは小さく頷いた。

 

「うん、良い出来だ」

 

 軽く武器を撫でる。軽くて癖が少ない、初心者でも問題なく使える…と言うのは流石に言いすぎかもしれないがそう思える程の仕上がりだ。

 

 強度や火力で言えばホシノが愛用している武器の方が特別な改造が施されている故に数段上だろうがそれ相応に癖も強く、さらに言えば改造に現状砂漠奥地の『龍墓』でしか確認されていない素材をこれでもかと利用している為修繕が容易ではない。

 

 現に、ディアブロスとの戦いで活躍してくれた愛銃は未だ修理に取りかかる事が出来ずに居る。

 

 そういった点を含めて考えれば緊急時の特に火力が必要な時以外、つまり普段使いするには向いていないと判断したホシノはこうして新しい狩猟用銃を手にしているのだ。まぁ適材適所という奴だ。

 

「おや? ホシノさんじゃないですか奇遇ですね」

「ん?」

 

 なんて、そんな事を考えているとそう声をかけられる。振り返って確認してみるとそこには狩猟用防具に身を包んだ連邦生徒会防衛室長『不知火カヤ』が何時も通りの笑みを浮かべながら近づいてきて、そんな彼女の姿を見てホシノは首を傾げた。

 

「…なんでいるんですか?」

「え、酷くありませんか?」

「あぁすみません。ついこの間連邦生徒会に帰ったばかりで暫く椅子の上で書類とにらめっこしてるかと思っていたので」

「あぁ、そう言うことですか。確かにその通りではありますね。実際、尋常ではない量の書類が積み重なっていましたから」

「じゃあなんでここに居るんですか?」

「何事も優先順位と言うものがありますからね。防衛室にとって最優先で処理すべき事柄がアビドス関係だった…というだけの事なのですよ」

「成程」

「まぁその仕事も予定よりだいぶ早く終わってしまったのでこうして次の予定までの隙間時間をメンテナンスして貰っておいた装備の調子を確かめる為に使っているわけですけどね! いやぁ、優秀すぎると言うのも時には困るものですね!」

「急に自慢挟んでくるの貴女の悪い癖だと思いますよ?」

 

 と、相変わらずなどや顔を浮かべながら武器の調子を確認し始めるカヤに若干呆れながら言うホシノ。まぁ言っても無駄だろうけど、なんて思いながらカヤの放つ微妙に命中率の低い射撃を何気無く眺める。と、ふと気になる事が一つ。

 

「そう言えば今日は一人なんですか?」

 

 言いながら見渡すが見える範囲では彼女以外に人影は見えない。彼女は基本的に何時も護衛を連れているので本当に珍しい。その疑問にカヤは射撃を続けながら答えた。

 

「いえ今日はユキノさんと一緒に来ましたよ。ただ今は私の護衛としてではなくSRTとしての仕事をしているので別行動をしてると言うだけですね。具体的に言えばSRT所属生徒が使用する予定の狩猟用装備を選定している所です…いえ、選定より下見と言った方が正しいですかね?」

「SRTが装備を? なんでですか?」

 

 純粋な疑問だった。言ってはなんだが狩猟用装備はその名の通り狩猟にしか使えない代物だ。言い方からしてSRTと言う学園全体に行き渡らせる積りの様だが、装備の更新と言うには彼女達には合わないようにホシノには思えた。

 

「それに関してはアビドス自治区に侵入したディアブロスによる被害が深刻だったからと言う他無いですね」

「…つまりもしもの時の保険が欲しくなったと」

「言ってしまえばその通りですね。現在の連邦生徒会ではもしもの時の解決手段がありませんからね。ですので休校状態のSRT特殊学園を復校させ緊急時の対処をして貰ってはどうか。と、言う意見が多数上がっている状態です」

「成程…」

「まぁ、まだSRTが抱えている問題が解決した訳でもないですから直ぐに、とはいかないでしょうけどね」

 

 とは言え、と口にしながら引き金を引く。普通に外れた。

 

「他にあげられた案は現実的ではありませんでしたから、そう遠くない内にSRT特殊学園はSRT狩猟学園として再び進み始める事になるでしょうね」

「なんか名前がおかしな事に成ってません? 後、現実的ではないって…一体どんな案なんですか?」

「アビドス全体を囲う様に防壁を築くだとか砂漠に生息する危険性のある生物を広がる前に全て駆除すべき…とかですね」

「本当に現実的じゃない…」

「でしょう? 凄かったですよ、財務室の生徒が総出で反対する光景は」

 

 言いながらまたカヤは引き金を引き銃弾を放ち、今度こそ的の中心に命中させて一息吐く。

 

「ふぅ、漸く当たりました」

「相変わらずですね」

「えぇ本当に、これでもちゃんと日々練習しているんですがね…これが百鬼夜行の諺にある天は二物を与えず、と言う奴ですかね? 本当に優秀すぎると言うのも考えものですよ」

「もういっその事、距離詰めてゼロ距離で直接撃ったらどうですか?」

 

 なんて冗談半分にホシノは口にした。

 

 

「それは…ありですね」

 

 

 後に、ホシノはこう語る。何が切っ掛けになるか分からないものだねー…と。

 

 この言葉が、この会話が切っ掛けとなって、後に『ガンランス』と名付けられる事となる全く新しい近接武装が開発される事となるとは、流石のホシノも予想外だったそうだ。




『ちょい出し情報のコーナー』

 実は連邦生徒会長が健在だった場合、アビドス砂漠の全ての危険生物の排除が可能だったりする。





 故にこれは可能性の話。

 連邦生徒会長の名の元、真の意味でキヴォトスは一丸となり前代未聞の脅威と相対しこれを見事打ち破った。誰一人として犠牲はなく、文字通りの完全勝利に人々は歓声を上げ積み上がった脅威であった存在は巨万の富へと変わり果て。


 そして憎悪の咆哮が、全ての終わりを告げた。


 崩れ落ちた塔の残骸の上、曾て超人と吟われた…ただの少女は。

 ただキヴォトスが業火に焼かれ溶けていく光景を、最後まで見つめていた。



【とある少女の記憶・新たなる黒龍伝説】
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