アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

103 / 111
第103話

 少女が一人、アビドス自治区の商店街を買い物袋片手に歩き進む。

 

 少女の名は『戒野ミサキ』。純粋な実力では便利屋68に並ぶと言われている『錠前サオリ』率いる狩猟チーム『スクワッド』の一員である彼女は現在、狩猟や生活に必要な物の買出しを行っていた。

 

 諸事情により便利屋や不良生徒達と同じ様にチームその物がアビドスで生活しているからか慣れた様子で商店街で買い物を済ませていく彼女は、忘れ物は無いかと重そうな荷物を持ち直してから懐からメモ帳を取り出して書かれている内容の確認し始める。

 

「携帯用食料も買えたし。後は…『ヒヨリ』のなんか美味しそうな物だけ、かな」

 

 言いながらミサキの脳裏に昔からなんとなく図々しい所のあった仲間、『槌永ヒヨリ』のへにゃとした笑みが浮かび、同時にその曖昧な要求に思わずミサキは溜め息を溢す。

 

 せめて甘い物とかしょっぱい物とか、大雑把で良いからそれ位は指定して欲しいと思う。が、まぁ彼女の美味しいそうのハードルはそこまで高くないのでそこまで深く悩む必要は無い。それこそコンビニで適当に幾つかお菓子を見繕えばそれで十分だろう、丁度商店街から拠点であるゲストハウスへの帰り道にコンビニがあるし。

 

「ん? あれって…」

 

 商店街から出てコンビニに向かって歩いていた時だ。値引き品とかあったら良いな、なんて事を考えながら何気無く視線を彷徨わせていた彼女はそれを見つけた。キッチンカーだ。

 

 たまにスケバンやヘルメット団が腕相撲してたり何処かの生徒が演奏していたりするちょっとした広場に何台かのキッチンカーが停まっていた。それだけならば今日はキッチンカーが居るのかと思って終わりなのだが、知っている顔を見つけたので足を運ぶ事にした。

 

「ん? あぁ、いらっしゃいってミサキちゃんじゃないか」

「どうも」

 

 と、近づいてきたミサキに気が付き微笑みながら言う猫市民の店長。彼はキッチンカーで揚げパンを専門に売っており、実はそれなりに付き合いが長い。具体的に言えば、アビドスを訪れたばかりの右も左も分からないような状態の自分達にここでの暮らし方を教えてくれた人物の一人だったりする。

 

「元気そうだね」

「まぁ、程々には…店長は、新しいキッチンカー買ったんだ」

 

 言いながら視線を巡らせて真新しい…妙にメカメカしいキッチンカーを見ていると、彼はそうなんだよと嬉しげに応えた。

 

「アビドスの子達がミレニアムの『エンジニア部』の子達を紹介してくれてね、作って貰ったんだよ。いやぁー、少々…所じゃない出費には成ったけどそれに見合った仕上がりだよ」

「大丈夫なのそれ?」

 

 割りと本気で店長の事を心配しながらすっと一歩下がるミサキ。彼女にとってミレニアム製品と言うのはなんやかんやあって最終的に爆発する物という印象なので当然の反応だった。

 

「大丈夫、ちゃんと自爆装置は組み込んで貰ってあるから!」

「大丈夫の方向性可笑しくないそれ?」

 

 そこは寧ろ外して貰うべき物では無いかと思うと同時、思い出す。そう言えばこの人はあの日、あのディアブロスが襲来した時に自身のキッチンカーを時間稼ぎの壁として使われた結果、スクラップになったにも関わらず壊れたことよりもろくに壁として機能しなかった事の方を嘆いていた様な人だったなと。

 

 ちょっと考え方が他の人とは違う…いやアビドスの人たち皆こんな感じだったな、と言うことは可笑しいのは寧ろ自分の方なのでは? なんて若干血迷っているミサキに店長から声がかかる。

 

「さてと、世間話もこの位にして、今日はなにを買っていくのかな?」

「え? あー…どうしよう」

 

 少し考える。別に買いたくて来た訳では無いが、どうせだからヒヨリのを買っていくかと。ここの揚げパンなら文句は出てこないだろうし。

 

「…それじゃあ、何時ものをお願い」

「はいはい、ココア二つに砂糖一つときな粉一つだね。ちょっと待ってておくれ」

 

 言いながら慣れた様子で特製コッペパンを取り出し油へ。パンの揚げられる音を聴きながら、ふと思う。まさか何時ものなんて注文の仕方をする日が来るとは思ってなかったな、なんて。

 

「はい、お待たせ…って、どうかしたのかい?」

「……何でもない」

 

 ただちょっと、こういうのも悪くないかもとか思っていただけである。口にはしないけど…何となく恥ずかしいし。

 

 なんて事を思いながら出来立ての揚げパンの入った袋を受け取ると、何故か微笑ましそうに見てくる店長から逃げるようにミサキは足早にその場から立ち去るのだった。

 

 

 

 さて、そんなこんなで予定に無い駆け足で拠点に帰宅したミサキ。

 

「あ、おかえりミサキ」

「ただいま、『姫』」

 

 家に入るとひょっこりと顔を出した姫と呼ばれた少女、『秤アツコ』にそう返しながら荷物を置く。

 

「他の皆は?」

「『アズサ』は出掛けたよ、今度は一緒に狩りに行く友達と打ち合わせするんだって。ヒヨリは寝てる」

「ヒヨリはまぁ、あれとして。アズサの友達というと…ヒフミか」

 

 言いながら思い出すのは仲間である『白洲アズサ』の友人だと言う阿慈谷ヒフミ。なんか、何時の間にかアズサが仲良くなっていた彼女の事がミサキは若干苦手だったりする。

 

 少しばかり、いやかなり押しが強くアズサがスクワッドのゲストハウスに連れてくる度にモモフレンズとか言う良く分からないグッズが増えていくからである。正直、最近アズサの自室から溢れ始めて割りと邪魔だしあれのどこが良いのか良く分からなかったりする…ウェーブキャットはまぁかわいいと思うけど。

 

 とは言え、そこまで悪い人物ではないのは確かだ、気にする必要もないだろう。そう、荷物を取り出しながら改めて訊く。

 

「取り敢えず、ヒヨリとアズサの事はわかった。それでリーダーはまだ?」

「うん」

 

 軽くミサキの手伝いをしながらアツコは頷く。

 

 

 

 

「まだ報告中」




・ちょい出し情報のコーナー。


『スクワッド』

 実はかなり早い段階でアビドスでの活動を行っているチーム。具体的には新生態系が生じてから約2ヶ月後位。その腕前はかなりの物であるが狩猟ではなく素材の採集を主な活動としている為、他の狩猟チームと比べると名は知られていない。

 因みに狩猟チームとしての正式名は『さっちゃんスクワッド(命名、アツコ)』である。一部ではこの名前を広げたくないそこまで活動していないのではと噂されている。


『錠前サオリ』

 最近、アビドスの環境がキヴォトスのスタンダードでは無いと知った。


『秤アツコ』

 最近、便利屋の子と仲良くなった。


『戒野ミサキ』

 最近、腕に包帯を巻かなくなった。


『白洲アズサ』

 最近、モモフレンズグッズの置き方にこだわり始めた。


『槌永ヒヨリ』

 最近、落ちている雑誌が少なくて嘆いている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。