第105話
とある日の昼下がり、アビドスにある『連邦生徒会・防衛室』が借り受けているゲストハウスのリビングにて。
「んー…」
そこを現在、拠点として利用させてもらっている生徒の一人である『SRT特殊学園』所属生徒、『空井サキ』はペン片手に唸りながらとある物を書いていた。
それは…『SRT新校則』である。
そう、それは自分達の所属する学園、『SRT特殊学園』の行く末を左右する大事な物…と言う訳では無く、言ってしまえば自分の考える最高の校則を書き連ねているだけの物だ。そして余り知られていない事だが、こう言ったものを考える事は現在のSRT所属生徒たちが割りと良くある事だったりする。
なにせSRTが休校に陥り、下手すれば廃校も有り得たと言う状況になったのは半分位は現校則が原因だ。もし、校則がもっと違うものだったなら…なんて、そう言ったもしもを考えてしまうのは別に可笑しな事ではないだろう。
尤も、サキの様に態々用紙に書き出してきちんとした形で纏めているのはかなり少数ではあるだろうが。
「やはり、これは必要だよな…いやでも、むしろもっと厳しくした方が」
なんて独り言を溢しながら書いては消しを繰り返すサキ。真面目が過ぎる彼女は、書いた後に読み返すともっと良い案があるのではと思ってしまい書き直してと繰り返している様子。
「たっだいまー♪」
「ん? あぁ、『モエ』か。お帰り」
さてここはどうしようかなんて考えていると、声。視線を向ければなにか用事があるからと楽しげに出掛けていった『風倉モエ』が帰ってきていた。出掛ける前の2倍くらいテンションが高い状態で。
「…なんか、やけに楽しげだけど、何しに行ったんだ?」
「新開発されたって言う大型生物用特殊狩猟弾の威力検証の手伝いしてきたんだー」
思わず問い掛けると、モエは恍惚とした笑みを浮かべながら答えた。
「やっぱりさー、凄く良いよねぇアビドスのは。威力もそうだけどあの生産の容易さが良いよ本当に。あれだけの物が安定して生産できるとか実質使い放題みたいな物で最高じゃん。あれで盛大に何もかも吹っ飛ばしたら絶対破滅的で気持ちいいだろうなぁ、やりたいなぁ…今度、狩りする時にやって良い?」
「いや駄目に決まってるだろ」
ずいと近寄ってきながら提案する彼女にサキは若干呆れながら言うとちぇー、なんて不満げに呟きはしたが素直に引き下がった。
これがキヴォトスで一般的に流通している爆弾の類であったならばもう少し粘る所だろうが、アビドス産の物で言う通りの事をすればどうなるのかなんて考えるまでもない。趣味と言うか性癖と言うかが色々とあれな彼女ではあるが、それでもSRTだ。ちゃんと自分の中に越えてはならないと定めた一線が存在し、それを越えない様にしているのだ。
まぁ逆に言えば一線を越えない範疇ならやらかすのがモエなのだが、それ以上はサキは考えない様にした。進んで頭痛や胃痛と友達にはなりたくないのである。
「はぁ、全く」
「んぇ? どうしたの急に」
「いや…ただSRTの校則がもっとまともだったらモエも大人しかったのかなって思っただけだ」
「えぇーなにそれ。考えるまでもなくない?」
「…確かにな」
けらけらと笑いながら言うモエに、校則違反にならない範囲で好き勝手するだけだなと思わずため息を溢すサキ。
「で、なんで急に校則とか云々って言い出した訳? 別に関係なかったよね?」
「ん? あぁいや、単に私がこれを書いてたからってだけだぞ」
と、別に隠す事でもないのでほらと自分の考えた校則が書かれている用紙を差し出して見せた。
「あぁー、これかぁー。サキも考えてたんだ」
「あぁ、とは言えまだまだ中途半端だけどな。どうせだし何か意見…いや、やっぱりいい。ろくな事言わなさそうだし」
「えぇー、流石に酷くなぁーい?」
「妥当だと思うが。なら、どういう校則なら良いと思うんだ?」
「んー、そうだねぇ」
訊かれた彼女は懐から取り出した飴を口に放り込みながら少しばかり考えて。
「校則って言うのとは少し違う感じもするけど、『あらゆる事態をSRTの持ちうる物全てを用いて迅速に解決すべし』…とか?」
「……それって要するに好き勝手SRTの装備使って吹っ飛ばしたいですって言ってないか?」
「うん!」
一切の迷いの無い肯定に、予想通り過ぎてサキの肩から力が抜けた。と、丁度その時ガチャリと扉が開いた。
「ふぅ。ただいま帰りました…ってなにをしているのですかサキ? らしくもなく姿勢が乱れていますけど」
「あぁ、『ミヤコ』か。お帰り。別に問題があった訳じゃないから気にしなくても大丈夫だ」
「そうですか」
「おかえりーってミヤコも出掛けてたんだ」
「えぇ、モエが出掛けて少ししてから、アビドス高校に大事な物を受け取りに」
言いながら肩から下げていた鞄をテーブルに置くRABBIT小隊長の『月雪ミヤコ』。彼女は何気無く室内を見渡した。
「えっと…あぁ、丁度小隊員が全員揃って居ますね」
「え、ミユは?」
「あの、ここ、隣に」
「え、おわぁ!?」
「ひゃうぅ!?」
ミヤコの言葉にサキは首を傾げるといつの間にか隣の椅子に座っていた『霞沢ミユ』に驚き転げる。
「ご、ごめんサキちゃん大丈夫!?」
「あ、あぁいや大丈夫だ。と言うか寧ろ謝るべきなのは私の方だろ。ずっと隣に居たんだろうに気が付かなかった訳だし」
「あ、ううん。席についたのはミヤコちゃんが帰ってきてからだよ」
「そ、そうだったのか」
思ったよりさっき来たばっかりだったのかと驚く。後、ミヤコはどうやってしれっとミユの事を見つけたんだと思いながら席に座り直す。その様子を横目で見て問題無さそうだと判断したミヤコはテーブルに置いた鞄からアビドス高校に受け取りに行った物なのだろう書類を取り出し、何気無く横から覗き込んだモエがそれを見て目を丸くした。
「え、これまじ?」
「えぇ、まじです。そろそろ問題ないだろうと御墨付きも貰えたので」
言いながら、テーブルの上に置かれたそれにサキとミユも先程のモエと同じく目を丸くした。その様子を気にすること無くミヤコは語る。
「正直な話。私たちは先輩方と比べて経験が足りないと言う他ありません。まぁ、まだ一年なのだから当然と言えばそうなのですが」
「ですが、それは言い訳にはなりません。まだその状況を経験してなかったから逃がしました。まだ対応方法を習っていなかったから負けました。どれもSRTとしての私たちには許されない事です」
「特に、SRTとして再起する事になれば相対する可能性が出てくるアビドスの自然から溢れた生き物等は、失敗はそのまま死に直結する訳ですから…私たちだけではなく、市民たちも」
ですのでと、彼女は句切り息を吸った。
「私たちは経験しておくべきだと思うのです。今までの狩りより一歩踏み込んだ場所を」
その言葉と共にミヤコもまた自分がテーブルに出した書類に…『大型生物狩猟許可証』に目を向けるのであった。