血の匂いがした。
「ルォァア…」
その事に気がついたのは何時も通り縄張りの見回りをしていた時だ。何気なく風上へと視線を向けるドスゲネポスと人類から呼ばれているそいつは、何事かと確認の為に配下を二匹引き連れて匂いを辿り走る。
そして見つけたのは…死体だった。
血の臭いを漂わせながら倒れているそれは恐らく何かしらに襲われ、群れからはぐれここに迷い込んだ末に狩られたのだろう。まぁ理由は何にせよ、目の前の食い残しは貴重な食料だ。他の何かに持っていかれるのも勿体無いだろう。
「ルォォ」
「ガァッ」
引き連れた二匹にこれを狩った存在がまだ近くに潜んでいる可能性を考えて周囲を警戒するように伝えてから、自分もまた辺りを警戒しながらゆっくりと死体へと近付いていく。と、そこで気がつく。
割とそこら辺に転がっている筒上の何なのかよく分からない物が幾つかある事に。とは言え、それは別に蹴ったら五月蝿くて不快程度の物だ。一瞬の警戒の後、何時も通り気にせず横を通り抜ける。
瞬間、突然それが爆発し配下共々爆炎に呑み込まれた。
【いよぉっし! 目標の爆破成功! んんー、やっぱり爆発って気持ち良いぃよねぇー!】
「RABBIT2ッ!」
「あぁ!」
爆炎と共に土煙が巻き上がるのとほぼ同時に通信越しに聞こえたモエの言葉の一部を無視しつつ、ミヤコはサキと共に砂漠用迷彩シートから飛び出す。
作戦がうまく行った。撒き餌を用意して目標を特定地点まで誘導し、そこで爆破する。ただそれだけの単純な作戦でしかなかったが、いやだからこそ上手く行ったのか。或いは血の匂いが自分達の痕跡を消してくれたからかもしれないし、また他の理由かも知れない。その理由は何にせよ、考えるのは後。
今はただ、狩る事だけに集中する。
狙うのはドスゲネポスではなく取り巻きのゲネポスから、そちらの方がより深く爆発のダメージを受けているからと言うのもあるが、まずなによりも数を減らさなければ危険だ。
「ガァッ!?」
「ギャッ!」
散開し、構え、撃つ。三発の弾丸を叩き込まれ悲鳴の様な鳴き声を上げながらふらつきながらも立ち上がろうとしていたゲネポスが吹き飛ばされ、再び地面に倒れビクンッと痙攣し今度は動かなくなる。同じようにサキもまたゲネポスをしっかりと仕留めている。此れであとはドスゲネポスだけだ。
視線を走らせる。ドスゲネポスは既に起き上がり、睨み付ける様に視線を向けて来て。
「フラッシュバンッ!」
そんなドスゲネポスの目の前に思い切り閃光弾を投げつける。
直後に閃光が瞬き短くドスゲネポスの悲鳴が響く。視界を一時的に封じる事に成功した彼女たちは、走り位置調整。急に目が見えなくなり混乱しながらふらつくドスゲネポスを挟むように動き構え狙う。ふらついている故、少々狙い辛くはあるが彼女たちはしっかりと当てていく。
タタンッ、タタンッ、タタン。
リズミカルに乱れなく左右から銃弾を叩き込む。撃ち込まれた弾丸は確かなダメージを与えていく。
「ガァアアアアッ!?」
悲鳴を思わせる咆哮。それは、自分達の攻撃が効いている証明だ。
撃ち切り、一歩下がりリロード。そして、軽く頭を振ってから自分達を探すように動くドスゲネポスの眼前に再び閃光弾を投げ込み視界を焼く。
型に嵌まった、そうミヤコは確信した。
このまま自分達がミスをしたり、何かに乱入でもされ無い限りは狩りの先輩達が言っていた理想的狩猟。即ち相手に何もさせずに狩る事が出来るだろう。
そして、日々訓練を欠かしていない彼女たちがミスを犯す可能性は低く。想定外の出来事に関しては…。
【RABBIT3よりRABBIT4へ、三時の方向からゲネポスが接近中。数はぁー…二匹だね】
彼女たちが事前に処理していく。
向きを調整しスコープを覗き込むミユ。その視線の先には狩りが行われている場所に向かっているゲネポス達の姿。先程のドスゲネポスの悲鳴を聞いて向かっていると言った所だろうか。
呼吸を整え、引き金を引く。
放たれたその弾丸は、まるで吸い寄せられているかの様に飛び二匹の内、先行していたゲネポスの眼球を撃ち貫き吹き飛ばした。目の前で仲間が吹き飛ばされる瞬間を目撃したゲネポスは何が起きたのか理解できず思わず立ち止まり、また同じく眼球を撃ち抜かれ倒れ伏した。
文字通り瞬く間にゲネポス二匹の無力化を成したミユ。一応と二発程追加で急所に撃ち込み止めを刺してから一息吐きながらスコープから目を離す。
空に違和感。
「? あれって…」
【は…?】
【あ、えぇ?】
【ありゃま】
「? こ、こちらRABBIT4。何か問題が?」
チラリと視界の端に映ったそれが何なのかを詳しく見ようとしたその時、通信機から気の抜けた仲間の声。どうかしたのかと問い掛けながら、視線を空から現在ドスゲネポスとの戦闘が行われている地点へと向けた。
見えたのは呆けたように武器を構えたまま固まっているサキと、閃光弾だろうものを片手に同じく固まっているミヤコ。
「…え」
そしてビクビクと痙攣しながら今まさに力尽きようとしているドスゲネポスだった。