アビドス自治区の外れ、その裏路地を彼は、ボロボロの衣服を纏ったジェネラルは数人の部下を連れながら進む。
計画通り進んでいた筈だった。
なにもかも上手く行っていた…とまでは言わないがそれでも予想通りの結末に辿り着く筈だった。あの化け物が秘密裏に建設した軍事基地に乗り込んでくるまでは。
可笑しいだろう、こちらはカイザーが誇る最新式の武装で固めた正式な軍隊だぞ。それが、ただでかいだけの虫に敗北したことがジェネラルには許せなかった。
「糞!」
「ジェネラル!?」
「…すまん、気にするな」
苛立ちから壁を殴るジェネラル。驚いたように溢された部下の声に少し冷静さを取り戻し、衣服を整えまた歩き始める。辿り着いたのはカイザーのセーフハウス。まずは今回の件とカイザーの関係を知られぬ為に動かなければと思考を廻らせながら出迎えたカイザーPMC所属のロボット市民に出迎えられ足を踏み入れる。
若干、装備が旧式なのが気になるがカイザーがどれだけ巨大であるのかを知っているジェネラルは全員に最新式が行き渡っていない事について仕方ないことだと自分を納得させた。
だから気が付かなかった。
「あぁ、やはりここに来たか」
「な!?」
己らを出迎えたのが自身の部下でない事に。
「ぐぁ!? なにを!?」
「やめろ銃口を向けるな!?」
部下の声がする。恐らく取り押さえられたのだろう。目の前に座るスーツを纏った彼の部下に。
「私が居た頃と同じセーフハウスを利用し続けるのはどうかと思うがな。資金不足か? なぁ、ジェネラル」
「カイザーPMC…元理事っ!」
ミシリと軋む音が響く程に強く拳を握りしめるジェネラル。それとは対照的に元理事はふむとなにかを考えるような素振りを見せ。
「私を蹴落としたお前にそう言われたなら何か思うところが出来るかとも思っていたのだが、存外なにも感じないものだな」
まぁ、良いと。彼は言葉を続ける。
「私がここに居るのは少し頼みたい事があってな」
言いながら彼は雑に手に持っていた物をジェネラルの足元へと投げた。コンッと音を立て転がるそれはキヴォトスでは何処にでもある使用済みのスモークグレネード。
に、偽装したアルセルタス誘導用のフェロモン散布装置だ。
間違いなく、脅している。己の言うことを聞かなければ事実をばらすぞと言っているのだ。なにが頼みたい事がある、だ。そう心の中で毒を吐きながら冷静さを取り戻すために深呼吸をする。
「…頼み事、などと言わずに正直に言ったらどうだ? カイザーの要職に戻せと」
吐き捨てるように言うジェネラル。
「…なにを言ってるんだお前は? 何故私がカイザーに戻らねばならん」
元理事は、意味が分からないといった様子で。それをみてジェネラルは苛立ちを隠そうともせずに言う。
「未練がましくかいざー牧場などと名乗っておきながらとぼけたことを言う」
「いやそれは…あぁそうか、知りようがないからそう反応するのは当然か」
言いながら何処か楽しげにクツクツと笑う元理事は、唐突に問いかけた。
「なぁ、ジェネラル。アンケートを取っているか?」
「…なに?」
なんの関係も無いようにしか思えない問いかけに、しかしこのタイミングでの問いなのだから無関係ではないだろうと考えようとしたところで、先に元理事が話を続ける。
「私はしているぞ? 食肉の質はどうか、飼育している生物の騒音や異臭はどうかと気にするべき事が多いのでな」
「ふん、随分と忙しそうだな元とはいえ理事であった男が」
「種類が違うというだけで忙しさ自体は変わらんがな…あぁそうそう、以前カイザーといえば、なんてアンケートも取ったことがあったな」
「? なんだその意味の無」
ジェネラルの言葉が途切れる。いやな予感がしたから、或いは思い至った事に背筋が凍る思いをしたからか。まさかと溢された言葉に元理事は笑いながら答えた。
「凡そ8割だ。それだけのアビドス住人にとってのカイザーとは私のかいざー牧場を示す言葉になっているのだよ…アビドスの住人にとってカイザーコーポレーションは既に過去の存在ということか」
「てめぇ!」
「言葉使いがなっていないなジェネラル。大人だと言うなら気を付ける事をお勧めするぞ?」
諌めるように落ち着いた様子で言葉を投げる元理事。
「まぁ、カイザーが潰れた訳ではないのだ。順当に、正式な手続きを踏んでアビドス市場に参入すればカイザーほどの大企業だ。すぐに私の牧場など踏み潰されることだろうな…何事もなければの、話だからな」
「く、ぐ、てめ……き、貴様っ!」
「あぁそうだ。久しぶりに『プレジデント』とも会話する機会に恵まれてな。随分と期待されている様だが、まぁ今は関係無いことか」
さて、それではと元理事は言う。
「私の頼み事だが、そうたいした事ではなく単に私の牧場でしばらく働いてもらえればそれで良い。新しく育て始めたやつらが酷くやんちゃなものでな、少し正社員に特殊な研修が必要になってしまったから人手が足りず困っていたのだ。やつらは近づくものに見境なく突進をしてくるのだが、天下のカイザーが誇る最新装備を身に付けているお前たちなら問題は無いだろう?」
それでどうするかと、出せる答えの決まった問いかけ。ジェネラルは膝から崩れ落ちながら無言で頷いた。
「連れていけ」
抵抗できないように武器を取り上げられ拘束されながら連れられていくジェネラルとその部下たちは、ただされるがままだった。
数日後。
「グモォー!」
「やめろ来るな止まれ止まれ止まれぇえええええええぐあー!?」
「またか、今日で何度目だ?」
「ん、理事おじ。今日のお肉貰いに来た…あ、またジェネラルが轢かれてる」
「あぁ、お前か。肉はいつもの所だ、あと元を付けろ元を。ジェネラルに関しては…もう少し慣れてほしい物なのだがな」
「ん、逃げ足に気合いが足りない」
「全くだ」
「グモォー!」
「いでででで!? 転がすなどつくなやめろくるなばぁあー!?」
「…まぁ、楽しそうだから良いか」
「ん、ジェネラルも楽しそう」
「いや流石にそれはないと思うぞ?」
副題・悪い大人の後片付け。
今回生徒がほとんど出ずにおっさんが話してばっかじゃねぇか!
楽しかったです(本音)