アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第12話

 『砂上港』

 

 それは砂漠の上を海を行くかの如く進む船、『砂上船』の帰る場所。ジエン・モーランという巨龍が出現して数か月後、アビドス高等学校の生徒がそれを使うのが当然だと不格好ながらも作り上げた、ただ一隻の船を迎える為だけの場所だったそこは、今では多くの船と共にある。

 

「たでーまー」「おかえり、どうだった?」「おー、とりあえず問題なしだけど要監視かな」「ちょっといやに重いんだけどこれ」「中身鉱石だからね」「む、このドラム缶は良いものですね」「へー、違いが分からーん」「誰か荷物おろすの手伝ってくれない?」「うーい、ちょいまち今行くー」「おろ、今日はあんたも行くの?」「うん、普段居ない生物が自然公園の奥に出たって話だからその生態観察」「おーい差し入れだぞー! 手が空いてるやつは存分に食えー!」「わーい! 食べるー!」「これアプケロスの肉使ったおにぎり? 最高か?」「もうちょっと速度出せるようになれねぇかなー」「ならエンジン乗せたい、乗せたくない? 最新式あるよ!?」「それして大型の生物に死ぬほど追いかけ回されたの忘れましたの?」

 

 

「うんうん、今日もみんな元気だー」

 

 多くの生徒の、人々の声が重なり確かな賑わいを見せる港の外れに置かれたコンテナの上。梔子ユメはニコニコと港に広がる人の営みを嬉しそうに眺めていた。

 

 パタパタコンコンと、楽しそうに足をバタつかせ音を響かせるユメ。

 

「ん、見つけた」

「ほえ? あ、シロコちゃんどうしたの?…あ、先生! いらっしゃーい!」

 

 ユメの座るコンテナに上ってきたシロコどうかしたのかと首をかしげていると遅れてよいしょと登ってきた先生を見て元気に手を振って見せた。先生は手を振り返しながら仕事が一段落ついたから様子を見に来たのだと伝える。

 

「あ、はいアビドスも大分落ち着きましたよ! 薬草関係も落ち着きましたし」

 

 言いながら思い出すのは数日前の騒ぎ。多数自治区での薬草の使用の確認、およびそれを悪用した犯罪が発生した件。

 

 原因究明にシャーレも生徒たちの手を借りながら尽力した結果、犯人が最近ブラックマーケットに頭角を表し始めた中規模企業の仕業だと判明した。なんでも理由は分からないが売れると分かっているのに他企業が手を出していなかったから自分たちが、ということらしい。手を出していない理由も分からないやつらが良く中規模と呼べるまで大きくなれたものだと元理事は心底呆れていた。

 

 なお、一部アビドス生徒は薬草の件にカイザーが関わっていなかったことに驚いた様子で。生徒の中にはどつきまわされているジェネラルに聞きに行った子まで居たそうだ。そして鼻で笑われたらしい。

 

「利益以上に敵を増やすのが得意な企業だったならカイザーはとっくにキヴォトスから名前が消えていただろうな」

 

 絶賛磨り潰されている企業のようにな、との事だ。

 

 それとこれは別の話だが、どうやらカイザーはアビドスから撤退することを決定したらしい。なんでも最新装備を揃えた状態だったのにも関わらず巨大生物一匹にPMCが壊滅させられた事実を鑑みて、今現在のアビドスに拘っても利益よりも損失の方が大きいと判断したからとの事だ。

 

 ちなみに他自治区に広がってしまった薬草に関しては、自生してしまったかどうかは年単位の調査必須で、現在出来ることがないとお手上げ状態である。取り合えず捕まった不良たちの中に栽培等を行っている生徒はいなかったのがせめてもの救いである。

 

「先生もありがとうございました! 先生が手伝ってくれたお陰で他の学校とも問題を起こさずに調査をできましたよ!」

 

 その言葉に、気にしなくていい、生徒の為にシャーレの特権を使用しただけだと言い。それにと言葉をきって。

 

 問題が長引いたせいで砂祭りが楽しめない、なんて事になったら嫌だからね。なんて、先生は言った。

 

「! あははは! そうですね。細かいあれこれ考えながらなんてお祭りが楽しめませんもんね!」

「ん、祭りは祭りを楽しむことに集中すべき」

 

 と、楽しげな二人。とは言っても砂祭りがいつ出来るかは分からないままなのだが。ふと、そういえばユメは何故ここに居たのかと疑問に思った。話をしようと探していたらシロコに良くここに居るからと案内されてきたのだが、理由が少し気になった。

 

「ん、私も気になる」

「あれ? シロコちゃんも知らないんだっけ?」

「ん」

「えっとね、ここからだと砂上港がすっごい良く見えるの!」

「見れば分かる」

 

 なにを言ってるのかと、或いはついに頭がと哀れむように視線を向けるシロコ。視線にひぃんと若干泣きながらえっとねと言葉にする。

 

「ここね、昔は何もなかったの。それこそ港所か建物も無いただの砂漠」

「え」

 

 シロコが驚いた様子で声を溢す。それを見て、ユメは驚くのも仕方ないことだと微笑んだ。

 

「最初はね、アビドスの皆でちょっとした高台みたいなのを作ったんだ。初めて砂上船を作って、さぁ使ってみようって思ったけどどうやって乗り降りするんだって誰かに言われてね。ホシノちゃんが、『あ』なんて言って忘れてましたー! って感じだったんだよ。それで急いで作ったのがさっき言った高台。まぁ、間違って砂上船でぶつかちゃってすぐに壊しちゃったんだけどね」

 

 あの辺にあったんだー、なんて指差しながら話は続く。

 

「それから何度も作って壊してを繰り返してこれじゃダメだって皆でアビドスに住んでる人たちに協力してもらってちゃんとした場所を作ることにしたんだよ! それでやっと港らしい立派な感じになって…今度は止めきれなかった砂上船が突っ込んで壊れてたなー」

 

 大変だったな、なんて遠い目をしながらユメは語る。

 

「それからは工夫の連続でああでもこうでもないって話し合ってたら、色んな人たちが集まってきたの! 新生物も良いが船も良いね!って言ってくれたミレニアムの子達が色々教えてくれたり。他にもトリニティの生徒が来てお金払うからここの生態調査に加わらせてほしいって土下座してきたり。なんか面白そうだからってゲヘナの人たちが集まってきて手伝ってくれたり…本当に色々あっという間で、シロコちゃんが来た頃には今みたいにすっごい人で一杯になってたんだ!」

 

 一年もせずに今の姿だよと、どこか誇らしげにユメは言う。

 

「だから、うん、そうだね。私にとっての一番の場所なんだ、ここは。他にも素敵な場所は一杯あるって自慢できるけど…ここは特別。アビドスを、砂以外なにもなかったここを、私たちが自分達の手で復興して、みんなと一緒に前に進めた証みたいな物だから」

「…ん」

 

 改めて、港を見渡す。最初にユメが言っていた通り、港が良く見える。変わらず活気に溢れるこの場所がより素晴らしいものであると先生もシロコも感じていた。

 

 そしてユメはといえば、少し恥ずかしげに頬を染めていた。

 

「えへへ、とは言っても他の自治区の人からは港そのものより砂上船の方が見てて迫力あるって人気なんですよね。あと遠目に見える壁みたいな砂嵐とか」

「確かにすごい迫力。たまに雷も落ちてる」

「そうそう! すごいんですよー! こう、バリバリーって幾つも雨みたいに落ちて! あ、でもたまに紅い雷がなってるときはちょっと危ないから注意!」

「ん、ヤッくんもすごい怯えてたまに暴れるから困る」

「何事もないのジエンくん位だもんねー、あの雷」

 

 なるほど、興味深いと視線を砂嵐へと向けて…首をかしげる。

 

「あれ、どうかしました先生?」

 

 つられたようにユメも首を傾げる。いや気のせいかもしれないけどと前置きをしてから答える。

 

 

 なんか砂嵐近づいてきてないか、と

 

 

「はえ?…! それって!」

「ん!」

 

 バッと確認するように二人は視線を砂嵐へと向ける。気がつけば港の騒がしさが消えて、しかし皆なにかを期待する様にじっと視線を砂嵐へと向けていた。

 

「…間違いない。近づいてきてる!」

「うん、うん! 待ちに待ったその時だー!」

 

 勢い良く両手を広げ喜びを表現するユメに呼応するようにアビドス高等学校から一つの信号弾が打ち上げられる。パンッ! と、強くアビドス全体に届けとおとを響かせ色鮮やかな煙の花を咲かせる。それが示す意味は、巨大な龍の接近が観測された事。それすなわち。

 

 祭りの始まりを告げる合図である。

 

 

 

「砂祭りの開催だー!」

 

 

 

 アビドスが震える。

 

 住まうもの訪れたもの、皆歓声を上げ動き出す。

 

「おい! 熟成肉を片端から出せ! モタモタしてたら緩まりすぎた財布から溢れた金を拾えんぞ!」

「分かってますよ理事長!」

「だから元いや今はそれ所ではないな! 緩んだ財布の変わりに腹に肉を詰め込んでやらねばならんからな!」

 

 かいざー牧場のロボット住人たちは急ぎ露天の準備を始め。

 

「はっはっは! 来たなぁおい砂祭り!」

「ですなぁ、じゃあ祭りに参加する子達のためにたっぷり準備しましょうかね!」

「今回はどれだけのバカたちが参加するのか楽しみだ!」

 

 化け鮫横丁では嵐に自ら飛び込む馬鹿者たちの為の飯が作られ。

 

「装備点検しっかりー!」

「分かってるよってだっさ!? なんかレーダーがめっちゃださくなってるんだけど誰変えたの!?」

「会長」

「反応に困る!?」

 

 ミレニアムの生徒が思わぬ事態に頭を抱え。

 

「ひゃっはー! 祭りだ祭りだー!」

「楽しい上に金になるとかマジ最高だよな砂祭り」

「どれだけ暴れても怒られないしね!」

「いや楽しむのは良いけど私たち風紀委員なんだから最低限のマナーは守ろうよ」

 

 ゲヘナの生徒は普段出来ないはっちゃけっぷりを発揮し。

 

「来ましたねミカさま!」

「そうだね☆ あとここではクルルンって呼んでね」

「参加されないミカさまの分まで頑張りますわよ!」

「うん、楽しんできてね。あとクルルンって呼んで」

 

 トリニティの生徒は興奮しすぎて話を聞いておらず。

 

「あっぶね、出発する前で助かったわ」

「仮に出発前でもこのエンジンさえ積めばすぐに戻ってこれるからぜひ使おうこのエンジン! 高速船というロマンを実現しよう!」

「だからやめなさいと言っているでしょうこのロマンバカ!」

「なにぃ!? ロマンをバカにするか!?」

「ロマンじゃなくてあなたをバカにしてるのですよ!」

「前から思ってたけどお前ゲヘナのあたしよりミレニアムのこいつと仲が悪いよな。トリニティ生なのに」

「「こいつが悪いから!」」

「いや仲良しかよ」

 

 学園という垣根を越えた生徒たちは楽しげで。

 

 

 皆、笑いあっていた。

 

 

「シロコちゃんシロコちゃん! 急ごう! 早くしないと乗り遅れちゃうよ!」

「ん! 先生も行こう! 今度こそ砂祭りを案内する!」

 

 熱狂する人々の中へと飛び込んでいくユメに続くようにと先生のてを引くシロコ。おっと、と少しよろめきながらも先生も笑いながら歩く。みんな元気だと。

 

「ん、当然!」

 

 グッと力強くシロコはサムズアップし。それに呼応するように誰からとなく叫ぶ声が響く。

 

 

「アビドスは今日も狩猟日和!」

 

 

 

 

 

 

『さぁ、一狩りいこうぜ!』













 シロコたちが去ったコンテナの上。

 喧騒から離れた場所で、コンと小さく音が一つ。

 誰もが砂嵐へと視線を向ける中、その少女もまた楽しげに熱狂する人々を見て。






 白い少女は、満足そうに微笑み…姿を消した。
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