アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第15話

 地面をつつき何かを鋏で挟んでは口に運ぶ蟹、と言うよりかはヤドカリが巨大化した様の類いであるヤオザミ。多くは何かの殻を背負っており、ごく稀にそれ以外の廃墟から拾ってきたのかロッカーやらドラム缶を背負っている。

 

「…いや本当になんでよ」

 

 それを確実にかつ丁寧に狩っていくセリカ。きちんと周囲の安全を確認してからナイフで解体し素材を収集しながらも解体に邪魔なヤドとして使われていたドラム缶を運ぶハルナを横目につい言葉をこぼす。

 

「勿論、美食の為ですわ」

「それは聞いたわ」

 

 そして何故、拉致紛いの事をしたのかも聞いた。曰く、確実にヤオザミの狩猟をするために手伝って欲しかったからとのことだ。それを聞いたセリカはなるほどと一応は納得した、確かに一人より二人の方が確実だし安全なのは間違いない。だからそう言うことかと納得した所で素直に思ったことを口から、全力で吐き出し叫んだ。

 

「いや普通に頼めば良いだけの事じゃないのそれ!?」

 

 何故拉致したのか、何故簀巻きにしたのか。それに対する回答が。

 

「一番慣れた手段だったので」

 

 とのことだ。セリカは普通に引いた。けれど、まぁでも拉致られたとはいえ柴大将の為でもあるしと手伝うことにしたセリカに、ハルナは彼女の将来がちょっと心配になった。

 

「はふぅ、この個体も終わりっと…これで6匹目だから後」

「4体程ですわね。私としてはもっと狩りたい所ではありますが。個人的に楽しむために後20体くらいは」

「いやいやいや、狩りすぎ狩りすぎ。生態系壊れちゃうから」

「むぅ、それはそうですわね。一時の美味の為に後に生まれる美食の芽を摘むのはよろしくありませんわね。ヤオザミを食べられなくなるのも嫌ですし」

 

 一般的な蟹に比べて濃厚なんですわよね、なんて言いながら手際よく解体していくハルナ。どちらかと言えばヤドカリであるヤオザミを蟹と比べるのは正しいのだろうかと割とどうでも良いことを考えて素材をドローンに詰め込んでいく。と、ハルナがそれにしてもと声をこぼす。

 

「今日は随分と数が多いですわね」

「え…あー、確かに」

 

 その言葉を聞いて、何気なく周囲を見渡す。あまり移動せず6匹狩ったというのに遠目に複数体、呑気に餌を食べているヤオザミの姿が見えた。普段から観察しているわけではないがそれにしてもと思えるぐらいにはヤオザミが多い。まぁこうして依頼として受理されているのだから減っても問題なしと判断されるだけの数が確認されていると言う事なのだろうが。

 

「これだけの数、狩ればヤオザミの食べ放題ですわね」

 

 その言葉に、セリカは呆れた様子で言う。

 

「いやだから駄目だって」

「えぇ分かってますわ」

 

 本当かと思いつつセリカはヤオザミにヤドとして使われていたロッカーを片付けながら改めて周囲を見渡し、何気なく廃墟に残っている割れた窓ガラスの一部が視界に映る。

 

 カタカタと、小さく揺れる窓ガラスが。

 

「…これって」

「ふむ」

 

 なにかを察したように、ハルナは武器を持ち直し辺りを警戒する。同じくセリカもまた解体用ナイフをドローンに押し込み武器を構える。

 

 今回の標的であるヤオザミなのだが幼体、つまり子供なのである。

 

 そして子供が居ると言うことは親が居ると言うことで。

 

 

「…来ますわね」

 

 

 ハルナの言葉に呼応するように、地面が揺れる。

 

 最初は小さく、徐々に大きく…いや、近くなっていく。そして、ガタガタと音がする程に近づいてきて。ふいに、音が止まって。

 

「!!」

 

 悪寒、セリカは反射的に勢い良く前方に転がるように飛ぶ。直後に、先程まで立っていた場所に何かが地面を突き破って姿を表した。

 

 それは、一本角。

 

 体勢を整えたセリカが視線を向けた先に居るのは、かつて自分の先輩であるホシノが重傷を負いながらも単独で狩猟したと言う強大な竜の同種、その頭骨をヤドとした生物。鮮やかな赤い甲殻と盾を思わせる重厚な鋏を持つそいつの名は『ダイミョウザザミ』

 

「やはり、来ましたわね」

「出来れば気のせいであってほしかったんだけど」

「美食には試練が付き物、ですわね」

「あの、なんでも美食に結びつけるのやめない?」

「無理ですわね」

「即答…」

 

 なんて会話をしながらも視線はダイミョウザザミへと向けられていて。

 

「ギ、ギッギギギギ」

 

 なんてダイミョウザザミは背負う頭蓋の擦れる音か関節が軋む音かも分からない音を響かせながら二人の方へと向き直り、感情を感じさせない瞳を蠢かせて威嚇するように大きく鋏を振り上げた。

 

「それでは」

「えぇ、分かってるわ」

「ふふ、さすがアビドスの生徒ですわね」

 

 そんなやり取りをして、二人は息を合わせ、ほぼ同時に。

 

 

 流れるように武器を仕舞い、回れ右して全力で走り出した。

 

 

 単純な常識としてだが、なんの準備もしていない状態で大型の生物と戦った所で無事で済むわけが無い。そんな馬鹿げたことをして、その上で狩ってしまえるような化け物なぞキヴォトスでも片手で足りるほどだ。主に、ホシノとかヒナとかそう言うレベルの生徒。

 

 そうでないなら不意の遭遇をした時点で即逃げるのが最適解である。

 

「ギギギギギッ!」

 

「やはり追ってきますわよね!」

「子供を狩られて怒ってるとか!?」

「単純に、縄張りに入られたからかもしれませんわね」

 

 速度では二人の方が上、しかし一歩の大きさが違う。だがこのまま行けば逃げきれると崩れた壁が坂のようになっている廃墟を駆け上がり…ふいに、ドンッと大きな音が響く。

 

 

 直後、二人を覆うように影が差し。二人は反射的に前へと大きく跳んだ。

 

「ギギギギギギギ!」

「おわぁああ!?」

「おとと!?」

 

 チュドンッ! と、大きく跳躍してきたダイミョウザザミが先程まで二人のいた位置に着弾した。そう、二人のいた廃墟の屋上に、だ。

 

 いっそ、綺麗と言える程見事にダイミョウザザミは屋上を突き抜け下へと落ちていく。そして響く衝撃と、廃墟が崩れ始める音。

 

「ちょ、やばいわよこれ!」

「急ぎますわよ!」

 

 急いで体勢を立て直し再び走り始める。崩れる建物に巻き込まれないように飛び降り、ドローンを掴んで減速しながら着地。立ち上る土煙を背にほっと一息。

 

 吐こうとして、背後から音が響く。

 

 勢い良く振り返ればそこには瓦礫を退かしながら姿を表す…無傷のダイミョウザザミ。

 

「…」

「…」

 

 二人はなにも言わずに、再び走り出した。

 

 

 結局二人がちゃんと一息吐けたのは、それから数分後の事だった。





「食べ放題ですわね」と、ハルナが言葉にした瞬間の事。


・トリニティ某所にて

「!!」
「? どうかしたか急に立ち上がって?」
「いえ、ただふと脳裏に蟹食べ放題と思い浮かんで」
「…そうか、今食べているケーキを吐くまで走り込みしてくるか救護されてくるか好きな方を選べ」
「え、いえ私は」
「救護ぉ!」
「んなぁ! わ、私のケーキが!?」
「気にすべきはそこじゃないだろう」


・ゲヘナ某所にて

「!!」
「わぁビックリした!? 急に立ち上がってどうしたの?」
「いえただ、逃した魚…いえ蟹は大きかった様ですね」
「え、蟹!? 蟹食べられるの!?」
「蟹は良いけどいい加減この縄ほどいてほしいのだけど。というかなんで縛られてるのよ私」
「あぁ、つい何時もの癖で」
「私を縛るのが癖ってなに!?」
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