「…どうしよう?」
「困りましたわね」
廃墟の一室。水没工業地帯での生物観察や狩猟を行う生徒達が普段から割と休憩スペースとして利用されている為か、見た目ほどは汚れていないそこでさてとセリカとハルナは考えていた。
「何時もならそれなりに時間が経てば落ち着く…筈なんだけど」
「荒ぶってますわね」
遠目に見えるダイミョウザザミは、今だに二人の事を探しているのかドスドスと荒々しく動き回り時折なにかを壊しては音を響かせている。
「随分と興奮している様子ですわね」
「私たちがヤオザミを狩ったから…って訳ではないわよね。仮にそうならもっと前から姿が確認されてる筈だし」
言いながらスマホを弄り、しばらくしてからセリカはやっぱりと頷いた。
「ここ最近でこの辺りでダイミョウザザミが観測されたっていう情報はないわね。って事は、順当に考えればあのダイミョウザザミは他所から来た個体って所かしらね」
「と言う事は興奮している理由は縄張りを作るために争いを繰り返しているからと言ったところですわね」
「にしてはなんか見境なく色々壊しすぎな感じするけど…それに、何というか」
「なにか気になることでもありましたの?」
「気になるというか、落ち着いてから改めて見て思ったんだけど。あのダイミョウザザミ、なにかに怯えてるような気がして」
「ふむ…つまり、あのダイミョウザザミは元々の縄張りを何者かに襲われた結果奪われ、ここに流れ着いたは良いが恐慌状態にある、と。そう言いたいわけですわね?」
「かもしれない、程度でしかないから間違ってる可能性の方が高いけど」
実際、ダイミョウザザミの生態や生息域にそこまで詳しくない自分では断言できない。さらに言えば原因は後々なら兎も角、今は関係ないので脇に置いておく事にした。今は休みながら必要なあれこれを考えながら、許可を待つべきだとセリカは思う。なにの許可なのかと言えば。
「! 来た」
スマホが震える。慌てた様子で確認すればそこには一つのメッセージ。
「やっぱりそうなったわね」
「どうしましたの?」
「ダイミョウザザミの狩猟許可が出たのよ」
「…狩るつもりですの? ダイミョウザザミを?」
「えぇ」
今現在も遠目に見えるダイミョウザザミは暴れており、はっきり言って縄張り云々は関係なく目につくものを片端から壊しているような状況だ。このまま放置すれば間違いなく環境に悪影響が出る。下手すれば水没工業地帯に生息する生物のうち、幾らかが別の地域に流れていく可能性がある。もしダイミョウザザミがあの状態になった理由が想像通りであったなら、その繰り返しになってしまう。
故に、狩る。
「なるほど、私が美食を求めるのと同じように、ですわね」
「流石にそこと一緒にされるのなんか嫌なんだけど」
「そう言うことでしたら、私も手助けいたしますわ」
「え、いやでも貴女の目的はヤオザミなんだから」
「一人よりも二人の方が確実。私が貴女に助力を求めたように、私も貴女に助力する。そう可笑しな事ではありませんわね?」
「…まぁそう言うことなら」
「決まりですわね。ダイミョウザザミ、食すのは始めてですが、どの様な美食であるか楽しみですわね」
「あ、やっぱりそう言うことなのね」
やはりヤオザミに似て蟹に近いのか、いやいやあそこまでの巨体なのだからまた違った味わいが、なんて所まで考えた所で現実へと帰ってきたハルナはふと問いかける。
「しかし、大型の生物の狩猟はそう容易いものではありませんわよ」
「えぇ、まぁ確かにそうなのよね。ヤオザミ狩るだけのつもりだったから準備不足も良いところだし」
そこまで言って、だからとセリカは続ける。
「これからその不足してる物を用意するのよ。アビドス高校の基本はあるものなんでも使えなんだから」
と言う訳でと、セリカはドローンを弄りながらあるものを持ってきておいてほしいと口にする。
「私は必要になるもの集めてくるからその間にドラム缶ここに運び込んでおいて!」
「何故にドラム缶?」
「勿論必要だからよ! あ、ドラム缶があるのは隣の廃墟の一階! ヤオザミがヤド代わりにしてたものだから出来るだけ損傷が少ないの選んでね!」
と言うと同時に、部屋から飛び出して行ってしまった。残されたハルナは少し呆気にとられてから。
「…元気ですわね」
と、呟いてから部屋を出る。手伝おうと自分が言って、それならと頼まれたのだからきちんと応えてあげましょうと言われた場所に向かうのだった。
そして、凡そ一時間後。
「ただいま! 頼んでたのは!?」
言いながら勢い良く部屋へと戻ってきたセリカの問いかけに彼女より少し早く戻ってきていたハルナは振り返り答える。
「はら、おはえりなさいへふは」
「なにか食べてる!? え、なに食べてるのよ!?」
「んぐ、はふぅ。サシミウオの塩焼きですわ。下の階に水が湧いている場所をみつけましてそこに魚が見られたのでつい。釣ったばかりの魚をただ焼いて単純な味付けだけをして味わう。これは一流の料理人によって調理された料理を味わうのとはまた違った形の美食なのですわ」
「あ、そう。まぁ分からなくはないわねってそうじゃなくて」
「分かっていますわ」
そちらにと指差された方を見れば、5個のドラム缶が置かれていた。近づいて確認してみれば、確かにとセリカは頷いた。傷はあるが、問題なく使えそうだと。
「ありがとう!」
「どういたしまして、ですわ。あぁそれと、サシミウオの塩焼き、まだありますが食べますか?」
「ありがとう、あとで貰うわね」
それだけ言うとドローンからとあるキノコ、『ニトロダケ』と言うキノコを取り出し、解体用ナイフで素早く押し潰していく。その様子を、後ろからハルナが覗き込む。
「素晴らしい腕前ですわね。」
「ありがとう、と言っても単にコツがいるってだけで料理が得意な訳じゃないけど」
そう言い終わる内にはニトロダケの処理は終わっており、きちんと問題ないか確認してからまたドローンから物を取り出す。今度取り出したのは『火薬草』と呼ばれている植物で、これも手早く刻んでから、潰したニトロダケと一緒にドローンの上にある蓋を開いて中に放り込んだ。
「しかし本当に便利よねこれ。こんな簡単に調合まで出来るなんて」
「調合…あぁ、そう言えばその機能はそれ目的のものでしたわね。忘れてましたわ」
「忘れてたって、普段どんな使い方してるのよ?」
「スムージーを作るのに重宝してますわね」
「あー」
たまに自分も同じような事をしてるので、一瞬反応に困ったセリカだった。と、丁度ドローンからチーンッ! と聞き慣れた音が鳴る。やっぱり早いわね、何て言いながら蓋を開ければそこにあるのは出来立てホヤホヤの…『爆薬』だった。
「…なんと言いましょうか。アビドス産植物の他自治区への持ち出しが固く禁じられている理由が良く分かりますわね」
「本当にね」
心からの同意をしながら慎重にドローンから爆薬を取り出し、ドラム缶に詰めまたニトロダケと火薬草を使って爆薬を作りドラム缶に詰める作業を幾度か繰り返せば。
立派なドラム缶型の爆弾の完成である。
「さてと、それじゃあ」
ぽんと、軽くドラム缶爆弾に触れながらセリカは言う。
「狩りを始めましょうか!」
ダイミョウザザミ…狩猟開始。
・アビドス新生態系記録より抜粋。
『ニトロダケ』
現在アビドス砂漠でのみ確認されているキノコ。扱いを間違えると高温を発生させる為、大変危険。アビドス外への持ち出しは固く禁じられている。
『火薬草』
現在アビドス砂漠でのみ確認されている植物。扱いを間違えると強く発火する為、大変危険。アビドス外への持ち出しは固く禁じられている。
『爆薬』
爆薬、以上。通常よりも遥かに容易に製造可能であり、キヴォトスで広く使用されているそれと種類は違うが性能は劣るものではない。当然だが、大変危険な為、取り扱い要注意。許可を得た者のみアビドス外への持ち出し可能。