アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第20話

 最初は運が良いと思っていた。

 

 普段であれば真っ先に出港するミレニアムの船が良く分からん問題が発生したせいで出遅れた結果、自分達ゲヘナ学園の砂上船が一番槍となることが出来た。勿論、真っ先に突っ込むのだから相応の危険はあるがそれ以上の物が手に入るそれは誰もが求める物だ。まぁ残念ながらトリニティの船とそう出港タイミングは大差なかったが最終的にゲヘナの船の方がちょっと前に居たからこちらが先と言うことで良いだろう。

 

 なんて事を、少し前まで考えていた…考える余裕があった。

 

「ダメだ! 砂嵐が強すぎて前が見えない…!」

「振り落とされる事だけは避けろ! こんな状況じゃどうなるか分からんぞ!」

「ぜん、ば…ァガッアァ!?」

「ば、お前なんでマスクつけてないのよ死にたいの!?」

「やっばい! ゴーグルに罅が…ごめんちょっと船内に戻って交換してくる!」

「ならついでにその担いでる武器もしまってこい! この状況じゃただの重石でしかない!」

「うわぁー機銃がダメになったー!? 先輩どうしよう!?」

「殴れ!」

「どうやって!?」

 

 体に叩きつけられる砂が服の隙間から入り込み肌を削る。砂祭りは何時だって砂嵐と共にあったが、それにしたって今回は異常だった。

 

「!! また来るぞ!!」

 

 砂嵐や船の軋む音に負けぬ様力の限り叫ぶ。声の聞こえた生徒はバッと視線を上へと向けてから、急いで固定されている物にしがみつく。直後、空から砂上船に向かって岩が幾つも降り注ぐ。幸い直撃することはなく、しかし船は大きく揺さぶられ、生徒の一人が盛大に転けて体を叩きつけられた。

 

「い、っだぁ!?」

「先輩無事ですか!?」

「無事に決まってるでしょうが! こんなの温泉開発部の発破に巻き込まれたときに比べればどうってことないわ!」

 

 嘘である。正直、滅茶苦茶痛いしうまく体が動かない。が、だからと言って寝てなど居られないので気合いで立ち上がる。こう言う時に重要なのは根性なのだ。そういえばそんな名前の御守りあった気がするな今度買っとこうなんて思いながら、強くそれを…砂漠を泳ぎ嵐を巻き起こしながら進む巨龍を睨む。

 

「くっそ、脇目も振らずってか…他の連中との通信は?!」

「今頑張ってるから! あ、これ、行ける? よし、よしよしよし行ける行ける!…繋がった!」

「!! 何処と繋がった!?」

「ミレニアム! まだ港に居るみたい!」

「流石ミレニアムって所か! いろんな意味で運が良いってそれどころじゃなかった。端的に緊急事態だって伝えて!」

 

 船が揺らぐ。眼前の存在が、一つ角の巨大竜が吼えた。ただそれだけで砂漠が震える。その視線は一点のみに注がれていた。

 

 

 

「あいつ、真っ直ぐアビドスに向かってる!」

 

 

 

 

 砂上港に怒号が響き渡る。駆け回る人々からは余裕は失われ必死の形相で港を駆け回っている。

 

「まずいまずい準備急いでー!」

「もう限界まで急いでるよ! これ以上は空回りしちゃうから無理!」

「アヤネっち! 商店街の避難終わった!」

「ありがとうございます! これであとは化け鮫横丁の避難が終われば…」

「予備弾薬持ってきた!」

「そっち置いといて!」

 

 どたばたと人の行き交う巨竜対策委員会と張り紙のされたテント。砂祭り運営用であったそこは対策本部として利用されていた。そこに駆け込んでくるのはシロコたちだ。

 

「ホシノ先輩!」

「シロコちゃんと先生…それに便利屋の子達も居る?! なんで!? あぁいや詳しい事は後! むしろ呼びに行こうとしてたから助かる位!」

「そう、なら都合がよかったわね。詳しい状況を教えて貰えるかしら?」

 

 すっと前に歩み出るアルにホシノは真剣な表情を浮かべ頷く。

 

「ついさっき巨龍の元に向かったゲヘナの砂上船からメンテナンス中のミレニアムの砂上船に設置されてる通信機に緊急連絡があったんだ。巨龍が真っ直ぐアビドスに向かって居るって」

 

 シロコたちの表情が険しいものへと変わる。

 

「…何時も見たいに群れからはぐれた個体が偶々アビドスに近づいてきてるって訳じゃないの?」

「違う。なにせアビドスに向かってると分かって進路を変更しようと攻撃した瞬間反撃してきたって話」

「!? 反撃? 近づいてきたのを遠ざけようとぶつかってきたとかじゃなくて?」

「明確な敵意を感じたって話だからね。それにどうも普段とは違う個体、いや別種かもしれないとも言ってた」

 

 残念ながら詳しい情報を聞く前に通信が途絶えちゃったけどと言うホシノ。その表情は今だ険しい。

 

「私は準備が出来次第出発する。シロコちゃんは」

「ん、私は残る。巨龍が向かってきてるならそれから逃げようと自然公園から生物が溢れてくるかもしれないから」

「そう、だね。うん、分かった、そっちはお願い」

「ん!」

 

 力強く頷いたシロコは先生に小さく頭を下げてから駆け出していく。恐らくアビドス自然公園へと向かったのだろう。シロコを見送った先生は自分になにか出来ることはないだろうかと問いかける。

 

「それなら先生にはシャーレとして他自治区に避難した生徒や住人たちが原因で起こる混乱や問題の解決をお願いします」

 

 これはアビドスだけではどうにも出来ない問題だからとそう言われ、先生は頷く。目の前にある最大の問題の解決に協力することが出来ないことに悔しさをにじませながら、しかしそれでも先生として、生徒たちが目の前の問題だけに集中できるように全力を尽くす。

 

 そして、もしもの時は任せて欲しいと、はっきりと言う。大人として責任を取るからと。ホシノはなんだそれと小さく笑った。

 

「なら、もしもが起こらないように頑張らないとですね。ただでさえ仕事で忙しい先生にこれ以上責任を背負わせる訳にはいきませんからね」

 

 本当に過労死しちゃいそうですしと言われ、それはいやだなと先生は苦笑。そして、先生は出来ることをするために懐からタブレットを取り出しながら早足でテントを出た。

 

「それで、便利屋には…あー」

 

 最後に残った四人に頼もうとして、しかし言葉に詰まった。よくよく考えれば彼女たちは関係ない。いくらアビドスで活動するグループとして有名だとしてもそもそも他校の生徒たちだ。本当なら避難して貰った方が良い、のだが。

 

「あら、どうかしたのかしらそんなに悩んで? もしかして私たちがなんなのか忘れてしまっているのかしら?」

 

 そんなホシノに、見せつけるようにコートをはためかせアルは言う。

 

「私たちは便利屋68! 金さえ払えばどんな依頼でもこなして見せるアウトロー! 迷う必要なんてないわ! ただ私たちに依頼すれば良いのよ! さぁ、私たちは何をすれば良いのかしら?」

 

 

「それなら私たちと一緒に船に乗って貰いたいな!」

 

 

 少し考える素振りを見せたホシノが答えるより前に、外から声が響く。視線を向ければ、肩から盾を下げた梔子ユメが真剣な表情を浮かべながら立っていた。

 

「依頼内容は巨龍迎撃作戦への参加! 成功報酬は要相談! 私たちのアビドスを守るために、力を貸して!」

「…えぇ、その依頼確かに承ったわ! 私たち便利屋68に任せなさい!」

「ありがとう!」

「私置き去りにして勝手に話を進めますねユメ先輩」

「ひぃん! ごめんホシノちゃん! でも今時間がないし」

「分かってますよ。それで、ユメ先輩がここに来たと言うことは準備が出来たと言うことですね!」

「うん! 待たせてごめんねホシノちゃん。ちょっと時間かかちゃったけど」

 

 ユメの背後、1隻の船が姿を表す。それは時代遅れな装備を搭載した、アビドスの校章を掲げた砂上船。

 

「アビドス高校特製の『撃龍船』! 何時でも出られるよ!」

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