「ひぃん、なんでこんな時に限って…っ!」
「いやこういうときだからこそでしょう! 巨大龍から逃げてるのかそれともスカベンジャー? どっちにしろ無視したら危険なのは間違いない…接触まであとどの位!?」
【流石に正確にとは言えないけど…凡そ10分後!】
「余裕が一切ない…っ!」
どうすべきかホシノは思考を巡らせる。無視するのは無い。もし巨龍から逃げているならそのままアビドスに向かってしまうかもしれないし、スカベンジャーなのだとしたらそれこそ巨龍と相対しているときに横やりを入れられたら堪ったものではない。
しかし、撃退するのも難しい。純粋に自然公園外の砂上でのガレオスは下手な大型生物よりも遥かに危険なのだ。普段ならばそこまで気にすることではないのだが、巨龍を確実に撃退する為に出来る限り消耗を避けたい。
もっともそんなことを言ってられる状況ではないのだが。
【ねぇ一つ確認したいんだけど、別にガレオスの群れは狩猟しなくても良いんだよね?】
と、通信機からミレニアムの生徒とは違う声が響く。
「君は確か、ゲヘナの」
【今はゲヘナ生としてじゃなくて『狩猟愛好会』の会員としてここに居るんだけど…まぁ今はそれどころじゃないけど、どうなの?】
「それは、勿論。目的は巨龍の撃退だからね」
そっかと答える狩猟愛好会の生徒。ただアビドス砂漠でルールとマナーを守って狩猟をしましょうと学園を問わず集まった生徒によって作られたそれに所属する生徒の一人が続ける。
【それならガレオスはあたし達に任せてくれない? 引き付けるだけなら確実に出来るだろうから…多分】
「そこは断言しないんだ」
【いやだって、なにが起こるか分からないし。断言は違うかなって】
【そこは断言すべきだと思いますわよトリニティ生として!】
【いやあたしゲヘナ生なんだけど】
「…なにをするつもりなの?」
ホシノの問いに対した事はしないと答えた。
【ガレオスたちって確か音に敏感だったよね?】
「うん、それこそ大きな音を出せばすぐに怒って襲ってくるくらいには」
【エンジンとかの音にも反応したよね?】
「それはもう…え、そういうこと?」
【…その、うちらの船にそれが積まれてるから、それ使えば他の船より先に行けるし音に反応したガレオスを引き付けられると思うのよ。さっき言ったように多分でしかないけど】
「…危険だけど、良いの?」
【巨龍に挑むのに比べれば遥かに安全でしょ】
「そう、だね。それじゃあお願い」
【お任せて、というわけだからエンジン動かして!…って、あれ? ど、どうしたの黙って?】
「どうしたの?!」
任せた直後に、なにやら問題が発生したのか困惑し様子を感じ取り問いかけるが、よく分からないとだけ帰ってきて。
【…速さを求めて生きてきた】
【どうした急に】
【良いんだね? 本当に良いんだね!?】
【いや良いと言うか寧ろ急いでるから早くしてくれ】
【そういうことならいざ行かん速さの向こう側! ジェットエンジン起動!】
【え、待ってジェットってどうい―――】
直後、1隻の小型砂上船が一気に前へと翔んだ。それはもう凄い勢いで。
「あ、アル様見てください。船が翔んでます」
「え、えぇそうね。砂の上を跳ねながら進んでるわね」
「だ、大丈夫かなホシノちゃん? あれ壊れたりしないかな?」
「そこはもう、信じるしかないと思います」
【いやどうやら大丈夫なようだ。しっかり観測できているし、ガレオスたちの反応も逸れていく…いやしかし】
「! なにか問題が?」
【私ならもっと派手に翔ばせるのになぁ! どうだろうホシノ副会長殿! 帰ったら砂上船を派手に改造して良いかな!? 具体的に言うと私たちも船翔ばしたい!】
「ダメに決まってるでしょうが」
【えぇー】
「えぇーじゃない!」
本番とも言える巨龍との対峙前だと言うのにどっと疲れた様に感じたホシノ。
「ほ、ホシノちゃん」
「今度はなんですか?!」
「なんか向こうの方でなにかが爆発した様に見えたんだけど…本当に大丈夫かな?」
「えぇー…」
ホシノにはどうすることも出来なかった。
所変わって、狩猟愛好会の砂上船。
「あっぶな!? あとちょっとエンジン切り離すの遅れてたら船ごと木っ端微塵だったよ今!?」
「むむむ、問題点が沢山出てきてしまった…あ、次これ取り付けて良い? もっと速いよこれ!」
「やめなさい! 今度は船が木っ端微塵になったらどうしますのこのおバカ!?」
「はぁー!? 誰がバカだ誰が!?」
「貴女の事ですよばーか!」
「流石に今喧嘩するのやめてくれないかなぁ!」
叫びながらも船を走らせつつ後方に視線を向ける。
そこには矢を思わせる独特な形状の魚の如き竜の群れ。先ほどのエンジンの爆発に巻き込まれて何体か離れてくれていればと思い舌打ちをこぼす。
「取り敢えずまだ距離的には余裕はあるけど…」
「だからこれ使えばもっと速くなるよ! 船壊れるだろうけど!」
「本末転倒ぉ!」
「…まぁ、最終手段ってことで」
「つまり…今っ!」
「ばーか!」
「なんだとぉ!?」
「だからやめい」
ぎゃいぎゃいと喧嘩する二人を横目にさてどうしようかと考えて。ふと、なにか音が聞こえた気がして。
「ん、なに? なにか来てる?」
「え?…あ、確かになにか聞こえますわね」
「んー? あれこれって」
直後になにかがガレオスの群れに着弾した。悲鳴を上げながら群れの内の何匹かが跳ね上がりのたうち回る。一体なにがと思っていると、通信機から声。
【失礼、なにやら危機的状況な様でしたので手助けをさせていただきましたが、よろしかったでしょうか?】
「え、あ、はい。助かりました。って誰?」
「あ、前!」
声に反応し前を見れば、悠々と砂の海を行く1隻の砂上船。豪奢なその船はトリニティのもの。
「え、なんでここ居るの?」
「さぁ?」
「きっと私たちの危機を感じ取って助けに来てくれたのですわ!」
「えぇ、いや流石に違くないか?」
「いいえ! きっとそうに決まってますわ!」
【ふふっ、ではそういうことにしましょうか】
どこか、余裕を感じさせる言葉が通信機から流れる。
【そうすれば砂嵐の中で目標を見失って迷った挙げ句いつの間にか外に出ててうまく戻れなくてうろうろしてたらたまたま見つけただけだという事実は無かった事になるでしょうからね】
「今この瞬間無理になったよ」