アビドスでの問題を起こす生徒が多い学園はゲヘナだが、出禁になっている生徒が一番多い学園はミレニアムである。
遠く、幾度となく巻き上がる砂と、時々ガレオスらしき影。なにが起こっているのかを通信機から響く声が告げる。
【というわけですので、狩猟愛好会の方々は無事でございますわ】
「そっか、ありがとう」
【当然の事をしたまでの事ですわ。それでは我々トリニティはこのままガレオスを迎撃いたしますわ。下手な横やりは許しませんので巨龍に集中してくださいませ】
「うん、気を付けてね」
【言われるまでもありませんわ。そちらこそお気をつけて】
短く、だがしっかりと言葉を残し、通信が切られる。ホシノは、ふっと息を吐いて。
「…すっごい助かったけどなんであそこに居たんだろ?」
いや、気にする事ではないと軽く頭を振って切り替える。
「なにかガレオス以外に異変は起きてない?」
【今のところは、強いて言えば想定より砂嵐の規模が大きい事位だね。予定より砂嵐への突入が早くなるかも…ちょっと待っててすぐに計算し直すから】
そう言って通信機越しに聞こえる慌ただしく動き回る音に耳を傾けながら武器を手に取り最終確認、問題なしだと頷いて見渡す。同じく確認をしてる便利屋に、物資を運んでいる生徒たちの後ろをひぃんひぃん言いながらノロノロついていくユメ、が抱えていた箱を盛大に落とした。
「ちょ、こんな時になにしてるんですか」
と、呆れたように、しかし何時もと変わらないユメに仕方ないと言った様子で近づき。
「なにか来てる!」
何時も通りの先輩の何時もと違った声に反射的に武器を構えホシノはユメと同じ方向をみる。見えたのは船に向かってくる巨大な岩。
「んな!? 迎撃!」
「駄目間に合わない!」
全力で走り肩から下げた盾を展開し、飛来した巨岩を正面から受けて吹き飛ばされるユメ。
「ふんぐぅえっ?!」
「ユメ先輩!」
「ま、待ってホシノちゃんまだ来る!」
その言葉に、ばっと視線を砂嵐へと向ける。視界に映るのは壁のごとき嵐を突き抜けて飛来する幾つもの巨岩で、内二つは撃龍船に直撃コース。
「任せて頂戴!」
だが、その声が響くと同時に銃声が一つ、二つ。それは陸八魔アルによる狙撃。正確さと威力を持った射撃は確かに巨岩を砕いて見せた。
「助かったよ! これだけでも君たちに頼んだ甲斐があったって言える位には!」
「そう、なら報酬にはその分だけ色をつけてくれる事を期待するわね」
そう自信に満ちた笑みを浮かべ、内心でこれでもかと冷や汗を流すアルに勿論と返しながら通信機に駆け寄る。
「被害状況は!?」
【異常無し!】
【ごめん直撃した! 今修理中!】
【揺れにやられて弾の入った箱の幾つかが落ちた!】
【こちらミレニアム。船に損傷は無し…だけど、今のなに!? もしかして攻撃!? モーランからの!? いやでも流石に無理だって!?】
次々と届く声が悲鳴のごとく響き渡る。
「ひぃん、どうしようホシノちゃん!? 一旦離れる…のは無理だよね!」
「落ち着いてくださいユメ先輩! それと離れるのは無理って言うのはその通りですよ! というか下手に離れようとしたら余計危険」
「先輩、砂嵐が!」
声が届く。なにかが起きている、それを確認するために視線を砂嵐へと向け。
「――は?」
砂嵐が、間近に迫っていた。
【な、んだ今のは!? 砂嵐が一気に膨れ上がった!? なんで!?】
「っ! 砂嵐突入までの猶予は!?」
【待って今計算、してる暇無いし不確定要素が多すぎる!? あぁもう多分秒読み!】
「それだけ分かれば良いよ! みんな、ゴーグルとマスクは!?」
「私たちは問題ないわ!」
「ちょっと待ってさっき吹っ飛ばされたときにゴーグルがどっか行っちゃった!」
「先輩これ!」
「! ありがとう! 私も大丈夫だよホシノちゃん!」
「分かりました!」
ホシノは通信機に駆け寄り叫ぶ。
「みんな衝撃に備えて!」
その言葉が届いた直後、砂上船は嵐に呑み込まれた。衝撃と、砂の雨。尋常ではない勢いで叩きつけられる砂に船は軋む音を響かせ、それでも進む。反射的に目元を庇ってしまったホシノは確認のために前を向いて。
巨大な壁の様な何かと目があった。
「…は?」
何度目かの、呆けたような声。一瞬、それがなんなのか理解できず、壁の様ななにかが身じろぐ姿を見て漸く生物である事を理解して。それの体から撃ち上げられた巨岩を見て正気を取り戻した。
「っ!? 回避ぃー!」
「無茶言うじゃんもう!」
ホシノの悲鳴のような叫びに操舵を任された生徒が動く。軋む音をたてながら撃龍船は動き、真横に岩が着弾。凄まじい勢いで砂が弾け、甲板に叩きつけられる。
「ぁぐっ! 皆、無事!?」
「なんとか!」
帰ってきた声に安堵しつつ、纏わり付く砂をはたき落とす、と通信機から悲鳴のような声が響く。
【いや、いやいやいや。なにこれ本当に生物なのこれ!? 初めてジエン・モーラン見たときも大概だと思ったけどこれはその比じゃない、大きさが平均の倍はあるぞ!? というかこいつなに!? 特徴がジエン・モーランのそれと一致してない! あれ、ってことこいつ新種? まじかやったー! 素材採取お願いします! あと命名は私にやらせて! ばか野郎そこは部長である私がするんだよ! 横暴だー!】
「この状況でぶれないのいっそ尊敬するけど後にしてくれないかなぁ!?」
ただし悲鳴は悲鳴でも嬉しい悲鳴の類いだった。思わずツッコミながらも違う意味で頼もしさを感じたホシノは改めてそれを見て。
「ただ、名前はもうあるから命名は無しで」
【まじ!? 新種じゃないってことか? いや観測はされていたが接触が初めてと言うことだろう。なら教えてくれ、こいつはなんなんだ!?】
視界を埋め尽くすほどの何か、それがなんであるのか。あまりに特徴的なジエン・モーランの持つ二本の牙とは違う、巨大な1本の角を持つそれの名は『ダレン・モーラン』
「まぁ、もっとも私が知っているのはもっと小さかったんだけどね」
と、ホシノは呟く。そして同時に改めて思い知らされた気分だった。
人の常識や予想なんてものは自然は容易く越えていくものなのだと。
・Q、結局なにが起こったの?
・A、地震止めるためにラギアクルス討伐に行ったらナバルデウスが居た感じ。