「くそぉ、本当に堅いなこいつ、流石に腕が疲れて来た…ん? あれ、お前は便利屋の浅黄じゃないか。なんでこんな所に居るんだ?」
言いながら首を傾げるゲヘナ風紀委員会の生徒。ゴーグルにマスクを身に付けた状態でピッケルを肩に担いだ姿が完全に不良のそれだが、それらを取り締まる側の立場の生徒である。
「くふふ、ちょっとねぇ♪ むしろあなたたちの方こそどうしてここにいるの?」
「いや船がこいつに壊されてな。そのまま砂漠に投げ出され流されってなるのも癪だから気合いでこいつの体にしがみついてここまでよじ登ってきたんだよ」
「そっかぁー」
と、一言で流すムツキ。ゲヘナ的には別に驚く事ではない様だ。
「あぁそうだ。なにか武器になるものを貸してくれないか? 流石に銃は弾切れ、ピッケルもほとんど壊れてしまってな。このままだと全員で殴りかかる羽目になりそうなんだ」
「それなら良いのがあるよ」
楽しげにムツキは鞄を下ろし、ほらと中身を見せる。そこには鞄一杯に詰め込まれた爆弾。
「なるほど、これを爆破しようと言う訳か!…いやだが、足りるか? かなり堅いぞこいつ」
「それならあなたたちの分も一緒に爆破すれば良いじゃん」
「は? 私たちの分ってさっきも言ったがもう」
「いやいやいや、あるじゃん。とびっきりの爆発物がさ♪」
言って、ムツキは指差す。どれの事を言っているんだと視線を向けるとそこにあったのは。
プカプカとこの場にいる人数分、浮かんでいるミレニアム製の狩猟補助用ドローンだった。そう『ミレニアム製』の、である。
「…あぁ、なるほど。そういうことか」
「そういうことー!」
そう言って二人は、いやその場にいた話を聞いた全員がなんとも悪魔らしい笑みを浮かべ。
大爆発。
盛大に吹き飛ぶダレン・モーランの背甲。今までとは違う、明確に痛みを訴える悲鳴を響かせる。
「なにごと!?」
「この爆発、もしかしなくてもよね!」
驚くホシノとなにかを確信しているアル。そこに、声が降ってくる。
「アルちゃーん!」
「! やっぱり貴女だと思ったわ!」
言いながら勢いよく見上げるアルの視線の先には。
「受け止めてー!」
「やばい落ちる場所間違えたら死ぬぅ!?」
「砂がすげぇ痛い!」
「退いて退いてー!」
「うぅおおおおおおお風紀魂ぃいいいい!」
「せんぱぁあい! たすけてぇえー!?」
「なんかこう、良い感じに殴れ!」
「なにをだよぉおおお!? さっきからなんも考えてねぇだろお前ぇええええ!」
「ムツキってなんか一杯居るぅ!!!? ふげぇ!?」
「あ、ごめんアルちゃん大丈夫?」
次々とダレン・モーランから落ちてくる生徒たち。ムツキはアルの上に落っこち。あるものは顔面から、またあるものは背中から、そしてあるものはタイミングよく拳を叩きつけることによって衝撃を殺し見事に着地して見せた。
「あ、なんか出来た。出来ましたよ先輩!」
「え、なんで出来るの?…こわ」
「貴女たちはゲヘナの!? なんで上から、って今はどうでも良いか。とにかく無事でよかったー!」
と、喜ぶユメの言葉はしかし、のし掛かるように降り注ぐ重圧によってかき消される。
見られていた、自分達がダレン・モーランに。最初の時の様に目があったと感じだけと言うわけではない。確かにその瞳で見ている、確かな敵意を宿しながら。
「あれ、これもしかしてやばい?」
思わず呟いたホシノの言葉に答える様にダレン・モーランは咆哮する、今まで以上に強く、世界全てを震わせるように。そして勢いよくその巨体を捩り、回転するように砂漠の下へ、下へと潜っていき…やがて姿を消した。
今度こそ逃げた、と思うものは居ない。今だ息が詰まるほどの重圧が向けられ続けているから。必ず、来る。敵だと判断したのならば、襲い来る。ならば何処から来るのか、もしも船の真下から来られたらどうしようもないがと皆が思った瞬間。撃龍船の前方、砂漠が弾け飛んだ。
ダレン・モーランが正面から突っ込んできた。
「っ! 回」
「いいえこのままよ!」
ホシノの叫びをアルがかき消しながら走る。向かう先は撃龍槍の撃ち出す為のトリガー。
「角度的に難しいと思ってたけど、まさか相手の方から動いてくれるとは思ってなかったわ!」
「い、いや、いやいやいや流石に無理! 条件が悪すぎる!」
それは悲鳴の様な叫びで、事実だった。正面のダレン・モーランは暴れる様に左右に巨体をうねらせ砂を巻き上げ位置と距離を惑わせ、砂の海にを荒れ狂わせ撃龍船はまともに真っ直ぐ進むことも困難な状況だ。
「…ねぇ、ムツキ、カヨコ、ハルカ」
「なぁに?」
「どうしたの社長?」
「な、なんでしょうか?」
「あぁ言ってるけど、貴女たちは私が外すと思う?」
『思わない』
「えぇ、なら外しはしないわ!!」
眼前、弾け生まれた砂の壁を突き破り、その巨大角をもって全て破壊せんと姿を表したダレン・モーランに向かい。引き金を引く。
軋み、唸り、放たれるはダレン・モーランの角にも負けぬ巨大槍。陸八魔アルの言葉を、便利屋の信頼を表すようにそれはわずかに跳ねたダレン・モーランへと突き刺さる。
だが、浅い。
威力の問題ではなく、純粋な大きさの違い。ダレン・モーランが余りにも巨大過ぎたゆえに深くまで届く前に止まったのだ。故に怯むこと無く向かい来るダレン・モーランを前に、撃龍船はただ。
全速前進。目標は…ダレン・モーランに突き刺さった、撃龍槍。
「押し込めぇええええええええええええええっ!」
誰かの叫び、いや誰もが叫び、誰も怯むこと無く撃龍船を叩きつける。船が歪み、壊れていく。バキバキと破滅的な音を轟かせ、ダレン・モーランの突進すら利用して、さらに奥へと押し込み。
「私たちは便利屋68。金さえ払えばどんな依頼も完璧にこなして見せるアウトロー」
彼女が、銃を構える。
「その言葉に、二言は無いわ!」
狙い撃つ。真っ直ぐと、向かう先は、撃龍槍の突き刺さる甲殻、その亀裂。直撃し、炸裂。小さな音と共に弾けた甲殻、それが最後の一押し。
撃龍槍が、ダレン・モーランを貫いた。
絶叫、悲鳴、あるいは断末魔が木霊する。痛みと衝撃に大きく仰け反り、壊れかけの撃龍船から逸れる。もはや進むことの出来ない撃龍船はその動きを止め、ただ見ることしか出来ない。悶えながらもダレン・モーランがそれでも進む姿を。
逃れるように、アビドスから離れていく姿を。
どれだけ時間が経過したのかも分からぬ状態で、上手く行ったのか判断出来ずに居た彼女たちは、それを見てフッと息を吐いた。
青空だ。
壊れてしまった撃龍船の上、誰もが見上げている透き通るような青空は…嵐が去ったことを告げていた。
ダレン・モーラン…迎撃成功。