アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第26話

 アビドス壊滅の危機は去った。

 

 だが、これで終わりではない。むしろここからが本番と言えるだろう。何せ、アビドス砂祭りは終わっていないのだから。ならばすべき事は一つだけ。

 

 

 

 全力で祭りを楽しむ事である!

 

 

 

「おらぁ!」

「んにゃー!?」

 

 勢いよく腕を叩きつけられそのまま一回転しながらすっ転ぶトリニティの生徒。勝利と喜び叫ぶゲヘナの生徒に歓声が飛ぶアビドス砂祭りの名物の一つ、腕相撲大会だ。

 

 始まりは人が沢山集まった際にテンション上がってやってみたら楽しかったとか言う適当極まるものだったそれは、今や多くの観客で賑わうイベントと化していた。

 

「しゃあおらぁ! これで二勝目じゃー!」

「良いぞー! 勝ち進んでいけぇ!」

「トリニティも頑張れー!」

「二連敗とかどうしたよおい! ゴリラが居ねぇからって腑抜けてんのか?」

「はぁー!? なにをミカ様をゴリラ呼びしてますの!? あの方がゴリラ程度で済むと本気でお思いですの!? 失礼極まる発言も大概にしてくださいませんことぉ!?」

「え、いやお前の方が大概な事言ってるの気がついてるか?」

「ふ、そんなこと百も承知ですわ!…なので出来れば聞かなかったことにしていただけると」

「いや無理だよここにどれだけ人がいると思ってんだよ」

「く! こうなったらここに居る全員の記憶が飛ぶまでぶん殴るしか…!」

「やめろよ!? あぁもう、例のファウストといいお前といい。実はあたしらよりお前らトリニティの方がやばい気がしてきたわ」

 

 なんて、会話が歓声に飲まれていく。どうやら他の人たちは大会に夢中で聞いていなかったようだと、二人してほっと息を吐いた。それぞれが違う理由なのは言うまでもない。

 

 その光景を少しはなれた場所で、野外での食事用にと設置されたテーブルに座りながら先生は眺めていて。

 

「んっ!」

 

 隣に座っていたシロコがむしゃむしゃとポップコーンをひたすら口に放り込み続けていた。見るからに不機嫌そうな彼女に、なにかあったのかと対面に座っているアヤネに問いかけると困ったように笑いながら答えた。

 

「えっと、先生が出掛けて直ぐにシロコ先輩の心配が的中してですね。自然公園内で大きな生物の移動が確認されたんですよ。幸い、大型ではなく小型の生物ばかりでしたので対処は容易だったんですが」

 

 すっと、視線をそらす。

 

「その…小型生物の大半がクンチュウだったもので」

 

 四方八方から突進される羽目にと言ったところでシロコが勢いよくポップコーンの入っていたカップを握りつぶした。

 

「クンチュウ、嫌い!」

「実際、痛いとかまずいとかっていうのより先にうざいって感じになるのよねあいつら」

 

 と、いつかと同じ言葉を強く言葉にするシロコに同意するように焼きそばを啜りながら言う。

 

「それにしても、なんで大型生物は反応なかったのかしらね?」

「…そう言えば、そうですね」

「ん、そもそもダレン・モーランもなんでアビドスに向かってきてたのか謎」

 

 何時もはあそこまで真っ直ぐ向かってくることはないのにと。案外別種だからということかもと先生は思うが、断言は出来ない。何せ知っていることが少なすぎるからだ。

 

 だから結局、なんでだろうと首を傾げることくらいしか今は出来ないのである。だが、あるいはとボソリッとシロコが呟く。

 

 

「ユメとホシノ先輩なら、なにか分かるかも」

 

 

 

 

 静かな教室に、紙を捲る音がする。

 

 そこは喧騒、賑わいから外れたアビドス高校の生徒会室。椅子に座っているユメが古びた、或いは使い込まれた本を読んでいた。

 

「あぁ、やはりここに居ましたか」

「あれホシノちゃん、どうしたの?」

 

 本から顔を上げ、生徒会室に訪れたホシノを見る。

 

「いえ、何時もなら率先して砂祭りを見て回っている先輩が見当たらなかったので…また懐かしい物を見ていますね」

「あははは、ちょっと気になってねー」

 

 言いながら、キヴォトスでは見ることはまず無いだろう未知の言語が記されている…嘗てアビドスを救ってくれた恩人が譲ってくれた大切な宝物を撫でる。

 

「ほら、ダレン・モーランの事とか。なんでここを目指してたのとか以前の事もあってなにか分かるかなってさ」

「なるほど、確かにそうですね。なにか分かりましたか?」

「なんにも分からなかった!」

「………」

「あ、待ってホシノちゃん。無言で札を取り出さないで!?」

 

 ひぃんと泣きながら『私は考え無し生徒会長です』と書かれている札を取り出そうとするホシノを止めるユメ。はぁとホシノは深くため息を吐いた。

 

「それで、本当になにも分からなかったって訳ではないですよね?」

「ううん、それは本当…これにもそれらしい事は書いてなかったよ」

 

 その言葉に、ホシノは壁にかけられた写真を見る。現アビドス三年生と、大人たちが笑顔で鯨のような不思議なデザインの船をバックに写っている写真を。

 

「私たちよりもずっと深く、広くあの生き物たちを知ってるあの人たちでも知らない事ってあったんですね」

「…むしろ逆なのかもね」

 

 パタンと、本を優しく閉じながら言う。

 

「私たちが思っている以上に、あの人たちも知らない事ばっかりだったんだろうなって」

「かもしれませんね」

 

 すっかり日が落ちて暗くなった空に、花火が咲く。遠く聞こえる歓声に耳を傾けながらユメがホシノを見る。ホシノもまたユメを見る。

 

「ねぇホシノちゃん」

「なんですかユメ先輩」

「ダレン・モーランの事、探してみない?」

「今回撃退した個体ですか?」

「うん、なんでここを、アビドスを目指してたのか知りたいなって」

「…まぁ、そうですね。これからの事を考えても調査は必要でしょうね」

「でしょう?」

「その分仕事が増えるでしょうが頑張ってくださいね」

「ひぃん」

 

 なんて言いながらも、ユメは満面の笑みを浮かべて居て。

 

「…ねぇホシノちゃん」

「…なんですかユメ先輩」

 

 

 

「自然って、すごいね」

「今更過ぎません?…ただまぁ、その通りですね」

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