アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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風紀委員モブちゃんのアビドスでの日常。


アビドスの日常
第27話


 ゲヘナ風紀委員会所属生徒たちの朝は早い。

 

 その中でも数人は特に早く起き、仕度し出掛ける。

 

 

 何故なら彼女たちが向かうのはゲヘナ学園ではなく、アビドス自治区だからである。

 

 

「あー…はよぉ」

「おはよー眠そうだねー」

「深夜にあたしの寮の近くで温泉の連中が暴れやがって寝るのが遅くなったんだよぉ」

「うわぁ、ご愁傷さま。みんな捕まえられた?」

「そりゃもう、寮で寝てたやつらが全員ぶちギレて手貸してくれたからね。むしろ落ち着かせるのに時間かかったくらい」

 

 まだ日が昇りきらず薄暗い駐車場で、幾人もの風紀委員が車両の前で屯しながら会話をしている。そこに向かって軽く体を解しながらまた一人は近づいてくる、とそれに気がついた一人が軽く手を振って見せた。

 

「おはよう。今日はちょっと遅かったね? あ、サンドイッチ有るけど食べる?」

「うぃおはよう、あと別に遅くは無くない? むしろあなたたちが早すぎる気がするが? あ、サンドイッチは貰う」

「まぁ、確かにそうだね。はいよツナサンド」

「…お前、さては苦手なの押し付けたかっただけだな? いやまぁ別に良いけど」

 

 テヘッなんて態々言いながら舌を出して見せた同僚にため息を吐きながらもサンドイッチを口にする。微妙にマヨネーズの味が強い気がするそれをモソモソと食べる様子を見ながら問いかける。

 

「あたしたち、今日は確か化け鮫横丁担当であってたよね?」

「んむ? ん、あぁ合ってるよ。アビドスでは割と問題が起こりやすい場所だから気を引き締めて行かないとだね」

「だねぇ、気を抜くと直ぐお腹鳴っちゃうし」

「…まぁ、そうだね」

 

 美味しそうな匂いという下手な不良以上の強敵の事が頭に浮かび、急いで振り払うように頭を振ってからサンドイッチを口に詰め込む。

 

「ごめん、もう一つ貰って良い?」

「いひひひ、良いよ。同僚を規則違反者にするわけにはいかないからねー」

 

 その言い方はないだろうと思いながらも、誘惑に勝てるか分からなかったので無言でサンドイッチを受けとるのだった。

 

 

 

 

 ゲヘナ風紀委員会から見てアビドス自治区は平和そのものである。それはゲヘナと比べれば、という話ではなくキヴォトス全体で数えても1、2を争うほどの治安の良さを誇っている。他自治区から多くの人が訪れているのにも関わらずだ。まぁこれに関してはキヴォトス全体の治安が相当にあれだからなのだが、そこに思い至った時点で考えるのを止めた。ちょっと悲しくなったから。

 

 とはいえ、他自治区に比べて平和ではあるが問題が起こらない訳では勿論無く、違った意味で危険であることは間違いない。本来なら治安維持をすべきアビドス高校がそれどころではない位に忙しいことを知っているゲヘナ風紀委員たちはその名を汚すことの無いように懸命に治安維持に勤めていた。

 

「ヘェーイ!」

『アッアッオーウ!』

 

「…相変わらず無駄に良い動きしてるなぁ」

 

 場所はアビドス化け鮫横丁の野外飲食スペース。いつの間にか設置されたお立ち台の上で良く分からない躍りを披露しているジャギィフェイクを身に付けた集団を見ながら呟く風紀委員の生徒は銃を肩に担ぎながら眺めていた。

 

「お待たせー、確認とれたよー、今回は許可だしてるって。暴れてたり道のど真ん中で踊ってない限りは大丈夫だって」

「そっか。それなら次行こう」

「だねー。それじゃ問題起こさないようにねー」

 

 ぱたぱたと軽くフェイク集団に手を振りながら巡回を再開する。

 

「んー、取り敢えず問題無さそうだねー」

「だな。ゲヘナもこうなら…いや無理か」

「だろうねー。あ、そうだ飲み物有るけど飲む?」

「あぁ、ありがと…ん、美味しい」

「ねぇー…はぁ、冷たくて美味ー。やっぱり狩猟補助ドローンは便利で良いねぇー」

「ほとんど狩猟以外の目的で使ってるけどね、あたしたちは」

 

 チラリと自分と同僚の横に浮かぶ新品のドローンを見る。

 

「そだねー。でも仕方なくない? 冷蔵庫代わりにも電子レンジ代わりにもミキサーとしても使えるんだから」

「出来ること羅列すると本当にハイスペだよねこれ。自爆機能も何だかんだこの前の砂祭りで思いっきり有効活用したからね。要らない機能無いかもしれないわね」

「だねー、新品貰うまでの間釣りに行った時不便で仕方なかったよー」

「あぁそれでこの前の休日すっごい不機嫌そうだった訳か」

 

 そうそうと言いながらほいと飲み終わったゴミをゴミ箱に放り込む。

 

「ふぃー、それじゃあ巡回の続きと行こうかー」

「ん、そうだね」

 

 気合い入れ直して周囲を見渡す。砂祭りの興奮も落ち着き、日常に戻った様子を眺める。

 

「やっぱりここって平和だよな」

 

「んだとおらぁ!?」

「やんのかおらぁ!?」

 

「…これあたしがフラグ的なの言ったから?」

「違うと思うけどタイミングが凄いねー」

 

 噛み締めるように言った直後に騒動、スンッと表情が抜け落ち視線を騒ぎの方へと向ける。店の前、そこにいるのは二人の不良。キヴォトスのどこにでも見れるヘルメット団とスケバンがお互いに胸ぐらを掴み合っていた。一触即発、この様な状況に陥った不良が次ぎにどうなるのかはキヴォトスでは火を見るより明らかで。二人の不良は、勢い良く己の愛銃を手に取り。

 

 

 よいしょと脇に置いた。

 

 

「しゃぁおらぁ! あたしの腕力で黙らしてやんよ!」

「ばーか! なにが腕力だ、世を制するのは技術なんだよぉ!」

 

 なんて言い合いながら店の裏側に置かれていたドラム缶を運んできて…腕相撲を始めた。

 

 他自治区では間違いなく銃撃戦に発展していただろうが、例外と言えるここアビドスではそうはならない。正直、アビドスで活動している不良たちがなんで喧嘩代わりに腕相撲をしているのかは風紀委員の二人にはよく分からない。

 

 分からないが。

 

「ん? あ、お前良いところ! 審判頼むぜ!」

「はっはぁ! レフェリーが来たんだ。下らねぇ負け惜しみはよしてくれよなぁ?」

「うるせぇ! お前こそレフェリーにワンチャン懇願の準備しておくんだな!」

「風紀委員を指してレフェリーって呼ぶのやめてねー? 違うからねー?」

「あ? 違うのか?」

「え、まじ!?」

 

「いやほんとにさー! 風紀委員なんだと思ってるのー!?」

 

 全くなんて呟きながら、変に話が拗れるよりましかと同僚が言われた通り審判役を受け持つ。それを見ながら周囲を警戒しつつ思う。

 

 

 やはり、アビドスは今日も平和である。

 

 

「ファイ!」

「おらぁああ!?」

「ぐわぁー!?」

「一瞬で吹っ飛んだー!?」

「え、よっわ!? まじ!? 腕力云々なんだったの!?」

「ふ、ふふふ、ついにあたしを越えたんだな。教える事はもうなにもねぇ」

「どこから目線の言葉なのそれ!?」

 

 

「…本当に、平和だなぁ」






・不良が腕相撲する理由。

 アビドスにおいて武器とは強力な野生生物に向けられるものである。そして基本的に野生動物は自分達よりも強い。そこからとある不良が思い至った。

「じゃあ武器向けるってことは自分より相手の方が強いって認めてるようなものでは?」

 その考えは、アビドス在住の不良たちにビックリするくらいあっと言う間に広がり、自分の方が弱いと認めるみたいでなんかムカつくよなぁ! となった結果、アビドス内でだけ自分から武器を持ち出すのはダサいからなしという思想が広がったらしい。実際のところ、どうなのかは不良たちのみぞ知る。

 なお、銃撃の代わりに腕相撲をするようになった理由はその場のノリと勢いらしい。

 一説には第三回腕相撲大会で起こった『謎のプリティプリンセス』と『伝説のスケバン』による三日三晩の死闘が関係しているのではないかとも言われている。
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