アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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便利屋68狩猟日誌『岩の流した涙を求めて』


第30話

 夜のアビドス砂漠自然公園にて、ベースキャンプでパチパチと跳ねる焚き火を眺めているのはアビドスでも名高き狩猟チーム、便利屋68の社長『陸八魔アル』。

 

 彼女は今…割と気の抜けた表情を浮かべながらカップ麺をズルズルと啜っていた。

 

「はぁふぅ…やっぱり砂漠の夜は冷えるわね」

「それでも今日はまだましだけどね」

「あ、お帰りなさいカヨコ」

 

 貰うねと言ってカヨコは鍋を手に取り、お湯をコップに注ぎ一口。

 

「はぁ…疲れた」

「お疲れさま、それでどうだった?」

「全然」

 

 折りたたまれていた椅子を取りだし座る。

 

「ムツキは?」

「先に休むって…私以上に疲れてたみたい。社長の方こそ、どうだった?」

「こっちも同じ感じね。ハルカも頑張ってくれたんだけどね」

 

 トンッとカップ麺を地面に置き、ため息一つ。

 

「しかし、見つからないわね」

「まぁ、そうだね」

 

 言いながら、肩を竦める。

 

 

 

「『バサルモス』の狩猟。分かってたことだけど、そもそも発見自体が簡単じゃない…か」

 

 

 

 それは数日前の事。アビドス自治区のゲストハウスの一つ。一見して中程度のランクのハウスでしかないそこは、便利屋68の事務所兼住居である。

 

「…えっと、なんて?」

 

 きちんと清掃は行き届き『一日一惡』と書かれた掛け軸が堂々と掲げられている応接室にて、便利屋の社長たる陸八魔アルは、依頼をしに来たと言う目の前の生徒に問い直す。

 

 問いを返されたトリニティの生徒、『浦和ハナコ』はしかしそうなると分かっていた様子で再び依頼内容を口にする。

 

「岩の涙という見せてもらった物がとても綺麗だったからとってきてほしい、と頼まれまして」

「ん、んー?」

 

 首を傾げるアル。少し考えてから、視線を顔をしかめているカヨコへと向けた。

 

「えっと、岩って泣くものだったかしら?」

「泣いてるみたいな音が鳴る岩や石っていう物ならともかく流石にないと思うよ社長」

「そ、そうよね…え、それってありもしない物を取ってこいってこと!?……どうしようもないじゃないの!?」

「いや、そういう名前のなにかってだけで本当に涙って訳じゃないと思うよ」

 

 目を向くアルに、はぁとため息を吐きながらカヨコは視線をハナコに向ける。

 

「…そういうことで良いんだよね?」

「はい、頼んできたお人は宝石の類を集めるのが好きなだけの綺麗な羽に相応しいお人ですのでその通りかと」

「そ、そう」

 

 その言葉に込められた意味を察して、カヨコは僅かに頬をひきつらせる。アルは普通に好い人なのね頷いた。それにと、ハナコは話を続ける。

 

「文字通りでもあり得ないものでも無い可能性があるんです」

「え、あるの? 涙を流す岩って」

「正確には涙を流すかもしれない岩の様な生き物、です」

 

 と、言われなんの事かと考えて…あ、と声をこぼす。

 

「もしかして『バサルモス』の事?」

「はい」

「あぁ、成程」

 

 納得いった具合で頷きながら岩そのものな見た目をバサルモスの姿を思い浮かべる二人。

 

「実際はどうか分からないけど、そうと言えるものが採取できる可能性は十分ある…かな?」

「えぇ、まだまだ不明瞭な部分が多いのでありえると判断してます」

「成程ね! それなら問題無いわねその依頼」

「待って社長」

「うけぇえ?! な、なにどうしたのよ?」

 

 珍妙な声を溢しながら視線を向けてくるアルを横目にカヨコは問いかける。

 

「なんでうちに依頼するの? 自分達でもどうにか出来る範疇だと思うけど」

「そういえば、確かにそうね。謎のプリティプリンセス☆クルルンさんも居るし…あ、もしかしてこうアウトロー的な表に出せない事態が関わってるとか!?」

 

 と、若干興奮しながら前のめりになるアル。それを見ながらわざとらしくハナコは声を潜めながら言う。

 

「はい、実はかなり裏が垣間見える依頼なんです」

「や、やっぱりそうなのね!」

「社長…」

 

 呆れた様子のカヨコに、軽く手を振りながらハナコが言う。

 

「いえ、冗談の類いでは無いんですよ。気になる事もありますから」

「き、気になること! なにかしら!」

「先程も言いましたが、依頼主曰く岩の涙という物を見せてもらった際に綺麗だと思ったから取ってきてほしいと」

「えぇ、確かに聞いたわ。けどそれの何が問題が?」

「もしもでしかありませんが、その見せてもらったと言う岩の涙が本当にバサルモスから採取出来る物だった場合。その存在が知られていないの可笑しい事だとは思いませんか?」

「それは…あ、確かにそうね。基本的に砂漠に生息する生物関係の記録は全部アビドスが管理してる筈だし」

「はい。その上、基本的に許可さえ取れば余程のものでない限りは閲覧出来ます。そしてバサルモスの素材はその余程の分類に入るものではありませんので、ますます知られていない事が可笑しい」

 

 つまり、何が言いたいのか。

 

 

「密猟されてる…」

 

 

 カヨコの言葉にハナコは頷く。何時かの薬草と同じで、しかし違う意味で大問題だった。

 

「って、だとしたらまずいじゃない!?」

「いやまずい所の話じゃないよ社長」

「はい、なにせバサルモスからは極めて強力な毒が採取可能です」

 

 それこそ、扱いを誤れば…人を殺せる程の毒が。

 

「今回の件がどこまで根深いのか、まだ調査中な上、クルルン様に頼むことは出来ません。非常にめんどう…失礼、しがらみが多いですから…あるいはあの方に動いて貰うこと自体が目的の可能性もあります。それも、断言は出来ませんが」

 

 純粋に、推測するにも情報が少なすぎる。全て思い過ごしであれば良いがそうでなかった場合を考えれば思いきって動けない。と、そうハナコはどこか申し訳無さそうな、けれど真剣な表情を浮かべながら言う。

 

 それを見て、カヨコはアルに問う。

 

「どうする、社長?」

「ふふん、そんなの決まってるでしょう?」

 

 立ち上がり、ハンガーにかけられたコートを勢いよく羽織る。

 

 

「その依頼、確かに引き受けたわ! 便利屋68に任せなさい!」

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