アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第31話

 当然の事だがアビドス砂漠の昼は、暑い。

 

 準備を怠れば、いいやどれだけ準備したところで足りぬ灼熱の地。ただそこに居るだけでも体力を削り落とされていくそこでアルとムツキの二人は、しかし暑さ以外の理由でも体力を消耗していた。

 

 岩に向かってひたすら石を投げつけるという作業によって。

 

「次はここだっけ?」

「えぇ、ここはまだの筈よ」

 

 二人が現在居るのは大小様々な岩が転がり埋まる広場。軽く見渡して懐からスマホを取り出し周辺の写真を撮ってからそれじゃあとアルが武器を構え、ムツキが落ちていた石を拾い上げると。

 

「よいっしょ!」

 

 力一杯、岩に向かって投擲する。ゴォッと石は突き進み岩へと叩きつけられ、罅を残して砕けた。緊張した様子で武器を構えていた二人は、暫くしてからふっと息を吐いた。

 

「違ったねー」

「みたいね」

 

 カチカチと記録を録ってから流れた汗を拭う。

 

「流石に、ここまで見つからないと気が滅入ってくるわね」

「だねぇ。もっと簡単に見つかれば良いのにね」

 

 バサルモス。それは岩に擬態する生態を持つ生物。そのクオリティは凄まじく、ミレニアム製のドローンですら正確には未だ見分ける事が出来ていないのである。まぁその理由は単純なデータ不足というだけなのだが。

 

「はぁ、それにしても…本当に見分けがつかないわね」

「だねー」

 

 なんて事良いながらアルはちょっと休憩と近場にあった岩に背を預け…カラリと石が落ちる。

 

「あ」

「え、なにどうしたのよ?」

 

 困惑するアルを横目にムツキは素早く武器を構え、同時に微かに辺りが揺れて。

 

 

 

 すぐに収まりなにも起こらなかった。

 

 

 

「もうアルちゃんってば、そこは何時もみたいになにか起こるところでしょー!」

「いや、いやいやなんで不機嫌になるのよ!? というか何時もみたいにってなによ!? そんな風に言われるほどなにかあった!?」

「同じような事してバサルモスに襲われた事とか」

「んぐぅ!」

 

 そう、実は過去に今アルがしているように休憩しようと岩に背を預けたらそれがバサルモスだった、という出来事があったのだ。故に同じような事が起こるのではとムツキは僅かな期待と、それ以上に警戒していたのだ。なにも起こらなかったけれど。

 

 同じ失敗を繰り返す所だったかもしれないと申し訳なさそうにするアル。だが次こそは気を付けようと頬を軽く叩き気合いを入れ直す様に空を見上げる。雲一つ無い痛いほどの青空に一匹の鳥が何処かへと飛んでいく姿が見えた…なんか鳥にしては大きいというか形が違う気がしたが。正直、アビドス砂漠ではそういうのが多すぎて判断に困る所である。

 

【社長、今大丈夫?】

「あら、カヨコ。大丈夫だけどどうかしたの?」

 

 と、その時カヨコから通信が入る。どうかしたのかとアルは首を僅かに傾げ、あっと思い至る。

 

「もしかしてバサルモスが見つかった?」

【うん、見つかった…見つかったんだけど】

「? なにか問題でもあったの?」

 

 どうにも歯切れの悪い様子に問いかけると答えが帰ってきた。

 

 

 

【見つかったの…バサルモスの死体だった】

「…はい?」

 

 

 

 連絡から数十分後。別行動を取っていたカヨコとハルカの二人と合流したアルとムツキ。こっちと案内された先には、確かに横たわるバサルモスの死体があった。

 

 周囲を警戒しつつ調べる。今も流れ出ている血が、まだ死んで間もない事を示していた。

 

「これって…もしかして密漁者が?」

「多分…違う。近くに密漁者が居たなら発砲音が聞こえた筈」

「そう、よね」

「それに…」

 

 言いながら、バサルモスの死体に触れる。

 

「このバサルモス。切り殺されてる」

「…やっぱり気のせいじゃないのね、これ」

 

 改めて見る。頑強である筈のバサルモスの甲殻に切り傷が刻まれていた。はっきりと異常と言える状態だった。こんな事が出来る存在は、少なくともアルは知らない…いやまぁ出来そうな存在は居るには居るが、こんなことする理由がない。

 

「どうするの、社長」

「…そう、ね」

 

 警戒を続けているムツキとハルカを横目に見ながら考えて。

 

「カヨコ、アビドスに連絡して。このバサルモスを回収して調査してもらいましょう」

「まぁ、そうするのが妥当かな…依頼に関しては、まぁ問題ないか。飽くまでも素材の調査だからそこも頼めば良いだけだし」

「そうね。それじゃあムツキ、ハルカ! なにがあるかも分からないし、一旦離れて周辺の警戒を続けるわよ! って、なにしてるのよムツキ!?」

「え、いやこんな状態だし。涙の一つでも流してないかなーって思って」

 

 なんて事を言うムツキはバサルモスの死体に近づき手早く目元を調べる、すると。

 

「あ、なにかある。もしかしてこれって痛っ!」

「! 大丈夫ムツキ!?」

「だいじょーぶ! ちょっと指切っただけだよアルちゃん」

「そう、なら良かったってスッゴい血が出てるわよ!?」

「うぇ!? そ、そんな!? か、かか回復薬を早く!」

「落ち着いてハルカ」

 

 ほらと見せられた指から血が滴っており思わず白目を剥いて驚くアルに大丈夫だってと軽く言いながらバタバタと走ってきたハルカから渡された回復薬を雑に染み込ませた布で巻く。これだけで治療が終わりなのだから便利なものだと思いながら、改めて目元で発見したものを見る。

 

「んー、これが例の岩の涙なのかな?」

「どれ?…なんか違う気がする」

「これ…なにかが刺さってる、様な」

「あ、やっぱり? ちょっと引っこ抜いてみよっか」

「ちょ、ちょっとムツキ!?」

 

 慌てるアルにへーきへーきと軽く返しながら、口調とは裏腹に慎重に引き抜いていく。

 

「取れたっと! っでこれは…」

「…鱗、かしらねこれ?」

「は、はいアル様。私もそう見えます」

「形状や大きさ的に破片みたいだけど」

 

 引き抜かれたそれは鱗の破片。四人全員が今まで見たことのないそれは。

 

 

 

 

「剣、いえと言うよりかは…刃、みたいな鱗ね」

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