アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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激突! ザギルとザギルの背比べ。
第33話


 それは数日程前の事。トリニティ総合学園正義実現委員会、会室での出来事。

 

 

「聞いてください、アビドスはダイエットの聖地です」

 

 

 ただ一言、それだけでその場にいた全員の心を一つにした。すなわち、何言ってるんだこいつ?…と。

 

 そして、それを言われただろう何かを読んでいた正義実現委員会の長『剣先ツルギ』は度しがたいものを見るような視線を、副委員長である正面に立つハスミに向けていた。

 

「…どうした急に」

「どうしたもこうしたもありません。私は気づいたんです。アビドスでならば必ずダイエットが成功すると」

「そうか、とりあえず座れ」

 

 椅子を指差したツルギの言葉にハスミは首を傾げるが言われた通りに椅子に座り、対面にツルギも座る。

 

「それで、どうしたんだ急にそんな世迷い言を口にするとは」

「よま…いいえツルギ、違います。これは間違いないことなんです」

「そうか。で、根拠は?」

「先日、所用でアビドスで活動してたのは知っていますよね?」

「そうだな」

「その日の放課後、気がついたんです。普段とそう活動内容が変わっていないにも関わらず、体重が僅かとは言え減っていたんです」

「だろうな」

 

 流石にトリニテイとアビドスとでは環境が違いすぎる。主に気温とか…と言うかそれは痩せたのではなく暑さでやつれただけなのではないかとも思える。そこまで考えた上でため息を吐いた。

 

「所で、一つ聞きたい事がある」

「? なんですか?」

「これはなんだ?」

 

 言いながら雑にテーブルに放られるの先ほどまでツルギが読んでいたもの、それは情報紙。主にアビドスのあれこれが記されているそれの誰からでも見えるように開かれたページにデカデカと書かれた『化け鮫横丁に激震! 全大食いチャレンジメニュー制覇者、まさかの二人目!?』の文字と…制覇者だと言う羽川ハスミという名前とやりとげたと言わんばかりの笑みを浮かべている写真。

 

 そしてそれを成したという時間は、件のハスミが言っていた日の翌日である。

 

「…これはどう言う事だ?」

「それは…その、チートデイと言うもので」

「ついでにこんな物まであるぞ」

 

 ポンッと置かれたのは真ん丸でデフォルメされた鮫の様なぬいぐるみ…が、どこか正義実現委員会の制服を思わせる服を纏い、なぜか大きめの翼を生やしている。あ、かわいいなんて誰かの呟きが溢れる。

 

「……え、なんですこれ?」

「ハスミザギルと言う名前のマスコットだそうだ。知らないのか?」

「えぇ、本当に」

「あ、それはハスミさんをイメージしたマスコットを作りたいってお店の店員に言われたので私が許可したものです」

 

 と、横からパッツン髪の生徒が手を挙げながらそう言う。

 

「そうか、とりあえずお前は反省文を書いておけ」

「何故!? なんでです委員長!?」

「その反応が何でだ」

 

 先程よりも深いため息を吐いてからハスミに向き直る。

 

「それで、話を戻すが…結局何が言いたいんだ?」

「今度の休日に本格的にアビドスでダイエットをしたいと思いまして。今度は本気で痩せて見せます」

「成程、そうか…」

 

 納得いった様子で頷き、三度目のため息を吐いた。

 

 

 

 

「そう言うのはせめて抱えている大量のシュークリームを食べる手を止めてから言え」

 

 

 

 

 現在、アビドス自治区ゲストハウスにて。

 

「ということがあってな」

「失礼承知でもう一度言いますが…馬鹿なんですか?」

「あぁ、言いたくはないが食事が関わるとハスミは馬鹿になる」

 

 言いながらツルギとハナコは視線を、ダイエットしに来たとか言いながら茶請けを食い付くそうとしたので簀巻きにされて転がっているハスミを見る。これでもかと憐れな生き物を見るような目で。

 

「…本当にダイエットする気があるんですかこの人は?」

「知らん」

「えぇ勿論、本気で痩せようと努力しています。ただ過度な食事の制限はかえってダイエットの妨げになると聞きます。つまりそういう事です」

「えぇ…」

「取り合えずこの自制心が死んでるやつを転がせ」

「はーい」

「あ、ちょっと待ってくださ、あー」

 

 よいしょよいしょと数人に転がされていくハスミ。それを横目に、ハナコはツルギに問いかける。

 

「所で、それだけではありませんよね?」

「あぁそうだ」

「…否定しないのですね?」

「否定する理由がないだろう」

 

 そう言うと、ツルギは懐から布に包まれたあるものを取り出す。それは…一枚の鱗だった。

 

「これについてなにか知っていることはないか?」

「これは…一体どこで?」

「先日、トリニティ郊外で発見された」

「…売られていた、のではなく?」

「あぁ、街灯に突き刺さっていたそうだ」

 

 許可を取って受け取り、見る。しっかりと観察してから、そっと指で触れる。

 

「! おい、それは」

「分かっています」

 

 短く答えてから、指を離す。そこには深い傷が刻まれており、血が滴り落ちた。

 

「…この色に、よく研がれた刃の様な鋭さ。恐らく、先日確認されたバサルモスを殺傷した生物の物と同一かと」

「そうか…どう思う?」

「…危険度は非常に高いかと。同一個体なのだとすれば、どうしてトリニティへと赴いたのか疑問ですが…誰か被害には?」

「残念ながら既に出ている。幸い負傷者自体は出ていないが、突然襲われたらしく詳しい状況や襲撃者の正体も分からなかったらしく今も調査中だ…ただ一つだけ分かっているのは、襲撃のあった時間帯にアビドス砂漠方面へと飛んでいく巨大な影を見たと言う目撃情報だ」

「そう、ですか」

「あぁ…今回の件はティーパーティから正義実現委員会はアビドス高校との合同で対処するようにと言い渡されている。これ以上の被害、そして負傷者が出る前に早急に事態解決を、と」

「それで、委員長と副委員長が直々に…あぁ、ということは先ほどの話はここに来る理由が必要だったからと言うことですね?」

「あぁ、いや、それは…」

 

 鋭いツルギの視線が彷徨う。それを見て、まさかと思いながら今はその大きな羽をモップ代わりに使われているハスミを見る。それから再びツルギを見ると深くため息を吐いていた。

 

「え、本当にダイエットしに来たんですかあの人? 嘘でしょう?」

「だったらよかったんだがな」




・『砂漠のホットケーキ・砂祭りスペシャル』

 アビドス住人の憩いの場、喫茶店ハップルの看板メニューである砂漠のホットケーキ、そのスペシャル版。名前の通り砂祭りをイメージしたスイーツであり、テーブルを占領するほどに巨大なホットケーキに砂漠を思わせるようにたっぷりと塗られたカスタードクリームの上には砂上船を思わせるフルーツの盛り合わせ。そしてなんと言ってもケーキやアイス、チョコを用いて作られたジエン・モーランはその巨大さもあって圧巻の一言。

 大体は団体客がわいわいと楽しみながら食べるのだが、大食いチャレンジメニューとしても扱っている。多くの者が挑んで来たが、今の所制覇者はたったの二人だけである。

 なお、制覇者曰く『とても美味しかったがもう少し量が欲しかった』との事。
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