アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第36話

「当然ですけど大型生物の誘導は種族や状態によって手段が変わります」

 

 そう語られる言葉をツルギは聞きながら待っている。勿論ザボアザギルを。

 

「気が立っている個体や縄張り意識の高い種族なら、危険ではありますが眼前に身を晒せばすぐに追いかけてきてくれますので誘導自体は簡単なんです。そして縄張り争いに負けた個体もまた勝手が変わってきます」

 

 脇に置いてある火薬のたっぷり詰まったドラム缶の位置を確認しつつツルギに、あるいは自分に言い聞かせるように続ける。

 

「ハナコちゃんやアビドスの生徒さんから聞いた事なんですが、縄張り争いで負けた生き物が死亡する理由は、怪我もそうですが、それが原因で狩りなどが上手く行えず餓死する事も多い…らしいです。怪我のせいで餌を食べられず、餌を食べられないせいで怪我が治らない。だから、こうして撒き餌をすれば生き残る為に危険だと思っても確実に食べられる機会を逃せない…筈。例の鱗の生物が空を飛んでるならこういった洞窟なら進んでは来ないでしょうし…多分」

 

 自信なさげに呟きながら見るのは自分達の居る程々の広さを持つ洞窟の中心に乱雑に置かれた撒き餌。全部が予想通り予定通りに事が進めばの話だが、罠だと分かっていても確実に餌にありつけるのならここに来る筈だと手汗を拭いながら撒き餌と出入り口とを交互に見て。

 

 バッとツルギの視線が出入り口へと向けられた。

 

「…来た」

 

 その言葉を掻き消す様に響くドスドスという足音。直後に姿を見せるザボアザギルに、一先ずは予定通りに進んでいる事にほっと息を吐き、本番はこれからだと気合いを入れ直す。

 

 周囲を警戒しながらも真っ直ぐ餌へと向かうザボアザギル。予想通り空腹なのか早足気味に進み。

 

 

 突然、地面に空いた穴に落っこちた。

 

 

「良し!」

 

 落とし穴。地面に穴を掘り、それを隠して偽装しただけの原始的なトラップ。だが、だからこそ大型生物に効果的である。偽装に用いた粘着性のネットに下半身が捕らわれ混乱した様子でもがくザボアザギルに上手く行ったと急いでドラム缶爆弾を持つ。

 

「あれ?」

 

 積りだったが、手が空を切る。えっと声を溢し視線を向ければ、そこには凶笑を浮かべミシリッと掴んだドラム缶を凹ましながら大きく振りかぶるツルギの姿。

 

「ギヒィァアアアアアアァーッ!」

 

 ゴウッと音を立てドラム缶が投擲される。とてもドラム缶とは思えない速度で真っ直ぐに回転しながら突き進み、ザボアザギルに衝突…直後に、爆発。

 

 風圧に髪を揺らされ、余りのフィジカルの差に唖然としていると今度はドンッと音を響かせツルギ本人が煙に包まれているザボアザギルに向かって空を切りながら射出され。

 

「グゥルゥウオォオオオオオオオオオオオオオ!」

「!?」

 

 咆哮がツルギを襲い、反射的に止まり凄まじい速度でバックステップ。

 

「ツルギ!?」

 

 ハスミが駆け寄りながら声をかける。それにツルギは反応せずザボアザギルに視線を向けながら確かめる様に耳を軽く叩いてから簡単なハンドサインで耳が聞こえない事を伝える。取り合えず問題ない様子でハスミはふっと息を吐くと、バキリと何かが割れる音が響く。

 

 それはザボアザギルが勢い良くその体を膨張させ落とし穴を破壊しながら這い出てきた音だった。

 

 体が自由になった事を確認したからかこれまた一気に萎み元の状態に戻ったザボアザギルに、成程化け鮫なんて言われるだけの事はあるとツルギは納得した様に頷く。盾を構え、今度は二つのドラム缶爆弾を運んできた生徒を守りながら近づく彼女は直ぐに状態を戻し、また息切れている様子から元々消耗していた所に爆発を食らった事によって瀕死に近いのかもしれないと思い。

 

 

「なんですかそれ私に対しての嫌みかなにかですか!?」

 

 

 そしてハスミは、何故かぶちギレていた。

 

 えっと言った様子で視線を向ける二人など気にならない様子でダンッと力強く地面を蹴るハスミ。耳が聞こえるようになったツルギは、何度目かも分からないどうしようもない奴を見る様な表情を浮かべた。

 

「わ、私がどれだけ頑張っても痩せられないと言うのに! こ、この!」

「え、別に凄い勢いで痩せたわけじゃないですからねあれ?」

「分かってます! 分かってますが…見せつけられているようで!」

「いえそんな事無いと思いますけど!?」

 

 なんて叫びを聞きながらもハスミはこれでもかとザボアザギルを睨みながら武器を構え、その横をなにかが高速で通り過ぎる。それはツルギが受け取り、再び投擲した二つのドラム缶爆弾。

 

 反射的に避けようとするザボアザギルだが。消耗しきった体が思うように動くわけもなく高速で飛来する二つのドラム缶が顔面と腹部に衝突、爆発。縄張り争いでの消耗と怪我、餌にありつけて居なかった事による空腹状態。そして先程無防備な状態で食らったドラム缶爆弾のダメージが重なり。

 

 ザボアザギルはあっさり断末魔を挙げながら崩れ落ちた。

 

 

 

 

「…本当に、申し訳ありません」

 

 深く、とても深く頭を下げるハスミ。それをザボアザギルの剥ぎ取りが行われているのを横目に見つつツルギはため息一つ。

 

「…調子が悪いなら素直にそう言え」

「いえ、そんな事は…いえ、そうなのかも、しれません」

 

 問題はないと否定しようとして、やめた。ハスミ自身普段以上に冷静さを欠いていたことを自覚しているのだ。何故、そうなっているのかは分からずに居るが。その事に困惑してるのを読み取り、ツルギは再びため息を吐いた。

 

「今日の調査はここまでにしよう」

「! いえ、私は!」

「お前だけじゃない」

 

 言葉を遮り、ツルギは心底疲れた様子で言う。

 

「私も…普段以上に、それこそ信じられないほど疲れているんだ」

 

 軽く手を振りながら、そう口にするツルギにハスミは驚きながら彼女の事を改めて見る。確かに、普段であれば信じられない程に消耗しているように見えた。

 

「やはり、環境の違いでしょうか」

「かもしれんな。普段通り活動するには…ここは過酷過ぎる」

 

 今度は二人して溜め息。剥ぎ取り終わったと近づいてきた二人を連れて外へ。洞窟から出ると丁度陽が沈み始めており、夕日に目を細目ながら。

 

「今日は、疲れました」

 

 そう呟いて、ふと気がついたように続けた。

 

 

「ここまで疲れたのなら帰ってからパフェを二つ、いえ三つ位なら食べても問題ないのでは?」

 

 思わず、ツルギは空を仰ぎ見る。朱く染まり始めた空を見て…全力で走りだし思いっきりハスミを蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 直後に、その体を降り注いだ刃の如き鱗が切り裂いた。

 

「ギュラァアアアアアアアアア!」

 

 千刃、襲来。

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