一瞬、何を言っているのか理解できなくて繰り返すように声を溢す。
「死にかけた?」
「そうですよ! いやなんですかその反応?! 普通に致命傷レベルだったんですからね!…なんか、半分位治ってますけど」
「何時もならもう完治しているんだがな。しかし、そうか…私は死にかけたのか」
言いながら力を抜いて壁に背を預け、静かに治療を受けながら、若干血が足りないのかボーッとする頭で考え、納得する。体に刻まれた大きな裂傷。確かに致命傷だ、更に言えば鱗の切れ味を考えれば少し位置がずれて頭部に当たっていれば綺麗に真っ二つになっていたことだろう、あるいは心臓が抉られていたか。どちらにせよ、友人の前で死ぬという事態を引き起こしかけていた訳だ。
そして思い出すのは、アビドスに向かう前の事。ティーパーティーの一人である『聖園ミカ』の言葉。
『やっほツルギちゃん☆ 聞いたよ、ちょっと前に現れた良く分からない奴を狩りにアビドスに向かうって』
『うんうん。本当はわた、じゃなかったすっごい素敵でパーフェクトと噂の謎のプリティプリンセス☆クルルンちゃんが狩りに向かえれば良かったんだけど、どうしてもナギちゃんが駄目って言うからさー』
『それじゃあよろしくね☆…あ、そうだ。アビドスに着いてハナコちゃんから話を聞いたら適当にアビドス高校の依頼でも受けてこなしておいた方が良いよ。いきなりって言うのは、ちょっとね。あそこは特殊だから慣れておかないと危ないからね☆…本当に色々と』
『具体的に? あー、んー、いやー…ごめん、ちょっと説明するのは難しいかなぁ』
『多分、口で言っても中途半端にしか伝わらないし、本当の意味では体感しないと分からない事だからさ、これは』
確かにと、言葉なく溢す。アビドスという地を、ここで繰り広げられている生存競争というものを何処か甘く見ていたのかもしれない。何時もの調子で、大丈夫だからと動いたらこのざまだ。
そして今さらだが気がつく。アビドス砂漠に来てからずっと感じていた違和感は、命のやり取りが行われているこの場所に居る事への、そして狩りという命を奪う行為をしている事への無自覚の緊張とストレスから来るものだったのだなと。
本当に、今さら過ぎてツルギは少し情けなくなってきた。
「あとは、こうして…良し。終わりましたよツルギ委員長」
「あぁ、すまない」
「いえ、自分の出来ることをしただけです。あ、これ着替えです。どうぞ」
「ありがとう」
そう、礼を言いながらスッと立ち上がる。え、っと溢れた驚く声を聞きながらさっと着替える。大きな穴の空いた服であったものを預け、調子を確かめるように肩を回す。
痛みが走り何時も通りではなく、傷も塞がっておらずじわりと滲んでいる。が、動ける。つまり問題無いという事だ。
「良し、この程度ならすぐ治るな」
「いや良しじゃないですよ!? 幾ら治るのが早いと言ってもまだ駄目ですって!」
ガッと力強く、しかし傷に気を遣いながら掴み掛かられ少しふらつく。痛みや疲労、以上に血が足りないからか頭がふらつく。どうしたものかと考える。
「ツルギ」
と、声をかけられる。ヒシッと少女に引っ付かれながらツルギは視線を向けるとそこには自分の狩猟用武装を抱えながらも顔を青くしたハスミが立っていて。
「ハスミ、聞き忘れていたが無事か?」
「それは、はい。ツルギのお陰で」
「そうか」
「…ツルギ、私は」
「ハスミ、私たちはなんだ?」
何故か、ハスミが致命的な何かを口にしそうになった気がしたツルギは問いかける。視線が交わる。
「私たちは正義実現委員会だ」
「…はい」
「このキヴォトスで、正義を成すと誓った」
「はい」
「私は道の途中で朽ちる可能性を承知でそれを志した。お前はどうだ?」
「えぇ、私もですよツルギ」
正義の所在、覚悟の証明。そんなものはずっと昔に済ませてきた事だと二人は知っている。強くハスミは己の頬を打つ。先程までの自分が余りに腑抜けていたと叱咤するように。そしてハスミの瞳が、正義実現委員会のNo.2に相応しい物へと変わった…いいや、戻った。
「これを」
言いながら、渡すのはツルギの狩猟用武装。態々今回狩猟の為だけに誂えた逸品を手の取り、軽く回して掴む。先程よりも馴染んでいる気がしたのは恐らく気のせいではない。思わず、笑いを溢し。
「ギヒャッ!…行くぞ、ハスミ」
「えぇ」
そして二人はトリニティの、いいやキヴォトスの脅威と相対さんと足を踏み出す。
「いやなんか良い感じ分かり合ってる感出してますけど駄目だって言ってるでしょうが!?」
つもりだった足を思いっきり掴まれた。正気かと言わんばかりの表情を浮かべる彼女に、駄目だったかと思いながらツルギは視線を向けた。
「さっきも言ったが、もう暫くすれば傷は治る。だから大丈夫だ」
「いやならその暫くは静かにしててくださいよ!」
「それは、確かにそうですね」
「おい、ハスミおい」
「あぁもうちょっと止まってくださいよ委員長!」
「え、なにこの状況?」
力強っ!? と叫ぶ友人を足に引っ付けた状態でハスミに詰め寄るツルギに、外の様子を見てきていた少女は困惑しながら問う。
「ちょうど良かった! ちょっと無茶しようとするツルギ委員長止めるの手伝って!」
「え、あ、うん。分かった」
「いやだから大丈夫だと言ってるだろう」
頑なだなと思いながらその意思の強さは良い方向に向かうだろうなとツルギは思いながらよいしょと壊れた盾を置いて自分に向かってくる少女を見て。
何故そんな勢いをつけて拳を振り上げながらこっちに向かってきてるんだお前おい。
「いや、おいちょっと待て、何をしようとしている」
「え、いえ委員長のこと殴ろうと」
「なんで?! 委員長怪我人、暴力駄目! 何故殴る!?」
「いや言うこと聞かない人は取り合えず殴って黙らせろって教えられてたし」
「いや怖い?! 誰に言われたのそれ!?」
「クルルンさんとか『救護騎士団』の『ミネ団長』とか、あとアビドスのシロコさんにも」
「めっちゃ言いそうなラインナップ!?」
あぁーなんて声が溢れる。シロコ、という名の生徒の事は詳しくはないが、他二人は確かに言いそうだと思った。いや流石にミネは言わないか…いやでも言いそうだしやりそうだなとツルギは思った。
そして、次の瞬間脳裏に何故か浮かぶ三人の人影。クルルヤックとか言う名前の鳥を模したマスクを被った二人がサムズアップしており、その後ろでは見覚えのある翼をはためかせた少女が気合いの入った救護っ!の一言と共に何処かに射出されていった。完全な幻覚である、確かに駄目かも知れないとツルギは思った。
というか本当に幻覚だよなこれ。もしかして本当にこっちに向かってきてたりは流石にいないよなと少しだけ心配した。
「…はぁ、分かった。言う通りにしよう。だからその拳を下げろ」
「分かりました。それじゃあ魚食べてください」
「いや何でだ」
唐突過ぎて、反応に困るツルギだった。