アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第40話

 怖い。そう思うのは何時以来だろうか。

 

 鱗が飛来する。僅かに回避が遅れ腕を掠めると、制服が裂け血が滴る。直後に治るが、ジクジクと痛みの熱がそこに残り続けている様に感じた。

 

「ギュルゥウウアアアアアアアアアア!」

 

 轟く咆哮。地を震わす音、そして込められた不良たちが脅しとして口にする言葉とは違うどこまでも純粋な…殺意。己の意思に反して身が竦み、動きが止まる。

 

 竜が羽ばたき、僅かにその巨体を浮かせ直後に空を蹴ったかの様に加速し突っ込んでくる。命を奪うことの出来る鋭利な爪が迫る。

 

―――ズダンッ!

 

「ルゥァア!?」

 

 ハスミの弾丸が竜の顔面に叩き込まれ僅かに仰け反る。そうして生じた隙間に、体を無理矢理ねじ込み、同時にすれ違いざまに脚部に弾丸を四発叩き込めば、鱗は弾けツルギに破片が突き刺さり血が舞う。勢いそのままに地面だけを切り裂き止まる竜を横目に、体勢が崩れ倒れそうになる体を、自らの翼を地面に叩きつけた反動で強引に立て直し血を払い落とす。

 

 息は荒く、汗が流れる。普段ならば準備運動程度にしか動いていないというのに酷い疲労感がのし掛かってくる。怖い。一手一瞬、なにかを間違えれば自分は死ぬ。当然だが、死ぬのは怖い。

 

 だが、ただそれだけで退く事などありはしない。

 

「オォォオオオオオオ!」

 

 何時もとは違う声。相手を威圧する凶笑ではなく、緊張から堪えきれず溢れた絶叫でもない。全身から絞りだし恐れと敵に負けぬために轟かせた咆哮である。

 

 ツルギは跳ぶ、地面を踏み砕き真っ直ぐと。竜は飛ぶ、低く弾丸の如く向かってくる彼女を迎撃するために鱗を震わせ放つ…直前に、再びハスミの弾丸が顔面に叩き込まれる。意識が高台で銃を構えるハスミへ向けられる。

 

 その一瞬の隙。竜の顔面にツルギが蹴りを叩き込み、足が裂け血が舞う。が、それを気にも留めず翼を絡め体を固定し銃口を突き付け。

 

 

 撃つ、撃つ、撃つ撃つ撃つ。弾ける鱗に肉体をズタズタにされながらも撃ち続ける。

 

 

「ギュルァアア!?」

「キィヒェェエエアアアア!」

 

 竜は頭を振り回し、翼を羽ばたかせ、飛び上がり暴れ狂う。ツルギは堪えながらも撃ち続けるが翼が裂け、振り落とされる。転がり勢いを殺すツルギに、竜が迫る。

 

 その眼前に閃光弾が撃ち込まれ、竜の視界を焼く。

 

 叩き落とされた竜から視線を外す事なく、飛んできたドローンから投下された回復薬を掴み取り、そのまま頭上で握りつぶし全身に浴びる。滴る回復薬を拭いダンッと確かめるように足で地面を踏みしめ睨む。

 

「ギュルゥォオッ!」

 

 視線がぶつかる。立ち上がった竜は顔面から血を溢れさせ地面を染める。顔面が抉れているというのに未だ健在、恐ろしい生命力だ。

 

 竜は、小さくしかし強く鳴くと勢い良く跳ねるように上空に飛ぶ。逃げる気かとすかさず撃ち込まれる閃光弾。しかしツルギは気がつく、敵意と殺意は未だ鋭く突き刺さっていることに。

 

 

 閃光弾が弾け放たれる閃光、それを置き去りにし竜は急降下する。

 

 

 弧を描く様に飛び、高速で向かう先には…ハスミ。

 

 少女たちがそれぞれ動く。翔ぶように駆け、急ぎ閃光弾を込め、壊れた盾を構え。

 

 

 そしてハスミは、静かに銃口を向ける。

 

 

 込められた弾丸は、特別なもの。短く呼吸、迷い無く引き金を引く。衝撃と共に弾け飛ぶ銃。放たれた銃弾は残像を生むほどの速度で迫る竜に真っ直ぐと飛び、ツルギによって抉られた顔面に突き刺さり。

 

 一瞬の間。

 

 

 そして、大爆発。

 

 

 弾け飛ぶ竜の角と鱗は宙を舞い、ハスミの眼前に突き刺さり竜は悲鳴を響かせながら勢いそのままにハスミの後方に墜落する。

 

 ハスミは手の中で弾けた銃の熱と残る衝撃に顔をしかめ…背後から気配。竜が起き上がろうとしている。素早く動き、拳銃を構えようとして。

 

 駆けつけたツルギが力強く銃を叩きつけ、直接弾丸を撃ち込む。衝撃で頭部は地面に叩きつけられ、それでもガリガリと地面を翼爪で削りながら竜は頭部を持ち上げようとして。

 

「ルゥォオ」

 

 小さく鳴いて崩れ落ちた。

 

 一秒、二秒と僅かな時間の後。確かに仕留めたと確信すると同時にツルギは膝から崩れ落ちる。乱れた呼吸をなんとか整えようと深呼吸をすると、横から手が伸ばされた。

 

「大丈夫ですかツルギ」

「はぁ、はぁ…ハスミか」

 

 手を取り、立ち上がる。膝が笑うほどに疲労を感じながらふっと息を吐いた。

 

「やりましたね」

「あぁ…所でさっきのはなんだ?」

「アビドス特製の徹甲弾です。威力が高すぎて大型生物以外には使えない代物との事で、ハナコさんに渡されていたものです」

 

 こうなるからここぞという時にしか使えないんですよねと、苦笑を浮かべながら半分になった銃を見せる。どんな反動だと思いながらも、あの火力を思えば仕方ないことかと思う。

 

「委員長ー! 副委員長ー! 大丈夫ですかー!?」

「すみません先輩最後外しちゃいましたー!」

 

 叫びながら駆け寄ってくる二人が見える。一人は泣きながらだ、そこまで気にしなくて言いとハスミは言いながらそれではと視線をツルギに向ける。

 

「これで憂い無く星を見れますね」

「そう、だな」

「所でツルギ」

「なんだハスミ?」

 

 

「こんなに頑張ったのですから帰ってからパフェを5個くらいなら食べても問題ないと思いませんか?」

 

 

 思わず、ツルギは空を仰ぎ見る。そして少しの間を置いてから。

 

「…おい」

「あ、はい分かりました」

「了解でーす」

「え、あの待ってください何故腕を掴むのですか?…ツルギ何故離れ、待ってください何故助走をつけてこっちに!?」

 

 全力の蹴りをハスミに叩き込んだ。吹き飛ぶハスミと疲れからそのまま地面に転がるツルギ…見上げた星と月の浮かぶ砂漠の空は、とても綺麗だった。

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