第42話
晴れ時々曇り、そんな過ごしやすい天気な『DU地区』の一角での出来事。
「今! キヴォトスではアビドスが最前線です!」
そう、態々持ち込んだお立ち台の上で宣言するは桃色の髪の少女。学園都市たるキヴォトスの行政を担う『連邦生徒会』が防衛室、その長たる『不知火カヤ』である。堂々たる姿と言葉、そして微妙にムカつくどや顔を浮かべる彼女の眼前にいる生徒は…なに言ってるんだこいつと言った様子で見ていた。
「…急に何を言い出すのですかカヤ防衛室長」
「まさしく言葉の通りでしかありませんよ『月雪ミヤコ』さん」
よいしょとお立ち台から降りて折り畳んでから改めて目の前の生徒、『RABBIT小隊』を見渡す。
「現状、アビドスは最前線なのですよ。治安維持、防衛という観点から見ると」
「そうなのか?」
銃の手入れをしながら首を傾げる『空井サキ』に、口調を気を付けるようにと注意しつつカヤは肯定する。
「えぇ、ともすればアビドスの敗北はそのままキヴォトスの崩壊に繋がる可能性が極めて高いと断言できる程度には」
「え、そういうレベルなのですか!?」
「くひひ、そこまで行くと前線というよりは瀬戸際だねぇ」
言いながら何故か楽しげな『風倉モエ』にその通りですとビシッと指差して見せる。
「今現在は問題はありませんが何れ限界が訪れるでしょう。これは連邦生徒会にて防衛を任される立場としても見逃せません! 分かるでしょう!」
「それは、まぁ分かりますが。何故それを我々に?」
「端的に言えば頼みたいことがあるからですね。いえこの際依頼と言いましょうか。3日後に私と先生がアビドス高等学校に向かうのでその護衛を頼みたいのですよ」
「先生、というとシャーレの先生の事ですね?」
表情を引き締めるミヤコは問いかける。
「何故、私たちに?」
「私が知ってるなかで一番暇そうだったからですね」
「もう少し言い方ってものがあると思うのですが!?」
言いながら、同じく不満そうな表情を浮かべるサキの持っていた鉄棒を奪い取り殴り掛かろうとするミヤコ。流石にやめろと羽交い締めにして止める。
「よせミヤコ!流石にそれは不味い!」
「ですが、ですがぁ!」
「まぁ実際暇なのはそうだからねぇ」
そうモエは苦笑を浮かべ飴を舐めながら溢す。
彼女たちRABBIT小隊は『SRT特殊学園』に所属する生徒である。キヴォトスの長ともいうべき『連邦生徒会長』の元、学園自治区の垣根を越えて様々な重大事件を解決してきた誇り高き学園に名を連ねる彼女たちの表情は暗い。
何故なら彼女たちの所属していたその学園は現在、再開の目処が立たぬ休校状態にあるからだ。
キヴォトスの平和を願い狭き門を潜り抜けたミヤコ。今年入学したばかりであれどその誇りを宿す彼女は恨む。解体を決定した目の前の少女を、カヤの所属する連邦生徒会を。
ではなく、勝手にどっか行きやがった連邦生徒会長と今は居ない卒業済みの先輩たちを。
何故なのか。それは少し前、SRTの解体が決定する以前の事。その特殊性から連邦生徒会長以外には命令権の存在せず、しかしその長が姿を消してしまった故に宙ぶらりん状態の学園の扱いをどうしようかと話し合われていた時の事。
『そういえばSRTって連邦生徒会長が居ない状態だとどこまで動けるんですかね?』
そう言ったのは抑止力として残しておくべきだと言った存続派の生徒。本当に何気ない疑問で、今まで生徒会長が不在であったことすらなかったから考えた事すらなかった事象だ。
その言葉を聞いてそういえば確かにと思う生徒たち。まぁでも普通に考えて連邦生徒会長とて人である。何かしらの緊急時のあれこれの可能性を考えて裏道があって然るべきだろう。十全と言わなくとも問題なく動かせるだろうと思いながら一応はと調査し。
結果、そんなものは存在しない事が分かった。
愕然とはこの事だ。途中から可笑しいなと思い、シャーレの先生まで巻き込んで強引にSRTの生徒たちと一緒に調査した結果、現在の自分達は本当に何も出来ない状態にあることが発覚した。どのような事も連邦生徒会長が居る事が前提。生徒会長が風邪拗らせて寝込んだせいで指示できない状態での行動マニュアルすらないと言う有り様。
なんだこれふざけんなこれのどこが緊急時用マニュアルなんだよと、キレていたのはSRTの現三年生の誰かだったか。余りに穴だらけな、いや連邦生徒会長が抜けた瞬間にそうなるようにわざとしていたとしか思えない校則のぐだぐたっぷりにそれはもう皆盛大にキレた。
そんな状態であることに気がついていなかった自分達にこれでもかと怒りを抱いた。
そして、そんな事実が分かって直ぐにSRT特殊学園をどうするかの議論が交わされた。内容は、以前とは随分と様変わりしていたが。結局は、現状で維持した所で意味が無い、しかしその戦力、在り方が素晴らしいものであることも確か。
侃々諤々の討論の末、取り敢えずの休校が決まったのだ。
再び、彼女たちがSRTの生徒として胸を張って歩み出せるのは、最低でも穴だらけ状態の校則の再編と各学園自治区との擦り合わせが済んでからである。或いは唐突に連邦生徒会長が帰ってきたり、それに替わる責任を負う誰かが居れば…いやだとしても校則をどうにかしないといけないから少し早くなる程度だろう。
ミヤコは深く息を吸って、吐いた。それから落ち着いたと伝えてサキの手から離れカヤに頭を下げる。
「申し訳ありません。冷静さを欠いてしまいました」
「構いません、私も配慮に欠けていましたから」
そう、互いに許し改めて向き合うとミヤコは純粋に疑問に思ったことを口にする。
「ですが、本当に何故私たちなのですか? 確か、防衛室には先輩たちがいた筈」
言いながら思い出す尊敬する先輩たちの背中。現在雇われると言う形で所属はそのままにキヴォトスの為に動いている彼女たちならばシャーレの先生に連邦生徒会の防衛室長の護衛という大役、一年である自分達よりも余程相応しいだろう。そういうとあぁ彼女たちですかとカヤは軽く行く。
「彼女たち『FOX小隊』の皆さんは今休暇中ですよ」
「…休暇、ですか?」
「えぇ、普段良く働いてくれていますからね。雇ってから今日まで働き詰めでしたのでいい加減休んでもらおうと思いましてね。彼女たちも快く休んでくれましたよ。普段事件解決のために駆け回っている学園自治区を観光する良い機会だと。今ごろはそうですね…料理が美味しいと評判の山海経辺りに居ると思いますよ? 最近『珍しい食材』が入荷したと話題ですし」
「成程」
良く考えれば当然の事だった。幾ら頑丈で無尽蔵とも思える体力があろうと休まずでは身が持たないというものだ。そう、納得するミヤコを何処か微笑ましそうに見るカヤは、と言うわけでと言葉を口にする。
「先程は言い方が悪かったですが、今現在問題なく動くことが出来るのは貴女たちだけなのですよ。ですから頼みたいと思いましてね」
それにと、言葉を一度きって続ける。
「SRTの生徒とその活動がどれだけ優れたものであるか、地味なものですがしっかり伝えられる良い機会だと思いますよ?」
ミヤコは目を見開き驚きながらカヤの事を見て、そして自分を恥じた。自分が思っていた以上に、彼女は自分達の事を、SRTの事を気にかけていてくれていた。だというのに自分の行動はと思い返し、嬉しさと恥ずかしさで顔から火が出そうな勢いである。
とはいえ、なにも返さないのは失礼だと。仲間と視線を交わす。サキは無言で頷き、モエは楽しげに笑った。つまり、そういうことであるとミヤコはカヤに向き直り、敬礼。
「RABBIT小隊、任務了解しました」
「よろしい、ではそう言うことで」
と、満足げに頷いて。
「シャーレの先生の所に行きましょうか!」
事前の打ち合わせに擦り合わせは大事ですというカヤに皆、頷いて見せるのだった。
カヤたちの去った公園、先ほどまで会話をしていたベンチに何故か動いているゴミ箱が一つ、近づいていく。
それが不意に止まると、直後にガタンッと揺れて蓋が開く。そうして顔を出したのは…一人の生徒。
「ひゃ、ひゃぅぅ…」
そんな、RABBIT小隊の一員である『霞沢ミユ』の悲壮感に溢れた声は、誰に聞かれることもなく風に流されて消えた。
用事があって少し離れていた彼女が仲間と合流出来たのは凡そ30分後だったとか。