アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第43話

 その日、小鳥遊ホシノはとてもご機嫌だった。

 

 ルンルンと楽しげにステップし進む彼女の手にあるのは、巨大なぬいぐるみ。くじらの様な体躯に巨大な2本牙、それはジエン・モーランのぬいぐるみ、いや抱き枕である。

 

 普段、硬い御守りの研磨ばかりさせられている手芸部の部長。ホシノの友人である彼女が時たま発狂しながら作り上げる抜群のふわふわもちもちを体現した作品の一つである。個人的にストレス発散目的で作っただけの物で譲れるような物ではないと渋る彼女に粘り強く交渉し、漸く貰い受ける事の出来た素晴らしい逸品だ。

 

 一瞬立ち止まり顔を埋める。最高のふわふわである。これと一緒に昼寝すればさぞ心地好い事だろうとさらに嬉しくなる。デザインもくじら好きのホシノが惚れ込むほどの完成度。浮かれる心に引っ張られて体もリズムを刻むほどだ。

 

「うっへへうへうへ、うへへうへ~♪」

 

 何て事だ思わず歌ってしまったと思いながら取り敢えずお気に入りの昼寝スポットに向かうホシノ。最近ずっと休まず動き続けていたのだ、ちょっと位抱き枕を堪能しながら昼寝しても誰も文句は言わないだろう…しかし大きすぎて前が見辛いのが難点だなと顔を動かし前を見る。

 

 

 

 と、そこに先生が居た。

 

 

 

「…へ?」

 

 こんにちはホシノと、手を上げ挨拶する先生の瞳はとても微笑ましいものを見たといった感じだ。ホシノが鈍く動く、普段では考えられない油の切れたブリキの如くゆっくりと抱き枕を動かし、確りと前を見ると他にも三人。

 

 内の二人は始めてみる生徒で、ポカンとした様子ながらも何処か警戒している事から護衛だろうと辺りをつけ…目を逸らしていた三人目、割りと良くアビドスに訪れる防衛室長のカヤが笑うのを堪えている様子を横目に見てイラッとしながらも、再び抱き枕に顔を埋める。

 

 変わらずのふわふわ具合だが、残念ながら赤く染まった顔の熱は消えてくれなかった。

 

 

 

「あー、はぁ…それで、皆さんはどうしてここに? 確か今日はアビドス校舎でアヤネちゃんやユメ先輩との話し合いがあった筈ですが」

 

 少しして落ち着いたのか顔を上げるホシノの言葉に、同じく落ち着いたのだろうカヤが答えた。

 

「話し合いならばもう終わりましたよ」

「…随分と早いですね、ということは」

「えぇ、何時も通り軽い擦り合わせ以外に進展無し。というやつですよ」

 

 と、肩を竦めながら言う。それにホシノは少しだけ顔をしかめた。

 

「…ここまで難航するとは思っていませんでした」

「えぇ、私もですよ」

 

 そう互いにため息でも吐きそうな二人。何を指してそう言っているのかと言えば緊急時の対大型生物への他学園自治区との協力関係の構築に関してである。

 

 細かいことを抜きにして分かりやすく言えば、もしもの時は一緒に協力して対処しようね、というだけの物…なのだが、どうにも上手く話が進まずに居た。

 

「トリニティにゲヘナ、それにミレニアムと言った三大校は随分と協力的なのですがね。それ以外の…言い方はあれですが小、中規模学園自治区からはどうにも良い返事が貰えないのですよね」

「寧ろ三大校が乗り気だからこそじゃないですか?」

「…あぁ、成程。それを足掛かりに干渉される事を恐れたと。そこは連邦生徒会がしっかり抑える…と、言いたい所なのですがね、如何せん現在の私たちは主軸たる生徒会長を欠いている状態ですからね。今一、信頼する事ができないのでしょうね」

 

 やれやれと軽く首を振るカヤ。の横でチッと小さいけれど露骨な舌打ちが聞こえる。スッと視線を向けるとミヤコが明後日の方向を向いていた。さもしっかり周囲を警戒していますと言った様子だ…が、申し訳なさそうでもある、思わず出てしまったといった所か。思わず苦笑を浮かべる。

 

「まぁ、こればっかりは地道に話し合っていく他ない事柄ですからね。この話はここまでにしましょうか。ここであったのも縁ということで、少し手伝ってくれませんか?」

「手伝うって、何をですか?」

「狩猟をですよ。彼女たちにアビドスというものを知って貰うために最近別地域から流れてきたという『ジャギィ』たちの狩猟依頼を受けたのですよ」

「あぁ、あれをですか」

 

 言いながらチラリと横目で彼女たちと呼ばれた二人を見る。どうしてそんな事をといった様子だ。尤も、それは何故自分達がという感じではなく、態々そこまでしてもらわなくても、といった感じだろうか。成程確かに、と思う。

 

 確かに、アビドス的には随分…緩い。

 

「まぁ、良いですよ。最近は何時も以上に危険も多いですし」

「例のセルレギオスの事ですね?」

「えぇ、というかそれが分かってたから私の事を誘ったのでしょう?」

「安全確保が完全に出来ないのであれば確実性と緊急時用の対策というのは大事ですからね」

「そうですね。あ、一つ聞きますけど一緒に自然公園に向かうのはカヤさんにそこの二人…それと、あそこのビルに居る子で良いんですか?」

 

 そう言うと、心底驚いた様子でホシノを見る二人。その反応にホシノは思う。

 

 

 あ、本当に居たんだ…と。

 

 

 二人の装備に位置取り等といった動きから狙撃主が居るなと判断しここら辺のあそこだよなと当たりを付けて言ってみたが……まじで? 本当に居るの? 気配全く感じないけど?…え、怖。

 

 久しぶりに心底戦慄するホシノの耳にパチンとカヤが手を叩く音が届く。

 

「さて! それじゃあ話も済んだ事ですし。私たちはゲストハウスに向かい、そこで準備を整えましょう! ホシノさんも準備が出来次第、連邦生徒会の借りているゲストハウスに来てください」

「え、いえ私もこのまま」

「それ、持ったままという訳にはいかないでしょう?」

 

 と、指差す先にはホシノの抱える巨大なジエン・モーラン抱き枕。あぁ確かに思いながら頷くのを見てカヤは笑みを浮かべながら言う。

 

「それじゃあ行きましょうか。アビドスがどんな所か知りに。そして教えてあげますよ」

 

 

 

 連邦生徒会が防衛室の長である私がどんな存在なのかを。そう、自信に満ちた顔で宣言した。

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょ、待って、待ってくださいと言っているのですよ!? あぁ本当に待って転がさないで!? ホシ、ホシノさん助けてぇえええええ!…あ、た、助かりました。ふぅ、ふ、ふふふ、やっぱりその程度なのですね! 所詮ははぐれ! 群れのボスがいなければ文字通りの烏合の衆ということなのですよ! ふはははははああああぁあああああ!? 待って来ないで助けてえええええええ!?」

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