ジャギィの狩猟はとてもあっさり終わった。
まぁアビドス高等学校の最高戦力である小鳥遊ホシノが共に行動していたのだから想定外の事態でも起こらない限りはそうなるのは当然の事である。
「まぁ安全確実にこなせたのは防衛室長たる私が居たからでしょうね!」
「まぁ、実際その通りですね」
「でしょう!」
「えぇ、やっぱり囮が居ると狩りやすさが段違いですね」
「いや言い方ぁ!? こう、蝶のように舞い見事に撹乱して見せたとか!」
「まぁ、亀みたいではありましたね」
「それは…亀のごとく堅牢堅実だったということですね! そうですよそういうので良いのですよ!」
「たまにその思考回路が羨ましくなりますね」
ガタガタと揺れる車の中。そんな風に戯れる二人を月雪ミヤコは眺めていた。勿論護衛として周囲の警戒を怠ってはいない。が、普段と比べればどう見ても集中力に欠けていた。
大丈夫かと迎えに来てくれた先生が問いかけてくる。車を運転している風倉モエと一緒にゲストハウスで待機しながらドローン越しに補助をしていてくれていた先生が心配するように覗き込んでくる。それに申し訳なさを感じながら大丈夫ですと返す。この程度SRTの過酷な訓練や任務に比べればたいした事はないと。
嘘である。滅茶苦茶疲れている。
早くシャワー浴びて布団にダイブしたい気分だ。初心者は取り敢えず見ているようにと言われて護衛だというのに本当に見ているだけだったものの護衛対象よりも疲労していた。砂漠の熱や歩きにくさに完全にやられていた。現にサキなんてぐったりしているし、ミユもどこから持ってきたのかゴミ箱に籠ってしまっている…のは何時も通りか。
そこにカヤが語りかける。
「それで、どうでしたかサキさん。始めての狩猟の見学は?」
「…生臭かった」
「あー、それは、まぁ、はい。きついですよねあれ。中々慣れられるものじゃありませんよね。ミユさんは…あれどこですか?」
「そこに居ますよ」
「ひゃ!?」
「あぁそこでしたか」
なんて言いながらそこそこの広さが確保されている車内をノソノソと動き、跳ね上がる程驚いていたミユの元に向かうカヤ。
堅い、重い、でかいは強い。そして一から作り上げて貰ったシールド付きの高火力狩猟用武器も強い。そして強いと強いが二つ合わさればまさしく最強、つまり超人ですよ! とか言いながら遠目に見ると丸くてファンシーさすら感じさせるアビドス産の素材を利用して作られたという重装備を着込んだ彼女。
着込み過ぎて動きが鈍いというか遅いのだが、あれで派手に逃げ回っていたのだから凄い。その上でホシノの邪魔になるような動きは一切しなかったどころか、寧ろホシノが狙いやすい様に誘導までしていた様に見えた。驚くほかない。
「ミヤコさんはどうでしたか?」
と、いつの間にか目の前に居たカヤに問いかけられる。どう、と言われてもと返答に困ったミヤコは少しして素直に言う。
「その…暑かったです。当然の感想ですみません」
「いえいえ、十分しっかりとしたものですよ。知識としては知っていてもというのはその通りだったでしょう? SRTでの特殊環境下での訓練は確か2年からだった筈なので少し早い体験でしたね」
なんて、答えになっていないと自分で思っていた回答にそれで良しとカヤは頷くと、ではこれをとスポーツドリンクとチョコバーを手渡した。
「先生から、しっかり休んでね。との事ですよ」
視線が助手席に座る先生に向かう。こちらを向き微笑みながら軽く手を振って見せた。隠していたつもりだったが、バレバレだったかと少し恥ずかしく思いながらチョコバーを一口。とても甘い。
「んぇ? あれって、おーあれが噂のやつかぁ」
なんて、なにかに気がついた様子でモエが声を上げる。なんだと窓から外を見る。現在高台を走っているのかとても見晴らしが良く、遠くまで見渡せる砂漠の一角にゆっくりと進み行く巨大な船が二隻。あれが有名な砂上船かと眺めているとおやとカヤが声を溢した。
「あれは撃竜船じゃないですか。大破したと聞いていましたが、修繕出来たのですね」
「いえ見た目と最低限を直しただけなので殆ど張りぼて状態ですよ、それもあぁして曳航して貰わないとですけどね。本格的な修繕はこれからですよ…まぁ状態が状態でしたから一から作り直す感じになりそうですけど」
「成程そうでしたか…連邦生徒会としては無理ですが個人的に支援しましょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ。資材はともかく資金はそこまで切迫してませんので人材も…寧ろ無理矢理関わってこようとしてる生徒を止めるのに苦労してる位ですよ」
「あぁー…ミレニアムの?」
「えぇ、はい。最低限の補修を行っている時もやってきてはロケット付けようとしたり良く分からない謎の金属で補強しようとしたりと大変でしたよ」
「あそこの生徒は相変わらずですねぇ」
なんて会話を横で聞きながらゆっくりと進む砂上船を眺めるミヤコ。
「あの、直るんですか?」
「直しますよ」
気がついたら溢れていた問いの言葉に、自分は何をと思う間も無くホシノは答えた。
「大切な船ですからね。何がなんでも直して見せますよ」
そう言ったホシノの表情はとても優しく、だが決意に満ちていた。それを見たミヤコは再び砂上船へと視線を向けた。
「…良いなぁ」
なんで、そんな言葉が出たのか自分でも分からないまま…ずっと見ていた。
・不知火カヤの狩猟用装備
ほぼ100%アビドス産素材を使用して作られた装備。特にリノプロスの強固な甲殻をふんだんに使用したその防具は、粗こそ目立つが現状のアビドスで作れるもののなかでも最上位である。そのずんぐりとした見た目から以外とかわいいと人気がそこそこあったりする。
なお、不知火カヤがこれを使用している理由は一番高額で最新式だからというだけである。高額=優秀、最新式=凄い、二つ合わさってとても強い! が彼女の意見である。
実は現状においてホシノたちの知る『ハンター』の狩猟にもっとも似通った手法をとっているのはカヤだったりする。
・誰にも語られていない少女の事。
実は…とある少女の心は折れかかっている。
目指していた背は遠く、また進むべき道の標を見失ってしまった故に。