アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第45話

 砂狼シロコは自転車を漕ぎ進む。

 

 朝特有の清々しい空気を全身に感じながら風を切り坂を登る。先日、自治区内に入り込んでいたクンチュウの駆除を行ったばかりとあって邪魔物もなく思いきり自転車を漕ぐシロコの表情はとても機嫌が良さそうだ。やはり思いきり自転車を走らせられるというのは気持ちが良いと笑みが溢れる。

 

 と、坂を登りきったシロコは不意に視線を砂漠へと向けると、遠目に砂上船が見えた。

 

 

 

 今日、砂狼シロコは『アビドス砂漠新生態系調査隊』の一人として、あの砂上船に乗り砂漠の奥地へと向かうのだ。

 

 

 

 朝も夜も関係なく喧騒に満ちた砂上港は今日も賑わっている。が、今は少々特殊で砂祭りでないにもかかわらずそれに負けぬ程の人々が忙しそうに走り回っていた。

 

「装備確認しっかりお願いねー!」

「分かってますよー」

「すみません保存食が足りないんですが」

「それについては今持ってきて貰っているので大丈夫です」

「成程、了解です」

「ユメ先輩、飲料水の確認終わりました。問題なしです」

「あ、はーい! ありがと!」

「すみませんハナコさん、このドラム缶はダメなので別のに交換してきますね」

「あ、はいわかりま…え? ダメ? ど、どこが? ま、まぁ分かりました。お願いします」

 

 止まること無く駆け回る生徒たちの中心で殊更忙しそうな梔子ユメと浦和ハナコの二人。パッと見問題無い様に思えるドラム缶を抱えて走っていく生徒の横を抜けてシロコは二人に近づくと、先にハナコが気がつき軽く手を振って見せた。

 

「あぁ、シロコちゃん。おはようございます」

「ん、おはようハナコ。ユメもおはよう」

「あ、うんおはようシロコちゃん! ちゃんと準備出来てる?」

「ん、バッチリ。ちゃんとヤッくんの世話は頼んできたし、思う存分ヤッくん吸いもしてきた。あとヤッくんが夜の寒さに負けない様に色違いのお揃いマフラーも巻いて上げてきた。思い残すことは無い」

 

 ふんすと胸を張って言うシロコに、いやそれで良いのかとちょっと思ったがまぁ本人が満足げだし良いかと思うハナコ。

 

「それでは、持ち込まれているシロコちゃんの荷物の確認をお願いします」

「ん、分かった。忘れ物してたら大変」

「あぁー、それもあるのですが」

 

 そう少し困った様子のハナコとユメにどうかしたのかと首を傾げ。

 

「みんなー! またミレニアム生が隠れてたー!」

「また!? これで何人目だよ!?」

「13人目」

「いや多いって幾らなんでもってはっや!? 無駄に早い! 先輩! ホシノ先輩!」

「うへー、今行くよ」

 

 叫び声が砂上船から響き、そのままどったんばったんと聞こえる騒ぎを聞いたホシノが高速で突っ込んでいくのを見ながら二人は苦笑を浮かべ、シロコは成程と頷いた。

 

「…まぁ、そう言うことです」

「ん、分かった隅々までちゃんと見る」

「お願いねシロコちゃん…普段ならこんな念入りに拒否しなくても良いんだけどね」

 

 人手不足が酷いしと言いながらホシノに担がれて運ばれていくミレニアム生徒を眺めるユメ。だが、残念な事に今回は事情が違う。向かうのは自然公園ではなくジエン・モーランたちによって常に砂嵐が発生するようになった地点を越えた先にあるアビドス砂漠の奥地。様々な理由から立ち入る事の出来なかったその領域に新生態系が定着してから初めて本格的に踏み込むのだ。

 

 危険性もそうだが、それ以上にどれだけの時間を要するか全くの不明。故にアビドス以外の生徒は基本的に連れていけないのだ。例外はそれなら自分達は大丈夫だろうと立候補してきたヘルメット団やスケバンといった不良たちに、狩猟用補助ドローンの整備修繕が必要になるだろうし、ちゃんと許可も取ってきたと真っ当な手段でごり押してきたミレニアム生徒一名。

 

 そしてシロコの目の前に居るハナコ位である。と、そこまで考えたところでシロコは首を傾げながらハナコを見る、すると見られていることに気がついたハナコもまた首を傾げる。

 

「どうかしましたか?」

「ん、そう言えばハナコがなんで一緒に行くのか理由を知らない」

「あぁ、その事ですか。勿論、調査の為ですよ」

 

 そもそもが今回、奥地に向かう事が決定した切っ掛けは例のセルレギオスによる自然公園付近への進出である。本来、彼らが生息している筈の砂漠奥地でなにか異常発生している可能性が極めて高く、今回の件で無関係ではないトリニティの生徒として原因究明による根本的解決をする為に同行するのだと。そうハナコは真剣な表情で言葉にする。

 

 ので、シロコの視線がスッとずらされとある集団へと向けられる。

 

 そこには『私たちも連れてけ』と書かれたプラカードを掲げているジャギィフェイクを被った集団がじっとハナコの事を見つめていた。改めてハナコを見ると妙に圧の感じる満面の笑みを浮かべていた。シロコは見なかったことにした。

 

「よ、良かった! まだ出発してませんよ!」

「いえ、ですから私たちがこうして保存食を運んでいるのですから出発することはないと言ったでしょう?」

「!? な、成程! 流石です姐様!」

「姐様、あたしこいつの頭が心配になってきました」

「奇遇ですわね、私もですわ」

 

 と、人生で始めて自分より弱い存在に僅かに怖いと感じていたシロコにそんな会話が届く。同時に視界の端に映るのは三人のスケバン。二人は鞄片手に。

 

 

 一人は、貨物コンテナを片手で運びながら砂上船へと向かう。

 

 

 嘗て、腕相撲大会にてクルルンと三日三晩の死闘を繰り広げ、その果てに勝利を掴み取って見せた女傑にして、伝説のスケバンと名高き彼女の名は『栗浜アケミ』。

 

 彼女もまた、調査隊の一員として未知へと挑む心強き仲間である。

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