遠目に砂漠を進む巨大ななにかを見つけたとき、デルクスたちは運が良いと思った事だろう。
ああいう巨大なものの近くに居ればかなりの量のおこぼれを獲られると知っているから気分良く砂の中を泳ぎながら近づき、丁度落ちてきたそれに食いつく。
直後に、宙を舞っていた。
「ん、大物」
「まぁ本当に。流石ですわね」
と、感心した様子のアケミの言葉を聞きながら釣竿片手に胸を張るシロコ。視線の先には待っていましたと言わんばかりに手際よく解体されていく平均より一回りほど大きなデルクス。今日の食事はデルクスの肝の奪い合いになりそうだと思いながら徐に釣竿を筋トレをしているアケミに差し出す。
「ん、やってみる?」
「と、唐突ですわね…ですが、遠慮しておきますわ。どうにも私は釣りと言うものが苦手なので」
すぐに釣竿が折れてしまうのですよね、なんて言いながら立ち上がり調子を確かめるようにポージング。なぜか発生した謎の風圧を受け髪を揺らし、確かにと頷く。彼女の力に耐えられる釣竿はそうそうあるものではないなと思いながら、そう言う事ならと素直に釣竿をドローンに押し込んだ。
「皆ー、もうすぐ砂嵐に突入するから準備してー!」
そんな、ホシノの声が響く。反応して少し気が緩みかけていた少女たちが慌てて走り回る。
「それでは私たちも行きましょうか」
「ん」
言いながら軽く汗を拭いながらアケミにシロコは頷き、ふと視線を船の前へと向ける。そこには小鳥遊ホシノが立っていて。距離感が狂うほど巨大な砂の壁、嵐を鋭く睨んでいた。
彼女が何時も以上に警戒している。故になにかが起こるのだろうと、そうシロコが思うには十分だった。
が、しかし砂嵐突入から2日後、今だ異常無し。
「…おかしい」
そう呟きながらホシノは防砂ゴーグル越しに辺りを見渡す。激しくぶつかってくる砂のせいで見辛いが遠目に雷が幾つも落ちていること以外に変化無し。いや雷自体はそう珍しくもない事を考えればなにも起きていないと言えるだろう。何事もなく進めているといえば良いと判断して良いだろう。
普段であれば見える『とある存在』の姿が全く見られないという事を考えなければだが。
暫く、周辺を見渡してからキヴォトスでは珍しい、しかしアビドスでは割りと見かけるスケバンとヘルメット団の生徒が協力して甲板に積もった砂を集めて運んでいる横を抜けて船内へ。
砂が船を叩く音に僅かに軋む音を聞きながら砂を落としゴーグルとマスクを取りながらも止まらない。そうして到着したのは幾つものホシノからしたら用途もなにも分からない機器が並ぶ一室。事前に言われていたので汚れ等を気にしつつ、ディスプレイを見つめる生徒に近づく。
「どうですか?」
「んぇ? あーホシノさん、問題なしですね」
そう返すのはミレニアムの生徒。若干ずれていた丸眼鏡の位置を直しつつ問題無しと自分で言ったにも拘らず酷く険しい表情を浮かべていた。
「…聞いてた話通りなら、とっくに姿位は見せてる筈ですよね?」
「えぇはい。普段なら昨日の内にはもうあの『機械の蛇』を観測出来てた筈ですよ」
言いながら思い浮かべるのは今まで砂漠奥地への調査が行えなかった理由の一つである蛇の様な姿をした巨大な機械、いや兵器と呼ぶべき何か。縄張りがあるのか一定以上に近づくと容赦なく襲いかかってくるそれが、何故か全く姿を見せる事も無く、ここまで進んで来る事が出来てしまっている。正直に言えばホシノ的には不気味だった。
うぅむと唸りながら機器を眺めつつ彼女は言う。
「あの『ヒマリ』先輩がアビドスに無茶言ってまで乗せて貰ったやつですからねこれ。その蛇的なやつが先輩の言ってた古代兵器だったなら観測出来る筈なんですけどね」
「そうですか。しかし古代兵器とは…詳しい事は?」
「なにも分かりません。あ、ふざけてるとかじゃないですからね? 私の専門は飽くまで生物系ですから。機械関係もそれの調査研究に必要なこれとかなら普通に作れますけどね…流石に古代兵器云々はねぇ?」
ポンポンと清掃中の文字が書かれた狩猟用ドローンを軽く叩く。まぁこれも『エンジニア部』の友達に手伝って貰って作ったんだけどねと呟きながら。それを聞いたホシノはそうですかと返しながら少し考えてから口を開く。
「それじゃあ分かる範囲で良いので答えてほしいんですけど…観測できてない理由なんだと思いますか?」
「そう、ですねー…極めて単純に考えれば蛇的なのがそもそもこの機器に引っ掛かりようがない古代兵器とはなんの関係もない謎存在であるか…観測出来ない位遠くに居るかですね。あ、個人的には遠くに居る方が可能性は高いと思ってます」
「…まぁそうなりますよね」
険しい表情を浮かべながら頷く。
「もし、遠くに居るなら…まぁ、高確率で例のセルレギオスの件に関わってると考えて良いでしょうね」
「そう、ですね。追い出せるかどうかで言えば追い出せそうですし。問題は仮にそうだったならなんでそんな事をしたのかだけど」
「謎ですねぇー。生き物も機械も行動には意味がありますけど、機械の方は制作者の意図を読み取らないとですから分かりにくくて仕方ないですよ」
言って肩をすくめながらまぁいずれにせよとこぼす。
「答えは砂嵐を越えた砂漠の奥地にある筈ですよ。出てくるのが蛇か鬼かは分かりませんけどね」
「ですね。ただこの場合は竜になりそうだけど」
「確かに」
そう言って彼女は笑う。
が、しかし砂嵐を越えた先。砂漠の奥地で待ち構えていたもの。
「いや、これ、えぇ…」
それは山だった。
「ん、吃驚」
それは森だった。
「こんな事あるんですね姐様」
「いえ流石にこれは」
それは草原だった。
「…嘘でしょー」
それは、砂漠という自然を呑み込まんと広がるまた別の自然そのものだった。