アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第47話

 砂漠の奥地の調査をする事になったならばここを拠点にしようと以前から話し合われていた場所がある。

 

 大型生物が侵入し難い地形をしている天然の要塞にして砂上港と呼べるそこを、生徒たちが行き交い拠点作りに励む声を聞きながら砂上船の一室でホシノとハナコの二人はタブレットに写し出されている情報を見て顔をしかめていた。

 

「分かっては居ましたけど森ですね」

「森…だねぇ」

 

 ドローンによって撮影された映像。そこに映っているのは知らぬ人が見れば樹齢数十年、あるいは数百年は経過しているように思うだろう程の巨木が鬱蒼と生い茂る森、いや樹海と呼ぶべき領域だった。ここが元は砂漠だったんだよ…なんて言われても信じる事は出来ないだろう。

 

「一応、確認しますが以前からこうだったと言う事は?」

「ない、かな。半年前までは自然公園に近い環境だった筈だよ。つまり岩場に砂場。古代兵器…かもしれないやつの事気にしながら遠目に見るのが精一杯だったとは言え流石にこんな変化を見逃したりはしないよ」

「そう、ですね」

 

 因みに今、拠点を作っている場所を発見したのも半年前の事だったり。ここが様変わりしていなくて良かったと内心、思ってたりする。

 

「本当に、何があったらこんな事に」

「そうだね。こんなの急激に環境が変わるなんてなにが…あ」

 

 と、二人して首を傾げていると、ホシノが声を上げる。

 

「あ、あー…もしかしてあれ、あれなの?」

「え、なにか心当たりがあるんですか?」

「うん、ある。というかハナコちゃんも見たことあるよ。農場とかアビドス校舎周辺の事だし」

 

 そのホシノの言葉にをハナコは少し考える。

 

「…確かに、あそこはアビドス自治区内でもかなり特殊な環境ではありましたが…もしかして」

「うん、実はあそこもここみたいな環境変化が起こってね…色々ありすぎて説明しきれないから端的に言うけど、あそこで昔ジエン・モーランを討伐したらあぁなったんだよ」

「え、待ってくださいジエン・モーランって討伐出来るものなんですか!?」

「まぁうん、そうなんだよね本当に、そういう反応になるよね。正直、色んな事が奇跡的に噛み合った結果だからまた討伐しろって言われても無理だけどね、間違いなく」

 

 と、話がずれちゃったねと言って戻す。

 

「まぁそんな訳で、あの巨大龍は死後に環境を変えられるみたいなんだよね…理屈は不明だけど。だからここの変化もそれが関係してるのかも」

「それは、いえだとすれば…あれですね」

「うん、あれだろうね」

 

 そう口にした二人が思い浮かべるのは少し前の砂祭り。普段とは違う異常行動を取った巨龍の事。平均を越える巨体を有していた龍を実際に目にしたホシノと映像越しだが確認済みのハナコは無言でタブレットの映像に視線を戻す。

 

 注目するのは森、ではなくその奥に聳える巨山。一見しただけならただの岩山に見えるそれを良く見れば何かが寝転がっている様にも見えて…というかそのまんま例の巨龍が寝転がってたらあぁいう感じだろうなと。

 

「…ねぇハナコちゃん」

「なんでしょうかホシノさん」

「もしもでしかないけど、この前の龍の撃退が失敗してたらこうなってたと思う?」

「…かなりの確率で」

 

 瞬間、脳裏に過るのは龍の巨体によって押し潰されるアビドス校舎と自治区そのものを飲み込み広がっていく大自然という光景。自然豊かといえば聞こえは良いが、控えめに言っても文明崩壊のそれである。そこに思い至った瞬間、嫌な汗が背を流れるのを感じた。

 

「…もしかしたら、アビドス崩壊の危機どころじゃなかったのかもね」

 

 無言でハナコは頷いた。本当に、撃退が成功して良かったと改めて思う二人だった。

 

 

 

 

 拠点を作り始めて数時間。すっかり日も落ちて辺りは暗くなりこれ以上は危険だからと皆作業を止め、大半は休憩し、幾人かは暇だからと夕食の準備の手伝いをし、そして調査隊の主軸とも言える数人は会議中の札のかけられたテントに集まり情報共有をしていた。

 

「と、言うわけ」

「改めて、滅茶苦茶ですわね」

 

 と、アビドス校舎周辺が緑化している原因を聞いたアケミは呆れたようにそう口にする。幾度も砂祭りに参加した事があるからその凄まじさは知っていたが、流石に呆れる他ない。それは他の始めて知る生徒達も同じで。

 

「ん、流石ジエン・モーラン」

 

 いやシロコだけ何故か誇らしげであった。流石は生粋のアビドス育ちである。

 

「まぁ、そんな訳でさ。最低限分かってることと可能性を共有出来た所で調査に関してだけど」

 

 言いながら設置してもらったスクリーンに写し出されたざっくりと描かれた地図を見る。

 

「今現在分かっているのはダレン・モーランと思われる岩山とその手前からここ、拠点付近まで広がる樹海とその右側には草原。それで岩山の奥や左側はまだ不明と…ちょっと離れるとすぐに砂だらけの砂漠が広がってるんだよね」

 

 すっごいなこれと思わず溢しながらさてと向き直る。

 

「取り合えず、暫くの間は草原の調査は私が担当しようと思ってるよ。理由は危険性を考慮しての事だね」

「確かに、分かってる範囲でも見晴らしが良すぎますからね。細かく隠れられる場所はあるでしょうが、グループで動くにはセルレギオスなどと言った飛行能力に優れた生物が居たら危険ですね」

「でしょう? 私だけなら身軽に動けるだろうから、取り合えず大雑把にでも生態系の調査をしつつ草原エリアの調査のベースになりそうな場所を探す積もりだけど…なにか意見とかは?」

「いえ、私はありません」

「無い」

「同じくですわね」

「ん、ホシノ先輩なら大丈夫」

「じゃあそういうことで」

 

 地図の草原部分に大きくホシノ担当(仮)と書き込まれ、次に樹海部分を大きく囲うように丸を描く。

 

「で、ある意味問題のここなんだけど…相当腰を据えて調べないとだろうね。暫くはここが調査の中心になるかな? ハナコちゃん、細かい所お願いしていい?」

「えぇ、勿論です」

「パッと見ただけでも広大ですものね。あぁ、そうでした。予め言っておきますが私たちは拠点で待機させていただきますわ。狩猟ならともかく調査は不得意ですので」

「分かったよ、皆もそれで良いよね?…うん、それじゃあそう言うことで」

 

 拠点と書かれた地点にスケバンと書き込まれる。と、それじゃあと手を上げるのはヘルメット団のリーダー。

 

「あたし達は左側に何があるのか見てくるよ」

「え、滅茶苦茶危険だけど」

「それは分かってるけど、ドローンで確認できる位置まで移動するだけならまだ危険は少ないだろうし、任せてくれ」

 

 良いよなそれでとテントの外に声をかければ聞き耳を立てていた仲間が顔を覗かせグッと親指を立てて見せた、なんか一人土鍋を掲げていたが、気にせずそれならと任せる事に。

 

「それじゃあ、あとはこの岩山だけど」

「ん」

 

 取り合えず後回しと言おうとしたところでスッとシロコが手を上げた。

 

「私が行ってくる」

「え、いやでも」

「大丈夫、無駄な戦闘はしない、任せて」

「お、おぉ…随分と積極的というか、なにかあったの?」

 

 と、問いかけられたシロコは少し考えるように首を傾げてから一言。

 

「…なんとなく?」

「えぇ…」

 

 そんな曖昧な回答を口にしたシロコの視線は、ずっと岩山に…ダレン・モーランに注がれていた。

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