「と言うわけで酷い臭いだった」
「成程。それは大変でしたわね」
「いや本当にねー。臭いしみついてたらどうしようかと帰り道ガクブルだったよー。それが原因で襲われでもしたら堪ったもんじゃないしー」
と、帰還すると同時に設置済みのシャワーへと駆け込んだ二人。汚れや疲れを落としてスッキリした様子で装備の手入れをしているアケミへと報告…と言うよりかは世間話のノリで話をしに来ていた。
「しかしまっすぐ私の所に来ましたが、報告はよろしいので? ホシノさん…は、まだ調査から戻ってきていませんでしたわね。ハナコさんにしておくべきでは?」
「ん、それは分かってる…けど」
そう言いながらシロコの視線が動き、釣られて様にアケミも同じ方向を見る。
「うふ、うふふ、うふふふふふふふふ♡」「にゃーん! にゃーんで光ってるのかにゃー? にゃんで色が変わっちゃうのかにゃー? もう警戒色かわい過ぎにゃーん!」「凄い、凄いよぉ、この鉱石凄いよぉ、文明開化の音がロックンロールだよー!」「硬いのに柔軟で加工しやすいってなんだこの木材ぃー!?」「この土、この水、適している! ならば行くか次の段階に!? お茶漬け用米育成計画!」「ふ、ふわふわ! ふわふわレボリューショォォオオオオン!」
「うるせぇぞお前らぁ! ちょっと落ち着けぇええええええ!」
ヘルメット団の纏め役である生徒の怒号が響くも一切収まる気配の無いそこは狂気の坩堝と化していた。誰も彼もが壊れたように歓喜しながら研究観察開発を行っている。中には涎を垂れ流しにしながら踊ると言うちょっと…色々とどうなの? って感じの生徒まで居る。
そしてハナコはと言えば、タブレット片手に捕獲してきたのだろう籠に入れられた鳥っぽい生き物を見ながらずっと笑ってる…端的に言って凄く怖い。
スッと、三人の視線が逸らされる。
「ちょっと…今は関わりたくない」
「同じくー」
「まぁ、そうですわね」
そう言うことなら仕方ないと整備を終えた装備をソッと置いてからそれにしてもと溢す。
「そこまで臭いが強いとなると調査も難しそうですわね」
「ん、ガスマスク必須」
「あと防護服も欲しいねー。死骸がかなりの量だったから不衛生極まる環境だろうし、どんな菌が繁殖してるかもわからないよねー。かすり傷一つが原因でやばい病気に成りかねないしー」
「そうですわね。病気は恐ろしいものですわ」
特に自分達のような不良にはと、心の中で呟くアケミ。
なにせ基本的に不良と呼ばれる生徒たちは病気を自力で治す手段がない。傷であれば放って置いても勝手に治るが病気はそうはいかず、清潔な場所で安静にしていれば問題ないようなものも、屋根も無い場所に居るしかない不良に成るしかなかった様な生徒たちには難しく、彼女たちは最低でも一度は風邪で死にかける。
だから、アビドスは楽園と呼ばれるのだろう。
『わ、わわっ!? ど、どうしようホシノちゃんこの子酷い熱だよぉ!?』
『落ち着いてくださいよユメ先輩。えっと、取り合えずゲストハウスで安静にして貰って薬を…お医者さんに見て貰わずに解熱剤って飲ませて良いんでしたっけ?』
『ひぃん、分かんない…と、取り合えず私、お粥作って来る!』
『いやそこは医者呼んできてくださいよアホ先輩』
今でも容易く思い出せる今までの事。
苦しむ仲間を助けてくれた。清潔で安心して眠れる場所をくれた。安全で暖かい食事をくれた。これからを心配せずに済むやれる事を用意してくれた。
どれか一つでも返しきれるか分からない大恩。意外でもなんでもなく不良たちの多くがアビドスに救われ、なにかあれば命を賭ける覚悟を持っているものは少なくはない。アケミ自身、その一人である。
ならば特に危険と言えるだろう領域、踏み込むべきは自分達か。数少ない積み重なるばかりの恩を返すの機会だ、調査が苦手だからとは言ってられない。そう思い、むんっと力と気合いを込めれば溢れ出たそれが何故か風圧となり眼前の二人の髪を軽く揺らす。
唐突過ぎる出来事にキョトンとしているがそれはそれ。
「ただいま。うへぇー、流石に疲れたよ」
と、丁度肩を解す様に回しながら帰還したホシノ。さてと言った様子で見渡して、発狂中の生徒たちを見てからスッと視線を逸らし、シロコたちを見つけて近寄ってくる。
「あ、二人とも帰ってきてたんだ。どうだった?」
「臭かった」
「えっと、どういう事?」
「ん、かくかくしかじか」
「いやそれだけ言われても分からないって」
と、困った表情のホシノにきちんと説明をする。と、成程と頷いて見せた。
「そう言う感じになってた訳ね。取り合えずなんであの岩山がダレン・モーランで間違いなしと…それにしても、死んでたとはね。その死体だらけの渓谷の事も気になるけどそこはこれからの調査次第かな。うん、ありがとう二人とも」
「ん!」
「どういたしましてー。っと、所でホシノ先輩の調べてた草原はどんな感じだったんですー?」
「私も気になりますわね。確か、見たことの無い草食動物が居たとか」
「うん、それも結構な数がね。もうちょっと調査を進めて問題ないようならちょっと卵を拝借して元理事の牧場で育てて見て貰おうかなって思ってる所」
「ん、理事おじなら安心…樹海の方はどうだったの?」
「いい加減元って付けてあげてシロコちゃん。それで樹海の方は取り合えず近場で調査したけどかなりの発見があったよ。光る虫とかね。あとヘルメット団の子達が調べてくれた地域に大きめの川とかなり深めの洞窟とか縦穴が幾つもあるみたい」
「それはまたなんとも、調べがいがありますねー」
「本当にね、一生掛かっても調べきれないかもって思ってる位だよ」
困ったように、だがそれ以上に嬉しそうに笑うホシノ。
まぁそれも直後にシロコが口にした『そう言えばここの呼び方どうなったの?』という言葉を切っ掛けに発生したちょっとした騒ぎが原因で疲れたものに変わるのだが、それはそれと言う事で。