アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第55話

 大きく砂が弾け巻き上がる。

 

 それは砂上船レースの会場に程近い地点での事。なにかあればレースに影響が出る事は間違いなく、あるいは自治区そのものへの危険となりかねない場所に煙幕の如く広がる砂煙から、幾つもの小型の砂上船が勢い良く飛び出してくる。

 

 別々に飛び出し、しかし瞬く間には乱れなく編隊を組み直し進む船を駈る生徒たちは皆…ジャギィフェイクを被っていた。

 

「あぁもう最悪。直したばっかりのエリマキ壊れたー!」

「だからそろそろ変えた方が良いと言ったのに、もう作ってから大分立つでしょうそれ?」

「だって過去一の出来だったから勿体無くて」

「はいはいそこまで! また来るぞ!」

 

 一際立派な、見る人が見ればドスジャギィを模していると分かるフェイクを被った少女が叫ぶと同時に、背後で再び砂が爆ぜる。そして砂煙を吹き飛ばしながら露に成ったのは…巨大な口を持つ魚を思わせる竜。小型の砂上船を一呑みに出来てしまいそうな迫力と共に砂を掻き分け凄まじい速度で船へと突っ込んで来る。

 

「ヘェーイ!」

『アッアッオーウ!』

 

 鳴き、応え、即座に散開。

 

 一糸乱れぬ動きに、竜は対応出きる筈もなく誰も居なくなった場所を通りすぎガチンッと音を鳴らし砂だけを呑み込んで口を閉じた。

 

 それを確認してから少女らは再び集まり竜の眼前に。付かず離れずの距離を保ち、あえて音を響かせながら会場から離れるように誘導しながら砂上船を走らせる。

 

「相変わらず『ハプルボッカ』の迫力すっごい。やっぱり口が大きいから?」

「いや口がでかいのはそうだけど全体的に大きくないかこいつ?」

「そうですね。正確な所は分かりませんけど少なくとも平均の2倍はありそうですね」

「まじ超でかい。もしかして今まで観測してきたハプルボッカは餌不足だった?」

「有り得ますね」

「考察そこまで。そろそろだから気を引き締めてけー!」

 

 言いながらまっすぐと前を見る。視線の先には、二隻の砂上船。大きく手を振っているのを確認すると軽く手を振り返し、合流。

 

「準備は?」

「バッチリですよ」

「それじゃあ始めるぞー!」

『アッアッオーウ!』

「ヘェーイ!」

『アッアッオーウ!』

 

 大きく鳴くと同時に大きく弧を描くように広がり、ハプルボッカの眼前に残った先ほど合流した二隻からドラム缶が四つ砂漠へと蹴り落とされた。

 

 ドスッと音を立てて砂に突き刺さったそれにハプルボッカは気づいて居るのか分からないが砂上船を追い掛けながら大量の砂と一緒に呑み込み。それを確認すると懐からスイッチらしき物を取り出し。

 

「ほいっと」

 

 押し込む。直後に、ハプルボッカから爆発音。まさか先ほど呑み込んだものが火薬のたっぷり詰まった爆弾だったとは思ってもみなかったハプルボッカは自らの内側から感じた衝撃と激痛に思わずと言った様子で跳ね上がり、空を仰ぎ見る様に砂漠に突き刺さった。

 

 それを見て…いいや、見る前から少女達は動いていた。ハプルボッカを囲うように動きそのまま円を描きながら集中砲火。思うように動けずもがくハプルボッカに弾丸が雨の如く叩き込まれる。

 

 しかしこのアビドス砂漠で巨体と言えるほどまでに育ち生きてきたハプルボッカの力強さは凄まじいもので、銃弾を受けながらも砂漠から這い上がり。

 

「ヘェーイ!」

「「「「アッアッオーウ!!」」」」

 

 全身が姿を表すと同時に四方からミレニアム製の拘束用バリスタが撃ち込まれ身動きを封じられ、銃弾の雨は止むことなく叩き込まれ続ける。

 

 絶え間ない攻撃にもがき、大きく跳ねる様に無理矢理動く事で拘束用バリスタが抜け落ちる。

 

「ヘェーイ!」

「アッアッオーウ!」

 

 逃げ様としているのか砂中へと潜ろうとしたその鼻先にいつの間にか放り込まれていたドラム缶爆弾がぶつかり爆ぜた衝撃でハプルボッカが横倒しになり、起き上がろうと体を暴れさせるハプルボッカに叩き込まれる銃弾の雨はより強さを増していく。

 

 

 これが彼女達の狩猟。日々生物達の観察を続けて来たからこその行動予測と、正実の長たる剣先ツルギに異常とまで言わせた連携から繰り出される余裕はあっても遊びも無駄も隙もない攻勢。

 

 

 銃弾の雨が止んだのは、それから凡そ20分後の事だった。

 

 

「あ、レース凄いことになってる」

「おん?」

 

 半数を周囲の巡回に戻らせ、もう半数で動かなくなったハプルボッカをアビドス自治区に運びながら呟かれた言葉に、なにがどう凄いのかと気になりスマホを取り出して放送されているレースを見る。

 

 ペロロの描かれた旗が振り回されていた。

 

「え、いや、なにこれ?」

「さぁ? なにがどうなってこうなったのかさっぱりだよ。あとで一から見てみよ」

「そうするかー、というかこいつ良く見たらヒフミちゃんと一緒にペロロライブ行ってた子じゃん。なんで参加してるんだ? あ、抜かれた」

「ほら、今回の参加賞にモモフレンズコラボ商品の砂上船ペロロが描かれてるボールペンが貰えるじゃないですか。それ目当てでは?」

「あれか、そう言えばそうだったな…それ考えると逆になんでヒフミちゃんが出場してないんだ?」

「先週のテストはペロロライブと同日」

「理解したわ、あたしも気を付けないとなぁ……それにしてもさ」

「どしたのりーだー?」

 

 

 

「やっぱジャギィの方が可愛いな!」

『分かる』




・ちょい会話

「あ、みてみてりーだー」
「どした?」
「今回の狩猟で使ったミレニアム製の拘束用バリスタの新型が五千万だって」
「え、やす…あーでも新型なぁ。性能は兎も角使い勝手が分からないのがなぁ…取り合えず四台くらい買って試してみるか」
「そだねぇ、じゃあ頼んでおくね」
「頼むわ」



「怖い、二人の会話怖い」

 実はトリニティでも金持ちに分類される二人の会話。
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