アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第56話

 ただ速さを求めていた少女は越えねばならない壁にぶつかったことを認識していた。それは技術の問題、開発者としてではなく操舵手としての。速くなればなるほどに船は荒れ狂うのは当然の事。だというのにそれに自身が追い付いておらず暴れる船の手綱を握る事が出来ていないと気がついていた。

 

 故の修練、故の勉学。

 

 開発者としてではなく、自然の観察者としてでもなく、砂上船の操舵手として腕を磨く日々がそこにあった。あるいは、優秀なAIを搭載すればとも思ったが、首を横に振るう。それは、己にとっての浪漫ではないと。

 

 実の所、少女は砂上船レースに出場するつもりは最初は無かった。まだまだ自分の納得いく腕前ではない、未熟も良いところだからと思っていたから…なの、だが。

 

『砂上最速』

 

 その称号を、己の前で己以外が手に入れる事が…なんか気に入らなかった。

 

 

 

 それはレースの最終盤の出来事。

 

 最後のチェックポイントを越えた先。あとはゴールへと駆けるのみとなった選手達を待ち受けるのは障害物のない、ただ砂の流れが何処よりも強く速い場所。一瞬でも操舵を誤れば意図せぬ方向へと一気に流されてしまうそこで一瞬だけ流されかけたロイヤルティーを一隻の砂上船を駈る少女が抜き去った。

 

 学園としてではなく、ただ個人としてレースに挑んだその少女を、何故かペロロの旗を片手に持っている生徒は驚いた様子で視線を向けて来ている事に気がつきながらも、ただ前を見て進む。

 

 眼前にあるのは、砂漠…そして、ゲヘナの砂上船である砂虎号。その、一隻だけ。

 

 流れを読み風を受け船の負担を最小限に。ゴールまであと僅か、最高速度は己の方が上、故に追い付くまでは出来るが追い越すとなるとなにかの後押しが必要となるだろう。

 

 だから、砂の流れを味方に付ける。

 

 常日頃より速さを求めてきた故に、その更なる速さを生む流れを見極めて船を操る少女は、一切読み違えが許されないそれを、見事に読みきりさらに加速、前へ。

 

 並ぶ砂上船を横目に、少女は理解していた。純粋な技術という点で言えば相手の方が上であったという事を。流れを読み対応までの速度は間違いなく相手の方が速くまた適切だった。故にその決着は何かを誤ったからではない、また運の良し悪しは関係ない。単純な船の性能の差。それだけ。

 

 互いに、船の性能を十全に引き出していたのなら速いのは…自分だ。

 

 

 故に、ゴールした少女の前に居たのは砂上港を埋め尽くす観客だけ。

 

 

 揺れるほどの歓声をその身に受けながら、勝者である少女はただ無言で乱れた呼吸を整え、ふと己の掌へと視線を向ける。はっきり言ってまだ自分はその称号を得るにはふさわしくはないと思う。だがそれでもと、強く握り…無言で天へ向けて突き上げた。

 

 この場、この瞬間に置いての最速は、自分なのだと。

 

 

 

「なんて、あの時は思ってたけど正直全然そんなこと無いと思う訳で」

 

 後に、少女は二人の友達に語る。ぶっちゃけ砂上船の性能が統一された上で競ってたら普通に負けてたと。

 

「え、そうなんですの?」

「うん。良くて…行って三位行けるかな位?」

「いや、十分じゃないそれ?」

「うん、十分。だけど間違いなく優勝は出来なかったかなー」

 

 言いながら、自分の手を加えている作品とも言える砂上船を眺めつつ手の中のトロフィーを軽く弄る。

 

「というか学園代表として出場してた子はみんな私より上手かったから三位って言うのは運が良ければって感じ」

「でも今大会はそうではなかったのですからそれで良いのでは?」

 

 視線を向ける。トリニティのどうにも喧嘩しがちの友達がなんでそんな意味の無いたらればを考えているのかと首を傾げていた。優勝したのはあなたでしょう? と、言いながら。

 

「そもそも、勝者が余りグダグダ言っているのは他の方に失礼ですわよ?」

「まぁ、そだね!」

 

 その通りだと、頷きながら笑う。それは一切の陰りの無い晴れやかな笑顔で。ただありがとうと言葉をこぼす。

 

 

 

 

 

「本当にありがとう二人とも!私二人が友達で良かったよ! これからも改造しすぎて制御不能になっちゃった砂上船を乗りこなせるように頑張るよ!」

「なんて?」

「何時かジェットストリーム君を置き去り出来るその日まで頑張っていくよー!」

「あれを越えるって頭イカれてますの?」

「え、制御不能? 砂上船を改造しすぎたってなに? 詳しく説明してくれない? 内容によって説教の内容と時間を決めないといけないから」

「え、説教!? なんでぇ!?」

「なんで、じゃありませんわよばーか!」

「はぁー!? なに私の傑作にたいしてバカなんて言葉使ってるのこのバーカ!」

「船にたいしては言ってませんわよバーカ!」

「んだとこいつぅやるかおらぁ!?」

「上等ですわ! お嬢様に伝わる秘技見せて差し上げますわよ!」

「え、なにそれ普通に気になる。それはそれとしてこいやこらぁ!」

「やめろやめろ、トロフィーで殴ろうとしない、秘技撃とうと構えない!」

 

 キシャー! と、怒りやら興味やらを交差させながら相対する二人を止めながらゲヘナの生徒である少女は思う。素直に祝わせてくれ…と。




・第2回砂上船レース順位発表。

一位・狩猟愛好会所属、ミレニアム生徒。一年生
 結局、自爆装置まで取り付けていたことが発覚しきっちり三時間ほど説教された。

二位・風紀委員会所属、ゲヘナ生徒。三年生。
 砂虎号の性能にそこそこ満足げ。ただこれの使用が想定されている『敵』の事を考えると強度より速度がほしいと委員長に報告したとか。

三位・ゲヘナ地区担当、ハイランダー生徒。二年。
 くそがぁ! ゲヘナに負けたぁ!

四位ティーパーティ所属、トリニティ生徒。二年。
 しれっと抜かされていたがペロロ様の事をこれでもかと知らしめる事が出来たのでごりごりに説教されながらも満足げ。あ、待ってくださいミカさま、貴女さまの拳は死んでしまいますぅぁあああああ!?


圏外・新素材開発部所属・ミレニアム生徒。二年。
 敗因はジェットストリーム君の先端にドリルを装着していなかった事。来年はきちんと対策すると断言していた。無事、出禁確定。
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