第57話
「あぁそうだ。今日は貴女達だけで自然公園での依頼をこなして貰おうと思います」
何て言うのは、RABBIT小隊の四人をあれこれと適当な理由を付けて護衛として伴いアビドスに連れてきては、次いでだからと訓練でもとか言って自然公園へ連れていく不知火カヤ。
今回もなんかアビドス産すいーつが食べたくなったから護衛頼みますね! とか言って連れてこられ、何だかんだ奢って貰ったソフトクリーム片手に今回もこれから砂漠で訓練かと思っていた所にそう言われたので、思わず声を溢した。
「えっ!? いや、あの、そんないきなり言われても」
「ふっ、事件と言うのは何時だって唐突に起こるものですよ…と言うのはまぁ冗談で。何回か前の訓練をしてからそろそろ依頼をこなして貰っても良いかもしれないと思っていたのですよ。ここ最近はアビドス砂漠でも問題なく活動出来るようになってきたでしょう?」
「それは、はい」
「それと、事前に言っておかなかったのは貴女達の実力にあった丁度良い塩梅の依頼を見つけたのがついさっきだったからですね。この選択と決断、まさしく臨機応変」
或いは乗りと勢いだけの行動、もしくは行き当たりばったりとも言う。
「ですが、そんな急に私たちだけで狩りなんて…」
「あぁ、そこは大丈夫ですよ。流石に狩猟をしてこいとは言いませんよ。今回の依頼は少々、いえそれなり以上に大変ではありますが採集依頼ですので、異常事態が発生したり無茶な行動をしない限りは問題なくこなせる筈ですよ。それらがあったとしても依頼完遂は出来なくとも無事に帰還できるでしょうし。要するに出来ることをちゃんとやれば問題なしという事ですよ。貴女達は大変優秀ですから」
と、何故かどや顔を浮かべながら言う。多分、自分の指導が的確だからですね! とか思っている。どうにも最近彼女の考えていることが分かるようになってきた四人はよくもまぁすごい自信だと若干呆れ気味。
「しかし、本当に優秀な人たちです…ふっふっふ、この調子で着実に成長し実績を積み重ねていけば私の目的であるSRTの価値を各学園に求めさせ、『SRT狩猟学園』として再出発させられる日も近いですね!」
「ちょっと待て」
聞き捨てなら無い言葉に思わずカヤの肩をガッと掴む空井サキ。
「どういう事だ? 聞いてないぞそんな事」
「おや? あぁ、そう言えば伝えていませんでしだぁぁああああ?! 肩、肩痛い!? ミシミシ言ってますよサキさん!? 力強ぉ!?」
「説明してくれますよね? カヤ防衛室長?」
「説明しますから止めてくださいミヤコさん! 肩、肩外れる! 砕けるぅ!?」
「いや流石に、そこまではしないからな?」
全くと言いながら手を離すサキ。いつの間にか四人全員に囲まれたカヤは、しかし肩の痛みにウゴゴ、なんて良く分からない声を溢していた。
「それで、なんですかSRT狩猟学園というのは?」
「うごご、肩ちゃんと付いてます? 付いてますね、もげたかと思いましたよ」
「そこまでするか、というか出来るかそんな事!」
「そうですか。はふぅ落ち着いてきましたね、それでえっと…そうそうSRT狩猟学園についてでしたね。それがなんなのかといえば、これから必要になる物ですよ」
「必要に、ですか?」
「えぇはい」
違和感があるのか軽く肩を回しながらカヤは続ける。
「まず大前提から話ますが、ここアビドス砂漠の新生態系は大変危険です。それは貴女達にも分かることでしょう?」
「それは、うん」
頷きながら風倉モエが思い起こすのは過酷極まりない環境と強靭な生物達。あそこは、他自治区ではまずあり得ない…『人を殺せる物』が溢れているのだ。基本、他三人と違い直接自然公園に赴き活動しない彼女は、だからこそ勤勉に知識を蓄えている。故に、破滅的だなんだと笑えるレベルではない事を知っている。
「よろしい! では問題です。SRTとして見て、この地の新生態系で特に危険な物は? はいミユさん!」
「え!? えっとー…植物、でしょうか?」
「正解ですミユさん。ご褒美にこの満点カヤちゃんシールを」
「え、要らない」
霞沢ミユにばっさり切り捨てられたカヤは若干落ち込んだ。が、すぐに気を取り直す。
「ミユさんの言う通りここの植物は特に危険です。なにせ火薬に加工できたり、瞬時に傷を治せる薬を作れたり、そのまま弾丸として利用できたり、単純に生死に関わるほどの高い毒性を有していたりと。その上で、植物であるゆえに他自治区への進出を防ぐことが極めて難しい…いえ、これは正確ではありませんね。不可能であると断言しておきましょう」
「…つまり、既にアビドス外に持ち出されていると?」
「えぇはい、端的にいえば。以前の薬草騒動をきっかけに良くも悪くも性能が広く知られましたからね。そうでなくとも鳥や虫の類いが運んでいるでしょうから…今現在は隠されているのかまだ発見されていないのかは分かりませんけど表立って騒ぎは起こっては居ませんが、これから増えていくのは確実でしょう…人を殺す手段を持った犯罪者が」
だからこそと薄く、瞳を開きながら続ける。
「素早く、確実に、学園の垣根を越えて事態解決に動くことの出来るSRTが以前にもまして必要なのだと防衛室の長として判断したのですよ。アビドスと違って、他自治区の生徒たちの引き金は軽すぎますからね。その気がなかったとしても悲劇が起こり得るのですよ。未然に防ぐか、せめて被害が最小限に抑えられるよう尽力せねば」
「話は分かったし、納得もした。けど今の私たちは」
「え、いやですねぇサキさん。私の求めているSRTはSRT『狩猟』学園であってSRT特殊学園ではありませんよー? つまりえぇ全くの別学園ですし? 連邦生徒会長が関わってなくてもなんの問題ないことですからね?」
「へ、屁理屈…っ!」
「よくある事ですよそんな事」
まぁ他学園自治区の理解と賛成が必要な事に変わり在りませんがねと、何時も通りな胡散臭い笑みを浮かべながら言う。
「まぁでも貴女方の正義に反する様な行為はさせないと固く誓いますよ」
「…私の正義、ですか」
「えぇ、あぁでも貴女個人のー…いえもしかしてそう言う?」
カヤの視線がミヤコに向けられる。深いところまで見透かそうとするその瞳に、思わず後ずさりそうになる。と、カヤはなにかを考えるように頬に指を当てる。
「先生から聞いてはいましたが…これは私が、というか他人がどうこう言ってもどうしようもない類いですね。自分でなんとかして貰うしかないですね。ですがしいて言うなら…ミヤコさん」
「は、はい!」
「急に固くなりましたね。まぁ良いでしょう、私から…そうですね、学園は違いますが一生徒、一人の先輩としてアドバイスしてあげます。『初心忘れるべからず』ですよ」
「は、はぁ」
言うだけ言って満足げにカヤは頷く。
「さてと、それじゃあ納得して貰えたようですし。話を戻して貴女たちにこなして貰いたい依頼の話をするとしましょうか! 輝ける未来は地道な今の積み重ねからですよ!」
「それは、確かに」
「では詳しい依頼内容の確認…の前に依頼主も交えてきちんと話をしないとですね」
気づかぬ内に密漁に荷担させられていたじゃ洒落になりませんからねと言いながら軽く視線を巡らせる。
「約束ではここら辺でっと、居ました居ました、彼女ですよ」
こんにちはーと軽く手を振りながら一人の生徒に近づくカヤ。彼女が依頼主だと言った少女は声に反応し、振り返る。
「私か?」
「えぇはい、貴女ですよね? 採集依頼を出していたのは」
「あぁ、と言っても物自体を求めているのは私では無いが」
「ふむふむ、成程。そこら辺の確認もしたいので詳しい話をっと、そうだ自己紹介がまだでしたね。私は不知火カヤともうします。貴女は?」
「『錠前サオリ』だ。よろしく頼む」