柴関ラーメンでの出来事から数日後の事、先生は再びアビドスを訪れていた。
理由は砂祭りが開かれるから、というものであったなら良かったが生憎とそう言う事ではない。アビドス高校の廊下を歩きながら忙しそうにしながらも挨拶をしてくれる生徒に挨拶を返しながら、しかし今のアビドスにある喧騒は以前感じた活気に満ちた騒がしさとは違う物を感じながら以前案内して貰った巨竜対策委員会の教室へと足を運ぶ。
「んーこれやっぱり…ん? あぁ先生、いらっしゃい。すみません、ろくな出迎えが出来ず」
机の上に広げられた資料とにらめっこしていたホシノが気づきそう言ってくる。気にしなくて言いと返しながら近づく。
「そうですか、ありがとうございます。それで今日アビドスにいらっしゃった理由は…例の件ですか?」
言葉に頷く。そう先生がアビドスに訪れたのはとある事件とも呼べる出来事が切っ掛けとなった。
それはアビドス自治区外での薬草の使用が確認された事だ。
「正直言いますと、朝一で連絡があったときはあぁついにかと思いましたよ。人の手で広がるのは出来る限り抑えていましたけど自然に広がるのは抑えようがありませんから」
言いながらやれやれと肩を竦めて見せて、直後に険しい表情。
「でもそうじゃなかった」
先生は頷く。今現在、アビドス砂漠産の薬草の使用が確認されているのは十を越える数の自治区で、しかも使用していた生徒が皆『スケバン』や『ヘルメット団』と言う名の集団、いわゆる不良と呼ばれている生徒達ばかりなのである。
全て偶然の事というには些か無理があるように思えた。
「セリカちゃんなんかは大きな声でカイザーの連中がなにかやったんだって言ってましたよ…正直、数日前の話を聞く限り怪しいとは私も思ってはいるんですがね。ただ今の所怪しい事を言っていただけっていう領域を出ないので出来る事が無いんですよね」
だからは今は原因究明が先決だとホシノは言う。先生は頷き、自分は出来る事はないかと訪ねる。
「助かります。それじゃあこれから出掛けるのでついてきて貰っても良いでしょうか? 他学園のとある生徒に会いに行きたいんですが例の件関係で問題が発生するかも知れなくて」
手を出してきたらちゃんと守りますのでと胸元に納められた拳銃に手を添えながら言う彼女に先生は分かったとしっかり頷いて見せた。それでどこの生徒に会いに行くのかと聞けば一言。
「『トリニティ』です」
アビドス自治区には『ゲストハウス』と呼ばれる建物が幾つも存在する。それは嘗ては住まう人を失った廃墟であったものであり。今は、砂祭りを筆頭とした多くの行事の参加者、あるいはアビドスの新生態系に魅入られた生徒達の拠点として使用されている。
因みにゲストハウスには階級が存在し、ランクの低いゲストハウスは質が良いと言えるものではないのだが、それでも他自治区ではそれを満足に得られぬ不良達からは格安且つ健康面を気にしてこれまた低品質であるが冷暖房がしっかりしており、その上で金銭がなくてもアビドス高校から斡旋される仕事を最低限こなせば利用可能ということもあって大人気である。なんならゲストハウスから追い出されたくないからと言う理由で不良が問題を起こさなくなると言う現象まで起こっている程だ。
なお、アビドス自治区外では元気に不良らしく暴れているらしい。
そんなゲストハウスが並ぶ場所、先生とホシノが訪れたのは高ランクのゲストハウス。利用するにはアビドス自治区に多大な貢献か、目が飛び出るほどの金額を必要とするそこは『トリニティ総合学園』のもの。
アポは取ってあるとホシノが言っていた通り、問題なく通され。
「いらっしゃーい☆」
白い制服を身に纏った良く手入れのされている翼を持つ生徒、がシロコの持っていたのと同じクルルヤックのマスクを身につけた状態で出迎えた。
「話は聞いてるよホシノちゃん、大変な事になってるみたいじゃんね」
「えぇ、お陰でどこも手が足りず状態ですよ『ミカ』さん」
「ちょっとー、ここでは『謎のプリティプリンセス☆クルルン』って呼んでほしいじゃんね☆」
「あぁまぁ、はい善処します」
少し困ったように言うホシノ。純粋に首を傾げる先生、クルルンとは? と。
「シャーレの先生ともあろうお方が、謎のプリティプリンセス☆クルルンをご存じでない!?」
唐突な言葉に反射的に体が跳ねる。視線を向けるとゲストハウスの奥から勢い良く走り寄ってくるトリニティの生徒が一人。
「現状、確認されている二人の『対アビドス大型生物専用近接武装』の使い手の一人にしてアビドス大型生物狩猟回数最多の記録を保持する謎のプリティプリンセス☆クルルンを本当にご存じで無いと!?」
ずいと迫り寄る生徒に、今教えて貰ったから大丈夫ありがとうと言う先生。
「…なら良しですわね!」
ふんすとご機嫌な様子でゲストハウスの奥へと戻っていく。嵐みたいな子だったなと呟く。
「あの子に関しては何時もあんな感じだから気にしなくて良いじゃんね☆」
「確かにあの人何時も行きなり出てきて説明して帰っていきますよね。っと、話が逸れてますね。連絡した通り彼女に話があるんですが」
「はいはーい、ちょっと待っててね☆」
そう言っておーいとゲストハウスの奥へと声をかけるとはーいと声が返され、少ししてからパタパタとなんとも、こう、表現の仕方に困るデザインの鞄を背負った生徒がかけてくる。
「すみませんお待たせしましたか?」
「待ってないからそんなに慌てなくても大丈夫じゃんね☆」
「あ、はいありがとうございますミカ様、じゃなくてクルルンさん。それでホシノさんと、えっと」
自分を見て少し言葉に詰まった彼女に、自己紹介をする先生。
「あぁあなたが! あ、私はトリニティ総合学園二年の『阿慈谷ヒフミ』です! よろしくお願いします!」
バッと勢い良く頭を下げるヒフミによろしくと言う。
「はい! それで、ホシノさんは私に一体どのような?」
「うん、あぁその前に一つ聞くけどヒフミちゃんは今起こってること知ってるかな?」
「今起こってる…それって薬草の件の事ですか?」
「うんそれの事。それ関係でちょっと知りたいことがあってね」
「わ、私にですか?」
いったい何を聞かれるのかと、息を呑みヒフミにホシノは問いかける。
「うん、今の『ブラックマーケット』の状態について知りたいんだ」
「いや、なんでそれを私に聞くんですか!?」
「え、いや今アビドス自治区にいる生徒であそこの事一番詳しいの君だよね? あの有名なファウ」
「ちょーっと場所変えましょう! ね!」