アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第61話

「あぁ、そうだ。これを頼む。どうにもそれが邪魔して上手く抱えられない様なんだ。必要なら使って貰っても構わない」

「あ、はい分かりました」

 

 後は卵を抱えるだけと言った状態での事。何度か抱えようとしては上手くいかず暫くしてから仕方ないと言った様子でポンとサオリから手渡された物に、ミヤコは首を傾げた。パッと見、手作りのグレネードの様で、アビドス産の大型生物用の物だろうそれにデカデカと描かれたマークが示しているのは確かと考えて…思い至ると同時にすごい勢いでミヤコはサオリを見る。

 

「なんでこんなの持ってるんですか!?」

「? いやアビドス砂漠で活動するなら必需品だろうそれは?」

 

 それはそうだがと嫌でもと続けそうになるのをグッと堪え誤爆しないように気を付けつつそれをサイドポーチに仕舞う。一応、何時でも使用できるように位置調整をしておく、これが効果的なのは間違い無いから…出来れば使いたくはないが。

 

 それから、今度こそしっかりと卵を抱えたのを確認して改めてその場の全員を見てから頷いた。

 

 

 

「では、行動を開始します」

 

 

 

 野生動物と言う存在は生き残る為に危険を察知する能力を研ぎ澄ましている。

 

 自分に害あるものを避ける。それだけと言えばそれまでだが、生き残るには必須技能だ。特にアビドス砂漠の様な環境は過酷極まり、強靭な生物の住まう場所では何が死に繋がるか分かったものではない。だからこそ、生き物たちは自分達に害あるものへの反応はいっそ臆病とも呼べる反応を示す。

 

 故に、狩猟するなら兎も角その場から追い払うだけならばそう難しい事ではない。音、衝撃、そして火。それらを発生させるグレネードを1個眼前に放り込まれた群れの長のいないジャギィ達は素早く逃げていく。それらを生み出す存在が自分達を容易に死に至らしめる事の出来る存在だと知っているからだ。

 

 実際は自分よりも弱い存在だったとしても、もしもを考えればそれが正しい判断なのだ。

 

「エリア3の敵性生物の排除完了」

「逃げていくジャギィは?」

「深追いはしません。あくまで安全確保のために追い払っただけですから」

「了解」

 

 改めて、良い動きをするとサオリは素直に思う。

 

 個人単位ではまだ粗が見れるが、それぞれの動きに迷いがない。お互いの事を心から信じているからこそ出来る動きだ。聞いた話では、これでまだ一年だと言うのだ凄まじいものだなと感心する。些か対人を意識しすぎている動きではあるが、そこはキヴォトスの住人としては普通の事だ。気にするような事ではない。

 

 いや、ミヤコが前に出る際の動きはどちらかと言えばアビドスの生物を意識した動きではあったが、あの自分を囮にする動きをどこで学んだのか。

 

「サオリさん」

「了解した」

 

 岩影から飛び出し駆ける。巨大な卵は揺れ、更には殻が割れないようにと気を使わなければいけないから中々にしっかり抱え続けるのに難儀する。そのせいで怪我もしていないのに走り難くて仕方ない。

 

「はぁ…ふぅ」

「大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない」

 

 ミヤコたちがエリア3と呼んだ広場を走り抜け、小型は兎も角大型は入り込めないだろう窪地に入り一息吐きながら卵を抱え直す。

 

「こちらRABBIT1、RABBIT4どうでしたか?」

【えっと、グレネードが炸裂した瞬間は視線を向けてたけどそれ以上の反応は無し…エリア1から動く気配も】

「そうですか…困りましたね」

 

 と、通信しながらミヤコは頭を悩ませる。

 

 その原因は彼女達がエリア1と呼んだ場所。スマホに映る地図で見れば丁度ベースキャンプの隣で自分達がこれから向かおうとしていた場所でもあるそこに記された赤い点。意味するのは、そこにアンジャナフが居るという事。

 

 報告によれば何故かグルグルと回るように動き回りながら居座っているらしい。

 

 さてと頭を悩ませる。ベースキャンプへと続く道は二つ、岩場から向かうものと、砂漠から向かうものだ。岩場の方は現在アンジャナフが居座っている、だからといって今から砂漠方面へと向かうのは危険を通り越して無茶無謀というものだ。ではどうするべきか、流石にアンジャナフを排除するだけの実力が自分達にあるとは思っていない。

 

 

 が、排除する為の手段は…実は、ある。

 

 

 そっと触れるのはサイドポーチ。そこにあるのはサオリから預かっている物。これを正しく使えば少なくともアンジャナフを追い払う事は出来るだろう。だが、しかしどうしても躊躇われる。

 

 深呼吸を一回そして…覚悟を。

 

「RABBIT2、サオリさん、私が先行して脅威の排除を試みます。もしもの場合を考えて巻き込まれないようにここで待機を…それと、使わせて貰います」

「はぁ!?」

「あぁ、分かった」

「いや、ちょっと」

 

 待てと、その言葉を聞く前にミヤコは飛び出す。岩と岩の間を駆け抜け視界が開けると同時に目に映り込むアンジャナフ。

 

 視線が交わる。

 

 こちらに気がついた事を理解しながらも素早くそれを取り出して…一瞬の躊躇。それを直ぐ様振り払い、勢い良く投げつける。が、しかしその一瞬の躊躇が致命的だった。アンジャナフはその巨体に見合わぬ速度であっという間に距離を詰め、いつの間にかミヤコの眼前に。次の瞬間には食い殺さんと口を開いていて、そこにミヤコの投げたそれが叩きつけられた。

 

 

 

 

 そして、それが…『こやし玉』が文字通り両者の眼前で炸裂した。

 

 

 直後に、二つの悲鳴が響き渡ったのは…言うまでもないだろう。




・連邦生徒会防衛室によるアビドス固有兵装の調査報告書より抜粋。

『こやし玉』

 えーっと…あれ、そうあれを利用した、投擲する事によってアビドス砂漠に生息する生物を撃退する道具(あれ?…あ、あれ? え、あれを!?)

 正直乙女として絶対に使いたくないが効果が絶大なのは疑い様もなく、その為かアビドス高校に所属する生徒達の大半が普通に使用している(嘘でしょう?)(私も普通に使ってますよ?)(嘘でしょう室長!?)

 また使用していない生徒達に理由を聞いた所臭いがきついからと言うものと食品に関係する作業、またはその業種での活動を行っているからとの事(当然過ぎる理由ですね)




 追記・調査を進めた結果過去にアビドス自治区にて複数箇所で同時に犯罪行為が発生した際に、当時二年生であったアビドス高校所属生徒達【4徹目】が血走った目でこれを振りかざした状態で規則違反者を追い回した事があるらしく、現在のアビドス自治区の治安の良さを生んだ理由の一つではないかと思われる…我々も見習うべきでは?(なにとち狂ってるんですか!?)(たしかこの子3徹目だった筈)(室長として命令します、休みなさい)
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